59羽:間者と間者
晴天の街道を私はひたすら歩いていた
厳しい訓練を積んできているから、この程度の移動は屁でもない
しかし、周囲に気を配りながら歩くというのは、実に神経の磨り減る行動だ
・・・ようやく丘の向こう側に目的地が見えてきた
周りを木と石で出来た城壁に囲まれた街だ
街道沿いに古くからあるその街は、昔から『宿場村』として栄えていたという
行商人や巡礼者などが、たまに立ち寄るどこにでもあるような小さな村だった
しかし、目の前にその街を見て少し驚く
数年前にも、ここを仕事で通りかかったがこんな大規模な村ではなかった
その宿場街を目指し、今では東西南北から行商人達が遥々買い付けに訪れる
見ると戦時中だというのに、我が母国の行商人の荷馬車も街に入って行く
はるばる遠くから危険を冒してまで行く価値がある街に、そこは変化したのである
☆
街の出入り口の門で、入場の手続きをする列に並ぶ
この街の住人なら札を見せれば自由に出入り出来き、また外から来た者も格安の入場料で入られる
しかも、前の方を見ていて気づいたが、この街では商人たちから通行を全く徴収してないようだ
信じられない事だ
普通その街に商売に来たなら、その荷物の価値に応じて通行税が取られる
その通行税は街を維持する為の金となり、その街の領主の懐を温める
それを全く取らないという事は、この規模の街ではこれまで見た事もない
何か理由があるのだろう・・・
そんな訳も有り、この宿場街には沢山の行商人達が集まっていた
すんなり街に入ると、立派な石畳の道ではないが、大きい荷馬車がすれ違う事が出来る土を固めた大きな道が奥の広場まで伸びている
その両脇には威勢のいい掛け声をかける商店が、数々並び活気がある
珍しい事に、この街の建物は木と土で出来た建物が多く見られる
きっと近くに大きな森があり木材が豊富で、また石場が遠い為にこのようになっているのだろう
今現在も新しく立てている建物が何件もあり、リズミカルな釘を打つ音が街中に響く
『活気のある街だ』
それがこの街の第一印象だ
元々広い平原にポツンとあった村が発展したのだ
土地だけは無駄に広くあるのだろう
都市計画も行っているのか、城壁内はまだまだ空き地が多く残り、これから益々発展していくのが予測できた
私はそんな街の中を、観光客を装い見て回る
不思議な事にこの規模の街だが、城や砦らしいものがない
恐らくあの兵舎が緊急時には砦として運用されるのだ
むしろ籠城する事を最初から考えずに、壁の外で迎撃をするのが目的なのかもしれない
街の住人としては籠城戦に巻き込まれて焼かれる事がないので、その方が安心かもしれない
私は商店街や住宅街、歓楽街を見て周り観察していた
特に商店街が異質だった
噂通り見た事もないようなものが売っている商店並び、買い付けの行商人たちでごった返していた
帝国で一番物が集まる帝都でも見た事がないような、野菜、木の実、魚や肉の加工品、手作りの工芸品・芸術品。はたまた、獣の毛皮、牙爪、骨などが所狭しと並んでいた
また貴重品を売る商店では、不思議な色の鉱物、貴金属、彩り石、見た事のない形や素材の武具も並んでいて、それを求め値段を交渉する商人たちの熱気で賑わっていた
そして、更に違う特別な商店では『魔獣の部位』が売られていた
インチキ露店や詐欺師の店ではない。
正真正銘の『魔獣』が売っているのだ
厳重な警備兵が入口で目を光らせているので一般人の私は中に入れない
話によると魔の森にしか生息しない魔獣の骨や牙、角、毛皮、眼球、羽、甲羅、尾などあらゆる部位が許可を得た特別な商人だけに取引されているという
その全てはこの大陸中の嗜好家たちが、大金を投げ打ってでも手に入れたい物ばかりだ
数も少なく貴重とされている上に、調度品としても、また薬や武具としても優れ、愛用されるという
仕入れ数が極端に少ない為に、その行商人達はこの街に商館を建ててまで長く滞在し、それによりまた街が潤う
これ以外にも、この街近辺の特産品が売り買いされていて、とにかく商店街は賑わっていた
☆
私はその商店街を離れ、今回一番の任務である情報収集を行う
狙いはこの街の兵士達が通う酒場だ
どこにでもあるような酒場、交代制で非番の兵士達が酒を飲んでいた
ここからは『ワタシ』は女の雰囲気を出し、情報収集を行う
カウンターで1杯ご馳走になった兵士から色々聞くことが出来た
この街の兵士の規模、指揮官など
傭兵が主体でこの街と近隣を守っているという
・・・・しかし、今回知りたいことはそんな事ではない
『謎の歩兵集団と女戦士』について調べなくてはいけないのだ
中々有力な情報が得られない
しかし、何軒か酒場を回り、情報を集めて行くと、ついにその正体が明らかになっていく
それは『森の民の戦士』が、その謎の歩兵集団の正体だという事だ
魔の森に住む原住民が森から出て来て、我らの帝国軍を打ち破った
信じられない話だが、この街の様子や噂話をまとめるとそうとしか思えない
何でものこの街のあの珍しい品も、大森林の中まで特別な商人が買いに行き、持って帰って来るらしい
その道や場所は極秘裏で、選ばれた者しか知らないという
という事は大森林の民は、少なくもこの街の住民とは友好関係にあり、尚且つ森とこの世界との窓口にしているのだ
しかし、その姿をちゃんと見た者はなく謎に包まれていた
ただ先日、帝国軍を撃退した後に、グラニス伯爵軍と騎士がこの街に来ており、その両者は友好的な関係だと推測される
☆
ワタシはこの日の情報収集を終え、絡んでくる兵士達をあしらい宿屋に帰る事にした
『謎の歩兵』の事は分かったが、もうひとつ『女剣士』の方はまったく分からなかった
上からの情報では『黒豹の爪』という通り名で呼ばれているらしいが・・・・
ん!?
その時ワタシは自分の失敗に気づいた!
周りを囲まれているのだ!
囲まれるまで気付かないとは、何てドジを踏んでしまったんだ
というか、こいつら気配がさっきまで全然感じなかった
今はワザと気配を出しているのだ
ワタシは背中に隠していた短剣に手をかける
(ここを何としても逃げ切る。ダメなら自害だ)
幼い頃から訓練されたワタシに迷いはない
すると目の前にいつの間にか、線の細い小さな男がいた
しかし、その動きや雰囲気は只者ではない
その動きを見てワタシは背筋がゾクリとした
(逃げられない!)
「そう怯えなくても、いいでやんす。わての名は『大耳』。あんたをわてらのボスの所に招待します。」
と、急にニコッと人懐っこい笑顔になり話しかけてくる
(このままではどうせ逃げられないなら・・・・ )
私は警戒を解かないように、その小男の後に着いて行く
「へへへ、そう警戒しなくても丈夫でやんす。うちらの部族は人を獲って食ったりはしませんです」
そう言いながらその男は路地の先に進んで行く
ワタシは後ろに何人かの気配を感じながらも、その後に着いて行く
(アベル様すみません・・・ワタシの身に何かありましたら、妹たちの事はヨロシクお願いします・・・・)
そう心の中で上司に祈り、ワタシは敵のアジトに連れて行かれたのであった




