68羽:17歳 約束と旅立ち
『白猫姫』
大森林の大族長『獅子王』の娘で『獅子姫』の姉
大森林の最大の危険地域である『魔の森』、そこを担当するこの森最大戦力が終結する要所『大砦』の総司令官
女性にしては身長が高くグラマーな体型をしている完成された美女
日焼けするのを異常に嫌い、暑い大森林の中でも年中長袖長ズボンで暮らす色白肌
一度戦場に出たなら、その愛用の巨大戦斧を振り回し魔獣すら切断する怪力の女戦士
しかし、がしかし、非常に面倒臭がり、出不精でぐうたらな性格
そんな彼女が自分の職場を離れ、ここ大村までわざわざ来ていたのであった
(自分の部屋からさえ出るのを面倒臭さがる方なのに、珍しい事もあるものだ・・・)
オレはそんなぐうたら姫様を遠目にみながらそう思った
そんなぐうたら姫様だが、その実績と不思議なカリスマ性で森の民には英雄的な人気があった
「白猫姫様!白猫姫様!」
と大人達は勿論の事、子供達までその姿をひと目見ようと群がっていた
何しろ女性の身でありながら、大人の戦士や狩人でも恐れる魔獣の巣窟『魔の森』の最前線を指揮し、森の民の生活を守ってきている女戦士だ
滅多に大砦から出てこない為に、その姿も半ば伝説的になっていたのかもしれない
「おー、皆の者久しぶりだね。この少年は『速き右腕』のところの息子じゃないか。
前に帰って来た時は赤ちゃんだったのに、こんなに大きくなってね。早く大人になってお前も父親のように立派な戦士になるのだよ」
と群がる子供達の頭を撫でながら、村人達の声に応えて相手をしている
・・・意外と子供好きなのかもしれない
群がる一人ひとりの子供達の顔を見ながら話しかけている
しかも、驚いたことに全員の顔と親の名前が一致して、記憶力が凄い事になっている
(前に帰って来た時って一体何年前なんだろう・・・・それにしても、この面倒臭がりな方がよくもこの大村まで来たな)
オレはその光景を見ながらそう考えていた
「・・・・ん?あれー、そこにいるのは『魔獣喰い』ではないか。丁度いい、今から父上の所に行くからお前も一緒に行くのだよ」
と急に白姫ちゃんに見付かった
(げぇっ、気配を消して隠れて見ていたのに何て勘がいいんだ)
面倒臭さがりでぐうたら姫様だが、部下の才能を見抜き自分が楽をする為に、彼らに最大限の力を発揮させる能力がある
きっとオレも一緒に行って何かやらされるのだろう・・・・
しかし、見つかってしまったものは、しょうがないのでオレは前に出て行き挨拶をし同行する事になった
・・・・・こうしてオレは大村でゆっくり大精霊祭を楽しもうとしていた最中、これまた大変な姫様のお相手もしなければならなくなったのである
☆
大村の城
この大村にある、大森林最大の城で行政軍事の中心の場所
精鋭揃いの森林戦士団が常駐し、また森中から有望な若者を集めて訓練する戦士団訓練所もある
ここで戦士として基本的な事を学び大人になった戦士達は、大森林の各地に赴くのである
オレも10歳からここで本格的な戦士としての訓練を受け、狩りをしたり、下界に行ったりと色んなことがあった
訓練の度に鬼教官に叱られゲンコツを頭に何発も貰ったのを覚えている
みんな交代で食事や雑務の仕事をし、大精霊祭の受勲式で一番栄誉を狙う為に狩り組を結成して魔獣狩りに挑戦したり・・・・
今思うと無茶な事ばかりしていたが、本当に懐かしい日々だ
(そういえば、オレと同じ狩り組の奴らは、今みんなどうしているんだろう・・・)
青春時代を過ごした大村の城に来て、ふと昔の仲間が懐かしくなった
今の勤務地の大砦は、どうしても前線基地な意味合いが大きいので生活的にも殺伐とした感じがある
それに比べてこの大村の城は安心感もありほのぼのとしている
まぁ、それでも城というからには腕利き戦士たちが多数集い警備も厳しい雰囲気だが、何となく家に帰ってきたような感じでホッとする
そんなホッとする城内の、この城の主である獅子王様の部屋にオレは来ていた
(この部屋はホッとしていない)
目の前には、相変わらず強烈な王者のオーラを放つ獅子王様が座っている
年齢結構いっているはずだが、その鍛えられた体で今なお前線に赴き、凶暴な獣や魔獣達と戦いその武勲を重ねている
彼こそ間違いなく『大森林最強の戦士』なのだ
身体能力や戦闘能力がこの森の精霊の加護により普通の人間より高いこの部族の民だから、きっとこの大陸の中でも1、2を争う戦士である事は間違いない
王都にいた剣匠のジイさんの様に力や速さではなく、相手を魔法の様に倒す下界の人間もいるから一概には何とも言えないが、危険と怖い人を察知する能力に長けているオレのレーダーはこの王様には決して逆らってはいけない警告音をビンビンに発していたのである
(オレと会う時は、何故か殺気オーラを飛ばしてきてオレの反応を楽しんでいるんだよな)
「よく父上の視殺を受けて正気を保っていられるな。歴戦の戦士でもその殺気を正面から受けたら、狂乱するか金縛りにあって呼吸困難になるものを」
と前に獅子姫ちゃんに言われた事もあったが、鈍感で鈍いオレだから何も感じないのかもしれない
とにかく、そんな獅子王様が正面にドンと座っている
横をチラリと見るとオレの隣には、その実の娘である白猫姫様が座っている
今回はこの部屋には他に護衛の戦士はおらず、オレを含めて三人という非常に気まずい雰囲気にいた
『じゃあ、ここらで親子水入らずでどうぞ・・・・』
なんて言って退出しようとしたが
『そんな事を言わずにもう少しここにいるのだよ』
と白姫ちゃんに止められ逃げ出せないでいた・・・・
「・・・それにしても珍しいな。お前がこの大村に来るとはな」
久しぶりに実の娘が帰って来て嬉しいのか、獅子王は少しだけ頬を緩めて白猫姫に言う
(強面の王様だが自分の娘には甘い・・・オレは知っている)
「そうですね、大砦に赴任してから初めての帰郷だから、4年ぶりですね」
白姫ちゃんが実の父親の話す口調は、いつものだるい面倒臭い感じではなく丁寧な言葉で話す
(何だ、普通の話し方も出来るんじゃないか)
と思うだけでオレは決して口には出さない
白姫ちゃんは話を続ける
「今回は、下界からこの大村にお客様が来ていると聞き折角なので来ました」
「そうか、久しぶりの下界からの使者だからな。彼らも今は大精霊祭を楽しんでいるだろう。しかし、あのお前がそんな事でわざわざここまで来るとは思えんがな」
獅子王は実の娘の本質を見抜いているのだろう。そう言い真意を確かめる
(確かに究極の面倒臭がりの白姫ちゃんが、はるばる大村まで来るってよく考えたら大事だよな。気付いたらいつも自分の部屋で寝ているか、砦の中をどこかブラブラしているし)
オレはそう思いながらも口は閉じたままだ
「ふふふ、流石は実の父親は何でもお見通しですね・・・・実は先日『真の魔素』らしい所を発見しまして、少し力を貸して欲しいのですよ、父上」
父親に甘える娘のように白姫ちゃんは報告する
「『真の魔素』か・・・・。それの話が本当ならば慎重に対応せねばの。残念ながら今はまだワシは行けぬが、この大村や城から出せる者なら幾らでも連れていくがいい」
と少し表情が険しくなった獅子王はそう答える
「そう言ってもらえると助かります。腕のいい戦士達と、力のある精霊神官達をお借りして行きます」
お互いの立場がそうさせるのかもしれないが、実の親子なのに話に駆け引きを何となく感じる
しかし、それも何とか無事に終わったようで、よく事情が分からないオレは内心ホッとする
「わかった、戦士団長と大神官には伝えておくので好きな者を連れて行くがいい」
獅子王も相変わらず厳しい顔つきだが、言葉は先ほどより少し和んでいた
「そういう訳で『魔獣喰い』よ。早速明日出発するから、お前も準備しておくのだよ」
と、そう言い白姫ちゃんは大族長の部屋から退出する為に立ち上がる
(えっ、オレも行くの?そして明日出発!?)
急な命令に驚いたオレだが、強面の獅子王様と部屋で二人っきりになるのは気まずい
オレは急ぎその後は追う為に立ち上がる
「魔獣喰いよ」
「はい!」
逃げるように部屋を出ようとしたオレは、獅子王様に呼び止められ急ぎ振り向く
「娘達のことを・・・・頼んだぞ。そしてこの大森林・・・・いや世界の・・・・ことを・・・・」
「ハイ!一命にかえてお守りします!」
オレはよく分からないが条件反射的に返事をして、一礼をして大族長の部屋を出る
後半は小声で呟いていたので何て言っていたか聞こえなかったが、そんな事より部屋を出るのが優先だ
部屋にいた人数が少ない為に、オレは今回は話し合いの間はボーっとせずにちゃんと聞いていたが、親子二人の言葉短い会話でよく分からないまま終わっていた
『とにかく魔の森に『魔素』が出て、それをこの大村の戦士達の力を借りて浄化する』
そんな感じだったんだろう
『真の魔素』という単語は初めて聞いたが
最後の獅子王様の言葉は意味深だが、とにかくお前の命で白姫ちゃんを守れということだろう
その辺は何とか大丈夫だろう
ああ見えて白猫姫様はかなりの戦斧の使い手だ
しかも、大砦には白姫ちゃんを慕う腕利きの戦士や側近たちがいるから、オレがそんなに頑張らなくてもその辺は大丈夫だろう
オレは明日の出発の準備を早目に済ませて、今日の大精霊祭の食を満喫しようと急いだ
☆
日付が変わり朝になり、大村から大砦に出発する時間になった
急なお別れだが、もう数日この大村に滞在するベール王国から来たマデレーン姫や近衛騎士ヘルマンには昨日の内に別れを告げておいた
今朝も早起きをしてオレ達を見送ってくれている
「それにしても随分急なのね。それよりちゃんと覚えている?約束通り私が困って呼んだ時は必ず飛んで来てよね」
とマデレーンちゃんは女の子らしくオレの目を見ながら言ってきた
王都で大人達ばかりに囲まれ、貴族や王族の跳梁跋扈する世界に小さい頃から過ごしていたのだろう
年が近く気さくに接するセリナちゃんやオレと一緒に過ごすことにより、新しい友達が出来たような感じなんだろうな
最初の頃のワガママおてんば姫のイメージからは少し脱却していた
(しかも、スリムに見えて結構胸とかもあって可愛いし・・・)
そんな事を妄想しながら別れを告げた
一方
「・・・そちらが落ち着いたらまた王都に来て、獅子姫様をちゃんと迎えに来るんだぞ」
騎士ヘルマンはオレの目を真っ直ぐ見つめ握手をしながら熱く言う
(相変わらず真面目な男だな。でも剣握ると人格が変わるし意外と面白人だったな)
オレは心の中でそう思いながら握手を返す
「・・・さあ、出発だよ」
朝に弱い白猫姫様の寝起き声の号令と共に、大砦に向かい戦士団は出発する
年明けの祭りで昨夜も遅くまで騒いでいたのだろう
しかし、城の戦士達はそんな朝でも、全員勢揃いしオレ達を見送ってくれていた
普段と変わらない光景に見えた
・・・・しかし、よく考えたら、普通の魔素を浄化する為に、わざわざ大村の腕利き戦士を借りに来る必要はなかった
・・・・よく見たら、見送りの戦士達も大砦に向かう戦士達も普段と違う険しい顔つきをしていた
・・・・大神官様を始め、何人もの力のある精霊神官が同行する必要性もない
そんな大事な事にも気付かず、相変わらず能天気に進むオレだった
17歳の年がこうして始まった




