54羽:他国からの侵略
楽しい時があっという間に過ぎていくのは、前の世界もだこの世界も共通だった
女戦士黒爪ちゃんと研究軍師『知恵の実』セリナちゃんの3人で大森林中を回った旅も終わり、オレは所属する「大砦」に戻って来た
旅の途中にオレ達に大事件が起きないか心配していたが、それもどうやら杞憂で終わった
またいつも通り、早起きをして訓練と狩り、小隊長の仕事に追われる日常に戻る
☆
そんなある日、例のよってこの大砦の最高司令官である『白猫姫』様に呼ばれる
(今日はどんな緊急会議だろうか)
司令官室の扉を開けて部屋の中に入る
部屋の中には、先に来ていた黒爪ちゃんと知恵の実セリナちゃん、弓の師匠である白狼の尾、その他の側近たちも待機していた
あれ?
いつもと違い皆表情が固い
そして、この部屋の主である白猫姫様は、届いた書類に目を通し不機嫌そうだ
(また面倒な事が起きたのかな・・・)
オレはそう思い、先に来ていた上官たちの隣に並ぶ
「よし、全員揃ったようだね。困った事に面倒臭い事がおこったよ。我が部族の下界の直轄地が他国の侵攻を受けた。早急にこの大砦からも援軍を派遣する」
と宣言する
(えっ?下界の直轄地って・・・・この大森林から出てすぐのあの宿場村とその周辺だよな。他国って一体どこの事だ?)
突然の事で驚き、心の中で整理しようとするが、とにかく情報が少ない
オレは疑問を聞きたいが、最高司令官である白猫姫様の話が続くようなので聞く
「援軍出すといってもここ大砦の守りの事もある、あと、下界に出る為の精霊神官の加護の術の事もある。どうするか?」
と言い研究軍師である『知恵の実』セリーナ・ベルガーの方を見る
そう、幼い女の子の外見をしているが、彼女はれっきとしたこの大砦の頭脳である軍師でもあるのだ
「相手の戦力が分からないので何とも言えませんが、下界に出ても臨機応変に対応で
きる、少数精鋭の部隊を向かわせるのがいいかと思うのであります」
何故か彼女の口調も若干軍人口調になっている
そして軍師セリナちゃんは、司令官室の中にいる隊長達を見回し考える
「対応力がある『黒豹の爪』を総大将にして、下界に出た経験がある『影足』と『魔獣喰い』を連れて部隊を編成して行くのがいいかと思うのでとあります。」
と軍師は総司令官に提案する
「ふむ、それもそうだな、その部隊でいこうか。詳しくはお前達に全て任せる。お前達で行って、さっさと終わらせてきてくれよ」
と『黒豹の爪』に命令し、緊急会議は終了した
状況がまだ把握できていないけど、オレは司令官室を出てみんなと打ち合わせする
「『魔獣喰い』、『影足』。軍師の言われた通りに、部隊を編制してすぐ出発する。
今回は時間が勝負になるので、各隊から足の速い者を中心に編成しておけ。
装備は訓練通りに、対人兵団用の装備を用意するように指示しておけ。さぁ、時間がないぞ急げ!」
と今回の総大将である黒爪ちゃんの一声でオレ達は動き出す
指示を受けたオレは、兵舎に向かい自分の副官たちに指示を出す。
彼らは勇敢な戦士であり、有能な副官である
指示に従い即座に行動を起こす
・・・・・出陣が決まり直ぐに大砦内が朝から騒がしくなる
魔獣の狩りや、魔獣の襲撃はこれまで幾度も経験している戦士達だが、下界に遠征するのは今回が始めてだ
2年前に、あの街道村がこの部族の直轄地になってから、今回一緒に行く『影足』などが所属する斥候偵察役隊は、下界の情報収集のために密かに何度か潜入などはしていた
それでも、オレの弓小隊や今回編成された戦士団は、全員が下界に行くのが始めてとなる
不安要素は多い
それでも日々の厳しい訓練の成果か、皆不満も言わずに出陣の準備をしている
今回は勝手知った魔の森ではなく、ある意味未知の世界の下界だ
2年前に直轄地で出来てから、下界の情報も訓練の一環として耳ではみな聞き、いつでも対応できるようにしていた
それこそ、人間の軍団相手の訓練も、大村の訓練生時代から鍛錬を積んできたのだ
不安、恐れ、迷いなどが全く無いとは言えないが、
今やこの大森林の部族の、大事な食料の生命線となった直轄地は守らなければいけない
幼いわが子や村の者を、またあの腹を空かせる生活に戻すのか・・・
そう心に思い、みなわが身を奮い立たせる
☆
出陣する戦士団の準備は順調だ
オレも自分に与えられた小隊長室に行き荷物をまとめる
重装備もあればいいのかもしれないが、大森林を突き抜けて下界まで行くので、装備はいつも通り軽装だ
弓兵を所属するオレは、硬革鎧に長弓に剣に短槍と基本装備
お守り代わりにコンパクトな手斧も一応持って行く
(また人を斬るんだろうな・・・・)
そう思うと、少し気持ちが沈むが、
『攻められたら、それに全力を以て反撃する』
それが、この部族のルールだ
オレは気持ちを落ち着かせ、集合場所である砦内の中庭に向かう
☆
オレが到着すると、既に出陣するほぼ全員が集合していた
みな思い思いの武具に身を固め、緊張した顔つきで出発の時を待つ
オレは自分の副官に部隊の確認作業をお願いし集団の先頭に向かう
集団の周りには、この大砦にいる殆どの戦士達が見送りをする為に集まっていた
『敵の大軍に囲まれて全滅するかもしれない・・・・』
『こいつらを見るのも今日が最後になるかもしれない・・・・』
そんな悲観的な想いもあったのかもしれない
しかし、武勇を誉れにするこの部族に恐れは少ない
『勇敢な戦士達の武運を祈る』
気付くと見送る砦の戦士から、誰からともなく歌が聞こえる
狩りの前に自分たちを鼓舞する『朝日の戦士』の歌だ
その歌はやがて広がり、大合唱になり砦中に響き渡る
その歌を聞き、瞳に強い力が宿る出陣する戦士達
その光景を嬉しそうに見ていた、今回の総大将の『黒豹の爪』が出発の号令をかける
「行くぞ、森の戦士達よ!我らの大事な領地を侵略する者共を根絶やしに行くぞ!
では、出陣!!」
戦士達からも大きな掛け声が上がり、部隊は進みだす
砦の戦士達に見送られ部隊は森の中を急ぎ足で進む
目指すは下界の直轄領地だ
みな言葉は少ないが士気は高い
オレも中を仲間と一緒に進んでいる
・・・・これまで大森林の中で閉鎖的に生活していた森の部族が
平原世界に降りて来て、その歴史に名を現し始める
そんな瞬間だった




