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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン一つ目 ツンデレ編(63928文字[空白・改行含む])
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渡されたものが強すぎて安心できなかった

重なったラブの手がゆっくりと離れていく。

手の甲を下に待っていたユーシャの手には空気が乗っていて、ソレハナントモツヨソウダッタ。

「はい。完了」

ヴィーナスがそれを言い終わった瞬間、ユーシャはすぐさま胸倉を掴み上げた。

「おいコラ。バカには見えない武器か? ああ˝?

聖剣とか魔剣とかそういうカッコいいもんを寄こせよ」

「待って待って、本当に渡したからっ! 本当にシャレにならない力あげたからっ!」

本気でじたばたしているヴィーナスを見ているとどうやら嘘ではないらしい。

つかんでいた手を放し、床に座り込むヴィーナスは首元を押さえ、せき込んでいた。

「そもそも目に見える強さ(もの)って実際あまり意味ないよ?

ラノベの主人公とかそういうの使ってるけど

最後は装備じゃなくて友情とか努力とかよく分からない力使ってるだろ?

あれは『こいつは他と違うんだな』ってことを演出するための玩具なんだよ

結局、概念的なものが主人公の強さになるんだってば」

呼吸を整え終えると、顔をあげて説明を続ける。

「君に渡した能力は『スキップ』。任意の事象に対して省略または早送りすることができるんだ」

「なんかノベルゲーのスキップモードみたいだな」

ラヴの説明では本当にゲームのそれと同じ印象しか持てなかった。

「で? それのどこが強いんだ?」

「ん~、預かっていたから、一回分僕も使えるし。

口で言うより先に実演した方がいいかな。

何でもいいから好きに暴れてみて」

その瞬間、もしかするとさっきよりコンマ数秒早く、ユーシャは事務員に目つぶしを食らわせた。

これにはさすがの大天使も両目を押さえてのたうち回る。

「さ、さすが押し入り強盗で魔王を倒した最低のゲス。

デモンストレーションでの攻撃でも躊躇なく致命傷を与えてきた!」

「よ~し。ホームラン狙ってみっか!」

事務室の隅に置かれていた金属バットを見つけ、それを手に大きく振りかぶる。

愛とは違った意味でR18な現場を作り、事務室の色が赤に染め上げられたころ、

ようやくユーシャは攻撃の手を止めた。

「フゥッ。これでいいか?」

試合を終えた野球選手みたいにすがすがしい笑顔で

ユーシャは顔についた血と汗を手で拭う。

そして、その足元には描写してはいけないほど無残な姿でヴィーナスが転がっていた。

「今日一番の笑顔をありがとう。よくもやってくれたね。でも」

「君が見ていたのは全て幻だ」

「何っ!?」

背後から正面に倒れているヴェーナスの声が背後から突然聞こえて

思わずユーシャは振り返った。

「君は今まで夢の世界で暴れていたんだよ」

「まさか催眠術か!?」

「その通り。『完全催眠』。この部屋に入った時点ですでに君は

僕の術中に合ったのさ。どうだい? 違和感がなかっただろう?

『今』も違和感がないだろう?」

「くっ」

今までの頼りなさそうな雰囲気から一転して、ラヴは闇のようにほの暗いオーラを纏っていた。

重苦しい効果音と軋みすら聞こえるほどのプレッシャーに押しつぶされそうになる。

ラヴの豹変ぶりには催眠術を使ったようにしか考えられないが、

この気が遠ざかる感覚は現実のものとしか感じられない。

(なるほど催眠術か。それなら確かに最強だ。相手がどんな奴でも

催眠術にかければ何の意味もない。いや?

催眠っつーか、催『淫』に使えば……。これは面白くなりそうだ)

それでも膨らませていく妄想にわくわくしていると、それを切るようにラヴが口を開いた。

「――と、ここまでの流れを作ることができる」

「は?」

その言葉をきりに、さっきまで纏っていた邪悪なオーラは霧散し、

全てが冗談だったように感じた。

「ん? え、ん? 流れ?」

「まぁそうなるよね」

何故か拍子が抜けてしまった空気に混乱し、もしかするとこれも催眠術で

操られた感覚ではないかと疑い始めた。

それを解消するようにラヴが事態の解説した。

この能力(スキップ)の最大の強みはスキップした結果をこっちで決められることと、

スキップする事象にその結果に対する理由を後付けすることさ」

「理由の後付け?」

「平たく言うと、都合が悪くなった時にごねる屁理屈を実現させること。

要するにご都合主義を使える力さ」

「それ強すぎじゃね!?」

ラヴの解説は実はあまりよく分からなかった。

しかしご都合主義を使える力と聞いて、それがどれだけ凄まじい能力かは理解できた。

「つまり、こっちがシナリオ通りに世界を動かせるってことか。

それどんなチートなんだよ」

「どんな敵でも倒せる力って言ったらこれしかないよ。

それとも、わざわざ怪我をしないと覚醒できないような面倒くさい方がよかった?

そっちの方が主人公っぽいと言えば主人公っぽいけれど」

「それはやだな。だるい。別に戦いに来たわけじゃないし」

何度かそういう展開のゲームに感動した経験があるけれど、

それは自分と関係ないからであって

わざわざ自分から死に目に合いたがる人間なんているはずもなかった。

「でもよ。なんかその言い方じゃそれを上回る奴が出てくるフラグっぽく聞こえるんだよな。

それを上回る超絶パワーとか一見ザコいけどその能力にだけ勝てる能力とか」

「随分疑い深いね」

「だって、それ強すぎて完全に敵側の能力じゃん。主人公っぽい奴にやられそう」

ヴィーナスは少し考え込んだ。

「確かにこれだけ強すぎると最後は倒されるラスボスっぽく感じるね。

でも考えてみてよ。強すぎるからラスボスになったんだよ? 決して逆じゃない。

そもそも強すぎるラスボスが主人公たちに倒されるはずがないじゃないか。

それなら主人公たちが登場する以前に倒されていたっておかしくないだろう?

それこそスキップ(この力)を使って無理やり書き手が勝たせてあげてるだけだって」

ラヴは能力へのフォローを加えたつもりだったが、それでもユーシャは納得がいかないようだった。

「言っておくけれど、この能力を持った君はもう神様でも消せない存在になったんだ。

すごく幼稚に聞こえるかもしれないけど、スキップ破りを使われてもスキップ破り破りができる。

本当の最強っていうのは言葉にしたら物凄くアホらしく聞こえるものなんだよ」

「う~ん」

ユーシャは考え込んでいた。

(そんな上手い話があるのか? 仮にこれが最強だったとしても

それを俺に渡すメリットなんてこいつらにはないだろう?)

感覚としては悪徳商法を聞いている気分だった。

その様子にラブは困って、ため息をついた。

「まぁ、いいや。ともかく、確かに君に渡したからね。

渡した時点で体に定着してるから、いつでも使える。

使い方を教えるのは歩き方を教えるみたいなものだから説明できないけれど

一週間もあれば完全に使いこなせるはずだ」

ちょうどそこに完全下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

ユーシャは不満を残しながら事務室を後にした。


校門の外に出たユーシャは渡された家への地図を見ようとした。

その時、胸のあたりが急に震えだした。

「何だ何だ!」

慌てて胸の内ポケットを探ってみるとさっき渡された地図と鍵と一緒に携帯電話が入れられていた。

『新着一件』と書かれたアイコンを押すと届いたメールが開かれる。


『from: 大天使LOVE♡

 件名: 注意事項だゾ』

「……受けを狙ってるつもりなんだよな?」

ユーシャは頬を引きつらせながら本文を読んでいく

『本文:

 異性と仲良くなりたい君へ

 この現代社会にケータイは必須! なのでなのでプレゼントしちゃいます

 このケータイは今日から君の物ラー。大事なものだから失くしたり

 壊したらダメだぞ~? 』

(ウゼえ。ただただウゼえ)

『ではー。君の能力『スキップ』に使用方法について

 注意事項を言っちゃいますっ!


 よく考えてから使うように』

「ん?」

この一文だけ前後の分と一行開け、赤の下線が引かれていた。

よほどのことだと思い、続きを読んでいく

 実はこの能力でもできないことはあるんだよね

 まず『ポテンシャルの永続的な向上』

 誰でもぶっ倒せるけど、素の力や頭が良くなったわけじゃありませーん。

 そのあたりは地道に努力するのだだだだだだぁー

 次に『未来予知』

 宝くじに当たることはできるけれど、

 当る宝くじを見つけることはできませーん。

 衝撃のラストォー(燃)『時間移動』

 過去の選択をルートの変更はできるけど

 その時点からのやり直し(ロード)をすることは無理どぇす

 『じゃあ、時間移動できる奴に弱い』って思った人、アウトーっ!

 そもそも敵として現れることはありません。何故でしょーかっ

 それは、何回やっても勝てないからでした

 以上、終わり! ノシ』

「……………………」

真面目に読んだのに大したことでもなく拍子抜けになった気持ちと

全く面白くない話し方に切れる気持が混ざり合ってできた気持ちが

逆にユーシャを冷静にさせた。

「つーか何でメールで送って――あっ、俺に殴られると思ったからか

(ご苦労な奴だな。

別に俺は何もなくてもお前を殴りに行くのに)

そうぼやくが、もう日が暮れたから今日はこのまま帰ろうと思い

ケータイをポケットにしまった。

「まっ、それにしばらくは使うつもりはねえよ」

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