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空と空似した空けている空虚なぼく

真夜中のテンションって怖いんだな、と、改めて思いました。

『空』と言う言葉を沢山使おうと思って書き始めました。


少々、わざと曖昧にしてみました。

「あの空、君に似てるね」

 という、空覚えな君の声がどこかから聞こえてきたような気がした。もう、君の声を聞くことなんて二度とできないのに聞こえてきた気がした。

 これは、きっと、ただの執着でしかないのだろう。聞こえてきた気がする声もただの空音でしかなくて。流れ落ちてきた涙もきっと空涙でしかないのだろう。

「あー」

 声を出してみた。

 何も思わなかった。

 面白いと思った。

 面白いと思わなかった。

 空空漠漠とした空き家に空しくぼくの声が反響した。……おかしいな、こんなことしている場合じゃないのに。多分、きっと、ぼくは自暴自棄になってしまっているのだろうと考えた。空理でしかなかった。無意味だった。

 君がいなくなったことでぽっかりと空いてしまった風穴は空風をよく通して、少し寒く感じる。暖かい筈なのに何かがかけてしまって温もりは逃げていってしまった。

 ぼくがなぜかいる空き家の空き室から空が見えた。大きな穴が空いている。ぼくの心のように大きな穴が空いている。そこから見える空色の空は雲がひとつだけ浮いていた。

 ふわふわと。

 ふわふわと。

「ふふふ………はははっあはははは!」

 空元気で笑い声をあげてみた。

 そしたら、お腹が鳴った。

 どうやら、こんな状態でも空腹になるらしい。ぼくはどうやら空恐ろしい精神力を持ち合わせているらしい。新たな発見である。何処かにメモをしておかなければ。

 ぼくは、しょうがなく立ち上がって使えるかわからない台所に向かってみた。無論、冷蔵庫はなく空虚な空間があるだけだが、コンロは確かめてみる価値はある。

 旧式のコンロに火をつけようとしてみたが何もつく気配はなかった。まさか、酸素が足りないわけはないだろうから普通にガスが止まっているか、壊れているのだろう。まあ、それはそれでよかった。今のぼくはコンロに顔面を押し付けかねないだろうから。

 そういえば君は「私が死んでも、貴方は生きる。貴方が死んでも、私は生きる。わかった? 私は生きるの。約束だよ?」とか言っていたな。その時は空念仏で「わかった」とかいったような気がするけど、よくよく考えたらこれを守る必要性はないんじゃないかと思う。

 しかし、ここにはロープは愚か、ナイフもない。自分で頭をぶつけ続けて打撲死などという空説じみた空前絶後な事はぼくには出来ないだろうから約束を破ることも出来ない。あーあ、どうしろと言うんだ。

 しょうがない。

 別の部屋も空き巣の如く探索することにしよう。

 ぼくはゆらゆらと、ゆらゆらと揺れながら、何故かいた部屋から出ていってぎしぎしと鳴る廊下を歩いてから左側の扉を開けようとした。なんだか、不思議な臭いがする。開けない方が良さそうだ。ぼくは、方向転換して右の方へ歩いていって不思議な臭いがする部屋の隣の部屋をノックした。返事はない。あるほうが驚く。ここは空き家だ。返事があったら空き家ではなくなってしまう。

 ぼくは扉を開けて「おじゃまします」と品行方正な人っぽく空々しく言ってから中に入った。

 内装はさっきの部屋と変わらない。というか、天井に空いた大きな風穴も同じである。

「…………あれ」

 どうやら、何を思ったのか同じ部屋に入ってしまったようだ。とうとう、頭がイカれたらしい。もしくは逝かれたらしい。

 ぼくは、扉を開けて右に曲がった。確か、左側の扉には近寄らない方がよかったはず。ゆらゆらとゆらゆらと揺れながらぎしぎしと鳴る廊下を歩いて隣の扉の前に立った。ぼくはとりあえず扉をノックした。返事はない。あるほうが驚く。ここは空き家だ。返事があったら空き家ではなくなってしまう。

 ぼくは扉を開けて「おじゃまします」と品行方正な人っぽく空々しく言ってから中に入った。

 内装はさっきの部屋と変わらない。しかし、天井の風穴はないから先程までいた部屋とは違う部屋なのだろう。それに空気の温度が少しだけ違う気がする。多分、風穴が空いていないから空気が密閉されていたのだろう。空理でしかなかった。無意味だった。

 ぼくは部屋の中へ入っていって探索を始める。

 すると、なんと驚き、台所にロープとハサミとガムテープとコンビニのビニール袋が置いてあった。ぼくは、スキップ混じりに台所の方へ向かっていき、コンビニのビニール袋の中を覗いた。ビニール袋の中にはカレーパンが入っていた。

 そういえば、君が好きな食べ物はカレーパンだったな。「神様が作ったのはカレーパンと偶数だけなんだよ」とかわけわからない事を言っていたのを空覚えだけど思い出す。その時は、カレーを作らないでカレーパンを作るなんて神様とやらは器用だなとか、整数を作らないで偶数を作るなんて神様は器用なんだなとぼくは思った。今となってはもう、役に立つことはない情報だが。

 カレーパンの賞味期限は一日ほど過ぎているが食べられないことはあるまい。空き腹をどうにかすることは出来そうだ。腹が減っては戦は出来ぬ、というけれど、戦わざるもの食うべからずのことも考えると、戦わないと食べてはいけないのに空腹では戦は出来ないとある意味ダブルバインドに陥っている気がする。気のせいだろうか。

 ぼくは袋を開けてカレーパンをくわえながらハサミとロープとガムテープを手にとって見比べる。

 いやしかし、これで彼女との約束は破ることが出来そうだけど、なんだろう、前は人がいたみたいな感じの空き家は。カレーパンの賞味期限を見る限りこの間まで人がいたみたいだ。さっき、空元気で笑い声をあげてみたから人がいたらぼくがいることはわかりそうなものだけど。少し、不気味である。

 まあ、そんなことを気にしていても仕方ないのだろう。どうせ、すぐに彼女の後を追うのだから、くだらない塵芥の事を考えていたって無駄である。それに、人がいるならちょうどいい。ぼくの死体を発見してくれるだろうから。まさか、カレーパンをパクられた恨みで放置されるわけもないだろうし。

 そうだ、隣の部屋のぼくにそっくりな大きな風穴から空風を感じながら空色の空を眺めてこの世から消えよう。ぼくは、そう考えてガムテープとハサミとロープをビニール袋の中に入れてカレーパンを食べながら歩いて、扉から出た。廊下をぎしぎしといわせながらゆらゆらとゆらゆらと歩いて、右側にある部屋の扉の前に立ちノックした。返事はない。あるほうが驚く。ここは空き家だ。返事があったら空き家ではなくなってしまう。

 ぼくは扉を開けて「おじゃまします」と品行方正な人っぽく空々しく言ってから中に入った。

 内装はさっきの部屋と変わらない。そして、天井に穴が開いていた。相変わらず、雲が一つだけ空しく浮いている。

 ふわふわと。

 ふわふわと。

 風は強いのに、雲は相変わらずそこにあるなんて不思議なこともあるんだな、と多分、ぼくは思った。

 ぼくは、そこら辺を歩きながらロープをかけるのにちょうど良さそうな柱を探した。ガムテープで車の隙間と排気ガスが出るところを閉じてエンジンをかけ、一酸化中毒でこの世を去る方法もあるけれど、一番、やりはじめたら取り返しがつかないのは首吊りだろう。一回、浮いてしまったら二度と地面に足をつけることは出来ない。意識が落ちるまで嫌でも苦しみ続ける。

 ぼくにはお似合いだ。

 似合いすぎて笑ってしまう。

 笑わないけど。

 ぼくは運良く、ちょうど良さそうな縄をかける場所を見つけた。よし、これなら十分すぎて十二分だ。この位置から空色の空が覗けるかは微妙だけど、まあ、悪くはない条件は整っている。

 ロープの先で輪を作って、ガムテープを輪の中に通した。ロープを引っ掻けるために投げたときにロープの先がぼくの方に落ちてくるような工夫。果たして、少ししかない空隙にロープを的確に投げれるかは愚問だけど。ぼくにそんな器用なこと出来るわけないだろうけれど、軽く百回ぐらいは頑張ってみることにした。

 そんなことするなら踏み台を探した方が早いような気がするけれど、探すのも億劫だし、ぼくらしく地味に地道にやろう。

 ふと、君が生きていたらいいのにな。と思った。

 そうしたら、こんなことしていなかっただろうに。勿論、君が生きているなんて机上の空論でしかない事はわかりきっている。死者再生なんて空言あり得るわけがあるまいし。「死者再生の儀式とか覚えてるから安心してね」とかなんたら彼女は言っていた記憶があるけれど、あったとしてもぼくは知らないし、そんなもの信じてはないない。

 命は一つ。

 これがセオリーである。

「……あ、そうだ」

 この世おさらばする前に、左隣の部屋を確認してみよう。あの不思議な臭いは何なのか確認してからこの世を去るのも悪くはないだろう。

 ぼくはふらふらと立ち上がって歩いて、扉を開けて左に曲がった。ゆらゆらとゆらゆらと揺れながらぎしぎしと危ない音がする廊下を歩いて、左側の部屋をノックした。返事はない。あれ、不思議だな返事がないなんてなんだか不思議だ。何でだか忘れたけどとても不思議である。

 ぼくは扉を開けて「おじゃまします」と品行方正な人っぽく空々しく言ってから中に入った。

 内装はさっきの部屋と変わらない。穴も空いていない。

 かわりに人が浮いていた。

「…………」

 腕を拘束されているということは誰かに殺されたのだろう。ぼくが隣の隣の部屋から見つけてきたロープにそっくりなもので()のか弱い首を締め上げていた。意識はない。死んでいるのだろう。

 開かれた目は空虚で空しく。

 開かれた口は空っぽで。

 不思議だな。

 どうして、君がこんなところで死んでいるのだろう。まるで、ぼくが殺しちゃったみたいじゃないか。そんな空論、誰も信じない。ぼくも信じない。君も信じない。君を信じない。何を信じればいい? ぼく? 君? 現実? 嘘? 嘘? 嘘?

 とりあえず、ぼくは嘘を信じることにした。

 どうやら、ぼくの記憶の一部が勝手に変わっているらしい。人間は容量を越えた辛いことがあると忘れる習性があるらしいし。もし、ぼくが殺してしまったのだとすればとっくの昔からぼくの頭はイカれていたのだろう。もしくは逝かれていたのだろう。

 それにしてもさっきから手首が疼く。ぼくは、なんだろうと思って手首を見ると何だか締め付けられたような痕が赤く残っていた。

 締め付けられた?

 よく、覚えていない。

 容量オーバーになりそうだ。また、記憶が飛ばれても困る。一旦、考えるのを止めよう。空っぽになろう。何も考えずに、思考を止めて、君だけを、空ろな目で、見る。

 君は死んだ。

 その事実さえ分かっていればいいじゃないか。まさか、死者再生の儀式があるわけでもないし。君は生き返らない。なら、ぼくがやることは変わらない。君の後を追う。曖昧模糊とした考え事は地獄か天国か三途の川で全部、君に訊こう。

 とりあえず、今、君に聞きたいことは一つ。どうやって、ロープを引っかけたんだろうな? と訊きたい。

 是非、教えてほしい。

 ぼくが、この世を去るという事をするにあたって一番の難関はロープを引っかける事だろう。骨が折れる作業だ。骨がいつ折れてもおかしくない。というか、死者に口なしとかいうし死んでしまっている君にロープの引っかけ方なんて聞けるわけもない。死人が喋り出したらぼくは泣き叫びながらこの場から走り去るだろう。

 君が死んでいるこの場所でぼくがやるべきことは何もないと判断し、ぼくは不思議な臭いがするはずの部屋から出た。鼻がなれてしまったのか臭いはしなくなってしまった。さすがに末期である。

 ぼくはぎしぎしと空恐ろしい音がなる廊下をゆらゆらとゆらゆらと歩いてから隣の部屋をノックした。返事はない。あるほうが驚く。ここは空き家だ。返事があったら空き家ではなくなってしまう。

 ぼくは扉を開けて「おじゃまします」と品行方正な人っぽく空々しく言ってから中に入った。

 内装はさっきの部屋と変わらない。天井に穴が開いている。ハサミとガムテープとロープが落ちている。おかしいな、ガムテープを使った記憶がないのに隅の方に使ったあとらしきガムテープが放って落ちている。ぼくは、先程作ったロープとガムテープの謎の工作を拾い上げて、上に投げてみた。

 引っかける予定の近くの天井にガツンとあたってガムテープは床に落ちた。

「あーあ……」

 ぼくは諦めた。

 もしくは、死のうとすることに飽きた。飽々した。こんな、苦労をして骨をバキバキに折らなくてももっと楽にこの世を去る方法があるだろう。

 例えば、君の死体が腐敗するのを待って、死体が崩れ落ちてから君の死体を踏み台にして空所になったロープを自分の首にかける。という方法がある。我ながらいい線を行っている作戦だと思われる。しかし、それをやるには君の死体が腐敗するのを待たなくてはならない。何ヵ月かかるかわからないけれど、待ってみることにしよう。ぼくが、餓死するのが先か首吊り自殺をするのが先か精神がぬのが先か。誰にもわからない。ぼくにもきみにも神様にも嘘にもわからない。わからない。

 ぼくは、とりあえず餓死を阻止しようと体力を温存する作戦に出ることにした。別に眠くないけれど、空寝をしておいて損はしないだろう。空涙を流しながら深く深く眠ろう。ぼくは部屋の片隅にある空隙に丸くなって眠ることにした。

 眠りに落ちる直前に「あの空、君に似てるね」という、空覚えな君の声がどこかから聞こえてきたような気がした。もう、君の声を聞くことなんて二度とできないのに聞こえてきた気がした。

 ―――大好きな君の声が。

 ―――――聞こえた気がした。

 ―――――――それはきっと空耳なのだろう。


駄作を読んでいただきありがとうございました(土下座)

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