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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 ベール王国 王都】の章

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62羽:剣の匠

信じられない光景が、目の前で起きていた



広い部屋の真ん中に剣士が二人いた



一人は初老の男で、手には金属で出来た剣を持ち隙なく立っている



その持つ剣は訓練用で刃は丸くなっていた



しかし、金属製で重さも本物と同じなので、当たり所が悪ければ命も失う者も、訓練中に何人もいるという



もう一方の剣士は、その足元に転がっていた



その手に実戦用の真剣が握られていて、意識を失っているだろうが、その手は剣を放していない



「ふむ、流石あいつの子だけあって中々の剣才だが、まだまだ未熟じゃの。ほれ、ボーっと見てないで介抱してやるんじゃ」



とその初老の剣士はオレに剣を向け指図する



オレはその倒れている剣士の側に走り寄り、そっと頭を起こし顔を確認する



(気絶しているだけで、どうやら命はあるようだ)



確認しオレはホッとする



「その子が目を覚ましたら、また稽古をつけてやるから遊びに来いと伝えておくんじゃぞ。」



と言い、その初老の剣士は訓練所の広間を出て行く



「う、うう・・・」



倒れていた剣士はどうやら目を覚ましたようだ



周り見回し状況を確認する



「・・・・私は負けたのじゃな」


そう言い、その女剣士は悔しそうに口元をしぼめる



オレは何も答えずにそって見守る



・・・・いつも強気で勝気、小悪魔的な笑みのよく似合う獅子姫の、それが初めての敗北の味だった






時は少し遡る



大森林の部族とベール王国との友好関係を結ぶ為、オレ達はベール王国の王都に来た



そこで、大森林から友好の献上品を持って来た、部族の大族長の娘の『獅子姫』ちゃん達と合流し、王様に謁見した



異民族のオレ達に対して、好意的な感じの王様は返事を数日後に出すと言い、その間オレ達は王都にある国賓の館に滞在することになった



その数日間で実際の友好条約内容を決めていき、最終的には最終日の調印式で大森林の部族とベール王国は友好関係を発表するという流れだった



そんな訳で折角の大陸有数の大都市に来たオレは、街ライフを満喫しようとしていたが、



例によって、獅子姫様と研究軍師『知恵の実』セリーナ・ベルガーちゃんに無理やり連れられて、王宮ベール王国の外交官と会議に会議を重ねる毎日だった



・・・・・あああ、折角目の前に、夢にまで見た大都市があるのに、またお預けな感じだ・・・



朝から夕方まで缶詰状態だ



というか、難しい話が苦手な(苦手である。頭が悪い訳ではない)オレを毎回会議に同席させて、いったいどんな意味があるのだろう、といつも思う



目の前でベール王国外交官と獅子姫ちゃん、セリナちゃんが話している会議の内容は異国語のようにオレの頭の中には入って来ない・・・



(あーつまらない・・・)



心の中で呟く



しかし、顔ではうんうん頷き分かったフリをする



(蛮族丸出しだが知的な顔立ち・・・・この路線でいこう)



そんな中、会議は続く



この王都に森の部族の大使館を用意するとか、大森林の大村にベール王国から王族が挨拶に行くとか、年に1回お互いの国の特産物を交換するとか、侵略を受けた時はお互いに援軍を出しあい助け合うとか



そんな感じで決まっていく



こんな田舎の部族のオレ達に対して、随分と対等な条約を結んでくれるみたいでオレは少し驚いていた



(まぁ、大森林の部族は自分たちの生活と魔獣を狩る事に手一杯で、下界の世界にそこでまで干渉するはずもない


対等な友好関係結んで有事があったとしても、裏切られて逆に蛮族に侵略されると思っていないのかもしれない)



そしてベール王国にも有効関係を結ぶとメリットが多いのだろう



何しろ今この大陸では、『大森林物産品』が注目を浴びている



そこといち早く独占的に有効関係を結べば、近隣諸国に大きな顔が出来るかもしれないのだろう



逆にオレ達がもしベール王国に騙されて最悪の状況になっても、昔みたいに大森林に引きこもって、前の生活に戻ればいいのだろうから、その辺はあまり心配していない



もし下界の国が大軍で森に攻めて来るとしても、あの森の中では普通の軍隊の行軍は過酷熾烈を極める



それこそ、普通の人間だと起伏の激しい森道に体力を奪われ、夜な夜な獣や魔獣に日々怯えて軍が進むのは不可能に近いと思う



そして、もしそうなったらオレ達森の部族も侵略者に全力で反撃するだろう



森の中でこの部族を相手にするのは分が悪いというものだ



そんなこんなで、友好条約の内容会議もほぼ決まり、一同ホッとする



まぁ、オレは殆ど何もしていないけど、ひと安心だ





肩の凝る会議も終わり、オレと獅子姫ちゃん、世話役の聖騎士ヘルマンの三人は王宮にある室内訓練所の一つに向かった



会議ばかりでは身体が鈍ってしまうので、稽古をしようという事だ



ちなみに、あの獅子姫ちゃんと聖騎士ヘルマンとの真剣での勝負以来、二人は人払いをして毎日ここで稽古をしていた



実力もある程度拮抗しているのだろう、いいお互い練習相手になっていたらしい



獅子姫ちゃんと互角に思われるヘルマンだが、実はこのベール王国の中でも5本の指にはいる剣の使い手らしい



アレ以来彼も人格が変わったように暴れることもなく、冷静な模範的な剣技で獅子姫の相手をしていた



「生真面目な剣でつまらんの。また、あの時みたいに戦ってくれ」



と獅子姫ちゃんは小悪魔的が笑顔でヘルマンを挑発していた



「はっはっは、あの時は本当に申し訳ありませんでした。あの時は気が動転していて醜態を晒しただけですので」


と、それを聞き流していた



さて、また今日も激しい稽古が始まる



と、その時、いつの間にか部屋中に一人の男が『居た』



正直言ってオレは驚いた



(いつの間にか入って来たのだ?!)



こう見えてオレは勘が鋭い



日々、大森林で五感が鋭い獣や魔獣を相手にしているからか、よほどのモノでも近づいて来るのは分かる



同じ森の部族の、最上級の腕利きの隠密斥候の奴等なら話は分かる



しかし、そのジイさんはどう見ても下界の人間だった



同じく勘の鋭い獅子姫ちゃんも、それに気づき驚いている



「師範様!」



と聖騎士ヘルマンがその老人に向かい声をかけ礼をする



その師匠と呼ばれた男は獅子姫ちゃんとオレの方を見て、つまらなそうに呟く



「面白いヤツらが田舎の森から出て来ていると聞いて来たが、こんな若造と小娘とはハズレじゃったの」



と初対面のオレ達に言葉で挑発してくる



そして、その言葉とは逆に凄まじい殺気を飛ばしてくる



(この殺気の飛ばし方はヤバい・・・ 何だこのジイイさん)



とオレは困惑する



(こういう危険な方は当たらず触らずで、退散した方がいいな・・・・)



と、強い者は逆らわないオレはそう決意する



しかし、訓練所の真ん中にいたその方は、やっぱり嬉しそうに前に進んで行く



「小娘だと思っていたら怪我をするぞ。その腰の剣がナマクラでないなら、私に稽古のひとつでもつけてくれんかのう?」



と、獅子姫ちゃん自分の腰の剣に手をあて挑発する



二人の間に緊張が走る



「ワシはこれで十分じゃ。お主はその剣でいいじゃろう。どうせ当たらんし。ほれ、遊んでやるから掛かってこい」



とその師匠とよばれた男は、壁に立てかけてある訓練用の刃の無い剣を握り前にでる




「お師匠様お待ちください!この方は!」



と聖騎士ヘルマンが止めようとするが、それを獅子姫が剣で制する



「手加減はせぬぞ」



と獅子姫ちゃんもその老人と剣を持ち向き合う



訓練所は緊迫した空気が流れ、張り詰める



(い、息が苦しい・・・)



獅子姫もその老人も、互いの間合いの一歩外で様子を見る



いつも冷静で豪快な獅子姫の額から汗が流れている



その老人と対峙しプレッシャーで押しつぶされそうになっているのだ



(こんな事があるのか・・・・)



そうオレが思っていたその時だ



・・・・勝負は一瞬だった




痺れを切らした獅子姫が、獣のような鋭い一歩から激し斬撃を繰り出す



凄まじいキレと速さだ



しかし、その動きを冷静に見ていたその男は、ふらりと剣を振り、獅子姫ちゃんの剣を躱しながらカウンターを当てる



バタッ



その一撃で勝負は決まってしました・・・






話は戻る



「私は負けたんじゃな・・・・」



もう一度、獅子姫ちゃんが自分の右手の剣を見て呟く



静寂が訓練所内を支配する



オレはその光景に何も言えないまま黙って見つめていた









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