課題出現
たかが遊園地、所詮はきたない大人たちによる子供だまし。
「そんなもんで俺が満足できるゎ――」
と思っていたが、
「クマー」
と、見事に釣り針に引っ掛かり、
散財の限りを尽くすことになってしまった。
海水浴と遊園地。濃いようでその実、全然ハーレム化計画に進展のない
合宿一日目はこうして過ぎてしまうのであった。
「はい、皆さん。食べながらで良いので聞いてください」
宿泊用の寺での夕食中、ソフィアが手を打ってユーシャたち生徒の目を集めた。
「今から課題のお話をします」
(うええ)
忘れていたいことだったが、ついにこの話を聞くことになり、
ユーシャは露骨に嫌そうに顔をゆがめた。
「課題の内容は皆さんでこの街を自由に散策し、
この街について『今後、予想される現象』、そして『その現象への対処』を
A4用紙五十枚以下で『実用的な』書類を提出してください」
「あぁぁ、うぅ~ん。ぅうん?」
「変な声出して、どうしたのよ」
正面に座って食べるシャルロットは愛想のない様子で訪ねてきた。
「いや、なんかいまいちピンと来なくてよ。
もっとこう臨海学校中に○○で一等を取れとか、
このあたりで抱えるスゲー重い問題を解消しろとか、
そういうレベルの高いことをすると思ってたんだが、
レポートってなぁ~」
『皆さんで』『A4用紙五十枚以下』ということは
一人あたり五枚ほどの配分である。
書き上げるための調査を今から始めることを考えると、
易しいとは思わない。
しかし、普段の授業の、さらには一つのコマで
A4のノートを見開き4ページ以上、使うことを考えれば
あまりにも量が少なすぎる。
(なんか違うはずだ。現実ってクソだから
こういう『俺に優しい状況』ってのには
裏があるか、俺の価値観に世間がついてこれてないかのどっちかだからな)
夕食の精進焼きそばをすすりながらうんうんとうなるユーシャに
シャルロットは声をかけた。
「あんた。私より勉強できないくせに
よくそういうこと言えるわね。
これ、レポートよ?」
「あん? だから何だよ。
ちゃちゃっと調べて、ばーって適当に書いて終わりだろ?」
「じゃあ、まずここがどこか、あんた分かってんの?」
「はぁ!? そんなもんケータイで調べりゃ一発で……ん?」
『位置情報が取得できません』
「おいおい、テーマパークがあるくせにネットが対応してねえって、
どんな行楽地だよ!」
「ネットなら通じるわ。対応してないのはGPSよ」
「どっちにしろどこの僻地だよ」
ここはどこですか、という習いたての例文に出るような質問をされ、
気分を悪くしたユーシャは役に立たないスマホをポケットへ押し込み、
配膳係をしていたラヴに聞いた。
「おい、ここはどこの田舎だ。GPSが使えねえんだけど?」
一生徒からいらいらしながら聞かれた質問に、
あっけらかんとした顔でラヴはその答えを言う。
「それは仕方ない。だって、ここ、学園があるとことは違う星だから」
「あー、なるほど。星が違うんじゃGPSが
通じるわけねぇよな。納得納得……できるかぁっ!!」
受け入れがたい事実にユーシャはラヴの目玉目がけて
手持ちのフォークを投げつけた。
「お前、なに言ってんだ!?
星が違うって飛びすぎてんだろ!? 色んな意味で」
「飛びすぎ? ならば逆に聞こう。いつからここが同じ星だと錯覚していた?」
「うるせえよ。錯覚も何も、たかだか学校の行事で宇宙旅行するなんて
普通思わねえだろうが!」
「十分考えられることだと思うけど?
この学園は生徒に他所の星の軍人を呼ぶくらい
宇宙という空間を狭~く扱っているんだ。
そこへ行く方法とそこで得られるだろう価値さえあれば、
旅行先として星を離れることはありえるだろう?」
さも当然のようにラヴが言い放ってしまうものだから、
「そんなわけあるか」などと言ったセリフをはさむタイミングを失ってしまった。
そこではっと湯0社は気づいた。
「ということはなにか?
『今後、予想される現象』云々どころか、
ここがどこかから調べねえとダメってか!
馬鹿じゃねえの! 分かるわけだろ!
あっ、いや待てよ? このあたりに住んでる奴に聞きゃいいだけか。
質問自体ははずかしいが、しょうがねえか」
「あ、それ無理」
「は?」
「だってこれレポートよ? 『誰かから聞いたから』じゃあ
論理的説得力に欠けるじゃない」
「論理的説得力ってなんだそれ! 食えんの!
じゃあ、分かるわけねえだろうが!」
「いや、そうでもないよ?」
ラヴは会話の外にいた他の女子たちの存在を
ヒートアップしたユーシャに指さした。
「植物の成長が通常の三倍ほど速いが、
一日の長さが同じことから、
公転周期が1/3で自転周期が同じ、
ということだろう」
「う~ん。教えてくれてありがとうだけど、
この星を特定するにはあまり必要のないことね」
「あああの、むっ。百足とゕ。ゴキブリみたいながが、害虫の数が、、
異常に少ないです。食物連鎖的に無理かと」
「となると、人工惑星の可能性も」
「そうなってしまうと、今までのことがすべて無駄になりますね」
「けど、どの銀河に属してるかは分かるよ! NGC3658、キローラモ銀河!
お昼食べたとき、東にIC298が見えたから間違いない!」
「星間遠視ができるのは紗羅だけですし、信じましょう」
「となると、人工ってのはないね。確か――」
「ね?」
と、シャルロットが正面へ向きなおしたとき、
ガシャンとユーシャが机に突っ伏した。
「絶対違う。こんなの学生の夏休みの宿題じゃねえ!」
最初の話でさえ微妙だったユーシャは
後半になると謎の呪文を唱える女子たちに圧倒されて目を回していた。
そんな彼の肩を優しく叩く人物がいた。
ユーシャは顔を上げ、その心優しい人物の顔を拝むと、
そこにいるのは普段は無愛想なシャルロットだった。
しかし、今の彼女は慈愛に満ち溢れていて、
最初に見たときと同じような良い女なイメージが復活してきたところで彼女は言った
「一・般・教・養」
「嘘だ! 一万歩譲って俺がまともじゃないとしても、
これが一般ってのは絶対におかしい!」
((一万歩譲ってやっと認めるのか))
二人が譲歩の数に呆れていると、
「神野くんもなんか思いついたことない?」
「え? 俺!?」
と、突然に振られた質問にユーシャはたじろいだ。
思いつくも何も、違う星にいること自体考えつかなかったというのに
何を答えられるのか、ただ目を泳がせて
「えっと」
と口を濁すくらいしか手段がなかった。
「ん~、ここが……人口の星かもって聞いたとき思ったんだが、
今見える空が人口物ってことはねえか?」
聞いた話の最後にここから見える星の位置のことを出していた。
その情報からここが宇宙的にどの位置にあるかを推測しているが。
そもそもこのあたりの空自体が作り物、
言ってしまえばここが巨大なプラネタリウムの中みたいな場所だとすれば
さっきの彼女の意見は間違っていることになる。
言ってみた後、それはそれで無理があると考えたが
ユーシャとしては(自分なりに)精一杯考えて絞り出した。
その努力の結果に聞いていた女子生徒たちは苦笑いを浮かべていた。
「あんた、星を作るならともかく上空情報を偽装するのはまずいでしょ」
「ギャロップ条約に思い切り反してるから、無理だね。
それにそれをするだけのメリットがない。
このあたりじゃ、あのテーマパークしか見せ場がなさそうだけど、
あそこの売り上げだけで維持するのは不可能だよ」
「ちょっと突飛な意見だったかしら」
「くっ」
思いつくことは、と聞かれたから答えたのに、
意味はよく分からなかったが完膚なきまでに論破されてしまったらしい。
「ンなこと言ったら星を作るって方が無理があるじゃねえか!」
反撃の意を込めユーシャは怒って意見を返すが、
「作るだけなら業者に頼めば出来ますよ?」
「何だと?」
「時間とお金がさえあれば私でもこれくらいの星作れるわよ?
ほら、太陽だって作れるわけだし」
と、シャルロットは手のひらに小型の太陽を作った。
(そういえばこいつ太陽並みの熱量を持つ剣が出せるんだっけ)
「いつか、人口宇宙を作って生態観察と文明の発展の経過を
ノートに取って見ましょうか」
「あっ、良いね! それ、楽しそう」
課題の話から脱線し、ワーキャーと人口の宇宙の話に花を咲かせ始めてシャルロット達女子から
ユーシャは離れ、寺の外でちらほらと見える夏の星座を見上げた。
「ファンタジー世界で生きるのってつらいなぁ~」
天地創造が未成年でできる世の中に涙が止まらなかった。
熱くなった目頭を押さえる。
(ダメだ。最近になってやっと授業について行けそうな気がしてきたのに。
やっぱりこいつらのレベル高すぎる。
だいたい、夏と言ったら昼間の海水浴だけでいいじゃねえか。
なんでこうなるんだよ。
……………………待てよ?)
果てがないような黒い夜空に、ユーシャは一発逆転の妙案を思い付いた。