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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン三つ目 波際の精霊編
107/111

心理とプログラム

二つのグループに分かれてからも

ずっと燃え盛る太陽の下で数十分以上肌を焼き続ける。

ついには我慢に限界がきて、

ユーシャは騒がしく音を上げた。

「ぬぅうぅううあああああっ、もう無理ッ!

もう死ぬッ! もう一秒でも早くこの列から出たいっ。

出るからなっ! 俺もう他行くからっ!」

と、ユーシャは列の整理のために敷かれた帯を潜り抜けようと手をかけた。

「いいんだ。あんた、ここまで並んでおいて今さら出たら、

本当に無駄な時間を過ごしたことになるわよ?」

「くぉっ」

帯を潜り抜けようと手をかけた。

が、その時シャルロットに諫められてその手がとまった。

シャルロットに言いたい文句とか夏の太陽への無意味な怒りとか、

そもそも大人しく聞いていた自分への怒りとか。

理不尽で支離滅裂で我田引水な怒りがぐるぐると頭の中をかきまぜた末、


ぷっつんっ


と蜘蛛の巣並に細い糸が切れてユーシャの中の何かを決壊させた。

「はっはっは」

「ど、どうした?」

前触れもなく笑いだすユーシャに恐る恐るラヴは聞いてみた。

が、当の本人はそれに気づくこともなく決壊の規模はさらに大きくなっていった。

「あっはははははははは」

大きくはあっても空々しい笑い声に

背筋を寒くさせた周囲の人間が三歩ほどユーシャから距離を置いた。

(使うわ最終手段(【スキップ】)

使ったせいで俺のギャルゲー的な学園生活に

余計なモンが出来るかもとか思って避けてたけど、

もうどうでもいい。

こんなところでじりじりじりじりじりじりじりじりと

蒸し焼きにされるくらいなら、バグの一つや二つくらい起こったってかまわねえよ)

「とは言え」

目の前にいる数十人が『雷に撃たれて死んだ』などという

荒唐無稽な理由で消えてしまうのはさすがに強引すぎて

とんでもないバタフライエフェクトを引き起こしてしまう可能性がある。

(こいつらをどかすためのそれらしい何かはねえかな)

と、周りを見渡すとGDPのマスコットキャラクター、

なんとかランドのかんとか森に住んでいて自然と良心を愛するメス兎、ロッピーちゃんと

その森を開拓してビジネス街を造ろうと目論む悪役で

なぜか針金を首に巻いているオス土竜、モールくん

の着ぐるみを着たスタッフが近づいてきた子どもたちに風船を配っているのを見つけた。


「あっ。あれロッピーじゃね?」

「マ~ジだ。ヒヒッ、やっべチョー受けるんですけど」

初めてGDPにやってきたカップルは生のロッピーちゃんの着ぐるみを見て

テンションが上がり、どたどたと贅肉を揺らしながら駆け寄っていく。

体型も顔のつくりも大したこと無いくせに無駄に派手なファッションを身に着けているせいで、

衆目を集める(不細工)カップルの行動に他の客もつられてロッピーちゃんたちを見やった。

そのつられた人が四人、五人と増えていくと以上のそれらを見る第三者もそのつられた人間になる。

いわゆる野次馬、好奇心で数を増やしていく傍観者の群れが

二つのマスコットキャラクターのもとに押し寄せていく。

「すみません。押さないでください。危ないので押さないでください。

押さないでっ。あっ。っあああー!」

一カ所に集まる客たちはさながら獲物に張り付くアリのようで、

互いを押したり、踏んだりとある意味での『修羅場』と化した。


「ふぅ。結構良いんじゃないか? さすが俺」

お察しの通り、この現象はユーシャが意図的に起こしたものであった。

その甲斐あって今までユーシャたちの前を並ぶ百数十人のうち、

残り三十数人になるまで数を減らした。

やりすぎな感じはあるが、決してありえない現象ではないとユーシャは思っていた。

(淡麗ミレニアムだったか、そんなバカ野郎が六人のサクラに何もねえビルを見させていたら、

通行人がどんどんそのビルを見に寄って来やがるとかっていう実験結果を出してたくらいだしな。

規模はアレだが、おかしすぎるってことはねえだろ

※『服従の心理』という本を書いているので詳しくはそれかネットで調べると良い

※ステルスマーケティングを避けるため、お手数を掛けて大変恐縮ですが

 出版社等はご自身でお調べください)

さらに付け加えると、敢えて三十人ほどに抑えたのもユーシャの配慮である。

何人であろうと残って『いる』のと『いない』のでは言語的にも明らかな差が生まれてしまうので

妙な不自然さを感じられないようにした、つもりであった。

「それにしてもこんな暑い中、押しくらまんじゅうとは物好きなこった。」

「ちょっと」

「まぁ、てめえらがいるせいでここらの温度が上がっているかもしれねえわけだし、

この俺を苦しめる奴らには当然の報いだよなぁ。」

「聞いてる?」

「さぁ苦しめ。思う存分苦しめ。んでもって死人でも出せばお前らは最悪な気分で

これからの一生を過ごすことになるんだ。ザマァー! はーはっは、

ってなんだよ、さっきから。人が気持ちよく愉悦に浸ってるとこを邪魔すんなよ」

「悪趣味にもほどがあるわよ!?

そんなことより前。もう(さき)行ってるわよ」

「うそだろ!?」

シャルロットの声に我に返ったユーシャの前は

気づけば着ぐるみに吊られた客と

次の番が回ってきて消化された分でぽっかりと空いていた。

「あ、ホントだやっべ。せっかく掃けたのに無駄になっちまう」

「『せっかく』? 『掃けた』!? あんた何かやったの?」

「いいから行くぞ」

観覧車の個室に四人ずつ乗って遠ざかっていく行列の最後尾を

ユーシャは呼びに来たシャルロットを置いて追っていく。

そしてようやく追いつき、ラブの着くーーその前に

ジャらララララ、ガシャン

「え?」

「すみません。次の番までお待ちください」

「え?」

ユーシャはスタッフによって封鎖された一本の紐を見る。

「いや待てよ。おいクソ天使。これ四人乗りだよな?

四人ずつ乗り込んでるの見たぞ。

お前と女子二人。あと一人空きがあるだろ。どうなってんだ!」」

「ま~、これだけの行列だし、知り合い同士だけ、となると

それだけ時間がかかるだろう?

だから、詰められるだけ詰めようということになったんだ」

「どもッス」

「誰やお前! あっ、俺たちの前にいたやつか」

「そういうわけで先に楽しんでくるよ」

「おおぉぉおおおぉ先です」

「出口辺りで待ってるでござる」

その言葉を残し知人三人とモブ一人を乗せたゴンドラは閉まり、

ゆっくりと観覧車が回転する。

「ぷっ……………かーーーーーーー」

百里を行く者は九十を半ばとす。

つまりまだ半分、五十里しか歩いていないということだ。

とりあえずまた四十里ほど歩いて九十里目につくけれど

それもまた半分、五十里しか歩いていないということに。

再び歩いて九十里目につくけれど

それもまた半分、五十里しか歩いていないということに。

再び九十里、半ば、五十里、九十里、半ば、五十里……


「あー。あーっ。あーっ。あーっ。ストレスがマッハ=相対速度割る音速だいたい時速1225キロメートル~♪」

「ユーシャ!? ユーシャ!」

脳に重大なエラーを生じたユーシャにさすがのシャルロットも狼狽え、

両肩を大きく揺さぶった。

「しっかり! しっかりしなさい。大丈夫だからちょっと落ち着きなさい」

「シャルロット。よく考えたんだが、俺たちの人生って

この観覧車に乗ろうとしている時点で完結していて、

永遠に観覧車に乗れず、ずっとこの行列の先頭にいるんじゃないか?

無限ループだよ。スゲーことに気づいちまった!

どうしよう! 詰んだ! 俺の人生詰んだ!」

「うん。まず落ち着いて」

散々待たされた挙句、最終手段まで使って待ち時間を短縮したにもかかわらず

それでもようやくといったところでまだ待たされる事実に

ユーシャの頭の中がブルースクリーンになり、その介抱をシャルロットが負っていた。

幸か不幸か、乗れるまでの最後の待ち時間ではそのことが二人の頭を占領していて、

退屈も夏の暑さも感じることなく待っていられたのだった。


数十分後

「ど、どうぞ」

「……どうもご迷惑をおかけしました」

「ピー! ガガガガガガガ(=======_______======)ガガガガガガガガガ」

異音を漏らしながら意気消沈したユーシャの背中を押して

ゴンドラに乗り込むシャルロットはいたたまれない気分でスタッフに会釈を返す。

「あ、どうぞお座りください」

ゴンドラは一つで四人乗り、あと二人が乗れる空席を指して

声をかけるが

「いえあの、お気になさらずに。

あの、二人だけの楽しい時間を過ごしてください」

「そっ。そうそう。私らは次のに乗りますし、なんならここで乗らずに帰りますから」

と、客どころかスタッフにまでドン引きされて思わず涙が出そうになってしまった。

「まだっ! まだよシャルロット! これから楽しむんでしょ?

ここでへこたれるもんですかっ」

友軍のいないこの状況に自分を鼓舞し、

万感の思いを込めた少女とバグを起こした青年を乗せて

ゴンドラはゆっくりと動き出す。

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