51羽:【白狼の尾】
こう見えても、昔は『弓童』、『弓の子』なんて呼ばれていた事もあった
始めて狩りに行き、獲物を獲ってきたのは7歳位だった
それ以降も村の大人の狩人に混じり、狩りに行っては大人達より獲物を獲ってきていた事もあった
その獲物を持って村に帰れば、そりゃ大騒ぎだった
どこの村でもそうだと思うが、オレの村は特に貧しくて、狩りが上手い奴が一番栄誉と称えられていた
このまま成長して、いずれは大村の城に呼ばれ、
森林戦士団の訓練生になり、そこを卒業して、この大森林中に名を響かせる狩人戦士になる、
と当時は自分でも信じていた
☆
そんなある日だった
1匹の獣が村に迷い込んできた
大人の狩人達の殆どは大きな狩りに出かけていて、村に残っていたのは女子供と老人が殆どだった
・・・・見た事もない大きな熊だった
オレも普通の熊は狩った事があった
しかし、その熊は普通ではなかった
大森林の住民は女子供であっても、皆小さい頃から狩りをしているので優れた狩人だ
しかし、その大きな熊には、非力なオレ達子供の矢は刺さらず、女共の矢や槍もそれ程効果はなかった
それでもオレ達は必死で戦った
何人か残っていた男の大人の狩人と共にオレは、更に小さい子供や老人達、妊婦や赤子を必死で逃がそうとした
しかし、その大きな熊は巨体に似合わない身軽な動きと、強烈な爪に体当たりで村中を蹂躙していった
叫び声が村中に響いていた
無謀にも正面から立ち向かったオレは、吹き飛ばされた木の破片に巻き込まれて意識しばらく失っていた
・・・気が付くとオレの育った村は壊滅していた
大人達の狩人達が戻って来た時には、無事に逃げ隠れた者を含めて、少数の村人しか生き残っていなかった
その規格外の大きな足跡を見た、大人の狩人が言っていた
『赤熊の魔獣だ』
☆
両親や幼い妹が死に、半ば壊滅した村を後にしたオレは、大村の城に訓練生として行くことになった
オレは必死で3年間訓練と鍛錬を積んだ
自由と楽しみ、笑顔を押し殺し、言葉と通り死に物狂いで自分を痛めつけていた
噂ではあの『赤熊の魔獣』は狩られておらず、今なお、あの近辺の小さな村を襲っているという
知恵も高いのだろう、腕利きの狩人と戦士達が何度も狩りに向かっていたが、中々姿を現さずその足取りがつかめていなかった
オレは不謹慎だが、このまま誰も狩らないで欲しいと思った
『オレの手で、アイツだけは必ず殺してやる』
そう毎日思い鍛錬する
☆
そんな時に彼女に会った
オレが訓練所を卒業し、最前線である『大砦』の戦士団に入隊して、日々鍛錬と狩りに明け暮れるある日だった
・・・・今でも覚えている
年端もいかない少女が、自分の背丈よりも大きな戦斧を軽々持ち、オレに面倒臭そうに話しかけて来た
「お前が『黒狼の尾』だよね。面倒臭いんだけど、これから『赤魔熊』を狩りに行くんだけど、お前も行くよね。」
とオレに誘いをかけてきた
そういえば、当時のオレは黒い服や鎧ばかりを好んでいたな
彼女はこの大砦にいる者なら、誰でも知っている少女だ
この大森林の大族長『獅子王』様の娘である『白猫姫』様だ
なんでも獅子王様に直々に命令され、長年誰も狩った事なない、赤熊の魔獣を狩りに行くという
そう、オレが死ぬほど憎んでいるアイツだ
オレは断る理由もなく、白猫姫様達と狩りに出かけた
白猫姫様の狩り組は少数精鋭だった
大砦や大村の腕利きの若手で編成され、皆鋭気に溢れていた
長い旅だったが、ついにアイツを見つけた
アイツの姿を数年ぶりに見たオレは、恐怖よりも歓喜に震えた
この日の為に必死で弓や剣の腕を鍛え、アイツの剛皮を貫くこの強弓も扱えるようになっていた
オレ達は赤魔熊に戦いを挑んだ
本当に、本当に激しい戦いだった
何度斬っても、何度貫いてもアイツは倒れなかった
狡猾に暴れ回りオレ達を翻弄する
しかし、全員の渾身の攻撃が
必殺の一撃が徐々にアイツを弱らせていく
そして最後には、白猫姫様の戦斧が赤魔熊の首を斬り落とした
・・・・今思い出しても、その時の白猫姫様の戦っている姿は本当に美しかった
オレは森に横たわる赤魔熊の死体を眺める
子どもの頃に見た時よりも少し小さく見えた
終わった・・・
本当に終わったのだ
この為に数年間必死で鍛錬を積んできた
・・・しかし、達成感や喜びはなかった
(この後はどう生きていけばいいのだろう・・・・)
むしろ虚無感がオレを襲い、倒れそうになる
すると空っぽに成りかけたオレに誰かが近づいて来る
「これでお前を縛るものはもうなくなったな。約束通り、明日からお前は私のモノだ、よろしくなのだよ」
と返り血に染まる白猫姫様はオレに命令した
その姿は血や泥で汚れていてもなお、神々しく輝いて見えた
(そんな約束してないような。まあいいか。明日からこの方の為に生きよう・・・・・)
オレはその差し出された手をとり臣下の礼をとる
それにしても疲れた・・・・
明日からは少しゆっくり生きてみよう
・・・・こうして、オレは白猫姫様の元、のんびり大砦で生きていく事にした




