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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大砦】の章

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46・1羽:誰もが憧れる大砦

 一年前に結成された“獅子姫隊”は、グラニス騒動のあった下界から戻ってきた後に解散となった。


『《魔獣喰い》よ、しばしのお別れじゃ』


 理由は《獅子姫》ちゃんが王命により別の任務が言いつけられたからだ。何でもザクソン宿場村を中継した、下界と大村との交易の責任者だという話だ。

 黒装束のオジサンをはじめとする護衛戦士たちも、そのまま彼女について行く。


 《獅子姫》ちゃんと別れるのは寂しいけれど、これもお互いの戦士としての任務なので仕方がない。


『《魔獣喰い》よ、そんな情けない顔をするではない。次に会う時まで稽古を怠るのではないぞ』


 いつもの笑みで《獅子姫》ちゃんは元気をくれた。

 何かあったから必ず駆けつける。そんな約束をして再会を誓う。 


◇ 


『では《魔獣喰い》。お主は“大砦おおとりで”の戦士に任命する』


 一方でオレは王命により、一年前からここ“大砦おおとりで”の配属となった。

  

 “大砦おおとりで”は大森林の各地に無数にある砦の一つである。

 だがここは他と別格の規模と戦力を誇っていた。


 理由はここが大森林の中で最も危険とされる“魔穴の森”に接しているからだ。この大陸で最も瘴気が濃く魔獣が棲息する森に。


『魔獣の群れに“大砦おおとりで”を抜かれたら、大陸は滅ぶであろう……』


 “大砦おおとりで”は対魔獣の最前線基地であり、最終防衛線なのである。

 ゆえにここには全ての村から選りすぐり戦士たちが集められている。


 いわば大森林で最も強き戦士たちが集う場所が、この“大砦おおとりで”なのである。


『あの“大砦おおとりで”の戦士になれるとは、さすがは《魔獣喰い》だな……』


『《魔獣喰い》ならば“大砦おおとりで”でも活躍間違いないな……』


 大村の同期の皆はそう言って送り出してくれたけど、実績がないオレが選ばれたのは運が良かったか偶然なのかもしれない。


 ほら……剣姫である《獅子姫》ちゃんに同行していたご褒美として。



「おお、ここが“大砦おおとりで”か……」


 他の砦や大村の城と違い、この“大砦おおとりで”の周囲には村はない。

 

 イメージとしては大森林の中にドンと、空堀と城壁に囲まれた大きな砦がある感じだ。非戦闘員に危険が及ばないように周囲に村はない。



「訓練に狩りに……やることはこれまでと変わらないかな……?」


大砦おおとりで”に移動してきたオレの毎日は特に変動はなかった。


 規模が大きくなった集団訓練と個人訓練の毎日。食料確保の為の狩りや巡回警備など他の砦勤務と大差はない。


 だが一個だけ他の砦と違う任務がここにはあった。

『魔獣の群れを発見!』『総員、出陣!』

 それが先ほどの“魔獣の群れ”との戦闘だった。


 “魔獣の群れ”……その言葉に驚く者も多いだろう。

 何故なら前に言ったように『普通の魔獣は群れない』からだ。


 野生の獣に“魔の瘴気”が憑依して突然変異したのが魔獣である。

 その生態系や思考回路は謎に包まれているが、魔獣は基本的には単独で行動している。


 だが例外の場所がこの大陸に一か所だけあった。

 それがこの“大砦”の前方に広がる“魔穴の森”……通称『魔の森』だ。


 “魔の森”には魔素が多く吹き溜まる場所があり、自然とそこに魔獣の群れが発生してしまうという。

 単体でも小さな村なら壊滅させてしまう凶暴性をもつ魔獣……そんな群れが人里に溢れ出したら大惨事である。


 そこで古来の戦士たちにより、この場所に“大砦”が築かれたのだという。


 ここに着任した戦士たちは、凶暴な魔獣の群れをここで食い止めるという重大な任務をおっていた。

 万が一にでも“大砦おおとりで”が突破されたなら、数多の数の魔獣の群れが大森林と下界へと解き放たれてしまう。

 

 そのためにここにいる戦士たちは精鋭部隊であり猛者揃いだ。大森林中の戦士たちは大砦に召集されることを憧れ誇りとしている。


 森の民の子どもたちにアンケート調査したなら『将来なりたい職業は?』は断トツで『大砦の戦士!』になるはずだ。

 危険が多い場所であるが、それほどまでに名誉ある任務だ。


 でも改めて考えるとなんでそんなエリート集団にオレも入団できたのかな?

 うーん、謎である。


 そういえば、ここにはオレだけのとっておきの楽しみがあった。


「おお、この森猪の魔獣のモモ肉は格別だ!」


 狩られた魔獣の血肉や内臓は猛毒があるために全て廃棄される。それを密かに食べるのがオレの大砦の最大の楽しみだった。


 何しろ他のみんなは魔獣の肉を食べられ、なおかつ美味だということに気が付いてない。だからオレの独占状態で食べ放題。


 キツイ任務や訓練が多いけどここは最高な環境だ。



「班長、《白猫》様が呼んでいたぞ」


 森猪の魔獣を撃退してもぐもぐしていたオレを、イケメン剣士を探しにきた。肉を隠さないと。


「ん? 《白猫》様が何だろう……」


 食事を中断して《白猫》様……この大砦の最高司令官のもとへ向かう。

 

 ちなみイケメン剣士もオレと一緒に、この大砦に戦士として着任していた。

 他には巨漢戦士の牛さんに隠密を得意とする《大耳》、あと数人の旧“魔獣喰い狩組”の連中も一緒だった。

 コイツ等とは十歳の時に入団した大村の訓練所時代からの付き合いである。

 

 地獄のような訓練所での三年間、下界のグラニス伯都での任務。その後の大森林での戦士団としての日々を過ごした、頼もしい仲間であった。

 

 平凡なオレとは違い、皆は才能にあふれた戦士や狩人ばかりで、この大砦に召集されたのも納得の人選である。


「何を言っている? 相変わらず自分の才能を自覚していないのか、うちの班長は」


「えっ、そうかな。えへへ……」


 イケメン剣士の奴がお世辞を言ってくれるので、照れながら調子を合わせる。

 ちなみに"班長”というのは、イケメン剣士がオレの対する旧“魔獣喰い狩組”時代からの呼称だ。


 おっと、早く《白猫》様の待っている執務室に行かないと。怒られてしまう。



「失礼します」


「……入れ」


 巨大な大砦の最上階にある執務室に、挨拶と共に入室していく。

 

 この森の民にはノックや敬語という文化はないが、つい前世のクセでしてしまう。職員室に入る時に必須だったから。


「えーと、要件は何でしょうか? 《白猫》様」


 部屋の真ん中に直立不動で立ちながら、目の前の司令官殿に訪ねる。何となく不機嫌そうな顔をしているので、おそるおそるに。


「《魔獣喰い》よ……“魔の森”でまた大規模な魔素が見つかってしまったのだ」


 司令官殿は部下の巡回の報告書を読みながら、更に不機嫌な表情になる。

 大規模な魔素は魔獣の群れの元凶ともなり危険な存在で、早急な対応を司令官には求められるからだろう。


「ああ、面倒くさいな……そこで浄化をよろしくだ」


 面倒臭さがりな司令官殿は、無造作に髪をかき分けながらオレに指令を出す。大人の色気を出しながら。


 色香……そう――――司令官はなんと女性なのだ。この強者ぞろいの“大砦おおとりで”を総べる者は。

 


(《白猫》様は、今日も美しいな……) 


 肩まで伸びた髪は美しい輝きを放ち、見る者の心を引き付ける。

 また眉目秀麗(びもくしゅうれい)で整った顔立ちは、美人の多い大森林の女性の中でも段違いに美しい。

 

 オレよりも年上ということもあり、何ともいえない大人の色香もあり素晴らしい。


「ああ……本当に面倒くさいぞ……」


 だが見た目の美しさとは裏腹に、彼女は“残念”であった。


(うーん、いつも思うけども……《獅子姫》ちゃんと同じ"お姫様”には見えないよな……この《白猫姫》様は……)


 声に出さないように心の中で改めて思う。その衝撃の事実を。


 そう……“大砦おおとりで”の最高司令官で、オレの新しい上司《白猫姫》様……彼女はなんとは《獅子姫》の実姉なのだ。





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