序章
我々が未だ、大海を知らず、小さな井を飛び回る蛙であった頃の話。
我々が抱く王国とは、ただ一つ。
我々の世界は、このただ一つの王国を中心にして回っていた。
その世界には、地動説も天動説も存在しない、ただ、国王が朝だと言えば、どんなに常闇の中であろうと民衆は仕事に取り掛かり、老鶏でさえも声を高らかに叫ぶ。
小さきこの世は、まさに圧政。
狭きこの世は、常に暴政。
しかし、そんな小国エルドラド王国からの支配を逃れた小さな山が一つあった。
正式には「支配を逃れた」というより、「煙たがられ」「手放された」。
その山では特に希少な資源が採取できるわけでもなく、山頂から良い景色が【拝める】程度の価値しかないようなボロ山であったからだ。
そして、もうひとつ原因はあった。
そこに住む「どうもう」な生物。俗にいう【盗賊】の群れ。
山に住むので【山賊】でもあるが、今は盗賊である彼らは自分たちの所有した山に、見ず知らずの人間が入り込むことを嫌う。いや、むしろ好む。
彼らは、自分たちの山に入り込んだ迷える人々を男なら身ぐるみをはぎ、肉をそぎ落とし、骨を飾り、女であれば犯され、死体は川を流れ消えていく。
王国軍が10万以上の軍を率いてるにも関わらず、盗賊(もう一度いうが、かつては山賊であった)の1千のも満たぬ雑兵に抑止されているのだ。
そして、まさに近年、山賊であった彼らは小さな山の世界を抜け出し、王国を支える城下町周辺まで出没し盗賊になり【下がった】。遠征用の馬車が襲われ、乗客もろとも行方がしえなくなる事件が多発した。
しかし、王国の兵も肉を一枚、また一枚と剥いで殺す盗賊たちの残酷な手口にどうしても戦う気が起らず、いざ戦闘になっても、先駆けが殺される様を見て次々と逃げ出した。この現状に国王は困り果てていた。長槍さえも軽々と躱し、毒矢を射る【あの害獣どもをどうにかせねば」と。
そして、決断の日がやってきた。
当時、王国で「ギルド」を運営していた若き女性指導者アリアが率いる魔【術】使いの集団を傭兵として王国軍へと招き入れたのである。
今、害獣達と魔術使いの闘いが始まる。