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[Sepitimo episode] 陰陽の竜――ヴェンティス――

            ✝1✝


雨が降っていても、彼は傘を差さなかった。


そもそも、彼は何も持っていなかった。まるで、どこかの家から飛び出したそのままの姿、といういでたちだった。


彼は雨に濡れながら、森にある一本の道を歩いていた。寒さに身を震わせると、彼は着ていた黒いローブの端をぐっと引き寄せた。


下にしていた視線を上げると、彼は一軒の教会を見つけた。そこなら、雨宿りができるはずだ。彼は少し早足になって教会へ向かった。


古びた教会の扉を開くと、彼は中へ入った。しばらく誰にも手入れされていないのか、教会の中は蜘蛛の巣やネズミの糞でいっぱいだった。ほこりがかぶり、腐って穴の開いた長椅子が五列置かれている。正面にある祭壇には、忘れ去られた神の銅像が静かに佇んでいた。


彼は神という不確かなものは信じていなかった。だから、その銅像に手を合わせることもしない。


雨が降るまで座っていようと、彼は長椅子に腰をおろした。ギシッと古びたイスが悲鳴を上げて少し沈んだ。できるだけ揺らさないようにしようと、彼は背もたれにもたれかかった。


その時、気づいた。


祭壇の前に、一人の少女がいることに。


腰まである金髪に、東方の神事服である巫女服を着ていた。赤いスカートの後ろはめくれて、そこから猫のような尻尾がにゅっと出ていた。頭には狐の耳もある。


少女も彼がいることに気が付いたのか、ゆっくり振り返った。彼女の胸元は大きく開かれていて、彼は視線のやり場に困った。胸元では白銀の十字架が鈍く光っていた。


否。それはもう十字架と呼べないほどに劣化してしまっていた。


片方が欠けてしまい、いうなればト字架となっていた。


「あんたは、誰じゃ?」


突然、少女が彼に声をかけた。彼にゆっくり近づくと、彼女が車いすだということに気づかされた。彼は彼女の可愛らしい顔を見つめながら、答えた。


「俺はウァレ・フォール。ちょっと雨宿りに来ただけだ」


「ウァレ・フォール? ふん。悪趣味な名前じゃな。それが本当だったら、今すぐ追い返しとるとこじゃ」


少女は顔を背けながら言った。ウァレは少し考えて、自分の名前が盗みの悪魔の名前と似ていることに気がついた。少女はそのことを言っているのだった。


「俺は何も盗んだりはしないよ。それより、きみは誰?」


少女は怪訝そうな視線をウァレに向けながら答えた。


「私はエミルカ・トゥバン。ここに勝手に住んどるんじゃ」


「勝手にはダメだろ……」


「ええんじゃ。どうせ誰も使っとらんのんじゃけん」


エミルカはふぅと息を吐いた。いったん祭壇のほうに視線を向けると、彼女は口だけを動かした。何か話しているようだったが、それはウァレに向けられていないことにはすぐ気づいた。しかし、祭壇のほうにも人影はなく、エミルカの行動は不可解だった。


ウァレの訝しげな視線に気が付いたエミルカは、彼に顔を向けて咳払いした。


「……で、ほんまに雨宿りだけなんか? 晴れたら、すぐに出ていくんじゃじゃろうな」


「ああ。すぐに出ていくよ。ただ……この雨、一週間ほど降ってないか?」


空は鈍色で、天から流れた涙が辺りの地面にシミを作っていた。その雨はここ一週間ほど降り続けていて、一向に止む気配はない。雨が上がれば外に出られるが、ウァレはずっと濡れていたため、これ以上濡れるのは嫌だった。


エミルカは外を眺めて、やがてため息をつくとウァレの着ていたローブを指さした。


「とりあえず、それ着替えたら?」






ウァレは教会の奥の部屋に通された。


奥の部屋は二つに分かれていて、まっすぐ前へ行くと厨房のようなところ、廊下の途中にある部屋は仮眠室だった。


厨房に入ると、ここにも長年使われている形跡はなかった。エミルカが管理を怠っている証拠だった。が、彼女がここの家主というわけではないので、管理しないのも当然だろう。


厨房のさらに奥には部屋がもう一つあり、そこにソファーが置かれていた。壁に掛けられた古いネームプレートには『応接室』と書いてある。その横に、シャワーを浴びられるスペースがあった。


ウァレは手早くシャワーを済ませると、ローブを絞った。彼にはそれ以外の服装がないので、濡れていてもそれを着るしかなかった。ウァレは着替えを済ますとシャワー室から出た。


最初の位置——礼拝堂に戻ると、ウァレはエミルカの姿を探した。しかし、彼女は礼拝堂にはいなかった。もしかすると、教会に現れた妖精がウァレを救ってくれたのかもしれない。


「何やっとるんじゃ。邪魔。()よどけ」


——そんなわけもなく、エミルカは厨房から出てきた。


彼女の手にはコーヒーの入った二つのマグカップが握られていた。ウァレはそのうちの片方を受け取ると「ありがと」と礼を言った。エミルカは頬を紅潮させると「気にせんでええ」とそっぽを向いた。


ウァレはコーヒーを飲むと、長椅子に腰かけた。彼の隣にエミルカは移動して祭壇のほうを見上げた。視線を追っていくと、そこには神の銅像があった。


「……信仰心があるんだな」


ふいに、ウァレが呟くと、エミルカはかぶりを振った。


「いや、私にはないんじゃ。ただ、こうしていないといけんだけ……そもそも、人間の信仰心がないだけなんじゃ。私にはある、でもみんなにはない……そうやって見られとうはない」


エミルカは悲しげな、寂しげな表情を浮かべた。


ウァレは彼女の横顔を見て、罪悪感を覚えた。コーヒーを一口飲む。


「……ま、そんなことはどうでもええことじゃけどな。どうせ私は人間に会わんし、信仰心で人を計れるならそれほど楽なことはないじゃろ。じゃけんどうでもええ。私は私じゃし……これからもずっと——」


エミルカの言葉がそこで止まり、ウァレは首を傾げた。が、少女はこれ以上話すことはないと言わんばかりにコーヒーを飲んだ。空になったマグカップを膝に置くと、今度は窓の外を眺めた。


空は相変わらず曇天で、雨はまだ止みそうにない。


ウァレは、それを確認したエミルカが少し微笑んだような気がした。安心して、つい笑ってしまった。


しかし、それは気のせいだったようで、エミルカは次の瞬間にはもとの無表情に戻っていた。膝元のマグカップを眺める彼女を見ていると、ウァレはあることに疑問を持った。


手を伸ばして、うつむいたエミルカの耳を撫でてみた。


「んぁ……ひゃあっ!? な、なにするんじゃ!! この変態っ!」


ビクッと状態をそらして喘いだエミルカは、羞恥に顔を赤くしてウァレを睨み付けた。


「それ、感触あるんだ……ぐはっ」


ウァレは、エミルカの繰り出したこぶしで腹を殴られて息を漏らした。が、全然痛くない。鳩尾に入って少しむせたが、痛いというほどではなかった。それとは反対に、少女は肩で息をしていた。これが彼女の全力だった。


「あー……ごめん」


「ほんまに何してくれとんじゃ、このダボ……」


エミルカは耳をピクリと動かすと、その耳をなでた。


ウァレは彼女の様子が面白くて、つい笑ってしまった。訝しげな視線を向けてきた彼女に謝ると「お詫びに、この教会の掃除をさせてくれ」と頼み込んだ。


エミルカはそれを了承してくれ、水に流してくれた。


正直、ウァレはずっと気になっていたのである。この教会の汚さが。






掃除が終わると、始める前より幾分か明るくなったような気がした。


エミルカは車イスなので届く範囲が狭かった。が、ウァレがすれば大体のことはできた。それらすべてが終わるころには、外が暗くなっていた。


「お疲れ様。今日はここに泊っていったら?」


ウァレはエミルカの言葉をありがたく思い、素直に甘えることにした。


「奥の部屋、使やええけん」


エミルカが言う奥の部屋というのは、仮眠室のことだろう。この教会はもう使われていないにもかかわらず、そこにはいまだにベッドが置いてあるのだ。


しかし——


「俺がそこで寝たら、きみはどこで眠るの?」


さすがに同じベッドで眠るわけにはいかないだろう。


エミルカはうーんと顎に手をやると、


「……私も一緒のベッドで……」


「いや、それはちょっと……俺が礼拝堂で眠ればいいだろ? ここに住んでいるわけじゃないんだし」


「ダメじゃ。来客はもてなすべきじゃろうが。それとも……私と寝るのは嫌なんか?」


エミルカがずいっと体をウァレに近づけて言った。ウァレは困ったように眉根を顰めさせて、ため息を吐いた。


別に、エミルカと眠るのが嫌というわけではない。しかし、一緒に眠ることが問題なのではないか、と思ったのだ。しかし、彼女がそれを気にしていないというのならそれでもいいかと思った。


「……わかったよ。奥の部屋使わせてもらう」


そう言うと、エミルカが笑って頷いた。






ベッドは狭い。


二人で眠ろうとすれば、嫌でも体がくっついてしまう。


ウァレはエミルカの体に触れないように、必死で壁際に身を寄せた。それでも当たってしまうのは仕方ないだろう。彼女の胸が絶壁であることに、今は感謝した。


ウァレが逃げるのを不思議そうに見て、エミルカは彼の手を握った。ウァレは肩を震わせた。


「……なんで逃げるんじゃ……」


「い、いや……逃げてるわけじゃ……」


「ふぅん……」


エミルカはウァレの手を抱きしめるように抱えた。彼女の身体が近づくのを、ウァレは止めることができなかった。せっかく離れた身体は、エミルカの行為によって再び縮んでしまった。


ウァレは彼女に離れろと言ってやろうと、視線を向けた。ちょうど、エミルカがウァレの顔を覗き込んでいて、彼女の視線がぶつかってしまう。ウァレは気まずくなって顔を背けた。


そのとき、エミルカがウァレの手を強く握った。


「……ねぇ……もうちょい、こっちに来い……」


「は? ……なんで……」


「――寂しいんじゃ」


エミルカの頭に生えた、狐の耳が少しだけ下がった。


「ずっと……ずっと独りだった……久しぶりなんじゃ、人間に会うのは……こんな温もりも、こんな緊張も、こんな優しさも……全部久しぶり……」


エミルカが照れるように、頬を紅潮させた。少し微笑みながら、続ける。


「じゃけん、今だけは……ウァレがおらんようになるまでは……あんたと離れたくない……」


ダメ? と、上目に言ってくるエミルカに、ウァレは何も言えなくなる。ただ、壁際に寄せた身体は離した。


彼女の頭をなでた。金色の髪が柔らかく、女の子らしい甘い匂いがする。


彼女の手を握った。柔らかな手は、消えてしまいそうなほどに白い。


彼女を抱きしめた。弱弱しい身体は、緊張で熱っぽい。


彼女の鼓動が聞こえた。彼女の息遣いが近くで感じられ、そのことに安心できた。


彼女を守るように、彼女を一人にさせないように、彼女を一番近くで感じられるように……彼女の華奢な体を抱きしめた。


「……ありがと」


エミルカはそう言って、目を閉じた。安心しきったような、幼げな表情で……。


✝2✝


あくる日、雨はまだ降り続いている。


ウァレは礼拝堂から外の天気を確かめて、かすかに安心している自分に気が付いた。


雨が降っている、ということは、まだ教会にいないといけないことになる。エミルカにこれ以上甘えるのはどうにも申し訳ない気分が湧いてくる……そのはずだった。


しかし、まだ彼女といられるのだ。


彼女を独りにはしたくなかった。こんな寂れた教会で一人暮らしなんて、寂しすぎる。


「早く、雨止むとええな」


そのとき、背後からエミルカの声がした。ウァレは振り返り、彼女の顔を見た。


なぜ彼女がそんなこというのか分からなかった。寂しいはずの彼女は、なぜまた独りになることを望んでいるのだろうか。いや、それは望んでいないのだ。ただ、ウァレの心配をして、彼を無事見送りたいだけなのだ。


「何じゃ、その顔は……」


「い、いや……何でもない」


ウァレは彼女から視線をそらした。そうでもしなければ、天気がどうこうではなく、教会から出られなくなると思ったからだ。


ウァレの不審な行動を、エミルカは首を傾げてみていた。やがて変じゃの、と言うと祭壇のほうへ車いすを走らせた。


忘れられた神の銅像の前で、手を組んで何やら祈り始めた。彼女の日課なのだろう。ウァレは礼拝堂の長椅子に座り、小さな巫女シスターを眺めた。


それにしても、彼女の耳と尻尾はどうなっているのだろうか、とウァレはエミルカの祈祷の間、考えていた。






昼を回っても、雨は止まない。


まるで、空が呪われたようだった。おそらく、全世界でもここまで連続して雨が降ることはないだろう。ここらの地域が何かしらに呪われているのかもしれない、と現実逃避をしていたウァレだったが、目の前にいる存在を否定するには至らなかった。


「俺たちゃ盗賊♪金稼ぎしまくるぜぇ、イェエッ! フ——ッ!」


「……言うこと聞かなければ、殺すわよぉん」


「テンションが無駄に高い盗賊じゃな……」


エミルカが眉間をもみながら言った。ウァレも彼女の台詞には同感だった。


言動通り、盗賊だった。しかし、ウァレの知る盗賊とは何かが違った。ウァレはそれを一目で理解したものの、受け入れることだけはできずにいた。


やがて、ウァレはぼそりと呟く。


「……飛びトカゲ——」


「誰が飛びトカゲだっ! 人間!! 俺たちゃ竜だぜ、イイェエ!」


「うるさい竜だな……」


彼の言動通り、盗賊二人組は竜の形をしていた。


片方の中途半端なラップ口調の竜は、岩山のようなゴツゴツした肌の子どもくらいの身長の竜だ。目元は黒くなっていて、鋭い爪をもっている。


もう片方の竜は、黒い肌に白斑といった目に悪そうな竜だ。長い角を後ろに向けて生やし、巨大な翼をもっている、巨躯の竜だ。


「……どうせこんなとこ()ようが、お金に代わるようなものはないで。ほかを当たったほうがええ」


「ふん。それは俺たちが決めることだぜ!」


「……勝手に探しゃええ。けど、汚した分だけはちゃんと片付けぇよ?」


 強盗がそんなことをするわけがないが、エミルカはそう言った。彼女が妙に手馴れているような気がして、ウァレは少し不思議に思った。


 そのとき、小さいほうの竜が体にまとわせた黒い靄のようなものを、エミルカに向けて放った。


「ぐっ……あぁ……」


「エミルカッ!!」


「だい……じょう……ぶ……きゃあっ!?」


 突如、エミルカの体が何かにたたかれたように、車イスごと倒れた。ガシャンと音を立てた車イスは、何かに押しつぶされたように形を変形させた。


 ウァレは彼女の様子を、額に汗を流しながら見ていた。が。


 次はウァレの番だった。


 小さい方の竜が手をウァレに向けると、そこから放たれた黒い靄が彼の体を包み込んだ。その瞬間、空気に身体がつかまれたような感覚がして身動きが取れなくなった。身体が緊張して、足がうまく機能しなくなり、エミルカ同様にウァレは倒れこんだ。


「ぐ……あぁ……」


「ウァレッ!! ちょっと! こいつはたまたまおっただけじゃけん、関係ない! ()よ開放せぇ!!」


「ふん。俺たちにはそんなこと関係ないぜぇ! イイェエ!!」


「アタシたちの前に現れたなら、みんな敵だわ。解放することなんてできるわけないでしょう?」


「黙れや、このダボ!! おカマ!! 女装癖の変態!!」


「誰がおカマじゃボケェ!! どこから見てもアタシは女だろうがっ!!」


 白斑の竜はそう言ったが、信憑性はなかった。その怒鳴り声は、男の出す声だった。


 もう一匹の竜が彼女(自称)をなだめると、二人で話し始めた。どこから探すか、とかそういった話だ。片方がウァレたちを監視したほうがいいという白斑の竜の意見は、小さい竜に却下された。彼は早く探して早くここから出たいらしい。


 その理由は、この礼拝堂にあった。


 祭壇には、信仰されなくなったとはいえ、神の銅像が鎮座している。その視線が、悪人を戒めているように見えた。彼はそれが嫌なのだろう。白斑の竜も、神の銅像を見ると同じことを思ったらしい。


 話合いが終わると、ウァレたちに大人しくしとけよ、と言って教会の奥へと姿を消した。


 静寂。


 うるさかった竜がいなくなると、ウァレとエミルカは話をしなくなった。


 エミルカは顔を陰らせて俯いていた。彼女には罪悪感があったのだ。


「ごめん、ウァレ……」


「ん? 何が?」


「巻き込んで、ごめん……」

 

「大丈夫だよ、俺は。エミルカは大丈夫か? 苦しかったりしないか?」


「……うん」


 エミルカが少し笑んだような気がした。ウァレは彼女から視線をそらすと、神の銅像を見上げた。それがウァレたちに微笑みかけているように見えた。神を信仰しないウァレでも助けてくれるだろうか。


横に視線を向けると、エミルカが虚空を睨んでいた。


 そのエミルカの口が、突然開かれた。


「――ええけん、(はよ)う助けえ!! 少なくとも、ウァレだけは。……はあ!? 今はそんなこと関係ないじゃろうが!! あんたの依頼、誰が受けちゃりょうるんか分かっとるんか!? ……あーもう! 分かった、分かったけん、早く」


 エミルカが虚空に向かって話しかけているのを見て、ウァレは目を丸くした。エミルカは彼の視線を受けると、一瞬だけウァレを見た。が、すぐに視線を外してしまった。


ウァレは苦笑すると、彼女に話しかけた。


「ずいぶん慣れているようだけど、前にも竜に会ったことがあるのか?」


「うん」


 エミルカは頷くと、少しだけ顔を上げた。彼女の瞳が湿っていて、ウァレは何とも言い難い気分にさせられた。ウァレは続ける。


「そうか。俺は竜見るの初めてだけど、みんなあんな感じなの?」


「竜にも個性があるんじゃ、人間と同じように。人間は竜の【呪い】を恐れて竜狩りしとったんじゃ。じゃけん数は少のうなった。もちろん、竜だって死にたくなんてないけん人間の前から姿を消したんじゃ。じゃけど、絶滅はしてない。数は少ないけど、今も人間の目の触れないところで隠れて住んどるんじゃ。その中で人間と強くかかわったりなんかすると、あいつらみたいに人間臭くなるんじゃ」


「そっか……で、今の俺たちはその竜の【呪い】を受けてるわけか」


「そうじゃな。もともと、敵から身を守るためにあるんじゃけど、あいつら本来の使い方をしてない。まあ、ああやって妙なことに使うのは、あいつらが初めてじゃないんじゃけどな」


 エミルカはそう言って、目の前の虚空を睨み付けた。まるで、そこに何かがあるようだった。


「……義を尽くすために使う【呪い】なら許せるんじゃけどな。ああして、ほかの人間を巻き込んでもどうにも思わんような奴が使(つこ)うとると、ほかの竜が誤解されるんじゃ。……なあ、ウァレ」


 その時、エミルカの視線がウァレへ向いた。ウァレはつい身構えてしまう。彼女の瞳が、これまで以上に真剣なものだったから。


「ウァレは、どう思う? ……人間に危害を加えるかもしれん竜を、あんたは受け入れてくれるか? 確かに、竜の中には悪いことのためにその力を使っとる奴がおる。けど、全員がそうじゃないんじゃ。正義のために使っとる竜もおる。隠れて人間のために使っとる竜もおる。ウァレが会ってないだけで、もっとたくさんの竜が……ウァレは、彼らを認めてくれるんか? 竜は怖い存在かもしれん……それでも――」


 エミルカが、瞳を潤ませて言った。ウァレはしばらく放心したのち、彼女の言葉を考えてみた。


 しかし、その答えは前から決まっているようだった。


 ウァレは、彼女の質問に答える。


「認めるもなにも、竜がいるならいるだろ。俺が認めなくとも、竜はいるし、それを否定するなんてできない。それに、竜が人間から隠れて暮らすようになったのも人間のせいだしな。少しは俺たちにも責任があるさ――だから、俺は竜の存在を認めるよ」


「……そう」


 その時、エミルカが少しだけ笑ったような気がした。


 ウァレはそれに安心して、頬を綻ばせた。


「何はともあれ、今はこの状況、どうにかしないとな」


 竜に呪われているせいで、ウァレたちは身動きが取れない。普通に縄で縛るよりも、もっと楽で厳しい環境だった。縄なら、それなりの達人でもなれば縄抜けくらいはやって見せるだろう。


しかし、竜の呪いは体の芯から響いているようにも感じた。身体の芯から、ウァレたちは縛られているのだ。縄抜けのスキルなど、あったところでどうこうできるわけではない。


 その時、奥の部屋から怒声が響いてきた。あまりにも金目になるものがないせいで、怒っているようだった。エミルカは眉間にしわを寄せると「じゃけん、()うたじゃろうに」と呟いた。


 この教会には、宗教画が飾られていたが、それが何を意味するわけでもなく、値が高くつくわけでもない。だから二匹の竜は苛立っているのだ。


 彼らには美的センスがあるのだろう。そういったスキルは、強盗などの犯罪に使われるべきではないような気もするが、彼らにそう説いても返ってくるのは侮蔑の視線だけだろう。


「……はよう、どっかいきゃええんじゃけどな……」


「……ごめん。訛りすぎて何言ってるか分からない」


 気にするな、という風にエミルカは顔を背けた。彼女自身、自分が訛っていることを分かっているのだろうか。


「知っとるか? ぼっけぇとかもんげーとか、普段は使わんのんじゃで。使うとしても、どっか知らん、田舎のほうだけじゃ。田舎ですら使わんとこもあるんじゃけどな。ルーズなんじゃ、要するに。というか、どれが方言なんかよう分からんとこもあるしな」


「そんな方言の闇の部分を聞かされてもな……」


 大体、どこの方言なのかさえウァレには分からなかった。エミルカは笑って気にするな、と言った。彼女なりに、今の状況から目をそらしているのだろう。


 二匹の竜が戻るまで、しばし談笑していると、やがて戻ってきた二匹の竜が肩を落としていた。


「どうじゃ? 満足したんか?」


 エミルカがからかうように訊くと、小さい竜がキッと視線を鋭くさせた。


「どこにもない……教会のどこにも、金目になるものがない!? そんなわけないだろ!? どこかにあるはずだ! 教えろ!!」


「ここは廃教会じゃ。使われんようになったけん、あんたたちみたいな強盗に何かしら盗まれんように、誰かが持って行ったんじゃろう」


「嘘を吐くなっ! じゃあ、なんでお前たちはここにいる!?」


「私は勝手に住んどるだけ。ウァレは雨宿りじゃ。この教会のことも詳しゅうない。じゃけぇ、早よ【呪い】を解け!」


 エミルカのセリフに二匹の竜は呻いた。このままでは、自分たちがバカ正直に姿を現しただけになる。


 強盗というのは、利益が手に入らなければ意味がない。それよか、利益が手に入らないくせに姿を現すのは愚鈍だ。姿を見られたら、そのことを忘れさせるしかないのだ。


 しかし、人の記憶という複雑なシステムを壊すには、彼らの力では無理だ。


 ゆえに、もっと簡単な作業を行うに決まっているのだ。


 だから――エミルカは苦悶の声を上げた。


「きゃああぁぁぁああっぁっ!!」


「エミルカ!?」


「死ねぇ……死ねよ! アタシの【呪い】――膨張で、体を破裂させてやるぅっっ!!」


「あぁ……うんぐ……ぐぁ……」


「やめろ!! エミルカを殺すな!!」


 ウァレは立ち上がり、白斑の竜に飛び掛かった。白斑の竜はそれに驚いて、目を見開く。


「なんで動ける!? あぁ!! やっぱりもう一匹いた!! しかも、嫌われ者の陰陽の竜(ヴェンティス)!! 早く止めなさい!!」


 白斑の竜のセリフを聞いて、小さい竜が慌てて体に黒い靄を発生させた。【呪い】の準備動作だ。ウァレはそれに構わずに、白斑の竜の首に自分の腕を回した。


女の体にまとった黒い靄に触れると、胃が逆流しそうな不快感に襲われた。全身が脱力し、力がうまく入れられない。それでも、彼はその手を離さない。


 一人の少女を救うために、彼は全力でしがみついた。


「くそッ……くそう!? 離れろっ! 人間のガキィィィ!!」


「くっ……っがは……」


 白斑の竜の【呪い】が、自分に向いたのを感じて――


「ウァレェェェェッッッ!!」


 彼は破裂して――塵になった。


              ✝3✝


「そんな……あぁ……あぁぁっっ!!」


 エミルカは泣き叫ぶ。


 ついさっきまで話をしていた青年――彼が消えた空気をかき集めるように、必死で腕を動かした。が、彼は塵になって何も残ってはいない。


「ウァレ……――ウァレ…………ウァレ――…………ッ」


 そして、彼女は二匹の竜を睨み付ける。


 その右手を掲げ、


 憎悪と悪辣と悦楽が入り乱れた、祝福の権化(のろいのことば)を述べる――


我の(Paradisi)の天( anticipa)(tio)( ad)据え( populum)し者( nostrum,)

    ――我は(Diripie)汝を⁅(ntium)奪⁆いさり( nostib)――

       希望(CYMBALON)なく( flores)( sunt)( absque)( ulla)く華(speire)の弁(exactos)

          ――汝、(Serio)を⁅(occidere)(te,)⁆す(quia)まじ(nos,)――」


 その時、エミルカの瞳が赤く光る。

 その時、エミルカの手に光が集まる。


 その時、エミルカの周りに黒い霧が立ち込める。


 そして、人でなくなったエミルカは――人を犯す。


「――【孤独(Curse)】――ッッ!!」


              ✝4✝


『妾は竜なりて、汝を救う枷となる。分かるか? 若造』


「は、はあ……」


 ウァレは目を覚まして、目の前の竜と対峙する。


 しかし、その姿が見えているわけではない。その竜は、自分を竜だと名乗っているだけで、空気のように透明で見えないのだ。


 大きさも姿も分からない……しかし、その声は幼い少女のようだった。


『分かってないようじゃのぉ。残念残念』


 ウァレは首を傾げた。彼女の言おうとしていることが、まったく理解できなかったからだ。そして、今はそんなことをしている場合ではなかった。


「その話はいいから、早くエミルカを助けないと!」


『どうやって? おぬしは死んだのだぞ? そして、ここは生と死の間――境界……人間如きじゃここから抜け出せはできぬ。妾の力を借りねばな』


「じゃあ、早く出してくれ。エミルカを救う。お前がどんな竜なのかは知らねぇけど、俺はあいつを助けないといけないんだ!」


『それはなぜ? 昨日会ったばかりでないか。雨宿りで、おぬしはそこにいただけであろう? ならなぜ、彼女を救いたいんだ?』


「今はそんなことに答えてる暇はないだろう!? お前だって、分かっているはずだ!」


「いいから答えなさい、若造」


 幼げな声が、鋭くウァレを突き刺すように言った。


 ウァレは仕方ないと息を吐いた。


「……俺が、ずっと独りだったからだ」


『独り? それがなぜ、彼女を救うことになる?』


 竜は問う。


 人間(ウァレ)は答える。


「俺は、身寄りがなくて、施設でずっと縛られて過ごしてきた。それから解放されたのが昨日……施設の外で、初めて会ったのが彼女だったんだ。俺は苦しかった……エミルカも、ずっと苦しかったに違いない! ずっと独りで、寂しかったに違いない!!」


 ウァレは、思ったことすべてを、目の前の竜にぶつけた。


「ベッドの中で、あいつは甘えてきた。俺だって、エミルカの年くらいの頃には、誰かに甘えたかった。一人じゃ寂しかった! でも、俺には近くに仲間がいた……みんないなくなったけど、それでもいたんだ……今のエミルカには、誰もいない。だから、彼女を見つけた俺が彼女のそばにいる!! だから、ここで死ぬわけにも、彼女を助けられないのもいや何だっ!! さあ、早く俺を……元に戻しやがれっ!!」


『――了承(Carse)♡』


 竜は笑い、ウァレの中に入っていった。


「うがぁあっぁああぁぁぁぁあぁぁっっ!!」


 顔が焼ける。

 皮膚が爛れるほどに、焼ける。

 熱い。

 熱した鉄板の上で炎に包まれるように熱い。

 

 ――耐えろ耐えろ!!


「ぐっ……くぉ……」


 ウァレは念じる。


 全ては彼女を救うため、

 全ては彼女を見るため、

 全ては彼女とともに歩むため――ウァレは。






 ウァレは、エミルカの手を握りしめた。


 忌々しい、力のこもった手を、ウァレの手が優しく包み込む。その瞬間、エミルカの力は霧散した。


「ウァレ……っ! まさか――っ!?」


「ただいま、エミルカ」


 ウァレはそう笑って、血が流れ出る唇をゆがませた。その顔は、言い表しようがないほどに醜い。


「バカなっ!? なぜ……さっき爆発したじゃねぇかYO!!」


『うるさいぞ、俗物』


 ウァレの口から、ウァレではない、何かが言った。


『妾の友を、よくも傷つけたな。妾の友を、よくも穢したな。妾の友を、よくも殺したな。罪は三つ。じゃが、貴様ら如きの命いくつでそれが支払えるだろうか?』


 ウァレが振り返る。そこに、先ほどまでのウァレの姿はない。


 左半分は焼けただれ、唇からは常に鮮血を流している。左目はなくなって瞼が落ち窪み、唯一残る右目は赤黒い。


 魔だ、と誰かが言った。

 闇だ、と誰かが悟った。

 罪だ、と誰かが語った。


「俺は、お前たちを赦さない。エミルカを傷つけようとしたお前たちを、許さないっ!!」


 そして、人間ではなくなったウァレは、


 己の自己満足に満ちた、呪いの言葉(くだらないせりふ)を吐く。


「――(Facti)は純(sumus)(de)なり(corde)(puro)

    (Shi)は≪(facti)童≫に(sumus)なりし(parvuli)――

      (Nos)は魔(facti)(a)りて(daemone)

        (Et)は≪(revesus)(est)≫へと(ad)還り(me,)し者(ut)――」


「「ひいぃぃぃぃいいいぃっっぃいぃっ!?」」


 ウァレの周囲に、黒い靄が立ち込める――。


「――【従僕刺鍼(Curse)】――ッ!」


「「うわあぁぁぁぁぁああぁぁっっ!?」」


 そして、二匹の竜は、生き物の反対――静物になって転がった。


              ✝5✝


「ええと……確かここにあったはずじゃ……あ! あった!!」


 エミルカが嬉しそうに走ってくるのを、ウァレは静かに見ていた。彼女の手には、狐の面があった。


「これなら、ちょうどええじゃろう」


「ああ。確かにこれなら」


 ウァレはそのお面をつけた。右上半分がなくなってしまった狐面だった。しかし、今のウァレにはちょうどいい。これをつけていれば、多少怪しまれはするが、気にするほどのことではないだろう。


「ありがとう、エミルカ」


 ウァレは言って、彼女の頭をなでます。エミルカは嫌そうに口をとがらせていましたが、彼女の尻尾は嬉しそうに踊っていました。ウァレは苦笑して、頭をなで続けました。


「……にしても、ヴェンティスがあんたを選ぶなんて……」


「その、ヴェンティスって何だ? あの透明な竜……」


 ウァレが一旦この世から消えたとき、彼はその竜に会った。しかし、その姿かたちは見えず、透明だった。


 エミルカは顎に手を当てると、車イスの肘掛けに手を置いた。車イスは壊れていたはずだったが、どういうわけか直っていた。


「ヴェンティスは陰陽の竜……つまり、『正と偽を逆にする【呪い】』をもつ竜じゃ。あんたが来る前に、ヴェンティスから依頼があったんじゃ」


「依頼?」


 そう、とエミルカは頷く。


「ヴェンティスは人間には見えない竜……じゃけん、人間から狙われやすいんじゃ。特にどこかの国と戦っている国とかじゃな。ヴェンティスの皮膚を使えば、自分たちの兵器を透明にすることができる、そう考えとったんじゃろう。じゃけえ、ヴェンティスは誰にも狙われんようになる、器を探しとった」


「器……それが俺っていうわけか?」


「うん。人間の中におれば、敵国でもない限りは殺したりはせんじゃろうし、そもそも誰が一人の男の中にそんな竜がおるなんて、考えとるんじゃ。じゃけん、私はヴェンティスをここにいさせた。ここに来る人間を試せばええじゃろうってな。するとあんたがやってきて、結果的にヴェンティスに認められたわけじゃ」


「ふうん……」


 ヴェンティスが自分の中にいる自覚はない。しかし、自分が一旦死んだことに変わりはなかった。ヴェンティスの持つ【呪い】が証拠だ。


 すなわち、『死』の反対は『生』だと。


 ウァレは死にながらも生きていることになる。それに違和感がするが、彼はそれを認めることしかできない。


「……人間が入ってこれんように、ここら一帯は呪われとったんじゃ」


ふいに、エミルカが話し始める。ウァレは首をかしげながら窓の外を見た。そこに雨はなく、日差しが降り注いでいた。


「竜に関わる人間しか入ってこれんように、竜とは関係のないやつに集中的に悪天候にする【呪い】……それがあんたの頭上にあって、本来、こんなとこにこれるわけなかったんじゃけどな」


「なんだよ、その悪意の塊……」


「……で、雨は上がったけど、どうするんじゃ? これから」


「雨が上がった? お前の目は節穴か」


「は?」


 不機嫌そうに、エミルカは彼を睨み付けた。それもそうだ。実際に雨は上がっているし、太陽の光が降り注いでいる。節穴なのは、ウァレのほうだった。


 でも、今はそれでいい。


 今だけは、それでいいんだ。


「……俺には雨が見える。だから、もうちょっと雨宿りさせて」


 ウァレが言うと、エミルカは照れたように頬を赤く染めた。


「べ、別にいいけど……その雨宿りはいつまで?」


「さあ? 俺の目から雨が消えるまでだろ」


 ウァレはそう言って、エミルカの頭をなでた。エミルカは涙をぬぐう(・・・・・)と、


「――雨は消えた。じゃけん、はよ行け!」


「知らねぇよ。寂しそうにしてるガキおいて、晴れた空の下に行けるわけないだろうが」


「ば、バカ……別に寂しくなんてないけん。いきゃあええんじゃ。私は……大丈夫だから……」


「ならあえて言うぞ――嫌だ。俺はエミルカと離れたくない。ずっと一緒にいさせろ」


 ウァレは、彼女の小軀を抱きしめ、耳元でささやいた。


「これからもずっと一緒にいさせてくれ。というか、お前の許可なんていらないだろ? だって、ここはお前が勝手に住んでるだけだ。なら、俺も勝手にここに住む」


「……屁理屈じゃ」


「ふん。なんだそれ。俺は知らない。そんな言葉。……なら、こうすればいいのか?」


 ウァレは、彼女から体を離し、彼女の額にキスをする。


「にゃっあ!?」


 エミルカが顔を真っ赤にして、ウァレから身を引いた。それでもウァレは彼女の体を離さなかった。否――。


――離せなかった。


「ぐああぁぁあっ!? なんだこれ!? 熱い!?」


「ば、バカ!! 何やってんのよあんたは!?」


 身体が熱くなり、ウァレはヴェンティスでも同じことが起きたな、と思い出していた。


 額が、釘で引き裂かれていくように痛かった。赤く熱した釘が、ウァレの額を十字に穿ち……ふと、それが消えた。


 急激な脱力感に襲われ、ウァレはエミルカに倒れ掛かった。エミルカを下敷きにしてしまったが、ウァレは痛みと痺れで動けなかった。


「ああ……本当にバカ。勝手に契約しちゃって……」


「契約……? なんの話だよ?」


 幸い、口だけは動かせたので、ウァレは訊いた。エミルカは眉間にしわを寄せると、


「私とキスをすると、勝手に(しもべ)にされるんじゃ。ウァレはその契約を勝手にしたことになって、今をもって、あんたは完全に人間じゃなくなった」


「は?」


「あんたは今、竜の力を宿した人間の恰好をした天使の従僕……なんじゃ、この肩書は……」


「天使って……じゃあ、お前は――」


 エミルカは頷く。


「私は天使――エミルカ・トゥバン。そして、竜と人間を繋ぐもの――【猫ノ狐】でもあるんじゃ。あんたは私の従僕、ウァレ・フェール……そこに一つ付け足して、これからはウァレ・フォール・エルタニルになったんじゃ」


「そっか……俺はお前の従僕か……」


 ウァレは微笑む。

 

 エミルカは嫌そうに顔をゆがめると、


「なんじゃお前……変な趣味があるとかじゃないんじゃろうな……」


「そういうわけじゃないさ。ただ、これからもずっと、エミルカのそばにいられることがうれしいだけ……」


 ウァレは、倒れたままの彼女の髪を梳いた。エミルカは顔を赤くすると、「早くどいて……」と力なく言った。


「……嫌だ。もう少し、このままで……」


「もう、仕方ない従僕ね……」


 エミルカはそうつぶやき、優しくウァレの頭をなでた。



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