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第七説 七色の魔術師

前回のあらすじ

イーリスから剣術を学ぶ。その中で暗黒神のおかげで成し得てきたことが判明する。彼は暗黒神に頼らず、自分自身の力で光速に追いつく事が可能となった。そして、魔術の修行が始まる。

 俺の魔術担当はハルと言って、俺よりも一つ下の魔族だ。その能力は天才だとされ、最年少で四つのエレメントを極めている。などと御託を並べられたが俺からすればどうでも良い。と、レイビはベベナーブからのハルの説明を聞いていたがそれよりも早く魔術を教わりたいという気持ちでいっぱいだった。それに一つ聞きたいこともある。


 ベベナーブは頑張ってくださいと言って部屋から出て行った。ので、早速彼は聞いた。


「修行を始める前に一つ良いか」


「良いですよ。何でしょうか」


「魔族の育ち方ってどうなっているんだ。イーリスは百歳でも人間でいうと二十歳くらいらしい。確かに彼女の容姿は二十歳前後だった。では、その四分の一にも満たないハルの年齢では五歳以下ではないのか?」


「成程、魔族の年齢に関してですか。まず、魔族は十歳までは人間と変わりませんよ。それからゆっくりと成長のペースが落ちていきます。貴方も十五までは人間と同じはずです」


「……確かにこの劣化現象が始まってから何一つ体が変化したことはないな」


「であるのでイーリスさんの言っていることは嘘ではありません。それとですね、十歳までは成長はとんでもなく早いです。なので十歳までに詰め込むとかなりの力を有します。例えば、私は魔術をひたすら練習しました。ベベナーブさんから聞いた通り、最年少で極めることが出来ました」


「そういうことか」


「はい。これで良かったですか?」


「助かった。いや、どうにも腑に落ちなくてな」


「何かあったんですか?」


「え? いや、なんでもない。なんでも。そ、そんなことよりも修行だ!」


「……貴方から言い出したのに」


 彼はあの時のことを思い出すと身震いがするのだ。出来る限り思い出したくないので、話を逸らした。


「えーでは、魔術に関する基本事項を説明致します」


「頼む」


「まず、この世界には四大属性があります。火、水、風、土。これらを合成して出来たものが世界と言われています。それを映し出すのが光と闇。そしてそれを表すための刻。これが七つの重要な属性です。他にも多種多様な属性が存在しておりますが、原則はこの七つです。これを利用したものが魔術。例えば、火を吹くこととか、風を操るとか、そういうのです。簡単なのはね」


「なるほどな。それで四大属性を極めたということか」


「ふふ、それは十歳までの話ですよ。今は更に三つも極めたので今では七色の魔術師と呼ばれていますよ」


「格好良い二つ名だな。俺にも欲しいな」


「格好良いですかね? まあ褒め言葉として受け取っておきますよ。それで、貴方が授かる魔術ですが……残念ながら貴方は闇属性が強過ぎて他の属性を受け付けなくなってしまっています」


「え、そんな」


 レイビは落胆した。色々な魔術で戦いたいと考えていたからだ。


「そんなに残念そうにしなくても。普通の人間は魔術を詠唱することはできません。魔力が潜在的になっており、それを引き出すことができない。それに比べたら良いじゃないですか」


「そ、それもそうだな!」


「人には三つの力が備わっています。一つは体力。一つは精神力、或いは気力。もう一つは魔力。まずはこの魔力を表に出すことを目的とした修行を行います」


「どうやるんだ?」


「ツボを押します」


「つ、ツボ?」


「ええ、七つのチャクラを開放するのです。うつ伏せになってください。今からやるので」


「わ、わかった」


 レイビはうつ伏せになると、彼女は服の中に手を入れてそれぞれの位置にあるチャクラの部分を押した。すると力が一度抜け、再び込み上がってきたのだ。


「これで良いです。では手始めに闇属性基本魔術であるダークを発動してもらいます」


「ダークとは。いや、そもそも魔術は一体どうすれば発動できるんだ」


「……忘れていました。魔術を発動する際には詠唱と念じることが必要です。その魔術のイメージを現実に写し出すために」


「よく分からない……けど、ダークと言えばやっぱこうか」


 レイビは念じた。ダークとはその名の通り闇であり、辺りを闇にすること。今この部屋は暗いが、真っ暗ではない。それを真っ暗にすること。これがダーク、と考えていると体から何かが放出した。


「よく出来ました。詠唱は必要ないみたいですね。天地の勇者だからでしょうか」


 レイビは目を開けると確かに真っ暗になっていた。


「面白い! これが魔術か!」


「確かに面白いですけど、多発するとすぐに魔力切れを起こして精神力まで影響が及びますよ」


「つまり調子に乗りすぎるなということか」


「ええ。これで魔術発動は可能となったので、次は魔力を蓄えることですね」


「えーと蓄えるにはどうすればいいんだ? 使ったらそのまま回復しないだろ」


「寝ることです」


「それだけでいいのか?」


「ええ、そうです。ですので今すぐ寝てください。ここで」


 彼は困惑した。唐突に寝ろと言われても眠れるかわからない。


「とりあえず目だけでも」


 彼は横になって目を閉じた。瞼の裏はまるで銀河のようだ。チカチカと光る星々を追っていく内に彼は寝ていってしまった。




 レイビが寝ている間、ハルはベベナーブと話していた。


「微調整が必要ですね……彼は気付いていないですが、ダーク如きに多大な魔力を放出した。思っている以上に疲労しています。だからすぐに眠りに入った」


「報告ご苦労様です。やはりレイビ様にいる暗黒神が力を増幅させているのでしょうか。増幅させることはより多くの魔力を使うことになるので」


「それはわかりません」


 少し考えていたハルだったが、あることに気付いた。


「……ベベナーブ様、修行を中止した方が良いのでは」


「どういうことです。今更中止とは」


「彼は魔力を使ってなどいないのです。冷静に考えてみれば、魔力切れが起きるまで精神力、身体には影響が及びません。ですが、彼の身体には影響が」


「まさか、精神力で魔術を?」


「でしょうね。チャクラを開放した時、確かに魔力を感じた。しかし、それ以降それらしいものは感じられなかったのです」


 魔力の概念はつい最近出来たことである。これまで魔術とは、精神力からなるものだと考えられてきた。しかし、別のものだとわかったのでこれを魔力とした。


 それを覆すかのように、天地の勇者は違ったのだ。前の二人は精神力で魔術を使っていた。であればレイビもまた精神力で魔術を使っているに違いない。


「チャクラの開放は魔力の開放……。開放……いや、解放。なるほど、何故ハルが魔力を感じてその後一切感じなくなってしまったのかがわかりましたよ」


「……?」


 ハルは首を傾げていた。


「レイビ様に元々備わっていた魔力は魔王様から受け継いだもの。レイビ様は特殊な天地人だ。天地人と魔族の間に生まれている。ですので前の勇者とは違い、魔力を持って生まれてきた。ほんの微量ですがね。そしてずっと体に残っていた魔力をチャクラの開放により解放してしまったわけです」


「つまり、魔力はもう」


「ええ、二度と回復することはないでしょう。ここはハルの言う通り中止した方が良いかもしれませんね……」


「これ以上の魔術発動は精神崩壊に繋がります。中止しましょう」


「中止ってどういうことだ」


「⁉︎」


 レイビは、起きていた。いや、つい先程だ。ハルは狼狽えたが、ベベナーブは物静かな口調で答えた。


「聞いた通りです。魔力のない貴方様がやればきっと」


「そんなものは関係ない。俺は強くなるために来たんだ。俺の祖先だって精神力で魔術を発動した。なら、俺でもやれるはずだ」


「あれと貴方様では話が違うのですよ。あの勇者の属性は水、あるいは火だった。だが、貴方は闇だ。一つ間違えると闇の中に葬り去られます」


「俺は闇そのものだ。闇に呑まれることなどない」


「それは慢心ですぞ」


「……どうしたら俺は魔術の修行を続けられる」


「無理ですよ……そんなことしたらレイビの身体は」


「無理だとか、そういう否定的な言葉はお断りだ。折角楽しくて面白い魔術なんだ。どうにか続けられないのか」


「貴方様の身に何かが起きてからでは遅いのです」


「それは、俺がそうなった時に父上からのお叱りが怖いからか」


「そんなつもりは……」


「もう良い。俺一人でもやるぞ」


「それは駄目です! これ以上我儘を言うのであれば例え貴方様でも容赦出来ません」


「……」


 最悪な空気だった。だが、それをぶち壊すかのように扉がバン! と開いた。


「やらせなよ。そいつは何言っても無駄だぜ。それに無茶なやり方でやり遂げるさ」


「イーリス⁉︎」


 そう、イーリスだ。彼女は二年間ずっとレイビの側にいた。故に彼に対する理解は並大抵のものではない。


「どうなってもしりませんよ……」


「つべこべ言わずやるんだよ。な、レイビ」


「……ああ!」


「仕方ないですね……イーリスさんが言うなら」


「ハルまで。全く……」


 ベベナーブはどうも納得がいかないようだった。それもそのはずでレイビの言う通り魔王から何を言われるかわからない。彼の教育を一任されているため、彼の身に何が起きてからでは間に合わないのだ。


「師匠、俺は大丈夫だ」


「男の大丈夫程信頼できないものはないですよ」


「じゃあ、予めこう言っておく。俺がどうなっても気にする必要はない。父上から責められることがあったら、俺が悪いと言ってくれ。……いや、書き残しておく」


 部屋にある捨て紙を取り、書き殴った。


「これで良いだろ」


「……わかりました。まだ認めたつもりはありません。ですがそこまで言うのであれば、私にこれ以上止める権利はないでしょう。ではこれで」


 ベベナーブが部屋を出ると、イーリスも笑いながら部屋を出て行った。


「助かった……イーリス」




「では……不本意ですが、修行を再開します」


「ああ、頼む。諦めなければきっと変われる」


「ふぅ、それでは軽いものから行きますか。闇属性はただでさえ膨大な魔力を消費します。質は良いですがね。その質を活かしたものを作ります」


「作る? イメージではなくてか」


「イメージから作るのですよ。例えば、そう。私のを見てください」


 彼女は目を閉じて、詠唱を始めた。


「我が血は知となり、値を生み出す。聖なる魂は(せい)なる塊に変貌する。写し出す光は闇を持ってして顕現する」


 詠唱を終えると、彼女の掌に杖が出現した。


「具現化というものです。今回は杖を作りました。ちゃんと質量もあり、誰でも触れられます。ただし術者ではないとその真価は発揮出来ませんがね。貴方は詠唱不要なのでイメージを構築するだけで良いです。それを現実に現したいと思えばきっと応えてくれる」


「わかった」


 レイビは考えた。何を出現させようかと。やはり武器が良い。魔術を使う時は戦う時だ。武器、か。剣は持っている。だが、剣だけでは不可能な面が来るかもしれない。ならば何を作ろう。そうか、槍だ。槍ならば投げることも可能。そしていくらでも作ることができる。例え当たらず、奪われたとしても彼女の言う通り真価を発揮しないのであればそれはただの置物にしかならない。良し、槍にしよう。そうやって彼は槍のイメージを繰り返した。すると長く大きな棒が出現した。それはやがて槍の形となり、鋭い先を持ったものとなった。


「……これで良いか?」


「ええ。完璧です。やはり純粋な闇属性をお持ちですね。ここまで漆黒を持つ槍は初めて見ました」


「そういうものなのか? 俺は単に槍のイメージをしただけだ。普通のをな」


「そうですね。普通ならば。私ならそうなります」


「俺は特殊か……それで、次は?」


「次はですね……」


 そうやってレイビは一日中魔術の基本を教わっていた。できる限り精神力を使わないように講義も行っていた。そして、一ヶ月が過ぎる。


「では、実際に魔術を当てる練習をします」


 二人は外に出て、とある訓練所を訪れた。


「木偶がありますね。それを貴方の思うままにしてみてください」


「わかった」


 レイビは念じた。複数の剣を具現化させる。空中に浮いたそれらは木偶に向かって一直線に動いた。ひたすら刺しまくると、次に槍を具現化し、突っ込んだ。そして薙ぎ払う。


「フーッ……」


「お見事。一ヶ月でここまで出来れば上等です」


「次はどうするんだ」


「ちゃんと応用に行きますよ。但し準備が必要です」


「準備?」


「私から魔力を供給することです」


「それはどうやってするんだ」


「口移しです」


 彼女はニコリと笑っていた。


「お前ら本当は俺の体を狙っているのではないのか……?」


 その事を聞き、レイビは血の気が引いた。


「お前ら……?」


「いや、何でもない!」


「意識し過ぎですよ。別に体に触れてもできますけど、体液を入れた方が循環が早いですし」


「前者じゃダメなのか」


「ダメです」


 変わらず彼女はニコニコとしている。


「わかったよ……観念するから」


 これも俺のためだ。強くなるためだ。そう彼は言い聞かせて目を閉じた。


「行きますよ」


 彼女の口が彼のに当たる。そして口を開き、舌を入れる。


「こうふんひにゃいでくだひゃい」


 むしろ彼は固まっている。そして吐息が掛かり、意識せざるを得なかった。


 舌が絡み合い、ネットリと唾液が混じり合う。知らぬ他人から見れば恋人同士のそれと何も変わらない。


「のみこんで」


 言われたまま彼はやった。すると力が湧いてくる気がした。




「……これで良いのか」


「ええ……魔力をかなりあげたので疲れました。またやっても良いですけどね」


「クセになってんじゃねえよ……」


 レイビは顔が真っ赤だったが、ハルは冷静であった。


「……気を取り直して続けますよ」


 修行を再開し、レイビは闇属性最強の魔術とされる、深淵引導(ダークネス・レクイエム)を会得するために集中した。


 それを二年間、毎日。そう、毎日あの供給を受けながらやったのだ。レイビも一ヶ月経つ頃には慣れ、それをやることに何の疑問も抱かなかった。深淵への引導が使えるようになり、ハルとの修行を終えることになった。


「これで良いのだな」


「えぇ……これにて修行が終わります。お疲れ様でした」


 そう言って彼女は彼の頬にキスをした。彼女は何を考えているのかわからないが、その時唯一、紅潮していた。


「それは、何なんだ」


「貴方が最後まで生き残れるよう、おまじないを掛けました」


「そうか、すまないな」


 彼は動ずることはなかった。やたらスキンシップが多かったので、慣れてしまっていたのだ。


 部屋に戻ると、やはりそこにはベベナーブが待っていた。


「全ての行程を終えましたね……五年間お疲れ様でした」


「ああ。あっという間だったが、この五年は決して無駄にはならないだろう」


 二十にして、この貫禄だ。ベベナーブにも引けを取らない。


「では、最後の試練を与えます。この私と一対一で、どちらかが気を失うまで勝負します」


 遂にこの時が来た。ベベナーブの本気が今、彼に襲い掛かる。

次回予告

師匠との闘いが始まった。これは試合というものではない。もはや殺し合いだ。真剣ではないということだけが唯一の試合要素だった。傷つきながらも本気の師匠に食らいついていく。だが、一筋縄には行かない。本気の師匠はここまで強いというのか。その闘いの中、邪魔が入る。貴様、神聖なる闘いを穢すつもりか!


次回、DARKNESS LEGEND 第八話 虚ろなる心、悲しみの戦場


俺は許さない……貴様を……邪神を‼︎‼︎

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