情けなんてなかった
騒がしい物音に驚いて集まってきた野次馬たちの目の前で
ユーシャは正座をさせられていた。
(このアマ、チラ見しただけでこれとか割りに合わねーぞ、コラ!)
目の前にはしっかり髪まで結び終えたシャルロットが仁王立ちで見下ろしている。
「何? 何か文句でもあるのかしら」
(大有りだっつーの! 公衆の面前でこんな真似させやがって
この場で剥いてあられもない姿にしてやろうか!)
とは言えない。それをしてしまうと他の女子からの好感度まで落ちてしまうから。
だから、ユーシャは真摯な態度を見せる。
「悪かった。まさか部屋で女子が着替えていたなんて思わなかったんだ!」
ユーシャは頭を地面につけ、思っていたことを正直に話す。
「カギがかかっていたはずだけど?」
下を向いていて表情が見えないけれど、
声の感じからするとまだ許してないらしい。
「俺もカギを持ってたんだ」
「はぁ? 何であんたが持ってんのよ」
「今日から俺もここに住むからだよ。ほら、これ」
体を起こしカギを取り出して見せた。
何も言わずシャルロットはカギを受け取り、
疑り深そうに見るとそのままポケットにしまった。
「なんであんたが入ってきたかは分かったわ」
ようやく分かってくれてホッと息を着くと、
ユーシャは立ち上がった。
「本当に悪かった。今度からは気をつけるようにする。
(次はちゃんと録画の準備をしてから入るからな)」
好感度の低下を少なめに抑え、シャルロットと和解することができた。ユーシャはそう思った。
「別に気をつける必要はないわ。それじゃ」
そして、シャルロットは部屋に戻っていった。ユーシャを外に残して。
「ん?」
カギが閉まる。
(あれ? カギ取り上げられた状態で閉められたら入れないんだが?
もしかして俺、閉め出された?)
事態を遅れて理解したユーシャはインターフォンを連打する。
「おいコラ、ここを開けろ! わざとじゃねえって言っただろ!」
「でも見たんでしょ? 人の裸を」
「ぐっ」
それは確かにそうだ。じっくりと見せていただきましたありがとうございました。
覗きが犯罪行為であることくらい知っている。
でも、事情を話したら水に流すのが普通だろ?
だってギャルゲーではそれが通じていたのだから。
「それは謝っただろ。とにかく中に入れろ。
他に寝泊まりするとこなんてねえんだよ。
てめえはクラスメートを野ざらしにするような屑なのかよ!」
ユーシャはドアを叩き、『情に訴えかける』をつかった。
(ま、ぶっちゃけ野宿なんて日常茶飯事だしそこは別にいいんだけど、
風呂に入って清潔感くらい持たないと好感度が落ちるからな)
………………
返事がない。効果はいまひとつのようだ。
「クソアマッ! てめえには血も涙もねえのかっ!」
ユーシャはわめき散らし、力の限り拳を叩きつけた。
「あらら、何事?」
わずかだが野次馬たちの中から聞き覚えのある声が聞こえた。
(この声は『お姉さん系女神』!)
声のした方へ振りむくとそこにカナと並んで
予想した通り『お姉さん女神』がいた。
「あっ、リゼル。オッスオッスー」
「カナ。一体これは何の騒ぎなの?」
「ん~。実はぁ、かくかくしかじかで」
(それで通じるわけあるか)
「なるほど」
(分かるの!? いや、そんなことよりリゼルのキャラを考えると)
「大丈夫、神野くん?」
案の定、向こうから近づきユーシャに訪ねてきた。
「いや、気にするほどでもない。(うっし。食いついた。じゃあここはコイツを使わせてもらおうか)」
しめしめと裏で喜ぶユーシャは続けて次の一手を指した。
「でも、どうすればいいんだろう? このままだと俺、一晩中外にいるしかないしなぁ」
「あらあら、それは大変ねえ。ん~、そうだ。私の部屋に来ないかしら」
「えっ? えー、そいつは悪いよ。男を部屋に入れるなんて気使わせるだろ?
心配しなくても俺のことは大丈夫だから」
「そんなこと気にしなくて良いの。私たちクラスメートでしょう?」
「んー、じゃあ世話になろうかな」
「ちょっと待ちなさい!」
ユーシャの寝泊り先が決まったその時、鍵の閉まっていた扉が勢いよく開く。
「いいわ。特別に入ることを認めてあげる。だからリゼルが犠牲になる必要なんてないわ」
(はい、釣れました♪(o゜ー゜)o/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~>゜)))彡爻爻爻爻爻)
シャルロットを背後にユーシャはガッツポーズを決めた。
(この手の奴は『友達が襲われるくらいなら私が』とか甘っちょろいこと考えてやがるからな。
友達使えば釣れると信じてたぜ。やっぱ友情って最高だよな!)
こうしてユーシャはシャルロットと同じ部屋に入ることに成功したのだった。