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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 ヴェルネア帝国 侵攻】の章

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57羽:下界の朝日

火花が散る



自分の背丈程ある大剣から火花が散っている




長く太い割に、その動きは軽石で出来ているかのように軽々と扱われ上段、下段、左右からお互いに激しい斬撃を繰り返し合う




その大剣のひとつの重さは以前持たせてもらった事がある



とてもではないが軽石どころの軽さではない




まさに鉄の塊そのもの、の重量感だった




持ち上げるのが精一杯で、あんな風振り回す事など自分を始め周りの兵士達には不可能だった



そんな物が武器として役に立つのか?




しかし、持つ者が持てば非常に凶悪な武器となる。



切り殺すというよりは、それはまさにその重さで叩き殺す、と言った方が正しいかもしれない




その大剣の餌食になってきた者をこれまで多数見てきた




盾ごと吹き飛ばされたとある王国の重戦士や、全身甲冑ごと斬り倒された騎士もいた




脆い革鎧を着た歩兵などは、それこそ紙屑のように細切れに叩き斬られた




あの大剣と戦うには・・・・




自分では組手練習を行う時は、必ずあの大剣を避けに避け好機を狙うしかなかった




それでも、無尽蔵とも思えるその体力に体力切れなど無く、いつも自分の降参で終わっていたのを思い出す






・・・・そして、目の前で繰り広げられる、信じられない光景をもう一度見直す




その『赤髪』ガエル・ド・リオンヌの大剣を、相手の女剣士は一歩も退かずに受け止め、受け流しているのだった



相手が最初に前に出て来た時は、大柄の男剣士かと思った




しかし、よく見るとその革鎧の胸当てからはち切れそうな乳房があり、顔も整った美しい野性的な女の顔をしていた




間違いない女剣士だった



この前までに、何人もの屈強な男の兵士達が、この『赤髪』に切り殺されるのを見ていなかったのか?




まさか女が出て来てそう思うしかなかった



女騎士や女兵士は帝国軍にも確かにいる




しかし、それは女の中では強い方という事だ




さっき前に切り殺された敵の男達が、決して弱いという訳ではない




むしろかなりの剛腕と鋭い剣技の持ち主だった



それでも何故その男達は負けたのか?



こちらの『赤髪』が強すぎたのだった




・・・しかし、その女剣士は臆する事無く前に進みだした



普通の兵士では赤髪の殺気で目の前に立つことすらままならない





赤髪の大剣の間合いに女が入る




お互いに名乗り合う




そう思った瞬間、鋭い大剣同士の応酬が始まっていた




その女剣士も、その身の丈ほどある大剣で赤髪の剣を受け流しては、すぐさま切り替えし攻撃してくる




その上段の攻撃を受ける度に、赤髪の足元の土が沈む




見た目以上に凄まじい剣撃の重さなのだ




よく見ると相手の剣は、見た事もない形や色をしている




黒光りする刀身に何か文字のような文様も掘られている




怪しさと美しさを兼ね備えた大剣だ




もっとゆっくり見ていたい魔力があるのか




しかし、あまりの剣速の速さで直ぐに見えなくなる



この『赤髪隊』の中で、一番の目の良さを持っている私でさえ見切るに苦労する速さだ




周りを見ると他の兵士達は勿論のこと、相手方の兵士達もその剣舞のような戦いに見入っていた




(そろそろ動き出すか・・・)



帝国で『弓公子』と呼ばれている男は、そう思い静かに行動に移す






オレは一騎打ちを見入らないように、周囲を警戒していた



大砦の大剣使い『黒豹の爪』の腕前は十分知っていた




先ほどの森から敵本陣への奇襲で見ていたが、彼女の強さはこの下界においても常識を逸していると思った




その大剣は甲冑こと相手を切り裂き、騎兵を馬ごと斬り倒していた




歩兵の中には素人集団もいたが、全部が全部、相手が弱いという訳ではなかった




特に指揮官と思われた騎兵の槍さばきなどは、これまで見た事もない技とスピードで突いてきていた




それを総べて躱し反撃していたのだから、彼女の強さは下界の人間相手でも十分本物だと分かった



しかし、今回の相手は並ではなかった




その黒爪ちゃんの魔獣の甲羅さえも切り裂く業物の大剣を受け止め、受け流し反撃している




力も凄いが厳しい鍛錬を積んだ者にしか出来ない剣技の数々だ




こいつがここの一番の使い手であるのは間違いない




(こいつを倒せばここはオレ達の勝利だ)



(逆に黒豹の爪がやられたらこちらの負けだ)




そう思えるくらい、二人の一騎打ちには周りを納得させる強さがある




(だからこそ黒爪ちゃんを殺させる訳にはいかない)




オレは警戒していた



相手にも同じように思う奴がいるはずだ




この二人の一騎打ちに水を差す者、もしくは、自分の総大将を守ろうとする者




オレは感覚を澄まし周りを警戒する




『おーーー!!あー!』



歓声があがる




チラリと見ると、黒爪ちゃんが相手の大剣を受け止めたまま吹き飛ばされていた



しかし、直ぐに受け身をとり反撃する




(くそっ、単純な腕力は相手の方が上か!?)




オレはそう思いながらも息を整え、無心の状態でいつでも矢の『居合い射』を出来るようにする



一瞬で弓を構え、矢を射る



『大砦』で弓技の師匠に習った技だ



連射や剛射は出来ないが、殺気を悟られずに矢を正確に射られる




(黒爪ちゃんがやられそうになったら相手を殺す)




卑怯かもしれないが『魔獣喰い』はそう決めていた






その時は突然来た




力で押していたかと思っていた『赤髪』ガエル・ド・リオンヌの大剣が、相手の女戦士の剣を受け止めたと思った時に、大きな音を立てて折れてしまったのだ




「ちっ!」




お構いなしに、その折れた剣でそのまま切りかかる『赤髪』




『黒豹の爪』は油断せずにそれを受け止め、渾身の一撃で反撃をしようとする




ビュッ!



鋭い矢が『黒豹の爪』に襲い掛かる




間一髪でそれを大剣の腹で受け流す




「ガエル様!今です。この馬で御退きください!指示通り他の兵達は無事に退却しました!」




弓を構えた帝国軍の指揮官らしい男が、いつの間にか現れ馬上から叫ぶ




『赤髪』ガエル・ド・リオンヌはその声を聞くと、残っていた大剣の根本も投げつけ走り出す




そこからはお互い矢を打ち合いながら追撃迎撃戦が始まる




・・・・帝国軍を深追いすると、先ほどの『赤髪』が持ち替えた槍で反撃してくる



周りの騎兵達の連携も見事だ




深追いは危険だ




気付くと歩兵のオレ達では追い付けない距離に、敵の残存兵は退却していたのであった




オレは周囲の警戒を指示しながら、大剣を持って立ち尽くす黒爪ちゃんに後ろから近付く



一撃必殺の大剣同士の戦いだったからか、傷ひとつないが全身から汗の湯気が上がっていた




「もしもし・・・、大丈夫ですか?」




オレは背後から顔を覗きこむ




その顔は激闘の後だというのに、清々しいほど笑顔でだった




「・・・・『赤髪』ガエル・ド・リオンヌ。その名、覚えておく」



独り言のように呟いていた





補給基地の周囲も敵は退却して、敵陣を占拠したオレ達の勝利という事だ




しかし、さっきの口振りだと、他の兵士を逃がす為に囮として残っていて、見事に逃げられて事になる




(そう考えたら引き分けかな)




危うく置き土産で黒爪ちゃんの命まで弓矢で狙っていたし




(あの退却を指示した指揮官も、オレの矢を肩で受けながら矢を的確に射っていた。只者じゃないよな)




下界の世界も猛者共や野心家がいて、どうやら楽しくなりそうです




「それにしても、長い1日だった。疲れたな~」



オレは他の戦士達に聞こえないように占拠した陣地でこっそり呟く




視線を向けると、地平線の向こうから朝日が昇ってくる




明るい日差しが大地を照らしていく




(早く、温泉に入って、ふかふかのベッドでゆっくり寝られる生活をしたものだ)






こうして、森の部族は下界直轄領に侵攻し来た敵軍を撤退させることに成功した




しかし、この事によりこの大陸の歴史が大きく動こうとしていると、この時のオレは想像もしていなかったのである















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