第十三説 アーミー
前回のあらすじ
暴走してしまったレイビ。しかし、光の勇者によって抑えられる。光の勇者の正体はリュテスであり、その正体を知った彼は動けなかった。暴走が解かれると、襲い掛かって来る帝国軍をレイビ、リュテス、カイトの三人で殲滅する。リュテスが味方になったことにより、レイビにとっての不安分子が一つ取り除かれたのであった。いや、一つどころではないのかもしれない。
「そういえば、私のちゃんとした自己紹介はしていなかったね」
翌日、朝。リュテスは自らの事を明らかにしようとしていた。
「まともにわかっているのは光の勇者と名前くらいだったな」
「そ、だから落ち着いている今話す事にしたんだ。えっとねぇ、まあ名前は良いでしょ」
「良くないよ。私あんたの名前知らないもん」
昨日からムスッとした顔でいるナハト。ただの嫉妬である。
「あーそっか。リュテス=ディア=ルミエールだよ。歳は二十二だ。実はあんたより年上なんだぞ〜」
素の彼女は結構大雑把みたいだ。ガサガサと彼の頭を掻く。
「なんだよ」
「スキンシップ、ってやつだよ。仲間なんだからこれくらいは普通でしょ」
と、言いつつ彼女はナハトを流し目で見ていた。案の定、ナハトの顔は険しくなる。
「はぁ……」
「で、光の国出身、光人族だ。光人族は魔族の真反対だ。寿命は同じくらいだがな」
「光の国とやらはその光人族で構成されているのか?」
「いや、ライト様と私だけだ。今のところはな。光人族だけが光の国の王になれる」
「つまり、次の王様はお前なのか。ライトとは親子なのか?」
「いや、違う。人間の突然変異によってなるもの。要は選ばれし者というやつだよ」
「大体わかった。しかし、光の国という名前はどうなんだ。変な名前だな」
「仕方ないさ。まだちゃんとした国としては成立していない。表面上の統治でしかないのさ。デグラストルみたいに住民に浸透しているわけではない」
「いずれ、ちゃんとした名前を決めるさ。私が王様になればな」
「ふん……ま、そっちの話はそっちに任せるとして、何故俺が暴走していた時に暴走する理由がわかったんだ」
「そりゃ、昨日も言ったけどある程度なら未来が見えるからね。今のところはレイビの行動は全て見えてるよ」
リュテスの未来予知はそこまで優れていないが、特定の人物に対してはかなり有効的だ。
「それは怖いな」
「殺せない未来も見えていた。しかし、命令である以上やらざるを得なかったわけだ」
「……お前はライトをどう思っているんだ」
「わからない。だが、そのうち答えは出るだろうさ」
「そうか……」
ひと段落ついたところであった。その時、大きな揺れが発生する。
「地震か⁉︎」
「いや、これは邪神が来る合図だ。魔界の時もそうだった。外に出ようレイビ この前よりも大きい揺れだ!」
二人は急いで外に出た。すると上空に今まで世界を覆っていた暗闇が一点に集中しているのを見た。
「来るのか……」
「やはりあの闇の正体は邪神だったか!」
そして、今までに見たこともない大きさで邪神が顕れた。それは言葉を発する。
「我、阿軍隊。世界支配。人滅、故我物。我軍隊統治肆大邪神一柱」
「グッ……体が……」
「超音波か!」
「何て言っているんだあいつは!」
「わからない、ただ名前はアーミーだということはわかった!」
阿軍隊。名の通り軍隊を擁する肆大邪神は、大量の小さな邪神を世界に撒き散らし始めた。
「まずい、あれは魔界の皆を……」
あの時の記憶が蘇る。彼は膝をついて、苦しそうになる。
「大丈夫だ、今のお前には私がついている。行こう、助けられる分だけは助けよう」
「……ああ」
異常である事に察知したカイトも外に出てきた。
「何が起きている⁉︎」
「邪神だ。全軍を配置に着かせて警戒レベルを最大にしろ。……出来れば近付けさせるわけにはいかないがな。ナハトを守れるのはお前だ」
「……わかった。今の俺にはそれくらいしかできない」
「カイト、対邪神用にこれを施しておく。これなら一撃でやられることはないよ」
リュテスが何かの光の魔術を発動した。カイトはオーラに包まれた。
「なんだこりゃ!」
「これであの惨劇が起きないのか」
「えぇ、ただ一人一人出来るわけじゃない。つまりカイト、もし攻め込まれたら貴方一人で戦うしかなくなる」
「わかった。任せておけ」
カイトは戻って総司令官の元へ行った。
「よし、今度こそ行こう。もう既に犠牲者は出ている」
リュテスは本体を叩けば小さいのも消えると考え、直接本体に行こうと言う。レイビも同感だった。
邪神の脅威は底知れない。あの時と同じように、通った跡には何も残らない。悲鳴を上げることも許されない。血を流すことも許されない。
「手遅れだったかあ。相変わらず時間調整おかしいだろこれ」
ある、少年がいた。まるで事態を全て把握しているような少年。
「まあ良い。さっさとまとめて片付けよう」
その少年に邪神が気付くと、一斉に襲い掛かる。
「おっと、俺に近付くことは許されないぜェ! グラヴィティ!」
ヘンテコな格好になった少年は、右腕にある何かからカードを取り出し、スキャンした。すると重力場が発生し、近付く邪神を押さえつける。
「良し、コンセプトブレイクだ」
再びカードをスキャンすると、邪神の姿が固定した。何が起きているかわからない邪神は苦し紛れに体を伸ばそうとするが、何もできない。
「! レイビ、下で誰か戦っているぞ」
例の少年が戦っている事に気付いたリュテスはレイビにどうすると聞く。
「手助けするしかないだろ。しかし、邪神にやられないとは一体どんな奴が」
降りて行くと、丁度少年がコンセプトブレイクをしたところであった。
「何者だ」
「ん? 俺は……えっとこの時代は暗黒神だぜ」
「は?」
唐突に暗黒神と言われ、困惑するレイビ、しかしそのあとすぐに少年は冗談冗談と言う。
「名前は気にしなくていい。この格好もな。ただの通りすがった旅人。今はこの雑魚邪神をまとめて葬り去るところだ。行くぞ、レーザー、ビーム、バースト!」
二つのカードをスキャンし、右腕のそれを抑え付け、前方の邪神に向けると、巨大なレーザーが放たれた。
「これでこの区域は完了っと」
「邪神を一撃で……」
「当然だろ。こんな雑魚は俺に任せておけって。上は任せるけどな。時間が残っている限りは減らしておく」
「よくわからないが、助かった」
「そうと決まれば行こうレイビ。時間はないよ」
「ああ!」
どこか安心したレイビは応えた。
そして、二人は上空にいる阿軍隊の元へ辿り着く。
「汝双頭勇者。我不足無。汝我攻撃受良」
阿軍隊は手のようなものを広げ、光線を放って来た。
「避けろ!」
レイビがリュテスを庇いながら避けると、地上は岩盤まで破壊されていた。
「これじゃ下手に避ければ地上の人達が……」
「許さない……俺はお前を許さない‼︎ 魔界の皆だけじゃない、この世界を殺し、脅かす悪‼︎ そんなお前を俺は絶対に許さない‼︎‼︎」
彼の感情の昂りが、暗黒神を呼び起こした。
「汝、我力欲」
「ああ、皆を守るために力を借りるぞ!」
「存分使良」
不意に頭の中に言葉がよぎる。
今こそ神格化の時。
そう聞こえたレイビは必要もしない詠唱を無意識の内に始めた。
「闇に染まりし天地。数多の血を吸い高揚する神よ、今我が魂となり顕れよ。暗黒神……神格化」
彼の周りは闇によって覆われた。阿軍隊の攻撃も効かない。そして、解放した。
「ウォォォォォォッッ‼︎‼︎」
身体を蝕む事なく闇色の鎧に包まれていた。暴走時にはなかった金と赤の線が入り、意識を保ったままであることがわかる。
「これが……聞いていた神格化なのか」
「神と融合した姿、らしいな。今、暗黒神がそう言った。成る程、心身の強化だけでなく神の言葉もわかる。魔力が溢れてくる。これが神格化なんだ」
阿軍隊の声が聞こえてくる。神格化すれば意味が伝わる。
「ほう、あの暴走から神格化まで来たか。となると我の言葉もわかるはずだ」
「ああ、そうだ、わかるぞ。俺は神の領域まで来た」
「クックックッ……その自信と信念は褒め称えてやろう。だが、次は全世界の生物を滅ぼし、邪神だけの世界へと変える。汝は残りの生涯を孤独に生きるが良い」
「お前、はじめから俺を殺すつもりはないと言うのか‼︎」
「当たり前だ。他の肆大邪神は天地の勇者を殺せると勘違いをしているようだが、我は違う。数を持ってして世界を崩壊させる。天地の勇者などどうとでもいいのだ。ただ邪魔するのであれば余興で相手をしてやろう」
「卑劣な野郎だ……ますます許すわけにはいかねぇ!」
「レイビ、奴は何を」
彼女は阿軍隊の言葉を理解できないため、彼に聞いた。
「あいつは端から俺達を視界に入れてない。無茶苦茶な攻撃を繰り返して世界を終わらせるつもりだ」
「そんな……。そんな、ことさせるわけにはいかない!」
「全力で阻止させてもらうぞ阿軍隊!」
「良いだろう、精々無駄な足掻きを見せてくれ」
一方、デグラストルでは邪神の魔の手が既にあった。カイトは応戦し、地下に入れさせまいとしている。だが、数が余りにも多く、対処しきれない。
「まずい! このままじゃ!」
その時、一瞬にして邪神達が消えた。
「なんだ……何が起きてる」
「よっと、間に合ったな」
先程レイビ達が会った少年が現れた。
「お前がやったのか?」
「そうそう、ちゃちゃっと終わらせてやったぜ。これで地上の邪神共は片付いたはずだ。後はもうあいつらに任せるしかない。阿軍隊の攻撃の流れ弾に気を付けろよ。それじゃあな」
そう言って、少年は光の中に消えていった。
「なんだったんだ……」
わけがわからないままその場に取り残されたカイトだった。
「そんなことよりナハトは無事なのか? ナハトォォォ‼︎」
邪神が消えたことによりデグラストルへの脅威は消えた。しかし、ナハトの事が心配になり、叫びながら地下へ降りて行ったのであった。
場所は戻り、阿軍隊と二人の戦い。
「これを全て防いでみるがいい……少しでも取りこぼせば、地上はどうなるかなァ?」
「何をするつもりだレイビ!」
「範囲攻撃だ! 全部撃ち落とさないと!」
「何だと!」
阿軍隊が繰り出したのは隕石を模した邪神だった。異常な勢いで落下して行く。これを、数百。
「急げ!」
二手に分かれ、邪神を破壊しようとする。しかし、当然上手くは行かせてくれない。阿軍隊は邪魔をしてきた。リュテスへの背後を攻撃する。
「ガハァッッ⁉︎」
「リュテス‼︎ くそ、こうなったらやるしかねぇ‼︎ 力を貸しやがれェ‼︎ 深淵引導‼︎‼︎」
天に右手を掲げ、全ての邪神を吸いつくし、破壊した。
「ハァハァ……」
魔力の消費量が多い深淵引導は使いたくはなかった。しかし、もう時間がないため使わざるを得なかったのだ。
「まだ始まったばかりだぞ……クク……勇者二人はその程度かぁ? もっと楽しませろ‼︎」
阿軍隊は特大の隕石を放った。地球と衝突すれば、完全に破壊されるだろう。何故ならばその大きさは地球と同じであるから。
「まずい……どうすれば……」
地上に落下してしまったリュテスは意識がなかった。今、隕石を破壊出来るのはレイビしかいない。
「深淵引導はもう使えない……どうすれば良いんだ‼︎ 神格化してもこのザマかよ‼︎ 俺は、俺はこんな程度でしかないのか‼︎」
その時だ。再び、幻聴が聞こえてきた。五年前のあの時と同じ。
諦めるな、天地の勇者とはあらゆる状況において、決して、屈してはならない。そこに壁があるなら乗り越えるか壊せ。そこに敵がいるなら殲滅せよ。不屈の闘志を持て。お前が本当に天地の勇者であるならば!
だが、五年前とは違う点がある。敵が強すぎる違いか。否、自分自身が暴走をしているかどうかの違いだ。本来の意思で、その幻聴を受け取り、限界を超える。
「そうだ、俺は、天地の勇者! いつ如何なる状況においても決して屈するわけにはいかんのだ! 阿軍隊! 俺がお前の全てを壊してやる!」
次回予告
阿軍隊による地球規模の隕石を落とされようとした時、俺は己の限界を超えようとする。俺は天地の勇者だ。前天地の勇者が限界を超えて肆大邪神を倒したのならば、俺にできないわけがない。やってやる、地球を滅ぼされてたまるものか!
次回、DARKNESS LEGEND 第十四説 俺達は二人で一つ
君とこうしていると俺は胸が熱くなる。