63羽:調印式のち晩餐会
ベール王国と大森林の部族との友好関係を結ぶ調印式が行われる
この数日間で決まって内容を文章化した物にサインし、それを皆の前で発表するのだ
ベール王城の豪華絢爛な大広間には、この国の貴族や諸公を代表する者達が集まりその時を待っている
・・・・長年閉ざされ、尚且つ禁地とされていた大森林から、謎に包まれていた森の民がこの王都を訪れ、我が国と有効関係を結ぶ
その姿をひと目見ようと、この王都に屋敷がある諸侯は勿論の事、大使館のある諸外国の大使達も招待を受けこの大広間に集まっている
会場の中はそんな者たちの話し声でざわつき、異様な熱気に包まれている
(一体どんな蛮族がこれから出て来るのか)
(文字を書いた調印書を読むことが出来るのか、そもそも我々と同じ人語を話すのか)
と噂と推測が飛び交う中、いよいよ調印式が始まる
その貴族たちが集まる大広間の前方、壇上にオレ達は上がる
獅子姫様を先頭にオレや研究軍師セリナちゃん、そして森の戦士達も一緒に上がる
森の部族の異様な姿を見て会場中から歓声とざわめきが起こる
無理もない
今日もオレ達は貴族の集まりも何のその、いつもの野性味溢れる大森林ルックだ
そんな、毛皮や羽、牙爪で装飾されたオレ達を見て、会場にいる優雅に着飾った貴族たちからは、侮蔑の視線すら飛んでくる
(まるで蛮族丸出しではないか!汚らわしい)
(あの姿を見よ!よもや我々を騙して自分たちのエサとする謀であるまい!?)
(こんな蛮族と栄光ある我らの王国が、対等な友好関係を結ぶとは・・・)
そんな声もあからさまに飛んでいる
(嫌な空気だ)
そんな中、その壇上に沢山の品物が上げられる
今回、森の部族から献上された大森林の特産品の数々だ
食料品、加工品、工芸品、装飾品、そして何より大森林の魔獣のはく製やその装飾品を見て会場中から更に歓声が上がる
『おー!あれは!まさか魔獣の!?』
それらは全て、今この大陸中の貴族や大商人たちが、喉から手が出るほど欲する貴重な品の数々だ
魔獣の角や骨は万病や延命に効くと言われ、その宝石のように輝く眼球や甲羅の結晶は王族ですら身に着けることが出来ない宝石となる
また、その硬骨や爪は金属と混ぜて鍛えることにより、高硬度の騎士達の最高の武具となる
そんな物が大量にこの森の民から献上されたと紹介され、会場が更にザワつく
金勘定が得意な貴族などはその貴重な品々を見て、頭の中でソロバンを弾き、内密に彼らと接触しひと儲けしようと相談している者もいる
そんなざわめきを、近衛騎士の大きな一声が一喝する
『ベール国王様の御成りだ』
国王は壇上の右側に立つ
そして、調印のテーブル内を挟み反対側の左側に、森の部族が立つ
両者の真ん中には、今回この友好調印の仲人をした、グラニス伯爵家の当主とその第一子息が立つ
両者がそれぞれ書類にサインをして無事に終了となる
お互いサインが終わり、ベール国王と獅子姫の間で固い握手が結ばれる
「皆に紹介しよう。こちらが今日から我らがベール王国の盟友となった、大森林の民を束ねる族長『獅子王』殿の娘『獅子姫』殿である」
と国王自ら手を差し出し、獅子姫を皆の前にエスコートする
「お集まりの皆様、本日は斯様に忙しい時期にお集まりいただきかたじけない。
只今ご紹介いただきました森の民を代表する『獅子姫』じゃ。
本来なら大族長である我が父が本日は来るべきだ。しかし、故あって大森林から出て来られぬ事はまずお詫びする。
本日のこの調印式を持って、今後両国間が益々繁栄の為に尽くしていこうぞ」
と獅子姫は流暢な言葉で皆に宣言する
その声は凛としてよく響き、生まれ持った姫のカリスマ性がその会場の貴族たちの心に伝わる
まだ少女と大人の境目の年齢だがよく見れば美しい女性だ
この王国の貴婦人たちにはない野性味溢れる美貌と屈託ない笑みが、男女問わずその場の者の心を鷲掴みにする
・・・・・少し間があり、大広間に集った者から歓声があがる
ベール王国の繁栄を叫ぶ声
森の民の勇敢さを称える声
こうして調印式は無事に終わったのであった
☆
調印式が無事に終わったオレ達は、同会場でその後に行われた晩餐会に参加している
新しく盟友となった森の民を歓迎するパーティーだ
オレはこのパーティーの主役である獅子姫ちゃんの後ろで、彼女に挨拶をしようとしている貴族たちの長い行列を眺めていた
自分の長々しい名前を名乗り、自治領素晴らしさを自慢げに語る貴族たち
それを獅子姫ちゃんは頷きながら、1人1人相手をしていた
(さっきの皆の前での挨拶といい、こういう貴族の相手といい、獅子姫ちゃんは大人になったんだな。要領がいいというか、計算高いというか)
オレはそんな光景を見ながら考えていた
(まぁ、でも昨日、訓練所であの剣ジイさんに負けたショックは引きずってなくて安心した)
チラリと隣を見る
隣にいる近衛騎士のヘルマンの言うには、あの剣ジイさんは彼の剣の師匠でもあり、このベール王国の剣術最高指南役だという
何でも昔は大陸中を剣1本で旅をしていた剣士で、今は故会ってこの王国に住んでいるという
気難しいジイイさんで、気に入った騎士にしか自ら剣を教えなく、日々自由気ままな生活をしているという
・・・・それにしても、あの剣ジイさんは変わった剣技を使っていた
剣の握り方を振る最中に変えて、その剣が生き物ように変則的に動いていた
そんな技があるのか?と、そうヘルマンに聞いてみた
『・・・・なんと君はあの師匠の剣の動きが見えていたのか!?・・・・獅子姫様もそうだが君も相当だな・・・・』
とヘルマンにそう言われた
何はともあれ、難しい政治や貴族の自慢話より、食い物が大事なオレは獅子姫ちゃんの側をコッソリ離れ食い物コーナーの方に行く
誰にも気づかれずにパーティーを満喫だ
(ふっ、オレの隠密行動もまだまだ捨てたものではないな)
オレは牛肉と香草を低温オーブンで焼いた肉の塊に目をつけ、それを頬張る
(う、美味い!!大森林の豪快な料理も美味いけど、下界の手の込んだ料理も素晴らしい。特にこのソースとの相性は最高だ!)
オレは頭の中に天使が飛びそうになるほど幸せな時間を満喫する
「ねえ、あなた」
そんな食いしん坊妄想をしているオレに、後ろから誰かが呼ぶ
(ん?誰だ)
見ると一人の女性がオレの方を見ている
フリフリに巻いたキレイな色の髪の毛に、桃色のパーティードレスを着た女の子だった
年齢はオレより少し年下だろうか
大胆にも肩から腕を出したその肌はきめ細かく白く輝いている
また、その胸元は少女とはいえ十分膨らみ始めていて、女性としての魅力も咲き始めた美しい女の子だった
「・・・・そんなにジロジロ見て、私の顔に何か付いているのか?それより私の言葉は分かるのだろう、返事をしろ」
気品ある見た目と違い、随分言葉がキツイ女の子だ
「あっ、ハイ、勿論言葉は通じます。何か御用でしょうか?」
オレのその可愛い子に突然絡まれ、困惑する
「お前たちはあの魔の森から来たのだろう。どんな所か話しをしてくれ」
と上から目線で命令してくる
(こ、こいつ、初対面の目上のお兄さんに何て口の利き方を・・・)
そう思い、口の利き方講座でも始めようとしていた
「姫様!探しました。こんな所にいて」
そう言って小走りに近づいて来たのは、近衛騎士ヘルマンだった
「おお、ヘルマンか。お前からもこの者に森の冒険の話をしろと、言ってくれ」
とその姫様と呼ばれた女の子はまた命令している
(・・・・えっ、姫様・・・・ですか?)
オレはその言葉に気付き、騎士ヘルマンの方を見る
「『魔獣喰い』殿こちらにおわす方は、この国のベール王国の第二王女でありますマデレーン姫様でございます」
そう紹介され、胸をはり自慢げな王女様
『姫』・・・・
姫という女性に色々と振り回されているオレは、この時も嫌な予感がビンビンしていた
そして、嫌な予感はよく当たるものだ・・・・




