気持ちの形
「あんたってさ、何をしている時が一番楽しいの?」
馬鹿にしているようにも取れるその問いにユーシャは
当然の答えを返した。
「何をって、それはお前、女たちにちやほやされることだよ」
その言葉が返ってくることを事前に分かっていたように
シャルロットは肩を落としてため息をついた。
「なんだ、なにか文句でもあんのか?」
「ないわよ。ないけど……あんた、そんなのが一番で良いの?」
「ああ?」
当たり前のことを言ったはずなのにシャルロットは
ユーシャの意見に納得をしなかったらしい。
「それが楽しいのは最近分かるようになってきたけど、
それでも一番だって思えるほどの背景っていうのはないんじゃないの?」
彼女のその疑問にようやく言いたいことが分かったユーシャは言葉を返す。
「楽しいって思うことに背景が必要か?
というか楽しいことに順位なんてつけられるのか?
楽しいと思ったことは楽しい、楽しくないと思ったことは楽しくない。
それだけだろ」
「そういうことを言ったつもりは無いんだけど」
「同じだろ。要はお前が言いたいことってのは
やりがいがあるのかってことだろ?
そんな意義のないことをやって楽しいのか、って」
野球をして楽しいことは『頑張って』特訓をした結果に勝利が得られること。
ピアノを弾いていて楽しい時は『頑張って』練習した結果、
良い演奏が出来たとき。
何にしても『頑張った』結果が実を結んだ春化に喜びを感じる。
そういう種類の楽しさもある。
しかしそれだけではないはずだ。
「他人から見れば安い夢かも知れねえし、
実際、使命感とか碌な動機とかも無くて薄っぺらいことだがよ。
俺にとってはスゲー重要なことなんだよ。
いくらやめろって言われようと、やめる気はねえな」
きっとこれは警告だったのだろう。
力づくで説得できないユーシャに対してとれることは言葉しかない。
シャルロットはそう考えて、こんなことを聞いてきた(はずだ)。
自分と相手しかいない状況に普段は見せない優しい口調で語り掛ければ、
感化されて思い直すだろう、と思って。
(もしかして観覧車に連れて来たのも、そのためか?)
一体、どこから考えていたのだろうと考えていると、
やっぱりシャルロットはがっかりした感じで肩を落としていたが、
何かを諦めたのか少し笑っていた。
ゴンドラはとうとう一周し、開いた扉に手をかけた彼女は、
振り向かずに行った。
「あんたはそういう奴だったわね。
あっ。あと、その顔とセリフ、毎晩練習して作ったんでしょうけど、
カッコ悪いから二度とやらない方がいいわよ」
「余計なお世話だ! ってか、気づいてたのかよ!」
「当たり前」
ユーシャを置いて先に降りたシャルロットは
待っていた女子たちまで歩いて、楽しそうに話していた。
彼女ん代わりに一人になったユーシャへ近づいたラヴは
戸惑いながら聞いた。
「何の話をしてきたんだい?」
「あん? いや特に何も?
大した話はしてねえけど。
結局、何が言いたかったんだ? あいつ」
「あ。そう」
本当に大したことを話していないはずなのに、
少し困った顔をしていたラヴをユーシャは見た。