70羽:右手の温もりと力
そこは黒く青く深い
そこは白く赤く狭い
見回すと深い森の中にポツンと何もない空間が広がる
そこだけ時間が止まっているように
その時間だけ音が消えているように
何もかも無い場所だ
いや色々なモノがそこにあり過ぎるのか
しその中には何かがいる
身を潜め外を伺い、今にも孵化する卵のように
誰かが声をかけるのを待っているのか
自分で起きるのを分かっているのか
とにかくそこにいる
本能で自分と同じモノを見つけ探す
ワタシと似たモノに嫌悪する
世界をここと同じ色にするために・・・・
☆
久しぶりに『大砦』に帰って来た
ヴェルネア帝国の侵攻の知らせを聞き、急ぎ部隊を編制し、帝国軍を強襲、その後は宿場街経由でベール王国王都まで行き、そこから、大村まで王国の親善使者を連れて行き、ここまで戻って来た
ここを出発した時もドタバタだったが、戻って来た今回もかなりの強行軍だ
わざわざ大村まで来た白猫姫様が編成した部隊と、精霊神官達を引き連れての帰還となった
大砦の中は出発した時とそんなには変わっていなかった
しかし、雰囲気がいつもと違う
砦の戦士達は皆厳戒態勢をとっており、完全武装した戦士達が砦の中の各所にいた
近隣の砦からも援軍が来ているのだろう
見た事のない顔の戦士達もちらほら見えていた
そんな彼らも大村から援軍を連れて帰還した白姫ちゃんの姿を見て歓声を上げて迎えていた
帰還してすぐだったが、早速主だった幹部隊長が集まり今後の作戦を決める事となる
小隊長なの何故かいつものように司令官室にオレも呼ばれて行く
最高司令官である『白猫姫』を始め、女戦士『黒豹の爪』、弓の達人『白狼の尾』、軍師『知恵の実』セリーナ、大村のから来た精霊大神官のばあちゃんや、各部隊の大隊長が集まっていた
「それじゃあ、状況説明よろしくね」
全員が揃ったのを確認して、司令官である白姫ちゃんが留守を任せていた黒豹の爪に話をふる
「先日、魔の森を巡回していた戦士から報告があった。これまでに見た事のないような種類の『魔素』を見つけたと。
その規模も大きく、多くの魔獣が周辺を闊歩していたので、近くに行き詳細を調べる事は出来なかった
同行した精霊神官によると、もしかしたら『真の魔素』かもしれないという事だった。現在は活発な動きは見当たらないが、見張りをつけ警戒中だ」
黒豹の爪ちゃんはいつもより険しい顔で説明をする
「ふむふむ、それは非常に興味深いわ。
もしも『真の魔素』だとしたら大至急『浄化』しなくちゃだめだわ。
この大砦に最低限の守備部隊を残しつつ、偵察部隊を先行させ、本隊は大砦と大村の精鋭部隊で周辺の魔獣を駆逐し、大神官様をはじめとする精霊神官達によって浄化する作戦でいくわ」
軍師であるセリナちゃんは会議テーブルの上の魔の森の地図を指差しながら、作戦を説明する
その作戦を聞く皆の表情は固い
(そもそも『真の魔素』って何だろう・・・・とても今更聞ける雰囲気ではないな)
状況が分からず、そう思うオレは作戦を聞いているふりをする
「皆の者、『真の魔素』と聞いて恐れるのではないのだよ。今は10数年前とは違う。
我々は新しい武具を揃え、強靭な戦士団も増え、才能ある精霊神官達の力と数も増している。
日々集団訓練と個々の厳しい鍛錬を積み、あれから今まで一度も魔に屈してはいないのだよ。
今こそ皆の力を結集し、魔を打破するのだ!」
皆の固い雰囲気を察したのか、白姫ちゃんは勇気づけようと激を飛ばす
(あの面倒臭がりの白姫ちゃんがこんなにも気合を入れているなんて、もしかして、とても危険な状況なのかもしれない・・・・オレも頑張らないとな)
そう思いつつ心の中で気合を入れる
☆
作戦が決まり、各自出発の準備をする
先ほど先発した偵察部隊に続き、明日の早朝に本隊が出発する
オレも自分の小隊の副長たちに声をかけ、最終的な打ち合わせをする
優秀な副官たちはオレの指示を最大限に理解して行動してくれる
副官って有難い
オレは自分の小隊長の部屋に戻り出発の準備をしていると、入口の扉をノックする音がする
コンコン
「どーぞ」
オレは荷造りしながら返事をする
「失礼します」
この大砦では聞いたことのない女性の声だ
しかし、間違いなく聞き覚えがある
オレは大慌てで振り向きその姿を確認する
純白の神官着を全身にまとい、その素肌は色白で透き通るようなきめ細かい肌
顔は少し無表情だが大きな瞳はキレイに輝きオレを見つめている
そして、その胸元はゆったりした神官着の上からでも分かる位、大きく膨らみ形のいいバストを強調している
数年ぶりに会うその姿(胸)は益々神々しさを増し輝いて見えていた
(精霊神官ちゃんだ!)
「お久しぶりです『魔獣喰い』様。今回私も修業を終えて、この浄化の役割を担当する事になり挨拶に来ました」
久しぶりに聞く精霊神官ちゃんの声は少し大人びいているが、それでも人をほんわかさせる暖かさがある
「こちらこそ、わざわざありがとうございます。最近大村でも見ないと思っていたけど、修業に出ていたんだね」
オレは大村に行く任務があった時は精霊神官ちゃんの姿を探していたのだが、この2年位は一度も見る事がなく心配していた
万が一の事はないと思っていたが、気になる女性の姿や噂を聞かないのは心配ものだ
「はい、3年前に魔獣喰い様達と下界に行き、その時に実感したのです。私の力がまだまだ未熟で、魔獣喰い様の力を引き出せていなかったと・・・・
その後すぐに大神官様に相談をして、この大森林にある『精霊の森』でずっと修業をしていました」
そう言い精霊神官ちゃんは少しだけ微笑む
(う、何て可愛い笑顔なんだ!普段は無表情だからこういった表情の変化が熱すぎる)
オレはギャップ萌えだ
その段差で恋に落ちてしまいます
「少し体に触れてもいいでしょうか?」
ボーっとしていたオレに、いつの間にか精霊神官ちゃんがすぐ側まで近付き上目づかいで聞いてくる
「は、ハイ!勿論です!」
よく分からないがオレは裏声で即答する
オレの右手を両手で握り精神を集中し始める神官ちゃん
(ああ・・・・何て柔らかく温かい手の感触・・・・もう死んでもいい・・・)
いきなり神官ちゃんに手を握られたオレは幸福の絶頂にいた
すると、神官ちゃんの手から、
いや周りの空気、砦の周りの森から何かが、神官ちゃんを経由してオレの右手に流れ込んでくる
その力は指先から腕、肘まで駆け上り右腕の肩まで来た
「はぁ、はぁ、すみません。
今の私の力ではここまでが限界でした。でも、これで少しは魔獣喰い様の力が引き出せるかもしれません」
大分力を使ったのだろう
神官ちゃんは息を切らしていながら説明してくれた
そう言われたオレは右手と右腕を観察する
特に変わった様子はないが今までと何かが違う・・・・
「後は徐々に慣れていくようにしてください。それでは明日から私もあなたの側に同行するのでヨロシクお願いします」
そう言い、神官ちゃんはオレの部屋を一礼して去って行った
(それにしてもさっきの不思議な感覚は何だったろう・・・精霊の加護を掛けてもらった時に似ていた・・・・)
オレは右手を握ったり、腕を振ってみるが特に変化はない
(まぁ、いいか。それにしても、久しぶりにあった精霊神官ちゃんは可愛いかったな・・・・顔や体の雰囲気は少し大人になってきていたけど幼可愛さもあって。
しかも、今日は手も繋いでしまった。温かくて柔らかかったな・・・・)
オレはさっきの情景を思い出しまた幸せの想いに浸る
思い出しただけでも口元がニヤケテしまう
この大森林、いや、世界の危機かもしれない時に、
相変わらずオレはそんな事に現を抜かしているのであった




