炎天下の入場ゲート
「ですよねー。分かってた。分かってましたよ、俺様は。
だよねぇ、やっぱり遊園地っつったらこれがお約束ですよね」
男一人に女子九人、端から見れば
羨みと嫉妬の中心に立てるペストスポットである。
そんな一行でアトラクションに乗るなんて
楽しいとか嬉し恥ずかしとか正の感情以外にあり得ない。
吊り橋効果で心拍数の急上昇を交互頃と誤認させるには
フリーフォールやジェットコースターがいい例だが、
まったりとゆるやかな空気を共有するなら断然、観覧車だ。
その観覧車にユーシャは乗っているところだ、
シャルロットと二人っきりで。
「マジありえねえ」
事の経緯は二人が観覧車に乗る三時間前から始まった。
Grass Delight Parkの略、GDP(※国内総生産ではない)は今が
ピークを迎える時期で入場ゲートの前にも客で長蛇の列が出来ていた。
だが、
「聖マリア学園の生徒はこちらでお待ちください。
無料パスを発行いたしますので少々お時間を取らせていただきます」
とスタッフから特別優待を受けてゲートの脇に設営された待機所まで案内された。
そこでこの暑い日の中、汗を流しながら待つ客の苦しむ姿を
楽しんでユーシャは女子たちを待っていた。
(まさか、ここがウチからの援助金を受けて運営するテーマパークだったとはな。
というか私立の学校が娯楽の施設を持ってる上に特別優待とか出資とか、
法律的にそれってありなのか?)
へばっている客の顔を見ることにも飽きて、
退屈から大きなあくびをかいた。
「おおおおく遅れてすいません」
「待たせたの」
「んぁ? おう。おおうっ!?」
そこへようやく女子たちがやってきて、
目だけを向けて応対したが、その一瞬で見たものに不自然な首の回転をさせられた。
「変……ですか?」
「うふふ、全然変じゃないですよ。かわいいです」
「うむ。どこに出してもばっちりじゃ」
「ソフィア先生。もう少し慎んだ服は無かったのですか?
せめていつものスーツの方が良かったのでは」
「ん~? せっかくですし私たちも思いっきり遊びましょうよ、ディラエラ先生。
それにいつもの服だと呼吸が苦しくって」
「分かります、先生。合わない服を無理矢理着ようとすると苦しくなりますよね~」
「「くっ」」
普段は制服・制スーツできめた女生徒・女教師(+α)が
各自の好みの私服に身を包んで歩いてくる。
「あ~~……良っすね~。最高っすね~、コレ。
待った甲斐あったわ~」
「待ったかい?」
「お前は帰れ」
二人の女教師と同じく引率のためかラヴも海で着ていたアロハシャツのまま、やって来る。
(来なくていいのに)
開けた服から筋肉で薄い三本の筋がうっすらと除く彼の上半身は
雑誌の男版グラビア写真のようにも見えるが、あいにく男のユーシャにはそこにエロスを感じなかった。というか、そんなサービスシーンは要らない!
「だらしない顔してるわよ? 鼻の下伸ばして」
「あん?」
そういう顔をしているかもしれないことは自覚しているが、
それでも他人から指摘されると、やはり頭にくるものがあった。
気の強い音でユーシャを非難するシャルロットに一言文句を言ってやろうと思ったが、
こちらも初めて見るシャルロットの私服姿にしゃべる言葉を忘れた。
「お前……」
「な、なによ」
上は日焼けを防ぐ白の長袖にデニムシャツを被せて
下は幅の広い麻のロングスカートを履いていて、
薄い生地軽くするも、体の線は隠すファッションスタイルだった。
急に見つめられて恥ずかしく感じたからか、
シャルロットは腕で隠そうとするけれど、
その腕も含めて普段の強気なシャルロットが
顔を赤くしている姿を見ていると、無性にユーシャはこう思った。
「なんか中途半端な格好してんだな」
「はぁっ!?」
「いや、騎士名乗ってたんだからガチガチの鎧姿で来て
周りをドン引きさせるか、
フリフリした、いかにも防御力の低そうなやつを着て
『お前、頑張ったんだなぁ』って気にさせると思ってたぞ」
「なっ。私がそんな空気の読めない服を着てくるわけがないでしょ。
フリフリした奴なんて興味もないし」
「そうかぁ? だってお前、前に見た雑誌でそういうものが
載ってるページに折り目つけてたじゃん」
「ちょっと! あんた何ばらしてんのよ!」
「なんじゃ? 今、そっちから面白そうなことが聞こえたぞ?」
二人の会話を聞きつけた一人が寄ってきて、
そこから後に残りの女子たちが近づいてくる。
「ななな何のはは話ですすすすか?」
「なんでもない!」
「ひうっ」
「あぁっ、ごめん。強く言い過ぎた」
「いやぁ、こいつがよ? フリッフリのスカートが載ってある
ページに折り目までつけてるくせに興味ねえとか言ってんだよ」
「あ、あ、あ、あんた! それ以上言ったら殺すわよ?」
「エ~。ソンナァ~。ウゥ~ン。
ソンナニ言ウナラ言ワナイデアゲヨッカナァ~」
シャルロットからの脅迫に何の恐怖も感じていないくせに、
素直にいう事を聞く姿勢をユーシャは見せた。
しかし、たとえユーシャが従ったとしても面白そうな話題を聞いてしまった
女子たちの好奇心に満ちた目は止められない。
「まぁまぁまぁまぁ、秘密は一人で抱えるよりも数人で
共有するほうが楽だって聞いたことがありますし」
「だねー。しゃべっちゃダメだっていうプレッシャーのせいで
知らない所で話しちゃうことが起こらないようにあたしらも協力してあげなきゃ」
「えっ? えっ!?」
「ししししし失礼しましゅ」
常にどもりながら話す少女はいつの間にかシャルロットの背後を取り、
小枝ほどの細い腕でシャルロットをがっちりと羽交い絞めにしていた。
(あいつの名前は確か小夜だったな。
気弱なのはしゃべり方だけで、実際は結構遠慮しない性格なのか。
というか、地縛霊じゃなかったっけ? 学園から離れられんのか?)
「で、今の話、詳しく聞かせてもらおうかの?」
「ん? アー、エットドウシヨウ。言ウナッテ言ワレテルンダヨナ。
(【スキップ】発動)
アッ、コンナトコロニ部屋ニ隠シテアッタシャルロットノ雑誌ガー」
「ちょっとどうしてそんな物今持ってるのよ! というか、どうやって出した!」
「偶然だ、偶然」
シャルロットがベッドの中で隠れて読んでいる本が
ここにあればなぁと思って、能力を使ってみたら、
偶然、この場にユーシャのポケットの中に刺さってあったのだ
「へぇ~、こういうのが好きだったのか」
「かわいいです」
「あああ後で私にもみみみ見させてください」
「ちょっと! もーっ、見ないでぇっ!」
「アッ、コンナトコロニモウ一冊」
「あら、こっちもかわいい」
「しかし、最近の服は高いな」
「先生、おしゃれに倹約は必要ありませんよ?」
ついには教師陣も参加してシャルロットの趣味はここで
一気に暴露されてしまった。
「もぉーっ! 早く行こうよーっ」
結局、一行がGDPに入園したのはそれから三十分になり、
その間、交代制で拘束されたシャルロットは悶え苦しんだという。