64羽:桃姫 御一行様
ベール王国の王都を出発し大森林に戻る
王都に来た時は街の城門裏で馬車に乗せられ、そのまま内密に城に来た
今思うと余計な混乱を防ぐために、オレ達は馬車に閉じ込められたのかもしれない
とにかく寂しい行きだった
しかしここに来た時に比べ帰りは盛大だ
何頭もの馬に引かれた豪華な馬車を中心に、その前後は騎兵達が守りを固める
後方には食料品や生活物資を積んだ荷馬車が何台も続き、女官や従者なども多数付き添う
王都の道路沿いはその豪華な行列をひと目見ようと、沢山の市民が集まり賑わっていた
見ると先日調印式や晩餐会に居た貴族達もその様子を見送っていた
実に豪華な見送りだ
・・・・そしてオレ達はそんな物々しい行列の中団を『歩いて』いた
ん?
と言うことは、その豪華な馬車に乗っているのは・・・
「おい、『魔獣喰い』。ここからその大森林まではどの位かかるのだ?」
オレはその馬車の窓から顔を出し、オレを呼ぶ女性を見る
フリフリに巻いたキレイな色の髪の毛に、桃色のドレスを着た女の子
そうベール王国第二王女 『桃姫』マデレーンだ
「はい、この速度だと予定通り結構日数はかかります」
とオレはその三度目の同じ質問に、同じように答える
「そうか、早く急いでくれ。それにしても楽しみだ。噂に聞く大森林がどんな所かの。」
そう言うと桃姫様はまた窓を閉め馬車に引きこもる
(急げと言われても、この馬車が揺れ過ぎないような速度でしか進めないんだけど・・・・)
オレはその馬車の隣で軍馬に乗る騎士をチラリと見る
近衛騎士のヘルマンだ
ヘルマンは『毎回すみません』という表情をして頭を下げ謝ってくる
(どうしてこうなったんだろう・・・・)
オレは思い出す
☆
調印式と晩餐会も無事に終わり、オレ達はホッとしていた
ヴェルネア帝国の侵攻に始まり、大砦で部隊を編成しそれを撃退し、そしてその足でこの王都まで真っ直ぐに来て友好条約を結ぶ
そんな急な来訪でよくも上手くいったものだ
後で聞いた話だが、獅子姫ちゃんとグラニス伯爵家が、以前から王都で根回しをしていたようで、そのお蔭で今回の調印式がこのように何事もなく無事に終わったのだという
精霊の呪いがあり、大森林からあまり長く出ていられないオレ達は、早速帰りの準備をして懐かしの森に戻ろうとしていた
まだ加護の効果は余裕あるが、帰り道に何があるか分からないので早目に行動した方がいい
そう考えてオレ達は準備をしていた
(結局ゆっくり観光とか買い物も出来なかったけど、美味しい物も食べられたし、楽しい思い出ばかりだったな)
そして、そんなオレ達と別れこの王都にしばらく残る仲間もいた
獅子姫ちゃんだ
獅子姫ちゃんはこの王都に森の部族の大使館を用意し、しばらくの間ここに残り両国間の今後について指示をしていくという
他にも姫の護衛オジサン達と加護をかける精霊神官達も一緒しばらく残るという
「そんな長期間大森林から離れて大丈夫なんですか?」
呪いを心配しオレは獅子姫ちゃんに尋ねる
「なんじゃ知らないのか?この位の人数なら長期間も結構大丈夫なんじゃぞ。
例外だと大部隊は勿論のこと、お前や父上を森の外に出すには一苦労なので短い期間になるがな」
と獅子姫ちゃんは説明してくれる
そういえば、偵察斥候役の人たちは情報収集の為に二年前から、結構頻繁に下界に出ている
同行する精霊神官達もいるようだが、そういう事だったのだろう
(父上という事は獅子王様か・・・・とオレは何で短い期間なんだ?)
そう不思議に思ったが、説明はそこで終わってしまったので、今度聞いてみよう
(また離れ離れになるのか・・・・寂しくなるな・・)
いつも自由気ままでオレを振り回し、太陽のように眩しい獅子姫ちゃんだが、また会えなくなると切ないものがある
すると、獅子姫ちゃんはその腰に下げられた愛用の剣を鞘ごとオレに投げ渡してきた
「しばらくそれを預かっていてくれ。あの『剣匠』のジイさんに一太刀浴びせなければ、腹の虫落ち着かん。それには、どうやらソレは邪魔になりそうでの」
と説明してくれた
(やっぱり、のされた事を忘れてなかったんだ。大人になっても獅子姫ちゃんは負けず嫌いなんだね)
とオレはそう思い、姫の愛用の剣を預かった
「それは大族長に代々伝わる剣だ。無くしたり壊したりしたら、命はないと思え」
姫の護衛のオジサンは殺気をビンビンに出し、そうオレの耳元で囁き去って行く
(これまた厄介な預かりものになりそうだ・・・・)
・・・・こうして、オレ達は獅子姫達と別れ大森林に戻るのである
しかし、帰りは同行者がいる
『大森林の大村にベール王国から王族が挨拶に行く』
調印式ではそういった一文もあったような気がする
・・・・あったのだ
その王族が帰りに同行するのだ
(何というフットワークの軽さだ)
そしてその王族というのがベール王国第二王女 『桃姫』マデレーン様だった
何故危険があるかもしれない大森林に行く使者が少女なのか?
そんな疑問もあった
何でも幼い頃からのおてんば姫で冒険や神話に憧れ、姫で有りながら剣の修業もしているという
今回、森の大族長の娘である獅子姫がこの王都に来たという事で、返事的な挨拶もベール王国の姫様が行く事になったのだ
・・・・という建前だが、本当はこのおてんば姫が手に余り、王様的には可愛い我が子を外に出して性格がその性格が直らないか、という思いもあったとかないとか・・・・
とにかく『帰りはうるさい上司もいないので下界を散策寄り道してから大森林に帰ろう』というオレの作戦は見事に砂塵と化したのであった・・・・
☆
そんな感じで桃姫様のわがままを聞きながら、ゆっくりした速度で馬車の大行列は大森林に向かう
姫様もあまり王都から出た事がないのだろう
王都の外に広がる田園風景や、風光明美な大自然の景色、滞在した宿場街の人々の生活を見て大興奮していた
その年齢に相応しいはしゃぎ方や笑顔を見ていると、年相応の可愛らしさがありドキリとする
(わがままを言わないで黙っていたら、キレイで可愛いお姫様なのに勿体ない・・・)
姫様の行く先々の街道沿いや宿場街には、先方隊の騎士達がお触れと警戒をしていた事もあり、順調に馬車の旅は進む
・・・・オレ達は徒歩だが
一応言っておくがオレ達森の部族は馬に乗れない訳ではない
むしろ2年位前から軍馬も取り寄せ乗馬訓練もしている
身体能力や感覚が下界の人間より高い部族なのでその上達ぶりは早い
しかし、普段は自分たちの足腰を鍛える為に、乗り物に頼らず徒歩や走ることにより移動している
オレも歩くのは嫌いではないが、たまには馬に乗りたい・・・・
そんな夢はまだまだ叶わなそうだ
☆
そうこうしているうちに目的に近づいて来た
大森林の玄関口にある宿場街・・・
そう、名前は確かザクソンの街だ!
に着いた
先にこちらの部族から足の速いものを伝令に行かせていたので、事前に知っていた街では歓迎ムード一色
こんな辺境の元は村に王族が来る事など滅多になく、市民の人々はその姿をひと目見ようと大通り沿いに列を成して並ぶ
老人達は感激のあまり涙を流し、祈りながらその馬車が通過するのを拝んでいた
城もなくあまり立派ではないこの街の兵舎に姫様を泊まらせる訳にはいかず、この街に最近商館を構えた大商人の館を借りそこに泊まってもらうことになった
商人としては王族を泊めたという事で箔がつき、今後その名を売り出しやすいという事だった
そんな大商人の館の来客室で、今後のスケジュールの話合をしている
「今何て言ったのか?」
桃姫様ことマデレーン姫がオレ達に問う
「はい、ここから先の大森林の中は徒歩での移動になります」
オレは答える
「馬車ではその『大村』とやらまで行けないの?」
「はい、舗装されていない森道ですので、悪路に強い山馬荷車ならまだしも、馬車はここに置いてください」
オレは再び答える
「・・・・そんな物には乗れないは、ここから私も歩いていくわ」
「姫様・・・」
護衛の騎士達は心配をする
・・・・見た目と違い負けず嫌いなのか桃姫ちゃんは、どうやらここから歩いて大村まで行くようだ
こういう時はあまりいい事は起きない
オレの嫌な予感はよく当たるのだった・・・・




