学園は男向けじゃなかった(不浄編)
腹も十分膨れかけたとき、一緒に食べていた『褐色シスター』が席を立った。
「ちょっと席外すね」
「はいよー」
そしてそのまま『褐色シスター』食堂を出ていくと
その隣の『体操服ブルマ』がシスターの分まで弁当箱を片づけ始めた。
「おいおい、待ってやらねえのかよ」
ユーシャは思ったことをそのまま口にしただけなのに
全員からじとっとした目で見られてしまった。
「ちょっとは察してよ。ションベンに決まってんじゃん」
「カナ。あなたはデリカシーを持ちなさい」
『ブルマ』少女カナが一時間目に助けてくれた『お姉さん系女神』に叩かれているのを見ながら
ユーシャは考えていた。
(ションベン。つまり便所か。まぁ、生き物だしな。
食うもん食えば、そりゃ出るものを出すか。ん?)
その時、タイミングがいいのか悪いのか。
自分もその『出るものを出す』時が来たようだ。
「悪い。俺も行ってくるわ。先に戻っててくれ」
ユーシャは自分の分の食器を持ち、三人の女子を残して出て行った。
「トイレ、トイレ~♪」
ポケットに手を突っ込み早歩きでトイレを探すユーシャ。
そこを見つけるのにあまり時間はかからなかった。
しかし、入ることはできなかった。
「なんだ、この行列は」
ずらりと並ぶ行列はトイレの中へ続いており、数分に一人の割合で前へ進んでいく。
「待て待て。さすがにこの行列は待てねえぞ」
そこを離れ、別のトイレに行ってみたがやはりそこでも行列が並んでいた。
(こりゃ、どこ行っても同じだな)
生徒用のトイレには入れない、となると、
「職員用トイレだ」
目的地ははっきりした。しかし、その場所がどこかは知らない。
トイレの場所を聞く。ただそれだけの事ではあるのだが
それを女子に聞く恥ずかしさが邪魔をして出来なかった。
そうすると、聞ける相手は教師に絞られることになり、
しかも急ぎのため面倒な挨拶が要らない相手である必要がある。
その条件に合う人物はソフィアしかおらず、目下血眼になって探しているのである。
「くそっ、どこだ巨乳教師」
遠目で見ても分かるほどの巨乳。廊下を埋め尽くすほどの生徒がいても、
あの個性は見逃せない。
それでも、あの乳袋の影も形も見つけることはできなかった。
(こうなったら学校中走り回って、虱潰しに探してやる)
記憶によるとこの校舎は初等部、中等部、高等部、専門科でそれぞれの棟があり
どれも三階建てになっている。
疲れることは分かっているが、やるしかないと覚悟を決めた。
まずはこの高等部の棟からだ、と階段に向かった時、曲がり角でぶつかった。
「ぐっ、ぬぅうう」
ぶつかった相手の肘が見事に膀胱を圧迫し、人間としての尊厳を失う一歩手前でユーシャは踏みとどまれた。
「ちょっとどこ見て歩いてんのよ」
よりにもよってぶつかった相手はシャルロットで、
この切羽詰まった状態で聞く辛辣なセリフが余計に神経を逆なでしてくる。
「てめえこそぶつかったら、転んでパンツ見せるくらいの演出をうっ!
(やべえ、今ので限界が近くなってきた!)」
せっかく覚悟を決めたばかりだが、さっそく折れることになってしまった。
「しかたねえ。おいシャルロット、職員用トイレはどこだ?」
「は? 職員用トイレ? あんたトイレに行きたいの?」
「そうだよ。だから、さっさと教えろよ」
「それなら一階に降りて右にまっすぐ行った突き当たりをまた右にまっすぐ行った奥だけど
入れないわよ」
「は!? 何で分かんだよ」
「だってそこも並んでるし」
「なっ」
しかも、追い打ちをかけるようにその目的地すら外れと知らされるとは欠片も思わなかった。
「くそ。だいたい女のトイレは長すぎんだよ。男子トイレの一つくらい作れってんだ」
「そもそもこの学園は女子校よ。わざわざあんた一人のためにそんなもの作るわけないでしょ」
「教師も生徒もみんな女。まさかそれがこんな面倒なことになるなんて」
そこで気づいた。
「あそこだ。あそこなら普通誰も使わねえ」
「あそこ?」
ユーシャはシャルロットを置いて飛び出していった。
ユーシャは校門へ向かって来た道を戻る。
(あるぞ。教師も生徒も使わないところが)
学校にいるのは教師と生徒だけじゃない。
校舎の掃除や設備の取り換えをする人、事務員が必要だ。
(事務員なら生徒の数に関わらないから数人で十分のはずだし順番を待つ必要はねえ。
それにわざわざ誰かに場所を聞く必要もない)
校門にたどり着いたユーシャはそこから車が通せるほどの道を見つけて進んだ。
(事務室ってのは、だいたい荷物の受け取りがしやすいように
校門からすぐ近くにあるってのが常識なもんだ)
聖マリア学園事務室と書かれたプレハブ小屋の取ってを掴み、勢いよく開け放った。
「悪い。トイレ貸してくれ」
山積みの書類と、掃除用具が立てかけられたロッカー。
そのわきに置かれたソファにごろんと寝そべっていた事務員に声をかけられた。
「やあ。随分遅かったね? 待ってたよ」
「なっ」
ユーシャは事務員の姿に便意も忘れて驚いた。
細いが固そうな腕、少し骨ばった頬。
「な、なんでここに男がいるんだよ!」
共学するユーシャの表情を見てこの男の事務員は不敵に笑った。