学園は男向けじゃなかった(食堂編)
一時間目の数学、二時間目の経済学、三時間目の古典文学と終わり、
昼休みに入ったころ、ユーシャは死体のように机に突っ伏していた。
「あ、ありえねえ。ゲームじゃこんなシーンはなかったはずなのに」
書き足されては一瞬で消されていく膨大な文章、異世界のような言葉と図式。
それらを覚えるために聞こうと思った時もあったが、
その五分後にはただ書き写すだけの作業しかできなくなった。
「こんなことで……俺のハーレム化……計画を潰されてたまるか……畜生」
冗談抜きに、腱鞘炎を起こした右手を押さえていたら、
ユーシャの周りに女子たちが集まってきた。
「ねぇねぇ、一緒にお昼ご飯食べない?」
「どうやって魔王を倒したのか教えてほしいなっ」
弁当袋を持った可愛い女子たちが楽しそうだったり恥ずかしそうだったり、
色んな表情を自分へ向けてお昼に誘ってくれる。
それだけでユーシャは今までの苦痛をなかったことにしてもいいと思えた。
「あ~。でも、おれ弁当持ってねえんだよ」
そう言った後に、ユーシャは気づいた。
(これはっ!? 『じゃあ、私のお弁当分けてあげる』と言って
橋で間接キスをしたり、それに気づいた女子が『キャっ恥ずかしい』とか言って
顔を赤らめたりするサブイベントのフラグ!)
まさか、いや、おそらく、しかし。肯定と否定の言葉を重ねながら
期待感はどんどん膨らんでいく。
「じゃあ……」
(キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!)
その気持ちを顔には出さない。何度もプレイしてきたギャルゲーの主人公のように
鈍感ぶった顔をユーシャは保ち続けた。
「食堂で何か買ってく? 一緒について行ってあげるし」
「え? 食堂?」
破裂寸前だった期待感はみるみるとしぼんでいき、
あっけなく鎮火されてしまった。
「そうだな。じゃあ、案内してくれねえか?
(まあ、こういうシチュもあったし。良いか、女子と昼を食べることには変わらねえ)
それに『学食』にも少し興味はあったからユーシャは
表からも裏からも喜んで食堂に行くことにした。
食堂のメニューは日替わり定食一択らしい。
というのも、種族ことに出す料理を分けているのだが、
この学園は種族が多すぎるため、そんなに大量の食材を用意することはできないのだそうだ。
そして、今日のメニューは当たりを引いたみたいで
一緒に来た女子たちが「いいなー、私今日お弁当持ってこなきゃよかった」とこぼしていた。
だが、
「なんだこれ」
ユーシャは目の前に置いた料理を見て一言つぶやいた。
『日替わり定食 美容と健康は食事から! 聖マリア・ボリュームセット』
値段は銀貨1枚と安く、なおかつ値段以上の量が用意されている。
可愛い女子たちと同じ机に座り一緒に食べる。
出された料理を一通り味見してみると、どれも食べたことが無いくらい美味いのだ。
しかし、ユーシャは全く満足できていなかった。
(美味い。美味いよ? でも。絶望的に肉が無い)
おかずは基本的に野菜で、主菜は魚の『塩』焼き。
(でも塩気が全然足りねえっ!)
塩分の取りすぎを意識しているのか、全くと言っていいほど味がしない。
女子が持ってきた弁当と交換を申し込んだが
「えー、悪いよ。せっかく転校初日にこれを買えたんだから私たちは我慢するよ」
と、遠慮されてしまった。
(男の料理は濃い口が常識なんだ。こんなんで足りるかっ!)
幸い、一番塩の味がするスープはおかわりが自由だったので
それで紛らわせることにした。




