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第十二説 繋ぎ止める者

前回のあらすじ

世界中は暗闇に包まれた。その後、莫大な量の落雷が降り注ぎ、それは人々の本能を剥き出しにさせた。一方、魔界では、邪神によって無惨にもレイビに教えを説いた三人が殺されてしまう。それを見たレイビは暴走してしまう。

 レイビの咆哮は世界中に轟いた。


 眠っていた魔王は目を覚まし、何が起きたのかすぐに気が付き、嘆く。


 ライトはこの瞬間を待っていたと言わんばかりに顔を歪ませ笑っていた。それを見ていた光の勇者はどこか違和感があった。そして今こそ奴を殺すときだと命令が下され、光の勇者は渋々デグラストルに向かった。


 ユディナはデグラストルが隙だらけだと判断し、進軍させた。


 勿論、全て悪い方向に進んだわけではない。落雷を受けた人間達は洗脳を解除されたかのように突然力が抜け、しどろもどろしている。


 それ程までに、彼の咆哮は世界中に影響を及ぼしたのだ。


 その彼が魔界からデグラストルへ一直線へ向かう最中の事である。


「申し上げます。ユディナ帝国軍が再び我が国に侵略する動きが見られます」


 偵察の一人がデグラストル軍総司令官にそう伝える。


「やはりあの咆哮で来たか……二十年振りとなる。今回は魔族の助けもない。どうしたものか」


 この総司令官もまたレイビが咆哮したということに気付いている。


「カイトはいるか」


「ここにいますよ」


 カイトを呼び付けるとすぐにやって来た。彼はどう見ると言い、カイトに聞く。


「そりゃあ、奴らにとっては今が最大の好機でしょ。王様がいないこの国は少しでも攻められたらおしまいだ」


「……愚問だな。では、陸に上がらせないように対処するよう命令を下す」


「了解」


 カイトは急いで軍を招集し、海に向かわせた。


 だが、これこそ最大にして最悪の事態を招くことになったのだ。


 一部の者を除く全デグラストル軍は出払っている。この状況において黒い雷が落ちた。


「……殺す」


 レイビが宮殿の目の前に現れた。

そしてそこにいる総司令官を目標にし、数多の黒い槍を現出し、投げつけた。


「バカな!」


 暴走までは予想していなかった総司令官は身動きが取れず、殺されそうになる。だがその前にカイトが彼を押し倒し、避けさせた。


「カイト⁉︎」


「危ねえ……やっぱこう来ると思ってたぜ」


「軍と一緒に行ったのでは」


「まあ、あいつらはね。俺はここを守る最後の砦だ。下にはナハトがいる。どうも国よりも彼女を守ることを優先してしまうようだ。許してくれ」


「……俺の命を助けたことで免除する」


「助かるぜ。おい王様。何があったかは知らねえけど今あんたはこの国の敵だ。だから容赦なく潰させてもらうせ。この前のリベンジも兼ねてな」


「ナハト……殺さないと」


 彼はカイトをそっちのけで地下に行こうとした。


「おい待て! 俺と戦え!」


 逃げようとするレイビの体を引っ張ろうとするが、力が尋常ではなく引きずられてしまう。


「くっ、どうなってんだ」


「……邪魔立てするなら貴様から殺す」


 とはいえ、当初の目的は達せられた。目標がカイトになったことで、彼は一度距離を取り、剣を構える。


「そう来なくては困るんだ!」


 雄叫びを上げながら突進すると、再び黒い槍を大量に展開し、投げつけてくる。回避しつつ、弾き飛ばし、彼に近付く。


「くらいやが……ガハッ⁉︎」


 彼の腹は槍に貫かれていた。ニヤリとレイビは嗤っていた。まるで槍は体の周囲からしか発生しないとでも思っていたか、自身の体からも発せられるのだと言いたげに。


「こいつは……やばい……。逃げろ、大将……」


 槍が消えると、カイトは倒れ伏した。


「あのカイトを一撃で……もはや手段を選ぶ時間はないというのか」


 一方、海辺では既に帝国との戦いが始まっていた。統率者のいないデグラストル軍は圧倒的に不利だった。少しずつ押され、侵攻を許してしまっている。


「貴様に用はない。あるのは俺の記憶を担うもの。次はナハトだ。だが、邪魔をするならこの男と同じ目に合わせてやろう」


「俺もこの国を守る一人だ。非戦闘員を巻き込むわけにはいかない」


「ならば死ぬが良い」


 一瞬で総司令官に近付き、腹に拳を貫通させようとした時だった。


「レイビ‼︎」


 別の場所から声が聞こえていた。そこにいたのはナハト。直様レイビは狙いを変えた。


「何があったの……その格好……」


「殺す」


「何を言ってるの……?」


 事情を知らない彼女は彼に近付こうとする。


「待て! 今彼に近付いては」


 総司令官の忠告虚しく彼女は死んだ。


「そんな」


「……感触がない」


「当然だ。それは光の残像なのだからな」


 レイビの後ろにナハトを抱き抱えた光の勇者がいた。


「貴様……」


「闇そのものになってしまった哀れな勇者よ。俺が正そう」




 光の勇者はエクスカリバーを抜いた。そしてこう告げる。


「ライト様からは殺せとの命令だが、今回は正すことにする。俺は知りたい。何故闇のくせにそこまで他人の死を悲しむのかを。闇とは何なんか。今までライト様は悪だと言った。しかし、俺はお前を見ているとそうは思えない」


「ほざけ」


「とりあえずはその殻を破ってやるよ」


 実際、ここに光の勇者が現れたのは神の救済だと言って良いだろう。もし来なければデグラストルは破滅していた。


 音が遅れて聞こえてきた。そう、光の勇者は光速で行動を始めていた。が、レイビはそれを利用して影に回った。


「無駄だ。俺は貴様に追いつくことは容易い」


「どうかな。それを読んだ上での行動なら話は別だ」


 くるりと回り、その遠心力で剣を振った。ガァンと鈍い金属音が鳴り、剣を弾いた。


「くっ⁉︎」


「無駄だと言ったはずだ‼︎」


 そのまま受けた腕で光の勇者を薙ぎ払った。


「成る程な……既にこういうのは想定済みか」


「ベベナーブから学んだ事だ。何も俺は無意識に暴走をしているわけではない。分かっていて、こうやっている」


「……そうか。だけどそれは間違いだ。お前は本当にそんな事を望んでなどいない」


「貴様に‼︎ わかるものかァ‼︎」


 またしても槍が大量展開した。


「いいや、分かるさ。たった半日だったがな……お前の本当の気持ちというやつを」


「何を言っている!」


 光の勇者が意味のわからない事を話しだし、レイビは戸惑った。


「俺は……私はレイビと共に行動をし、本性を知った」


 光の勇者は仮面を取った。そこにあった顔は、リュテスだった。


「リュテス……」


 一瞬、彼の目は元に戻った。何故ここに彼女がいるのだ。光の勇者はリュテスだったのか? という疑問を浮かばせた。


「闇そのものであるはずだというのに、私は君と一緒にいた時、全くそれを感じられなかった。むしろ淋しさを感じた。市場に出た時、君は本当に楽しそうだった。命令を受けていた以上、君を殺そうと仕向けたが、それにも気付かず私を待っていた。私は疑問を感じた。本当に闇とは悪なのかということを」


「分からないな。何を言っているのか」


「ああ、私にもわからない。これは言葉なんかじゃ表せないんだ。だけどこれだけは言える。君が助けられないから殺してまで救いたいというのなら、私が代わりに助けてやる」


「……できるものか」


「断言する。現にこの女を助けたからな」


「……」


「もし、何故今まで殺そうとしていた者を助けようとするのかが疑問だと思うなら、答えは単純だ。私はあくまで命令でやっていたまで。思考停止してやっていたからにすぎない。まるで今の君だ。だが、考えるうちに真逆の選択肢を取ったんだよ」


「五月蝿い……! そうして俺を乱そうとする魂胆なのだろう!」


「思い出せ! 何故強くなりたかったのかを! その力は何のためにある!」


「五月蝿い‼︎」


 そう言いつつも、彼の深層心理は揺れ動いていた。暗黒神という殻の中に閉じこもった彼は、思い出していた。




「そうだ……俺は……ナハトを……皆を守るために強くなりたいと決めたんだ」


 誰もいない、真っ暗な世界。ここが彼の心。


「殺すために力を持ったわけじゃない。今やっていることは復讐、偽善、自己の満足にしか過ぎない。殺してしまったらそれまでだ。もう二度と話すことなんて出来なくなる。最後の一瞬まで一緒にいたい。俺は淋しいんだ。皆目の前からいなくなってしまうから」


 誰にも届かない独り言は空に消える。


「いなくさせる原因を止めないといけないのに、俺はそのいなくさせる原因になってしまった。俺は……一体何をしていたというのだ」


 殻にヒビが入る。


「汝、我力欲」


 暗黒神の声が聞こえてきた。レイビは答える。


「ああ、欲しいよ。でもこんな形じゃなくて守るために欲しい。我儘かもしれないけど……」


 暗黒神は答えなかった。しかし、無視したわけでも、否定したわけでもない。


「ありがとうよ」




 現実世界。彼は元の姿に戻っていた。


「思い出したか」


「ああ、思い出したよ。俺が間違っていた」


「なら良かった。もう暴走するんじゃないぞ」


「そうだな……。それはともかく色々聞きたいことはあるんだがな」


「うっ、それはなんだ」


「ちょ、ちょっと⁉︎ 置いてけぼりにされたけど私も聞きたいことあるんだけど‼︎」


「い、一遍に質問するなぁ!」


「……ごほん、すまないが、今はじゃれている場合ではない。帝国軍が攻めてきているんだ。王様、国を守るためならやってくれるよな」


 おかしな茶番を見せられた気分になった総司令官は注意する。


「……! 当たり前だ」


「私も手伝おう。改めて考えるとレイビよりも帝国のがドス黒い悪だ」


「助かる」


「そこに野垂れ死んでいる男も手伝ってもらう」


 その男とはカイトのことだ。リュテスが回復の魔術を発動すると、直ぐに傷は癒えた。


「あれ、俺生きてる?」


「さっきはすまなかった。いや、すまなかったでは収まらないかもしれないが」


「……よく覚えてねえ。今回は許してやる」


「なら、手伝ってくれ。帝国軍が攻めてきている」


「ああ、そうだったな」


 こうして三人は戦場に赴くのであった。


「帰ってきたら必ず聞きたいこと聞くからね!」


「ああ、それまでに弁解を考えておく!」


 すっかり元に戻った彼はナハトに合図をして、行った。




 デグラストル軍は壊滅的だった。死にはしないものの、疲弊により次々と迫る帝国軍には堪らなかった。


「全軍撤退。ここからは俺たちがやる」


 周囲にそれが伝わると、一斉に自軍は下がって行った。


「大半は俺が片付ける。こうなったのは俺のせいだからな……」


「ふっ、正しき闇の力を見せてくれ」


 ライトにそう言われると、したり顔でこう言った。


「ああ。だが、悍ましいぞ」


「気にするな。人を殺すこと自体には光も闇も正しさもない」


「なら、行かせてもらおう」


 彼は思っていた。


 この力は俺だけの力ではない。あいつに、ハルに託された力だ。国を守るため、力を貸してくれ。


深淵引導(ダークネス・レクイエム)


 右手を(かざ)すと掌に小さなブラックホールが出現した。狙った者だけを引き摺りこむ事ができる。そして帝国軍に向け、放った。一瞬にして、ブラックホールに飲み込まれた大軍は僅かに残って消えていった。


「くっ……やはり体力の消耗が激しい……」


 修行していたとはいえ、深淵引導は途轍もない魔力が必要だ。これで恐らくハルから受け取った魔力は消えてしまっただろう。しかし、後悔はしていない。推定十万の帝国軍を殆ど消滅させる事が出来たわけだ。彼は跪き、二人に目配せした。


「よっしゃ、あとは任せろ!」


「力の使い方次第でここまでとはな。私も血が煮えたぎってきた」


 残党は一気に二人が狩り尽くした。


「助かった」


「出来ない分は助けると言ったからな」


 こうして一時の騒動はこれにて終わった。だが、空は晴れない。




「おかえりなさい」


 宮殿に帰ると、ナハトが飛び込んできた。しかし、彼はそれを避けて、こう言う。


「抱きつくのはカイトにしろ」


「うぇっ⁉︎」


「え、良いのか?」


 別の意味の混乱が、増えそうであった。


 その後、各々の聞きたい事を話していた。


「仮面を被ると男の声になるのか?」


「ああ、こんな風にな」


 仮面を付けたリュテスは以前の光の勇者の声になっていた。


「これで男に化けていたのさ。鎧も厚いから胸を抑える事も匂いも抑える事が可能だ」


 再び仮面を外すと、テーブルに置いた。


「ふむ、なら最初の接触の時から俺の命を狙っていたということか」


「ああ、そうだな。ダンスの時に様子を伺った。あの時はとても闇そのものとは思えなかったがな。いや、今もそうか」


「市場に行った時に殺そうとしていたというのは?」


「実はあの時トイレには行かず、背後から殺そうとした。が、剣がそれを認めず自壊した」


「あっ、そのことなんだけど……」


 ナハトが横入りしてきた。


「市場に行ったってどういうわけ?」


「あ、いや、それはだな」


 言葉を濁そうとしたレイビだったが、リュテスは単刀直入に言った。


「彼とデートした」


「え、ぇぇぇえええ‼︎‼︎」


「いや、でもほら俺を殺すための陽動だったわけだし」


「凄く軽いな……」


「信じられない! カイトに鞍替えしちゃおうかな〜なんて」


「推奨する」


「冗談が通じないよ!」


「ともかく、俺の暴走を止めてくれたから俺を殺そうとしたことを恨むつもりはない。貸し借り無しだ」


「いや、貸しはあるぞレイビ。五年前にお前を間接的にだが助けたからな」


 その後殺そうとした、ということは伏せておいた。


「ぐっ……わかった。いずれ返してやる」


「それじゃあ、質問もこれ以上ないようだし、私は風呂を借りるとしよう」


「? 光の国には帰らないのか?」


「帰られるわけがないだろう。きっとライト様は私が裏切ったと判断している。ま、事実上はそうだ。何せ私にはある程度未来が見えるからな」


「よくわからんが……敵意もないし幾らでも歓迎するよ」


「助かる。それじゃまた明日。明日は空の調査をしよう。目星はついているがな」


 リュテスは部屋を出ていった。


「目星ね……。邪神だということはわかっているのだろう。だが、どうやって打ち勝つ。この星を覆う邪神にどうやって」


 今、一人で深く考えても仕方が無いと判断したレイビは眠りに入っていった。


 決戦の時は近い。

次回予告

今まで敵対していた光の勇者の正体はリュテスだった。彼女は、彼女なりの考えを導き出し、俺を助けて出してくれた。ならば次は俺の番だ。奴との決着をつけてやる。救える命があるなら、俺はそいつを殺すのではなくそいつを生かすために戦い続ける。


次回、DARKNESS LEGEND 第十三説 アーミー


暗黒神、神格化

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