魔王なんていなかった。
それは三年前の事、突如として現れた魔王は、
人々を苦しめ世界を征服してしまいました。
時を同じくして、ある村に住んでいた少年は
とある事情によって放浪の旅に出ることになりました。
宿無し、文無し、コネ無しの少年は
とりあえず目についた民家に押し入っては物色し、
金を持っていて、人相も悪い人を襲っては金を奪って
生計を立てていました。
そんな生活の途中、借金を踏み倒すため元の名を捨て
勇者と改名することもありました。
ある意味注目を集める彼はいつしか魔王城の前までたどり着きました。
「本当に勇者っぽくなってきたな。俺、チョーカッコいい」
五メートルを越す魔王城の扉の前に立ち
「魔王め! この正義の剣で成敗してやる」
バァン! と勢いよく蹴り開ける――
妄想を思いながら、音を立てないよう静かに中へ忍び込みました。
「ぐぁあああああああっ。おっ、おのれえぇっ」
ガクッ
魔王の寝込みを襲い、なんやかんやあって
あっさりと勇者は魔王を倒すことに成功した。
「さて。おっ、いいもん持ってるな。もらっておこう
服は……血だらけだし、全裸で転がされるのはさすがにかわいそうだ。やめとこう。
う~ん、倉庫はどこだろう」
戦利品を手に倉庫を探していると
突然暗かった玉座にまばゆい光が差した。
「よくぞ魔王を倒してくれた。勇者よ。
私は神。全能の創世神ジェネシスである。
そなたの働きのおかげでこの世界に平和が取り戻された。
その功績をたたえ、一つだけどんな願い事でも叶えてやろう。
なに、心配することはない。私は全能だ。私に叶えられぬ願いなどない」