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第九説 萌動

前回のあらすじ

ベベナーブとの試練を行ったレイビは、惨敗する。そして再び行った際、五年前の名も無き邪神が顕れ、レイビを殺そうとする。しかし、それをベベナーブが庇い、命を喪う。怒り、憎しみ、悲しみを背負った彼は暴走し、邪神を消し飛ばす。その一週間後、どうにか気力の戻ったレイビはデグラストルに帰っていく。

 光の国宮殿玉座。光の勇者は聞きたいことがあり、女王の元へと参った。


「一つ、お伺いしたいことが」


「何だ、話すと良い」


 女王ライトは控える光の勇者に見下ろしながら言った。


「魔族は悲しいと思うことがあるのでしょうか」


「戯言を。そんなものがあるわけがない。彼奴等は狡猾で醜い存在。感情など持ち合わせてはおらぬ」


「ですが、俺はこの目で見たんです。彼ら彼女らは泣いていた。おそらく仲間の死によって」


「ふん……何かの見間違えだろう。案ずることはない。お前はただ魔族を滅ぼせばいい。そして闇そのものである闇の権化をもな」


「……」


 どうやらライトに何を話しても結局この答えしか返ってこないと判断し、一礼をして光の勇者はその場から去った。


「何かが引っかかる。何故そこまでしてライト様は魔族に執着する。俺はわからない。いつもそうやって言われているから魔族と敵対しているだけだ。俺は勇者なのか? ただこの剣に選ばれただけにすぎないのではないのか?」


 外に出た勇者は自身の剣を握り締めた。迷いを映し出すかのようにその剣は鈍く光っていた。




 デグラストルに帰還したレイビは直様魔王のいる部屋へ走った。


「父上……非常に言いづらいのですが……」


 彼は俯きながら魔王に話しかける。魔王は彼に近寄り、何かあったのかと尋ねる。


「師匠が……ベベナーブが、死にました」


「! それはどういうことだ」


「俺を庇って……っ、邪神に……俺の、せいで」


「……わかった。俺は今から魔界に帰る。お前は来なくていい。しばらく休んでいるといい」


「父上……」


 魔王はレイビを抱き締め、こう言った。


「自分を責めるな。その気力は生きる糧としろ。彼のためにお前は最期まで生き延びなければならない」


「……」


「俺はあの時レイラと約束した。あいつの分まで生きるとな。それと同じだ。お前もベベナーブの分まで生きろ」


「そんなこと……わかっているよ」


「そうか……馬鹿な事を言ったな。とにかく俺は魔界に戻る。そしておそらくデグラストルには帰れない」


 話を切り替えることでレイビの関心をそちらに向けた。


「え……」


「後世のために俺は眠りにつく。魔界を守るためにも。もちろんただ眠るわけではない。会いにくれば話せる」


「そ、そうなんだ。父上が何を考えているのか俺には全くわからないけど……顔を見るに相応の覚悟があるんだね」


「ああ……じゃあ、レイビ。次は魔界で会おう」


 そう言って魔王は去って行った。淡々な別れ方だったが、また会えるのだから大丈夫だと心に秘め、レイビはナハトのいる部屋に向かった。




 ナハトに会うのは実に五年振りだ。彼女は一体どうなっているのだろうか。


 レイビが部屋の近くに行くと彼女の姿が見えた。


「ナハト」


 しかし、彼女だけではない。一人の男が彼女に向かって話していたのだ。


「……? おいナハト」


「あ……レイビ……?」


 奇妙な空気が漂った。


「そいつは誰だ」


 ナハトが応える前に男が応えた。


「これはこれは八代目国王様。私はカイトと申します。この度貴方様に仕える者として参上しました」


「ほう……聞いていないな。一体誰に言われた」


「……魔王様でございます」


「そいつは嘘だな。父上からそんなことは言われていない。最も、父上とはそこまで話す時間はなかったが……。嘘だとしたらお前は父上を侮辱することになるし、目的も別にあるのだろう。一体何なのだ」


「まあ、バレますよね。……彼女を、ナハトを頂戴したいと思いましてね」


「え⁉︎ どういうこと⁉︎」


 ナハトは全く彼の考えが読めていなかったようだ。


「ふん、よくもまあぬけぬけとそんな事が言えるな。こいつは俺の物だ」


「レイビ……」


 彼女は阿呆なのか、物扱いされているのに気付かず彼の力強さに感動している。


「この五年間こいつを、国を守るために修行してきた」


「なるほど」


「もちろんそう言っても引き下がるつもりはないだろう。よって一度だけチャンスをやる。お前の力を俺に見せてみろ。男とは常に戦うものだ。俺に勝てばナハトはくれてやる。俺より強いということはつまりナハトを守れるということになるのだからな」


「ちょ、そんな勝手に決めないでよ!」


 ようやくナハトは蔑ろにされていることに気付く。


「ナハトの意思も汲みたいところだが……そんなことを言っていては事は解決しない。てっとり早く俺はこいつを倒し、いつも通りの生活に戻る」


「えぇ……」


「良いでしょう。大した自信ですね。貴方様を倒し、ナハトは手に入れてやりますよ」


 こうして、ナハトを巡る二人の戦いが始まろうとしていた。




 それとは別に魔界である。魔王はベベナーブの墓石の前に座った。


「ベベナーブ……お前のおかげで息子は強くなったぞ。まだしっかりとこの目では見れてはいないがな。……ありがとう。魔界を守ってくれて。腑抜けな俺を支えてくれて」


 魔王は杯を取り出し、墓の前に置く。そして自分の分も取り出し、それぞれにお酒を注ぐ。


「乾杯しよう。レイビの二十歳の誕生日と、修行達成に。そしてお前の人生に」


 一気に飲み干すと、また独り言を続けた。


「よく戦ってくれた。戦いすぎたかもな。疲れただろう。休息も必要だ。だから……。だから、ゆっくりと休んでいってくれ」


 魔王は立ち上がった。彼の顔は濡れていた。表情を変えず、無言で涙を流していた。




 デグラストルに話は戻る。三人は闘技場に現れた。観客はいないので物静かだ。


「本当に貴方様に勝てばナハトをくれるんでしょうね」


「当然だ。二度も言わせるな」


 いがみ合う二人。それを見るナハトは心配でたまらなかった。


「落ち着くのよ私……大丈夫。きった大丈夫だから」


「カイトと言ったな。これを使え」


 壁に取り付けられていた模造の剣をカイトに投げつけた。それをカイトが拾うとレイビもまた別の模造の剣を取った。


「勝負は一度切り。どちらかの体に剣が触れるかまでだ」


「わかりました」


「ナハト、合図をしろ」


「う、うん……」


 二人は構えると、彼女が開始の合図をした。


 始まるとカイトは真っ先にレイビに向かってきた。慣れているのか、剣に足を取られていない。下段の構えで走ってきた。そして到達すると振り上げる。レイビはそれを軽く避ける。カイトは続けて降り続けるが悠然と回避し続ける。


「どうした。その程度か」


 彼はベベナーブとの試練を思い出す。今はベベナーブの立場のように思えてくる。こうやって彼もやっていたのだと。成る程、勝てるわけがないと心の中で微笑んだ。


「くっ……!」


「剣を使うことに慣れているだけで実戦経験はないに等しいな。そんな程度でナハトを守ろうというのか」


 レイビの煽りに釣られたカイトは口調が変化した。


「黙れ! 黙って戦いに集中しやがれ!」


 カイトの性格の殻が破れる。本来の性格を現すと、動きが荒ぶる。


「ほぅ、本性を現したな。だが!」


 後方倒立回転跳びをして距離を取り、空振りさせる。その隙を付いて一気に詰め寄り、大きく振ろうとした。


「くそっ‼︎ こんな簡単に諦めてたまるかァ‼︎」


 カイトは転んで回避した。これにはレイビも想定外である。


「何⁉︎」


「まだ終わらない‼︎ 俺はナハトをこの手で掴む!」


「何をそこまでナハトに執着するかは知らないが面白くなってきた。そうではなくてはな!」


 白熱する戦いにナハトは唖然としていた。二人とも楽しんでいることを不思議がってもいる。


 遂に鍔迫り合いが起きた。これまでまともに戦おうとしなかったレイビが自らそれを望んだのだ。


「お前の底力、見せてみろ!」


 それに応えるが如くカイトはレイビを押した。ただでやられる彼ではない。押された分だけ押し返す。更に押し込み、もはやお互いの剣が折れそうなくらいの力だった。


 この鍔迫り合いを制したのはカイトだった。剣を破壊するのを恐れたレイビは退いてしまった。


「決まった!」


 トドメの一撃を喰らわそうと、カイトは彼の体に当てようとする。が、しかし。


「それで勝ったと思うな」


 確かに剣は彼の体に当たっている。だが感触がない。


「なっ……」


「遊戯はおしまいだ」


 カイトの首筋には剣が突き付けられていた。いつの間にか後ろにいたレイビは静かに喉に当て、試合を終わらせる。




「負けた……」


「中々に面白かった。中くらいの力を使わせたんた。誇るが良い」


「負けて誇りだと!」


「確かにお前は試合に負けた……だが俺は勝負に負けた。常人では不可能な技を使ったからな」


「最後のアレか」


「ああ。あれは影に移動する技だ。卑怯な手を使ったからそういう意味では負けだ。……それにしてもお前の性格が気に入ったぞ。最初は胡散臭い野郎だと思っていたが、その熱血。初めからそちらでいれば俺も気が損なうことはなかっただろうに」


「……」


「ま、今後も従者として俺の元で働いてくれ」


「わかった……負けは負けだ。だが、まだナハトの事を諦めきれないといえばどうなる」


「好きにすると良い。それにしても何故そこまでナハトに拘る」


「惚れたからに決まっている。一年前、俺が喧嘩をした時の傷の手当てをしてくれたんだ」


「それだけで惚れるというのか。まあ、良い……どこの出身かはまた聞くとして今日はもう疲れた。また明日詳しく話を聞くとするよ。ナハト、帰るぞ」


 茫然としていたナハトは声を掛けられようやく気付く。


「なんだ、気を失っていたのか?」


「う、うん。なんか、凄かったからさ。それにしても五年前と全然違うね。レイビが勝って良かったよ」


「……そうか」




 明くる日。レイビはカイトの部屋に訪れていた。昨日聞きたかったことを聞く。


「で、お前はどこから来たんだ」


「ルイナミナのスラムだよ。……知ってるだろ。あの国の格差を」


 ルイナミナ小国、それは光の国から西に進んだところだ。光の国とデグラストルは対岸なので実質その中央に存在している。国王の独裁政治により貴族を除く住民は貧困である。更に酷い地域がそのスラムであり、カイトはそこ出身である。


「カイトっていうのも別に本名なんかじゃない。適当に俺が考えただけだ。俺が物心着いたときには親なんていなかったからな」


「だが、どうやって話せるようになった? あそこの政治では識字率も低いだろう。まともな言語などあるとは思えないが」


「それに関しては問題ない。クソッタレな国王は洗脳教育をしてるからな」


「……それで洗脳されなかったお前は逃げて来たってわけか」


「ああ。で、泳いで逃げて来たらデグラストルに来て、そこで喧嘩した」


 何故、とレイビは問う。デグラストルは争いを好む者はいない。自給自足と国全体が協力し合うこととしているため、格差は起きない。もしも起きるようであれば、王はその民のために働く。初代レイガが遺したデグラストルの掟である。これがある上で喧嘩が勃発するとは何故なのか。カイトは答えた。


「俺がふっかけたんだよ」


「やはりな……どうやら相当な問題児だな。で、何故ここに居られる」


「飯が欲しいから気絶させて奪うつもりだった。が、想像以上にこの国の人間は強く、苦戦した。平和ボケな連中だと思っていたが……」


「当たり前だ。争いを好まぬだけであり、地底人は本来強い。いざとなれば防衛のため本能を剥き出しにする」


「で、それを制したのがナハトだったんだ。食べ物ならあげるからって。喧嘩した相手とも取り繕ってその場は和解、その後宮殿で手当てと食料を貰った。俺からすれば天使、いや女神」


「ナハトも阿呆だな……こんなやつ助けなくても良かっただろうに」


「なんだと⁉︎ 昨日従者として認めてくれただろう!」


「それはあくまでも話を聞いていないからだ。気が変わったといえばそれまでだろう」


「くっ……じゃあ、この国から追放するのか」


「何も俺はお前を追放するつもりもないし、従者を取り下げるとは言っていない。むしろ歓迎しよう。その喧嘩っ早さを。戦力になり得る」


「……なんだそりゃ」


 カイトはレイビの考えていることはよく分からなかった。レイビの考えは常軌を逸するので仕方ない。


「お前を総司令官に渡し、訓練を行ってもらう。そして強くなってまたここに来い。そんときにはナハトをやる」


「な、なんだかよくわかんねえけど強くなればナハトは俺のものになるってことなんだよな‼︎」


「ああ」


 ナハト本人がいない中、勝手に話は進められて行く。上手くレイビに丸め込まれた彼は軍に配属された。




 その数日後である。突然、光の国からの来訪者がやって来た。デグラストルに不穏な影が来る。否、まだその時ではない。

次回予告

光の国から訪れた美少女、リュテス。あの仮面舞踏会で俺と踊った人らしい。何故仮面越しだというのに俺と踊ったのがわかるのだ。というか、良い匂いだな。五年前と同じだ。彼女は俺とデートをしたいらしい。よく分からないが俺はそのデート先の光の国に向かう。ナハトはまた嫉妬するかもしれないのでこれはお忍びだ。


次回、DARKNESS LEGEND 第十説 仮面の中の美少女


何故か胸が痛い。これは一体何だと言うのだ。

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