67羽:マデレーン王女と大精霊祭
今日からお祭りだ
1年に一度、年末年始に数日間にわたり行われる『大精霊祭』
『精霊祭』は年の変わり目に、大森林の各村々で行われる年に一度の大きな祭りだ
その期間中は狩りや訓練などもの仕事も、基本的には全部休みになり
村全体で一年の終わりと来年の始まりを祝う
日本でいうところの正月祝いみたいなものだ
いつもは質素な大森林の部族だが、この期間ばかりは精一杯のご馳走と美酒で村も賑わう
そして、この大村で行われるのが大森林最大の『大精霊祭』なのだ
しかも、今回ははるばる下界から来たベール王国第二王女マデレーン王女達を歓迎する宴の二本立てだ
オレや王女達は今回、大森林を突き抜け途中の温泉で疲れを癒しつつ、なんとかこの大村に到着した
道中は食糧となる獣を狩りながら野営のいつもの道中だったが、今回は体力に問題のある桃姫様ことマデレーン王女も一緒だった事もあり最初は難行した
それでも温泉に入り疲れを癒し、旅にも慣れてきた桃姫ちゃん
道中の景色や人生初であろう野宿、またそこで食べる獣肉を豪快に丸焼きしたものなどに興奮しながら後半は楽しんでいた
最初はわがままで口の悪いお姫様に泣きそうになったオレだった
しかし、桃姫ちゃんが意外と負けず嫌いで根性があり、可愛げもある事に気付いてからは、それはそれで楽しい旅になった
まぁ、それでも何かにつけてオレをこき使うのは勘弁してほしい・・・・
何か俺、悪いことでもしたかな・・・
そんな黙っていれば可愛く女性的な桃姫ちゃんが無事に大村に到着したのだ
例によって先方隊がこの大村に先に着きその話が広がっていて、村人の大歓迎の出迎えもあった
この辺は下界から閉ざされていた2年前とは大きく違い、オープンな世界になってきたのだと感じた
しかも、ちょうど大精霊祭の前の準備の時期に到着したのだ
その歓迎も盛大だった
オレも祭りは楽しみだったが、なんといっても今回はベール王国から友好大使として桃姫ちゃんは来ていた
一応世話役のオレは、あんなおてんば姫様だけど大丈夫かなと心配していたが、大族長『獅子王』と桃姫ちゃんの謁見は無事に終了した
王都から持ってきた貴重な献上品を渡し、桃姫ちゃんが獅子王様に挨拶を述べる
普段はわがまま姫ちゃんだが、流石に幼い頃から英才教育で育てられた正真正銘の王族である
立派な挨拶で同行した騎士達も唸らせる
桃姫ちゃんと会った大族長『獅子王』は、せっかく下界から来たのでゆっくりしていくように言い、一緒にベール王国御一行様も祭りに参加していくことになった
祭りに参加といっても、この森の祭りはとても単純である
ご馳走を食べ村の広場で夜遅くまで飲んで歌い踊るだけである
一年中、狩りと採取に明け暮れこの森の部族だが、この時だけは各仕事も休みになり楽しみまくる
特に今回は久しぶりに下界からの来訪者がいるという事で、その盛り上がりも最高潮だ
・・・・・祭りが始まっていた
オレは屋台の料理を両手一杯に持ち歩き、来賓席の方に戻ってきた
そこは桃姫ちゃんをはじめベール王国からきた騎士やお付きの者が座る席だ
オレは今回彼らの世話役のという事で付きっ切りで接待していた
彼らは初めて見る森の部族の祭りを楽しそうに見ている
ここでの祭りは原始的だが、だからこそ直情的で解かりやすく楽しめる
大きなかがり火を囲み村人達が楽器に合わせて歌い踊る
オレもその様子を料理をほお張りながら眺めていた
「前から思っていたけど、あんたった随分大食らいよね。まさかそれ全部一人で食べるつもりなの?」
桃姫ちゃんはオレの目の前にある大量の料理を見て呆れた顔で聞いて来る
「ひ、一人でこんなに食べる訳ないですよ・・・ 勿論、桃姫様の分もありますよ」
オレはとっさにそう言い、心の涙を流しながら、その料理の一部を差し出す
「うむ、苦しゅうない」
と桃姫ちゃんは笑顔でワザとらしく言い受け取る
最近は慣れてきたのか、オレに対してもその素敵な笑顔を見せてくれる
「それにしても森の部族といえば、もっと無骨で無愛想、原始的な様な生活をしているかと思ったけど、意外と文化的な暮らしをしていて、みんな笑顔が絶えない生活をしているのだな」
祭りで盛り上がる村民を見て、桃姫ちゃんは嬉しそうに呟く
「普段の生活は本当に質素で苦しいものですよ。それでも決して諦めずに、前向きに笑顔で暮らしている。そこはオレもこの部族の一番好きなところですね」
オレも自分の部族が褒められ嬉しそうに言う
「それは本当に羨ましい事だな。私も自分のベール王国とその民の笑顔が大好きだ。いつまでもその笑顔を見て暮らしていたい。しかし、大好きだからこそ、私はその国を離れなければならない・・・・」
そう、意味深なこと言う桃姫ちゃんは一筋の涙を流す
祭りのかがり火の光にその一筋の涙がきらりと光るのを見て、オレは思わず見とれてしまった
「・・・・・・」
オレは何も言えずに黙ってします
「なぁ、『魔獣喰い』。ワタシが何か困っている事があって、助けを求めていたら、お前は助けに来てくれるか?」
桃姫マデレーンちゃんは潤んだ瞳でオレを見つめ問いかけてくる
「も、勿論じゃないですか。何かあったらこの大森林から飛んで助けに行きますよ」
可愛い女の子の潤んだ頼みを断れる年頃の男子などいないだろう
オレは即答で答えてしまった
「そうか、ありがとうね。ふふふ、柄にもなく感傷に浸ってしまったわね。さぁ、お祭りなので私たちもめいっぱい騒ぎましょう。ヘルマン!」
「はは!」
そう、気持ちを切り替えた桃姫ちゃんは、後ろに座る護衛の近衛騎士ヘルマンの名を呼ぶ
「こちらも森の民の皆様に歓迎を受けてばかりだと失礼だわ。我がベール王国に伝わる祝いの剣舞を皆様に披露だ」
側にいた騎士ヘルマンはマデレーン王女の心中を察し、祭りを盛り上げる為に同行した騎士達と広部に進み、剣舞で踊り始める
突然の下界からの飛び入り参加でざわつく大広場
しかし、森の民もこういうのは嫌いではない
すぐさま即興で演奏がその踊りに合わせる
初めて見る下界の剣舞に、これまた飛び入りで参加する森の民の戦士達
文化や風習は違えども、歌と踊りに国境はないのかもしれない
本当の友好関係とは書類上の契約ではない
人と人の小さな結び付きが友好に繋がるのだ
・・・・その光景を嬉しそうに見守る桃姫ちゃん
こうして、大森林に一年に一度の熱い日が始まるのであった
☆
大精霊祭の初日も終わり今日から二日目だ
明日から年も変わり新年という事もあり、今日も一日盛り上がりそうだ
この祭り期間中は仕事や狩りなども休みな為に、いつもは早起きな森の民も今朝はゆっくりだ
遅い朝ごはんを食べて昼位からまた皆で騒ぎ出す
すると、大村の大広場あたりが少し騒がしくなっていた
騒動という訳ではなく、歓声が上がり賑やかな感じだ
午前中の弓の自主鍛錬を終えたオレは何事かとそちらの方に釣られて行く
(きっと楽しい事に違いない!)
近づいて見ると他の村から来た戦士狩人の集団が到着していたようだ
集団の後方の荷台には狩られた獣が乗っており、これが今日の祭りのメインの料理となるだろう
その、量の多さや珍しさにこの大村の住人達も盛り上がっていた
(それにしても、随分珍しい獣も狩ってきているな。今日の祭りの料理もこりゃ全種類制覇しないと)
明日には誕生日を迎え17歳になるオレだったが、未だに食い気全開なお年頃だ
・・・・・ん?
食べ物にばかりに目がいっていたので気付かなかったが、その集団はオレの知った顔ばかりだった
オレが今所属する『大砦』の戦士達であった
そして、その先頭にいる者は暑い大森林の中でも決して長袖長ズボンを崩さない
グラマーな体つきでその細腕には、自分の背丈より大きい戦斧を持った女性がいた
大砦の総司令官であり、大族長の娘、『白猫姫』様が大村にやって来たのだった




