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第十説 仮面の中の美少女

前回のあらすじ

デグラストルに帰還したレイビは、ベベナーブの死を魔王に伝える。魔王は魔界に帰り、眠りに付く。一方、ナハトはカイトという人物に迫られていた。レイビはカイトと戦い、勝利する。そして、数日後。

 特に何もなく、数日を過ごす。レイビはこの何もない日々に安堵をしていたが、どこか物足りなく、刺激が足りない気がした。


「ナハト、今日の予定も何もないのか」


「ないよ〜だって魔王様が仕事全部片付けちゃってるしさ〜。なんか娯楽ない?」


 朝食を終えた二人。その皿洗いをしながらナハトは答えた。


「そ、そうか……娯楽……」


「そういえばレイビってあんまり娯楽に興味ないよね」


「あんなもの、つまらないからな」


「ぶーっ! それはやったことないからだよ! やったら変わるって!」


「なら、何がある」


 具体的な事は何も考えていなかったので、ナハトは返答に迷い、頭を抱える。


「え、えっとね〜」


 冷や汗を掻き、目を逸らしながら、答えた。


「ボール蹴りとか⁉︎ カード捲りとか⁉︎」


「えらく苦し紛れに答えたな……無理しなくて良いのに」


「ぐぬ……」


「まあ、良い。俺は見回りをしてくる。問題ないだろうが、念の為にな」


「うー分かったよ〜気をつけてね」


 泡まみれとなった手を振りながら彼女はレイビを見送った。




 久しぶりの地底世界の見回りだった。普段地上で暮らすレイビは地底人との関わりは少ない。見回りをすることはその関わりを深めようとする目的である。


 地底人は寿命が長いので、レイズを知る人は少なくない。であるため普通に話しかけてくる者もいる。レイズが一々礼儀正しくしなくていいということからだ。


「やあ、王様。こっちに来るなんて気が変わったか?」


 この者は見た目こそ三十くらいだが、三百歳は優に超えている。


「たまには顔を出さないと思ってだな」


「そうか……戴冠式から五年経つが、相変わらず変わらないな。レイズもそうだった」


「だが、劣化は進んでいる」


 体年齢が止まって五年。その五年でレイビの上半身の一部は劣化現象が起き、ヒビ割れがある。それを見せると相手は頷いた。


「確かに、あいつらも死ぬ前はヒビが入って緑と黒を混ぜたような色をした体だったな。ところで、何か欲しいものとかはあるかい」


「そうだな……今は特にないか。いや、待てよ……」


 ナハトは娯楽がないかと聞いていた。彼は娯楽はつまらないと考えているが、実際にやったことはない。実践すればわかるのだろうか。そう思ったレイビは、娯楽はないのかと聞いた。


「楽しいことねぇ……俺からすれば農業が楽しい。あんな地獄のような採掘作業よりもずっとな。自分が楽しいと思えば、それは一つの娯楽じゃないだろうかね」


「自分が楽しめる事が娯楽……物ではないということか」


「ま、そっちの方はいつか気がつくもんさ。すまんな、地底じゃ地上のような遊びはないのさ」


「こちらこそ変な事を聞いてしまってすまない。では、これで」


 レイビは礼をしてその場から去った。


 街を一回りし、何も異常がない事を確認すると、以前カイトと喧嘩があった家に向かった。


「この前はカイトが失礼した」


 家の住民は、既に忘れていたらしく、忘れるくらい気にしていないと言い、王なんだから頭を下げないでくれと言われてしまった。なお、この住民もレイズの時代から生きているご老体だ。


 一応、詫びの菓子折りを差し上げた。


 その後、宮殿に帰る途中のことだ。突然後ろから声を掛けられた。


「誰だ」


 振り返ると、一人の女性が椅子に座っており、この前はどうもと言ってきた。


「どういうことだ。俺はあんたと話したことはあったか?」


「五年前、覚えてませんか?」


「五年前?」


「仮面舞踏会ですよ。貴方の相手だった」


「……ああ、邪神の原因か」


「邪神?」


 女性は何のことだかわからず、首を傾げていた。


「いや、こっちの話だ。そうか、あの時のか。道理でどこか思い出す匂いだった」


「光の国で採れる花から抽出した液体で作った香水ですよ。良い匂いでしょう」


「ああ、確かにな。で、何で俺が相手だとわかった」


「髪色ですぐわかりますよ」


「あ……そうか。しまったな……」


 世界中探しても紫色の髪色はそうはいないだろう。


「わざわざこの国に来たんだ。何か用事があるんだろ」


「それはですね、貴方と光の国に来てもらいたくて」


「なるほどな。良いだろう。一度見ておきたかった」


 レイビには考えがあった。あの光の勇者が住む国。あそこが一体どうなっているのか。場合によっては攻め入ることも考えている。


「それじゃ、早速行きましょう!」


「お、おい待て。俺はこれでもこの国の王なんだ。勝手に国を行き来することは出来ない。一度宮殿で話を」


 が、言葉を遮られ、手を引っ張られる。


「そんなこと気にしなくて良いんですよ! 今日起きたことはなかった、ただ貴方は一日中国の見回りをしていた、ということにしておけば問題ありません!」


「本当にいいのかよ……」


 レイビはフードを被り、目立つその髪を隠した。


「あ、そうだ! 私リュテスって言います! よろしく!」


「レイビだ……言わずもがなのことだろうが」


 彼は、リュテスに引っ張られるがまま国境を越えて行った。




 光の国。一年中気候は穏やかで、災害もない。人々の理想の国。犯罪率も世界で一番低く、あらゆることに豊かだ。


「さぁ、着きましたよ」


「俺がいなかったら海を簡単に渡れなかっただろ」


 彼は気怠そうにリュテスを抱きかかえ、大陸から大陸へ飛んだ。が、本当に気怠いかというと、そうではない。本当にそうだとしたら、やっているわけがない。


「まあまあ、そう言わずに。料理が美味しいんですよ! 何食べます?」


「そういえば、今昼か。食べるとするか。オススメのものとかあるのか」


「フィッシュ・アンド・チップスとかどうです?」


「よくわからないがそれで良い」


 リュテスに連れられるままレイビは街を見ていた。デグラストルとは違い、地上が賑やかだ。本来、この方が一般的である。明るい空の下、商店が並ぶこの国は彼にとって異様である。


 店に案内された彼はリュテスに言った。


「デグラストルではこのような事はない。皆それぞれの家で食べている」


「それはデグラストルだけですよ。しかし、随分と閉鎖的ですね。それでは住民との関わりが持てないのでは?」


「どうだろう。皆団結しているとは思うが。他国から見るとそうなるのか」


「少なくとも私はそう思いますよ」


 料理を注文すると、すぐに出てきた。作り置きなのだろうか。


「さあさ、食べてください。代金は払いますよ。なにせデグラストルに通貨は存在しませんので」


「すまない。あと、通貨はないと言うが一応あることはあるぞ。流通していないだけで。おかげで価値はとんでもない」


「そうなんですか。知りませんでした。これは申し訳ないです」


 レイビが一口食べると、顔を(しか)めていた。


「ど、どこが美味しいんだ……」


「ごめんなさい、それは美味しくないです」


 彼女は口を抑えて笑っていた。まんまと彼女の策に引っ掛かったのだ。


「お前……」


「でも、名物は名物なんですよ。後で口直しにティータイムを取りましょう」


「はぁ……」


 とはいえ、食べ物に対して失礼な事はできないとレイビは考えているのでこれを完食した。


 その後、紅茶とお菓子が並べられた。良い匂いで、思わず顔が綻びそうだ。


「これはフレーバーティーです。ストレートに飲むのが一般的です。しかし、口に合わないようでしたらミルクを入れても構いませんよ」


「成る程……さっきとは違って良い感じだな。どれ……」


 彼は息を吹きかけ、冷ましながら口に含んだ。口の中に充満する匂いは飲む前よりも印象が変わる。鼻息が紅茶のそれみたいになった気分だ。サッパリとしていて喉に残らない。


「ミルクは必要ないな」


「良かった、これは良いみたいですね。じゃ、スコーンを食べながらゆったりとしましょうか」


 その後、様々な紅茶を試しながらアフタヌーンティーを満喫した二人は、商店街に向かった。


「色んなものが置いてあるのだな。これとか面白いな」


 皿を持ち上げて、彼女に見せた。


「欲しかったら言ってください。お金ならいくらでもあるので」


「うーむ、今日は、俺はここにはいないはずだからやめておくよ。また今度の機会だな」


「それもそうですね」


 レイビは、彼女といると心が弾むようだった。しかし、同時に胸も痛く感じた。


 これが娯楽というものか。と、レイビは考えていた。これまで宮殿で一日中過ごすか、或いは修行で魔界に篭るかのどちらかだけだった。しかし、今日は光の国で全く新しい体験をした彼は、これほどまでに楽しいと思ったことはない、と考えた。




 だが、楽しい時間は続くわけがなかった。天地の勇者は悠久の休みを許されない。


「すみません、ちょっとトイレに行ってきますね」


「ああ」


 彼女はレイビから遠ざかっていった。彼は気にせず物色を続けている。


 すると、背後から突然気配も殺気もなく、彼女が剣で彼を刺し殺そうとした。が、その剣は砕け散り、彼女は唖然とする。


「ぇ……」


「ん? どうした? もう済ませたのか?」


 それに気付かない彼はオロオロしている彼女を心配そうに見る。


「う、うん。もう済ませました! すみませんが今日のところはこの辺にしましょう! あんまり遅いと不思議がられますからね!」


 と、強い語気で彼をデグラストルに帰らせようとする。彼はそうだな、これ以上遅くなるとナハトが勘繰りそうだしな、と同意して空に飛んだ。


「じゃあ、また機会があれば呼んでくれよ。今日は楽しかった」


「え、ええ。また今度」


 先程までと打って変わった態度に彼は疑問を寄せるが、気にしても仕方が無いと考え、デグラストルに帰って行った。




 光の国の宮殿。玉座。女王ライトは光の勇者を呼んだ。


「どうやら、彼女は失敗したようだな」


「ええ、ですが一つわかりました。不意打ちは剣がさせなかった。恐らくに認めなかった、光の国由縁の物であるため。不意打ちとは闇を表し、それをするわけには剣が認めなかったのでしょう」


「そのようだ。そこでやはりお前が正々堂々と奴に挑み、殺すのが最善策となる。近々果たし状とやらでも送っておくと良い。そうすれば剣も認めるだろう」


「そうする事にします」


 ライトは立ち上がり、玉座の裏に回って、そこに置いてあった剣を抜き取った。


「これをお前に授ける。代々受け継がれてきたものだ」


 代々と言ってもまだライトは二代目なのである。


「これは……」


 眩い光を放ったその剣は、他者を寄せ付けない。


「エクスカリバー。王たる証。お前もいずれ王となる身。今持っても問題はあるまい」


「ありがたき幸せ。ではこれで」


 光の勇者が下がると、ライトは不敵な笑みを浮かべていた。ようやく闇が消え、光が訪れる。その瞬間を考え、悦に浸る。




 デグラストルに戻ったレイビは、顔を緩ませていた。


「遅かったね。見回りで何か良いことあった? 顔がレイビらしくない」


 ナハトに言われると、ハッとして顔を振った。そして真顔で嘘を話す。


「ああ、普段顔を出さずとも俺は皆に好かれていてな」


「本当かしら」


 相変わらずナハトの勘は冴える。彼は冷や汗を掻いていると、まあいいわとナハトは溜息を付きながら言った。


「今日は疲れたからもう寝る」


 そそくさとレイビは自室に篭っていった。彼女はその様子を見ながら。


「本当はあの人に会ってたの知ってるよ。だって、五年前のあの時の匂いと同じ。でも、私も大人になったし、許す」


 そう言って彼女は家事の続きを始めた。


「また、会えるのかな」


 部屋で干渉に浸る彼は、彼らしくなかった。この時だけは五年前の彼のようだった。




そんな幼く見せた彼は、もう二度と笑顔になれないことも知らずにいた。

次回予告

かつて世界を震撼させた肆大邪神の一柱、阿大気(アトモスフィア)。初代が倒したため、世界は平和になったと思われていた。だが、俺の目には確かに巨大な邪神が映っている。この前とは全然違う大きさ。世界を覆う邪神は、数多の形無き邪神を召喚し、世界を襲う。混乱に陥った世界は、人間同士でも争いが始まる。


次回、DARKNESS LEGEND 第十一説 絶望の雫が満たされた時


誰も救えないなら全員殺すまで……。

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