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第三話 我が道を照らすは己が信念

前回のあらすじ

ボロボロにやられたレイビ。ナハトを殺そうとする邪神の前に光の勇者が現れる。それは邪神を撃退するが、レイビさえも標的だったのだ。魔王はそれを止め、撤退させる。気を取り戻したレイビは、父の進言に従い修行をすることになる。

第三話 我が道を照らすは己が信念


「良い天気だな」


 この日、魔界への出発の日。初夏に入り、日差しは強くなってきた。天気は青々とし、風が通り抜ける。


 大きな荷物を持ったレイビは、魔王とナハトに見送られる。彼女は何か言いたそうだったが、彼の強い意志を感じたので、言えずにいた。


「ナハト、どうした」


 魔王はそんな俯いている彼女を気にかけるが、首を振って何でもありませんと呟いた。


「……」


 微妙な距離の関係になってしまった二人は、中々言葉を交わす事が出来ない。彼もまた彼女に何か言いたそうだった。


「お前ら」


 魔王は二人の頭に両手を置き、しゃがんで顔を見る。二人の顔をまじまじと見て、話した。


「言いたいことは言っておけ。後で後悔するからな。……と、まあこう言ったら余計言い辛くなるかもしれんが……とにかく言ってしまえば気が済むぞ」


 姿勢を戻した魔王に二人は顔を見合わせ、魔王を見た。魔王は、似合わない笑顔をして、ほら早くと言ったのだ。


 先に言い出したのはナハトの方だった。


「レイビ……私は確かにあの時嫉妬をしていた。でもあんな化け物が出てくるとは思わなかった。……ごめん。私のせいでこうなって」


「……いや、悪いのは俺の方だ。俺が勝手に踊ってたせいだ。守れなくて、すまん……」


「ううん、いいよ。それは」


 空気は気まずくなっていた。魔王はこいつら本当子どもだなと苦笑いを浮かべていた。


「だから、今度はお前を守れるように修行をする。だから待っていてくれないか」


「……! うん! ずっと待ってるよ!」


 切り替えたか、少しだけは成長したかなと頷く魔王である。


「仲直りは出来たみたいだな」


「ええ」


「それなら良い。さぁ時間だ」


 レイビは二人から離れると振り返って言った。


「それじゃ、行ってきます」


 二人に見送られながら魔界へと向かった。




 魔界に向かう道中。デグラストルから真南に進むとそのまま魔界である。が、ここに凶暴な動物が多数存在している。かつて魔族が住んでいた村が廃村となり、そこに住み着いているのだ。迂回することも可能だが、ここで逃げては修行する権利などないだろう。


「まずは第一の試練か……」


 剣を抜き、警戒する。少しずつ詰め寄り、村に入っていく。すると雄叫びが聞こえてきた。彼の気配、臭いが分かったのだろう。


「もうばれたのか。ならばもう慎重に行く必要もないな。さぁ、来い! どこからでも相手してやる!」


 前から一頭の巨大な虎が出てきた。体長は五メートルくらいか。魔界の瘴気にやられて突然変異したようである。牙は更に伸び、噛まれると風穴が開くどころか切断されるだろう。


「……相手にとって不足はないな」


 だが、彼はまだほとんど戦闘未経験である。これは強がりに過ぎない。虎は突撃してきた。レイビは躱す態勢に入っていたが、なんと虎の取った行動はジャンプであり、レイビの予想を超えてきた。後ろを取られたレイビは咄嗟の動きが出来ず、左腕を食い千切られた。


「グァァァッッ‼︎‼︎」


 痛々しい悲鳴が響く。虎はグチャグチャと腕を噛み、再びレイビに狙いを定める。


「ひっ……!」


 ダメだ、何もできない。痛みが現実から逃してくれない。死にたくない。と、彼は無慈悲なる虎に圧倒されていた。ヘタに舌鼓をする知能を持つ動物ではない。虎は迷うことなく突撃してきた。


 せめて、目を瞑って死のう。そうすればまだ楽に死ねるから。そう考えて目を閉じていたが、噛まれた感覚はなかった。代わりに金属音が聞こえた。うっすらと目を開けると、誰かがいた。剣を口の間に挟み、捻じることで牙を破壊した。


「凄い……」


 紫の皮膚を持った銀色の長髪を持った男は、もう一つの剣を抜き、虎を真っ二つにした。




「いやはや、あと少しで間に合いませんでしたよ。大丈夫ですかな」


「腕をやられた」


 無くした左腕を見せるように肩を動かす。


「ああ、それくらいならすぐに治りますよ。力んでください」


「……? あんた何言ってんだ。俺の腕はもう……ん? あれ、なんである」


 左腕は元に戻っていた。出血もなく、完全に回復している。


「ほら、元通り。それが天地の勇者の力ですよ」


「……あんた、何者だ。俺の何を知っている」


「おっと……これは失礼。申し遅れました。(わたくし)、魔王様の側近が一人、べべナーブと申します。魔王様の手紙により参上しました」


 べべナーブと名乗るものは二つの剣を収め、笑った。


「なるほど、父上が。しかしよく俺がいると分かったな」


「デグラストルから魔界への近道はここですからね。もし迂回ルートを通っていれば問題なく魔界に入れるでしょう。とはいえ、もしそっちで来れば私は追い返していましたがね。安心しましたよ。ちゃんとこっちで来てくれた。私の多少の遅れによりレイビ様に危険が及びましたがこれにて修行ができますね」


「ふん、試したというわけか。中々に強かなやつだ」


「ふふ……それで、私が貴方の教官となります。今後、口は慎むように。魔王様の息子とはいえ、教官である以上厳しくします。ご了承くださいませ」


 レイビは言われた通り、畏まった。


「ああ……そうか……えっと、よろしくお願いします」


「よろしい。では立ち話もなんですし、魔界に行きましょうか。移動しながら修行の内容をお話しします」


 べべナーブは魔界に向けて動き出した。レイビはその後を少し離れて歩き出す。


「修行の期間は最低で五年、最悪一生です。その覚悟はお有りですか?」


「あります。覚悟をしていなければ今俺はここにいません」


「……聞くまでもありませんでしたね」


 べべナーブはあることを思い出していた。二十年前、魔界に七代目レイラが訪れた時のことだ。あの時の彼女の目と彼の左目が同じである。そしてそれを受け入れた時の魔王の目と右目が同じである。あの親にしてこの子あり。安堵に似た感情を、彼は抱いていた。




 少し歩いたところ、レイビは質問する。


「それで、魔界まであとどれくらいなんです? 俺は今、疼いているんです。早く修行したいと」


「……」


 彼はあえて答えなかった。答えは、レイビに出させたかったからだ。


「……? 何故答えないんですか」


 レイビは戸惑っていた。先程まで流暢に話していたべべナーブが突然沈黙を始めるのだ。何か裏があると考えた彼は、何故黙るのかを考え出した。そして答えに辿り着いた。


「なるほど……忍耐力を鍛える修行というものですね。戦いとはいつどこで始まるのか、いつ終わるのかわからない。そのいつ終わるのかわからない戦いを耐えるための修行。言い換えるならばこの戦いとは魔界に着くこと。いつ着くのかわからない場所にどれだけ耐えられるか、ということですね。わかりました。ならば耐えてみせます。焦ってしまえば負けてしまう、つまり失格という形になってしまうわけですね」


 べべナーブは口だけ歪ませ頷いた。長く沈黙は続き、およそ三時間歩いたのち、ようやく口を開いた。


「ここで一度休憩しましょう。先程はよく忍耐力の修行であることがわかりましたね。そしてよく沈黙でいられた。沈黙は戦いにおいて相手に居場所を知らせないという大事な戦術の一つであります。落ち着きのない方は生き残ることはできません」


「約三時間ほど歩きましたが、ずっと黙り続けるのは厳しいものですね……気が滅入りそうです」


 彼は長い溜息を付いて、岩場に座り込んだ。ベベナーブが水を取り出し、彼に渡す。


「あと少しで、魔界ですよ」


 彼の言う少しとは本当に少しなのかはわからないが、実際、空気がいつもと違う感じになっているのに気付いた。淀んでいる。魔界の瘴気というものかもしれない。


 水をガバガバと飲み、疲れた体を癒す。口元から漏れたそれは火照った体を冷やす。


「一分後に出ましょうか」


「貴方は休憩しないのですか?」


 ベベナーブは座らず、立っていた。これだけ歩いたにも関わらず平気そうだ。


「私は見張り番ですので休憩は後でします」


「……?」


「要は魔界に着いたら休憩します。それまではこのままですよ」


「はぁ」


 きっかり一分後、また彼らは移動を始めた。そして一時間後、魔界に辿り着いた。




「さぁさ、ここが魔界です。ゆっくり観光している時間はないので城に向かいましょうか」


 暗く、寂れた街。人間ならば近寄りたくもない光景。だが、魔族にとっては一番住み心地の良い所なのだ。


「思ったよりも暗い雰囲気だ……」


 レイビはキョロキョロしていると、ベベナーブに早く来るようにと突っ込まれる。今行きますと返事し、走って追い付いた。


 城の門の前に立つと、門番の二人が敬礼する。


「お疲れ様です」


 と、彼はニコニコとしながら城に入っていった。レイビは、


「ど、どうも。お疲れ様、です……?」


 と、覚束ない物言いをしながら後を追っていく。


「まずは寝床を案内しますよ。そこで荷物を置いてください。そしてすぐに修行を開始します」


「は、はい」


 地下の小さな部屋を案内された。デグラストルの自室の十分の一ものサイズで怪訝そうな顔をしていた。


「ああ、不満でしょうね。でも大丈夫。上達すればするほど良い部屋になりますよ」


「やる気を出させるつもりですね」


「元よりやる気は満ちていると思いますが、もしも修行中に疲れたり、嫌になった時があったときに役に立ちますからね。この部屋からなんとしてでも出てやる、そういう気持ちで」


「こんなところ、すぐにでも出てやりますよ」


「その言葉、記憶させてもらいますよ」


 不敵な笑みを浮かべた彼は部屋を出て行った。


「どんな修行が来ても俺はへこたれねえよ」


 レイビは、眉間に皺を寄せ、口を歪ませた。

次回予告

これが、修行……? 俺の目に映るものはただ辛い光景だった。肉体、精神共に廃れていく。ベベナーブのスパルタは異常だ。俺は耐えられるのか、本当に五年で修行を終えられるのか。意識が朦朧としていく中、彼の言葉を思い出す。


次回、DARKNESS LEGEND 第四説 修行、そして修行

俺はあの窮屈な部屋から絶対に出てやるんだ!

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