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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大砦】の章

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48羽:魔の森 魔獣狩り

 “魔の森”に“魔素”が発見された。


 《魔獣喰い》ことオレの部隊と、女大剣使い《黒豹の爪》の隊の合同で“浄化”に向かうことになった。


「班長、こっちの準備は万端だ」


「いつもわるいね」


 副官であるイケメン剣士が、遅れてきたオレに報告してくれる。その言葉のとおりに巨大な大砦の中庭には、出陣の準備を終えた部隊が整列していた。

 イケメン剣士は凄腕剣士なだけではなく、こういった部隊管理にも優れている奴だ。


「今回精霊は神官の人は二人か」


「かなりの大規模な“魔素”だという話だからな、班長」


 今回は“浄化”がメインということもあり、高位の精霊神官が二人もいた。

 それを警護する任務としてオレと《黒豹の爪》ちゃんの部隊が同行する。

 重戦士、長弓戦士、隠密衆と総勢部で八十人を越える大部隊だ。


 地形の険しい大森林の戦士団は皆が徒歩での行軍だ。

 各々が自分たちの必要な装備や携帯食料、備品は各自で背負う。


 食糧を積む兵站部隊は無く水や食料の足りない分は現地調査となる。

 “魔の森”言われているが恵み豊かな森で水食糧に困ることはない。


「では行くぞ!」


 今回の合同部隊の指揮官で女戦士《黒豹の爪》号令の元、屈強な戦士たちは出陣する。


「よし、オレたちもいきますか」


 巨大な城門をくぐり抜け、完全武装の戦士団が目の前の“魔の森”へと進んでいく。

 森の戦士たちの表情は固いがそこ悲壮感はない。


 これまでにも同じような任務を、この仲間たちと乗り越えてきたのだから。


 人外で魔獣の群れを相手に厳しい行軍になるだろう。

 だが、大森林を守るために、それぞれの家族や思いを寄せる者を守るために進むのだ。



 目的の“魔素”までの道のりは二日かかった


「道中は特に異常はなかった感じか……」


「近辺の魔獣は駆逐したばかりだからな、班長」


 イケメン剣士と雑談しながらオレは森の中を進む。周囲をちゃんと警戒しながら。


 魔の森には整地された街道はなく、道中の起伏は激しい。足元や前方に障害物を抜けての行軍。

 だがそんな森の中でも、オレたちの森の戦士団は駆けるように進んでゆく。


 オレたちが森の中で幼い頃から慣れ親しみ、鍛えこまれてきた森林戦士だ。


 また全員が軽装備で徒歩だというのも大きい。

 下界の軍隊と違い、足が遅い補給用の輜重部隊なども必要ない。

 

 森の戦士は軽くて頑丈な革鎧を着込み、食料なども各自で持ち歩くために行軍速度は驚異的である。

 ゆえに数十人の完全武装集団の行軍とは思えないほど静かで、なおかつ素早い速度で目的地までたどり着けるのだ。




「ん……?」


 何かの異変を感じたオレは、仲間たちに無音で合図をおくる。"警戒セヨ”と。


「どうした《魔獣喰い》?」


 大隊長である女戦士《黒豹の爪》がスッと近づき、確認してくる。


「この先に……いる」


 この前方に魔獣の気配がするのを伝える。他の戦士たちはまだ気が付いて無かったようだ。

 

 

「相変わらず班長の鼻は色々とおかしいな」

「ケッケッケ……だな」


 魔獣の数を確認するために、隠密に優れた偵察隊を出す。昔からの仲間である《大耳》もいく。



「……《黒豹の爪》の姉御、“森狼”の魔獣の群れがいました」


 戻ってきた偵察部隊の報告によると、魔獣はまだこちらに気付いてない。

 

 だが相手は“森狼”の群れであった。

 奴らは単体ならば囲んで倒せる相手。

 だが問題はその数であった。かなりの数だという。


「よし、こちらに有利な地形におびき出し、罠で動きを止めて仕留めるぞ、お前ら」


「「はっ」」


 大隊長《黒豹の爪》に指示に従い、オレたちは地形を生かした罠を仕掛けていく。

 大剣使いである彼女は脳筋肉女子に見えて、実は有能な指揮官である。

 それでなければ大森林の中でも十人といない“大隊長”の任には就けない。



「よし、終わったぞ」

「こっちもだ」


 罠の設置が完了する。

 

 今回の罠は、断層の亀裂を使った罠がメインになった。

 ここに“森狼”魔獣を誘い込み、その動きを止め仕留めていく作戦だ。

 今回の相手は高い木の上に登れないので、木の上からの斉射も効果的であろう。

 矢と刃先には猛毒も塗り付けジワジワと魔獣を弱らせ倒す。


 罠や毒を使うのは卑怯に感じるかもしれないが、相手はあの“魔獣”だ。

 いくら森林部族の戦闘能力が高いといっても、全ての個体能力は獣が上。


 それゆえに人の最大の武器である“知恵”を使うのだ。



「では今回のおとり役だが……」


 罠の設置も終わりいよいよ作戦開始となる。

 だが最後に一番大事な役を決めないといけない。

 それは囮役だ。

 

 前方で群れをなす魔獣の群れを、この罠まで誘導する危険な任務。

 人外の健脚をもつ魔獣にギリギリまで接近して、逃げ伸びなくてはいけない決死の役割。

 あまりにも危険すぎる役ために、勇敢な大森林の戦士であっても、これだけは立候補制が取られていた。


 ちらっ、ちらっ。


 その場にいた視線が一か所に向けられる。

 これまでも見事な囮役として、数々魔獣の群れを騙し誘いだした勇敢な戦士の顔に。


「うぐぐ……やらせていただきます、今回も」


 オレは静かにそっと右手を上げて立候補する。これで気が付かれなければ儲けものと。


「おお、やってくれるか《魔獣喰い》よ!」

「さすがは《魔獣喰い》だな」

「班長に任せておけば安心だ」

「ケッケッケ……ご愁傷さま」


 オレの名乗りに皆が気が付き、戦士たちは賛辞をおくる。

 “大砦おおとりで”に着任してから数々の囮任務を成功させ、多くの仲間の窮地を救った戦士……《魔獣喰い》に対して。



「よし、では魔獣どもを駆逐するぞ!」


「「おお!」」


 こうして命懸け作戦は開始された。



 今回の作戦は成功に終わった。

 危険な夕方前に、森狼の魔獣の群れを全滅することにできた。


 凶暴な魔獣が相手ということもあり、ケガ人も続出した。

 だが重傷者は一人もなく大成功といえるであろう。

 

 今回は大型の魔獣がいなかった事が幸いであり、また勇敢な囮役の大活躍があったことは言うまでもない。

 オレ頑張ったよ……。





「よし浄化をはじめるぞ。油断するな」


 大隊長《黒豹の爪》の号令と共に、元凶ともいえる“魔素”の浄化が開始される。

 魔素を浄化してくれる二人の精霊神官を中心に、森の戦士たちは円形に陣を組み警護する。


 危険な周囲の魔獣は全て駆逐したが、この魔の森では何が起こるかわかならい。

 これまで以上に警戒する。


「おお……はじまった……」


 浄化がはじまり“魔素”の近くにいたオレは、思わず声をだす。

 精霊神官が行っている“浄化の儀式”の神々しい光景を目にして。


 “魔素”はこの世界の魔が自然と吹き溜まった穴だ。

 それを森の精霊の力を借り毒素を抜くのが“浄化”である。浄化によりその周辺地域はしばらく安全な森となる。

 

 だがまた違う場所に自然と吹き溜まってゆくために、これからも油断はできないのだが。


「あっ……抜けた……」


 すぐそこで禍々しく存在していた“魔素”から、“何か”抜けて行く。煙のような感じで。

 それまで漆黒だった魔素の色が、抜けてキレイな輝きを放ってゆく。


「おお……凄いな……」


 この光景は“大砦おおとりで”に着任してから何度も見た。

 だが何回見ても感動する美しく神々しい瞬間だ。


「よし、“精霊石せいれいせき”を回収しろ!急げ!」


 浄化が終わり《黒豹の爪》が次なる指示を部下に出す。

 視線を魔素の下に向けると、そこにはこぶし大の宝玉が落ちていた。

 森緑色ウッド・グリーンを基調にした七色に輝く不思議な石。


 これが魔素を浄化した跡に残る“精霊石”である。

 危険な“魔”が抜けているので害はなく回収される。その後は大砦に持って帰り“ある方”が調査する。


「神官たちの保護も急げよ!」


 浄化のために力を使い果たした二人の精霊神官は、その場で座り込んでいた。

 護衛の戦士たちは、用意してあった背負いかごに彼女たちを乗せて労わる。


(よし……これで今回の任務も終わりか……)


 周囲を警戒しながらほっとひと息つく。

 多少のけが人が出たけど、これだけの大規模な魔素を迅速に浄化できたので大成功といえるであろう。

 後は油断しないように“大砦おおとりで”に帰還して任務完了だ。

 

 あっ、そういえば、森狼の魔獣の肉も帰りにこっそり回収していかないと。

 少し淡白な感じがするけど野性味があって美味な肉である。


 えっへへ……焼いて食べたら最高なんだよね、あれは。


「おい、《魔獣喰い》いくぞ!」


 そんな妄想していたら、上官である《黒豹の爪》ちゃんに起こられてしまった。強烈なゲンコツと共に。


 いてて……


 

 こうしてオレは頭を抑えながら帰路につくのであった。密かなお手柄と共に。


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