第六説 天上天下唯我独尊の女
前回のあらすじ
暗黒神により悪夢を見せられたレイビ。現実か夢か定かではなかったが、グランとの修行により現実だと確信した。そして彼との修行は終わり、次にイーリスが待っていた。彼女は勝気だ。ベベナーブすら赤子のように扱う。そんな彼女を相手にレイビはどこまでいける。
「憂えているのか?」
「ええ……」
とある丘の上。光の勇者と一人の女が遠くを見渡している。
「闇の勇者は何をしているというのです」
「お前を倒すための強さを磨いている。それで、憂えているというのか。何、心配することは無い。お前もまた強くなる。何もせずともな」
「……そうは思えませんがね。仮に俺が奴に比例して強くなっても奴には恐ろしい力が眠っている。奴の意思ではない」
「闇そのものであるからだ。お前は、見たのか? あの姿を」
「この目でハッキリとね。あれを扱い切れたら俺ですら敵わない可能性がある。奴には秘めた力があるが、俺にはない。そこが決定的な違い」
光の勇者は丘を降りようとした。女は天を見上げ、不敵な笑みを浮かべている。
「であるから、俺は個人的に力を付けます。しばらく放っておいてください」
「構わんよ。行くが良い」
「感謝します……ライト様」
その女、光の国の女王、ライトなり。
「起きろ! 何時だと思っている‼︎」
現在、五時半である。六時に道場に来いと言われているにも関わらず、イーリスは気の早いことで三十分も前に起こしに来たのだ。いや、確かに六時に道場に行くには既に起きていないといけないではあるが。
ところで、返事がない。彼女は寝坊助屑野郎がよくグランの試練を越えたなと内心イラつきながらドアを開ける。するとレイビはいなかった。
「部屋間違えたか……?」
ここはレイビの部屋で間違いはない。だがここにはいない。すると既に起きていてどこかにいるという考えが正しいだろう。
イーリスは外に出て広場に向かった。そこにいる気がしたからだ。思った通り、彼はいた。走っている。
「レイビ、何をしているのだ」
「え? あ、しまった……今日からイーリスの修行だった」
どうやら早朝に走るのは彼の日課になっていたみたいだ。それもそのはずで一年も続けているからである。
「いや、良い。六時までに道場に来れば良いからな」
イーリスは先程の罵詈雑言を撤回した。見直したというべきか。
六時。レイビはきちんと道場に現れた。
「で、ベベナーブは?」
「さあ……俺は会いませんでしたよ。珍しく会ってない」
いつも付きっ切りでいるため、レイビは不思議な感じがした。
「ふん、逃げたか」
と、鼻で笑った瞬間、彼女の後ろの空気が乱れた。何とベベナーブが現れたのだ。そして手刀で彼女の首筋を狙った。
「逃げなかったことは褒めてやる。だが甘い。鍛え直してやる。当時のお前ならともかく今のお前では気配も殺気も、何もかも消せていないぞ」
手刀を受け止めたイーリスはベベナーブを背負い投げした。
「くっ……!」
「懐かしいな。そういえば修行を始める前はこうやって不意打ちでやるようにと言ったんだな。おい、レイビ。お前も明日から不意打ちで私を襲ってみろ。ま、そこで倒れてる奴みたいに私には敵わないがな」
「なるほど、これは手厳しい」
「妥協はしたくないんでね。では早速二人には素振りから始めてもらおうか。ざっと三時間くらいで良いぞ。腕が上がらなくなったら休め」
「え、それだけですか?」
「わたしゃ構えだとか打ち方とか気にしない性格なんでね。敵を倒せばそれで良い。下手に型を決め込むと応用が出来なくなる。もっとも、これが実践向けであるからだ。試合だとかそういうのでは巫山戯た行為だから気をつけろよ」
「は、はぁ……じゃあやりますか。師匠、そんな苦虫を噛んだみたいな顔してないでやりますよ」
こうしてイーリスの修行を開始した。最低でも二年はかかるらしい。主にイーリス仕込みの奥義習得に時間がかかる。
実は、ベベナーブはイーリスの奥義を習得していないのだ。何故ならばイーリスがそれを認めなかった。ベベナーブは剣よりも魔術に特化しているため、剣の奥義を使おうとすると魔術分の精神力が足りなくなるのだ。そのため、イーリスは奥義習得をさせなかった。
時間は過ぎ去り一時間が経った。重たい模擬刀をずっと振り続けたレイビは腕が上がらなくなっていた。いくら一年間鍛錬していたとはいえ、百キロもある刀をそう簡単に振り続けることは出来ない。大体木刀は一キロくらいしかない。百倍の重さがあるのだから常人ではとても扱えない。だからこそイーリスは疲れたら休めば良いと言ったのだ。また、この言葉の裏では三時間休みなしでやれなければ自分の修行を受ける権利などないとしているのだ。レイビはとっくに気付いていたが、身体が思考に追いついていない。
「レイビ様、無理でしたら今日は休んだ方が」
ベベナーブは平然としていた。衰えたとはいえこれくらいならば問題ない。
「確かに今このままだと無駄な時間を過ごしているかもしれません。多分今日一杯は腕が動かない可能性があります。しかし、素振りだけが修行の一つではないと思うのですよ。俺に構わず師匠はそのまま続けていてください」
レイビは案を立てていた。それは、ベベナーブの動きを見ることである。無駄な動きが多いレイビは動きを見ることで減らして行こうと考えているのだ。イーリスは型を嵌めることはないと言ったが、無駄は矯正される。成る程、と彼は頷き、目はひたすらベベナーブを追っていた。
そして、更に二時間が過ぎ、合計三時間が経った。イーリスが戻ってきて、レイビにどれくらい出来たかを聞いた。
「一時間、ね。初めてにしては上出来だ。こいつなんか五分でへばったよ。さて、どうしようか。今は十時だ。早いが飯でも食べるか?」
「そうしましょう」
ベベナーブは立ち上がり、厨房に向かった。
残ったレイビはイーリスに向かって言った。
「明日は二時間いけますよ」
「ほう……何故そう思った」
「師匠の動きを見ていましたからね。少しは無駄が軽減出来るはず」
「だが、思ったことよりも行動するのは厳しい。実際に明日見ていてやろう。それで二時間出来たのであれば、お前は才能があるということだ」
「ありがとうございます」
「ここで魔界で良かったな。あのエナジーチャージのおかげでどれだけ疲労をしても一日で回復する。あれがなければ明日はもっと出来なかっただろうな」
「確かに……」
エナジーチャージは魔界なら何処にでも生えている。故に魔族の軍隊はそれを常備し、戦争の際には多数が生き残ることが出来る。もっとも、最近戦争したのは帝国軍がデグラストルに攻めてきたぐらいだ。ただ、あの時は別の意味で負けた。レイビの母であるレイラが殺されたからである。この話はいずれ別の機会に話されるであろう。
「さて、私らも行くかね」
二人は食事をしに行った。
そして、次の日。レイビは不意打ちの件も忘れずに行った。が、昨日のベベナーブのように背負い投げされる。イーリスは笑いながら遅すぎると答えた。
「さ、言った通り見せてもらおうか」
レイビはこれまでの修行を思い出した。精神統一、格闘及びその鍛錬。それを複合させ、この刀に込める。すると、刀は生きているかのように応えてくれた。スッと持ち上がった。レイビは感心せず、そのまま振り続けた。ここで心が動いてはまた刀に振り回されるからである。
「昨日とは全然違いますね……」
ベベナーブは驚いた。一日でここまで劇的に変わるとは。
「面白い……ではこのまま続けるが良い」
あっという間だった。レイビは時間の感覚を失っていた。ただ無心に振り、振るたびに刀がこうすれば良いと問いかけてくる。一つ一つやっていくうちに無駄が更に減少し、それで三時間も過ぎていた。約束の二時間以上でイーリスは笑わず真面目に見ていた。
「三時間過ぎたぞレイビ。……と言っても終わらないか。心が飛んで行ってしまっている」
そこで彼女は刀を受け止め、引き離した。
「……!」
彼は意識を取り戻し、激痛に襲われる。
「やれやれ、こいつと語り合ってもお前自身がコントロールできないうちはダメだね。どれだけやっても同じさ。お前は自分の力で振っていない。お前のもう一つの心が浮き出ている」
「これまで……無心で出来たことは全てそれが?」
エナジーチャージを磨り潰した飲み物を飲んだレイビは話せるようにはなった。
「ああ。どうやら身の危険を察すると中のそれが出てくるみたいだ」
「暗黒神ですね」
ベベナーブは咄嗟に答える。
「ああ、そうなんだろうな。グランの奴め、暗黒神の状態のこいつを合格させたな」
「では、俺は暗黒神のおかげで修行が成立していたというのですか」
「まあそうなるな。だが、案ずることはない。暗黒神を手懐けるための修行なのだ。今はそうであっても仕方あるまい。明日からは別の方法を取ろう。一応三時間の素振りは終えたのだからな」
「別の方法とは」
「私の受け持つ時間は十時間だ。その十時間、ずっとお前と手合わせする」
「何が狙いでしょうか」
ベベナーブは不思議に思った。
「狙い? ああ、限界ギリギリまでこいつを動かして暗黒神を引き出すんだよ。そして聞き出してやる。何故そこまでしてこいつを守ろうとするのかをな」
「しかし神のお言葉は我々には理解出来ないのでは」
「ボディーランゲージがあるだろう。それで何となくで良いから」
「結構適当なんですね」
「ま、一番の目的は私よりも強い奴を相手してやりたいということさ。神なら、私よりも強いだろう。例えレイビという器の中に収まっていたとしても」
「……ではその通りに。今日はもう休みましょう。エナジーチャージを飲んだとはいえ今日丸一日休まないと明日は動けませんよ」
レイビはベベナーブに持ち上げられ、部屋に連れて行かれた。
「よし、ではやろうか」
またまた次の日。彼の不意打ちは終わり、お互いに木刀を取り、修行を開始する。
「私の動きを止められるかな」
イーリスは消えた。どこから来るかわからない。レイビは左右を見渡しながら後退し、壁に背中を付けた。
「それで後ろを守ったつもりか?」
何と、イーリスは真正面から向かってきたのだ。だが、その姿は彼には見えない。
彼の刀を蹴飛ばし、首筋に彼女の刀があった。
「はい残念。小細工はしないことだな」
「小細工しているのはそっちでは……」
「ああ? 前から来ただろ正々堂々だろ!」
「えっ、でも姿を消すのは」
「消してねえよ! ずっと音速で動いてんだよ。それに追いつけないお前が悪い!」
「は、はぁ……」
もう一度、刀を取って試合をする。
「じゃあ今度は動き続けるから私を捕らえてみろ」
「わ、わかりました」
返事をした瞬間に彼女の姿はまた消える。レイビはキョロキョロと見ていて、時々彼女の影が映る。それを追っていくがそれでは一向に捕まえることはできない。
休みなしにずっと続けていたため、いつの間にか十時間が過ぎていた。
「よし、今日はおしまい。明日もできなければその先もずっとこのままだ。私は何年続けても問題ないぞ。このままだと暗黒神は出ないだろうしなぁ。残念だ」
「くっ……」
事は簡単に行くことはなかった。明日には、明日にはと思っていても月日は過ぎ、一年が経過した。確実に肉体は良くなっているが、イーリスを捕らえることは出来なかった。
「カッカッカ、今日で始めて一年だなぁ。顔は良くなったが、相変わらず進歩しないな」
「何がダメなんだろうか」
「仕方ないなあ、ヒントをやるよ。目で私を追うな」
「目で、追うな?」
「ああそうだ。後はお前自身が気付くしかない。そこから先は恐らく暗黒神の領域」
「……わかった」
「口は達者になったな」
刀を合わせ、いつもの試合開始の合図をする。
彼女はいつものように音速で飛んだ。
「……」
レイビは今まで目で彼女を追っていた。だが、見た時には既にそこにはいず、別方向から攻撃を受けていた。どうせ目で追っても無駄なのであれば。
「目を閉じることか」
元より今やっている修行は暗黒神を引き出すこと。あの精神統一をすれば暗黒神が出てくるはずだ。
レイビは目を閉じ、心を閉じた。そして、この瞬間暗黒神が彼に乗り移る。
「……! 来たか!」
その異常な殺気を感じた彼女は一度動きを止め、彼を凝視する。
「成程なあ、前に見た時と同じで姿そのものはレイビと同じか。だけど、今お前は暗黒神なんだろ?」
「我、暗黒神……星喰穿七柱壱」
「何言ってるのか全然わからんが確かに暗黒神だな。そこだけはわかった。じゃあ暗黒神、直接は問わねえ。その体に何故気を失ったレイビを守ろうとするか聞いてやる」
彼女は再び音速で動いた。だが、飛んだところで足を掴まれた。
「なっ⁉︎」
そしてそのまま投げた。壁に激突した彼女は、頭から血を流す。
「やるな……そして今の一撃で何故かをわかったぜ! もうお前に用はねえ。今日はこれで終わらせるからレイビに戻ってもらおうか」
「……」
暗黒神はこれ以上彼女が攻撃する意思がないと判断したのでレイビの意識を覚まし、帰って行った。
「……イーリス!」
出血中の彼女に駆け寄り、手拭いで傷を抑えた。
「おい、雑菌入るだろ!」
「大丈夫だろ。イーリスなんだしよ」
「てめえ……人を何だと思っているんだ」
「すまん……それで、暗黒神とは会話出来たのか」
はぁ、と溜息を付き、話し出した。
「話したよ。文字通りの肉体言語だ。どんなことかっつうと、お前は宿主だから絶対に守らなくてはならない。お前が死ぬと中にいる神は霧散する。つまり、概念が崩壊する。但し、寿命により死ぬと概念は崩壊せず次の世代に持ち越せるんだよ」
「俺が死んでは困るということはわかるが、概念の何たらかんたらはよく分からんな」
「私にもさっぱりだ。神の言葉なんざ私達には到底理解出来ない。次の世代に持ち越すことに何の意味があるのだろうか……」
「さぁ。でもこれで分かった。俺が負けないよう、意識を失わないよう、死なないようにすれば暗黒神は出てこないって事がな。今回で確信した。だったらもう強くなるしかねえ。本来の目的だ」
「ああ、そうだな。明日こそは私を捉えてみせろよ」
「してやるよ」
そして、次の日。試合を始めるとレイビは目を閉じなかった。目で追うこともなかった。
「そういうことか」
後ろを攻めてきたイーリスを捉え、向きを変えず刀のみで受け止める。
「ほぅ……」
「ようやく捕まえたぞ」
「ふん、まぐれかもしれん。もう一度やってみせろ!」
彼女は離れ、姿を消す。次は右だ。彼は後ろへ下がることでそれを避け、彼女の行き先を防いだ。
「っ、危ねえだろ!」
「すまん、つい手が出てしまった」
あと少しで首が刀に当たるところだったのだ。
「仕方ねえな。これでまぐれではないな。だったら、私も本気を出さないとな! 但し十秒間だ。十秒間で決めろ!」
そう言ってまた消えた。
「何度やっても同じだ。俺にはもう通用しない」
「それはどうかな!」
今度は、違った。音が姿に伴って聞こえて来ない。聞こえてくる頃には全く別の位置にいる。
「まさか、これは」
彼女は光速で動いていた。光の勇者でもないのに可能だというのか。
イーリスは考えていた。いずれここまで追いついて来るだろうと。だが、簡単にはさせてたまるか、と。彼女は負けず嫌いだ。
レイビもまた考えていた。音よりも速い光の世界。光速。光速を捉えられるというのだろうか。いや、必ず俺の近くに来る。その時に対処すれば良い。いや、違う。それで間に合うか? 思考よりも光のが圧倒的に速い。今こうして五秒が過ぎた。また彼女は来ない。恐らく最後の十秒目が勝負。それまでに打開策を。光……光とは何なのか。光には常に裏の存在がある。光と闇。よく言われることだな。闇……闇とは何だ。俺は闇そのものだ。光と闇は常に両立して存在するもの。光があれば闇もまた存在する。逆もまた然り。どちらかの概念が存在しないともう片方の概念も存在しない。だから今光となったイーリスには必ず闇が存在する。その闇を突く。その闇とは影。彼女の影。影となる。影になるにはどうする。暗黒神。そうか。暗黒神だ。奴に聞き出してやる。いつも一方的に乗っ取られていて話どころではなかった。対等に話せば、きっと俺は強くなれる。新たな力を得ることができる。
残り一秒という時、彼は無意識の内に時止めを発動していた。イーリスは止まっているので視えていたが、彼の目は閉じていて、それどころではなかった。関心は暗黒神にある。
「暗黒神、俺の話を聞いてくれないか」
暗黒神は答えなかった。
「じゃあ話すぞ。お前は強い。力を俺に貸してくれないか」
暗黒神は答えた。貸すことはないと。
「なら、与えてくれるのか?」
与えることもない。と、暗黒神は言う。
「では、どうすればお前の力を使える」
自ずとわかることだ。貴様は闇そのもの。我も闇そのもの。これだけ言えばわかるだろう。
「……成程な。同じ存在なのだから貸すとか与えるとか、そうじゃないんだ。俺達は一心同体なんだ」
レイビは時止めを解除した。そして直様姿を消す。
「喰らえ我が一撃を! ってあれ⁉︎ いねえ!」
イーリスは盛大に空振り、ふらつく。そこを彼が捕まえた。
「危なっかしいな」
「てめ、いつの間に!」
「光あるところに闇ありってね。イーリスの影に取り憑いたのさ」
と、指差しして格好を付ける。
「そんなことが出来るのか?」
「ああ。暗黒神と話して身に付けた。いや、最小から備わっていたのさ。俺が気付かなかっただけだ」
「話したって……十秒でか」
「多分」
「多分ってなんだよ」
まあ良いじゃねえかと彼は制止し、これで俺は今修行のどの段階なんだ、と聞いた。
「今なら半……」
突如、彼女は倒れた。
「イーリス⁉︎」
彼は急いで抱え込み、部屋に連れた。そしてベベナーブを呼び、状況を説明する。
「光速で活動した影響でしょう。彼女の体が追いついていなかったということです」
「無茶をしたということですか」
「簡略化すればそういうことです」
「どうすれば起きる?」
「まあそう焦らずに。一時的なものですから半日もすれば回復しますよ」
そう言ってベベナーブは部屋から出て行った。レイビは心配だったが、彼の言った通り半日くらい経つと彼女は目を覚ました。
「イーリス!」
「私も焼きが回ったな。百歳も生きればそうか」
「そうだぞ。無茶をしすぎなんだよ」
「お前のために本気を出したんだ。無茶なんかじゃねえ」
「だけど、死んだら意味がねえじゃねえか」
「……確かにな。あれで私の寿命は確実に縮まった」
「そんな」
「だけど伸ばす方法はあるんだぞ」
「一体どうすれば良い?」
すると彼女の口からは途轍もない発言が飛び出す。
「私と接吻しろ」
「は、はあ⁉︎」
「何だ、やったことないのか」
「当たり前だろうが! 俺はまだ十七なんだよ! イーリスとは違うんだよ!」
「酷いこと言うぜ……どうせババアの口なんか臭そうとか思ってそうだろ」
「そ、そんなことはないとは思うぞ」
「動揺しているということはつまりそういうことだろう」
「それがどうしたってんだ!」
「はあ……この際言っておくけど、魔族の百歳って人間でいうと二十歳くらいだぞ。見た目通りなんだって。若作りで姿を変形してるわけじゃねえんだぞ」
「そ、そうなのか? それで接吻して何の得になるんだ」
「お前の唾液が私の命を潤す」
「ますますわけの分からん」
「天地の勇者の治癒力は異常だ。その治癒力を使うんだよ。ほんの少しで良いから、な」
「くそっ、わかったよ!」
相手は二十歳、相手は二十歳と念じながら彼女の顔に近付けた。そして口と口が重なる。
「もう俺ダメかもしんねえ」
「馬鹿言うな」
「臭くなかったしむしろ良い匂いがしたのがせめてもの救い……」
「ひでえぞ」
「うう……開き直るしかないのか」
「開き直れよ。その行動のおかげで私の寿命は伸びたんだし」
「百歳も生きれば充分だと思うんだけどなあ」
トホホと落ち込みながら彼は部屋を出て口を拭った。
「あ……修行のこと聞くの忘れていたな」
その後、戸惑いながら聞くと、あと半分。残るは奥義の習得だけだと伝えられた。
その奥義とは正に光速で動いて攻撃することだった。彼は、自分は闇だから光速で動けるのか? と考えたが愚問だった。先程光と闇は常に両立してると答えたのだから出来ないことはないのだ。まずは暗黒神の力をひたすら練習して身に付けた。それを丸一年つぎ込んだ。おかげで光速で移動出来るようになった。
「一年で本当に光速で動けるようになるとはな。いや、正確には光の後ろを動く影と言うべきか」
「これで修行は終わりか」
「そうだな。二年でお前も大分変わった。生意気になったというか」
「……お世話になった」
「ふん、困ったらいつでも来るが良い。剣術においては私のが上だからな」
ふふんと鼻で笑ったイーリスはどこか嬉しそうだった。
「はいはい。聞きに来ますよ」
彼はこの二年で剣術だけでなく、彼女のあしらい方も学んでいた。
部屋に戻ると、ベベナーブが待っていた。お疲れ様ですと言って、次の修行の話に入った。
「次の修行なんですが、魔術です」
「魔術?」
「ええ。既に貴方様は暗黒神を使って魔術を幾つか発動させています。無意識にね。それを今度は意識的に発動出来るようにします。その先には暗黒神との融合も」
「暗黒神と融合する?」
「零代目、初代は内なる神と融合しました。彼らは神格化と呼んでいました。神格化すると神のお言葉がわかるようになります。それだけでなく基礎力全てが跳ね上がり、特有の力を得るとか」
「成程。では、その神格化とやらが出来るようになった頃には俺は強くなったということですか」
「そうですね。それで貴方様の修行は終わります。あと二年で仕上げます。それできっちり五年です」
レイビは生唾を飲み込んだ。いよいよここまで来たか、と。
「魔術担当となる方をご紹介しますのでどうぞこちらへ」
彼と共に移動していると、一度止まった。
「言い忘れていました。彼女は貴方様より一つ年下です。気難しい所があるかもしれませんが仲良くしてくださいね」
「……ん?」
レイビは思った。イーリスは魔族の百歳は人間の二十歳だと。そうすれば五十歳は十歳だし、二十五歳は五歳だ。となると、十七歳は五十歳よりしたとなる。
「不安になってきた……」
「どうしたんですか」
「な、なんでもないです!」
彼は赤ん坊が指導するのかと考えていたのだ。テレパシーかなんかでやるのかとも。
「ここですよ」
連れて行かれた部屋は真っ暗で、何も見えない。
「彼女は暗いところが好きですから。では紹介します。彼女はハルと言います」
どこからかよろしくお願いしますと聞こえてきた。テレパシーではない。普通に言葉としてだ。
「私がハルです」
姿を現したハルは、至って普通の十六歳くらいだった。安心したレイビだったが、もしやイーリスは嘘をついていたのではないかと思ってしまった。また今度ハルに魔族の育ち方を聞くかと考え、今日は挨拶だけをした。
次回予告
イーリスとの修行を終えた俺はハルと修行することになる。ハルは多彩な魔術を使い、俺は感動する。俺も使ってみたい、そう考えていたが彼女から告げられた言葉は。
次回、DARKNESS LEGEND 第七説 七色の魔術師
ハル、俺は限界を超えてやる。