助言なんてなかった
ラッキースケベという言葉を知っているだろうか。
事あるごとに胸や尻を揉んだり、股の間に顔をねじ込んだりする主人公特有のアレである。
ギャルゲーで必ず十回は発生するイベントを通る度にユーシャは考えていた。
なぜカメラを回さないのか、と。
(あれだけ良い目にあってたらカメラの一つぐらい持とうと思わないか?
バカなのか、それとも男好きなのか)
他にも実は撮っていたのではとか色々なことを考えていたが、
結局、納得できる答えにたどり着くことはなかった。
しかしその分、自分ならどうするかを考えてきた。
カタログを見るとなんと最新のカメラはボタンほどの大きさのものがあるらしい。
大きさ、画質、耐水・耐塵、様々な要素を兼ね備えたカメラを吟味してきた。
それでも、ユーシャには避けられない問題があった。
「金が足りねえなぁ」
ポケットの中の財布の厚さを感じながらそう呟く。
実は学費と生活費は神から毎月、もらっていた。
しかしその額は必要最低限な分しかなく、それ以上は自分で稼ぐしかないのだ。
(まっ、このあたりのバイト先なら学園の生徒がいるだろうし、
バイトならではのイベントを回収するついでにもなるか)
思考を巡らせながら歩いているうちにユーシャは地図に載っていた学生寮の前まで着いた。
「思ってたよりデカいな」
普通のマンションを二階建ての家と例えるなら、目の前のこれは百貨店サイズの屋敷である。
学園の校舎もかなり大きいが、それの三回りは大きい。
(四十人で一部屋と一人一部屋じゃ大きさに差がでるのは、当然と言えば当然か)
渡されたカギを自動ドアの脇に置かれた台座に差し込み、中へ入っていった。
学生寮三階にエレベーターが止まりそこからユーシャが出てきた。
「教室にいたあの巨大ロボットに合わせて造ったのか知らねえが、
あんなだだっ広いくせに何もない空間に閉じ込められたら発狂するぞ!」
出てきたというより逃げ出してきたユーシャは眉間にしわを寄せて呟く。
地図に書かれた番号の扉の前に立ち鍵を出しながら
今日の学園で経験したことを思い出す。
女子だらけの学校だった。
担任の胸が超デカかった。
クラスメートのキャラが自分より濃かった。
ツンデレがいた。何回しばいてやろうかと思ったか。
授業……何それ。そんなのあったっけ?
飯に肉と油が足りてなかった。
トイレがなかった。
俺のほかに男がいやがった。明日殺す。
嬉しいこともあったが、最後に物凄く嫌なことがあったせいで
総合的にマイナスと評価した。
「まぁいいや。初日はこんなもんだろ。今日はさっさと寝るか」
扉の鍵を開け、ノブを回す。
その後、この時になぜラヴの言葉を思い出さなかったのかと悔やむことになる。
「ん?」
部屋の中を見たユーシャの目が点になる。
(おや? これはひょっとしてミスったか?)
学生寮全体の巨大さに反して、ユーシャの部屋の中は余りにも狭かった。
何しろ、玄関に入る前からすでに部屋の中全てが丸見えである。
飾りっ気のない地味なカーテン。一人分しかスペースのないベッド。
そして、これまた地味なパンツと女性らしさの欠片もない貧相な胸。
(うむ。これが生着替え遭遇イベントですね。分かります)
部屋の中で着替えている人物はちょうど金属製のタイツみたいな服を
捲り上げている最中で上半身が晒されていたのだった。
さらに、そのせいでユーシャの存在に気付いていないらしい。
それを良いことに、じっくり鑑賞を続けるユーシャ。
やがて、服を脱ぎ終え、服に隠れていた顔が出てきた。
「え?」
ようやくこっちに気付いた少女は思わず声を出した。
見覚えのある長い金髪と赤い瞳。
着替えていたのはシャルロットだった。
目が合った時は疑問符を浮かべていた瞳は次第に
怒りの炎を燃やしていき、鋭くなっていく。
(あ~、これはあれですね。ああいうパターンですね)
ユーシャは経験則からこの先を予測する。
しみじみと思いながら立ち呆けるユーシャを前に、
シャルロットは手近にあったテレビを持ち上げた。
「出ていけー!」
「ぐっふぉっ」
矢のように飛んでくるテレビがユーシャの鳩尾にヒット。
体がくの字に曲がり、ユーシャは廊下の壁まで飛ばされるのであった。