46羽:新たなる狩りの始まり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
下界にあるグラニスから大森林へ戻ってきて……あれから月日が経つ。
あの時の十四歳だった《魔獣喰い》ことオレは、もう十五歳になっていた。
えっ、いきなり時間が進み過ぎ、手抜き!? ですか……。
いえいえ、オレもちゃんと頑張っていたました。
ただあまりにも過密な狩りの日々だったので、あっという間に月日が経っていた。
◇
「来たぞ!」
「全員、気を付けろ!」
今だって大森林のど真ん中で、こんな感じで必死に“ヤツら”を狩っている真っ最中だ。木製の城壁の上に集中しながら。
二年前の狩りとは少し違う。
前は森の中に身を潜め、息を殺して標的の獣に狙いを込めて射る……そんな感じだった。
でもオレの所属するこの“大砦”での狩りは別ものだった。
「まだだ、まだ、引き寄せるんだぞ」
左右の城壁の通路に視線をおくる。
そこにはオレと同じように長弓を構えた森の戦士が整然と並んでいる。
「焦る男と、早すぎる男は、好いた女には嫌われるぞ」
指揮官の戦士が冗談で焦る弓戦士を落ち着かせようとする。
でも“早すぎる男”ってなんのことだろう……少し気になる。
「正面から来ます!」
高見台にいた遠目の効く戦士が、その獲物の接近に告げてくる。
地鳴りのような……いや地震に近いほどのごう音を立てて、獣の足音が接近してくる。
大きな足音が波音のように、そして規則的に近づいて来る。
「構え!」
指揮官の声と共に弓をひく。
すると次の瞬間であった。
木々の隙間から洪水のように巨大な獣が押し寄せて来る。まさに黒と茶色の恐ろしい地鳴りの洪水だ。
“森猪”に似た外見の獣であるが、全てがあまりにも巨躯すぎて圧倒的な圧力を放っていた。
慣れた森の狩人ですら腰を抜かすほどの恐怖が襲ってくる。
「撃てぇ!」
だが指揮官は冷静に発射を指示する。
城壁の上に弓戦士たちから、一斉に横並びの豪矢が放たれる。もちろんオレも渾身の一撃を射る。
その凄まじい斉射を受けて巨大な獣たちは絶命していく。分厚い皮下脂肪と剛毛に被われていた獣の急所を貫いていたのだ。
激しく動く獣の群れを相手に凄まじい精密射撃である。
「次っ!」
しかし斉射に怯むことなく、巨大な獣の群れはこちらへの突撃の足を止めない。
続けて渾身の力でオレたちは剛矢を残る獣に打ち込む。
相手は防御力の高い獣であり、ここは連射よりも剛矢で攻めていくのが正解である。
「城壁に近づかせるな!」
剛矢の雨を受けながらも獣の群れは突撃を止めない。
絶命しながらもこちらに突進してきて、城壁前の空堀に落ちていく。恐ろしい程の生命力と闘争本能だ。
「油断するな!」
「まだ生きているぞ、止めをさせ!」
森猪に似た獣の群れが足元の城壁まで到達する。
死体で埋まった空堀を……仲間の死体を踏み台にして、城壁を破壊しようと突撃を繰り返す。
恐ろしいまでの闘争本能と驚異の破壊力だ。
「ビビッて落ちるなよ、お前ら!」
足元の城壁が地震のように大きく揺れる。
頑丈は“鉄木”製の城壁といえども、この獣たちの突進をこれ以上受けるのはまずい。
「来たぞ!」
マズイ……と思った次の瞬間であった戦況を確認していた指揮官が叫ぶ。
今度は先ほどまでの悲痛な叫びとは違い、歓喜の叫びである。
「押しつぶせ!」
「魔獣どもを逃がすな!」
雄叫びと共に獣の背後から、新手の森の戦士たちが現れる。巨大な大斧や太い長槍、大剣を持った重戦士たちだ。
彼らはこの大森林の中でも選りすぐりの戦士であり狩人であった。
無防備な背後を突かれた魔獣の群れは、その戦士たちに次々と打ち倒されていく。
「仲間に中てるなよ!」
城壁の上のオレたち弓戦士も、更に追い打ちをかけるように剛矢や投げ槍で魔獣に止めをさす。
魔獣は通常の獣とは違い、硬皮や分厚い皮下脂肪で全身を被われ防御力が高い。
だがオレたちの射る特製の長弓と矢じりの威力は凄まじく、次々と魔獣の急所を貫く。
森の民は普通の獣は生態系を壊さないように無益には狩らない。
……だが自然ならざる、この魔獣は狩り尽さなくてはいけないのだ。
「一匹も逃がすなよ!」
オレは無心で矢を射り続ける。
◇
永劫かと思う時間が経つ。
ふと気付くと自分の矢は尽き、城壁の下で動いている魔獣はいなかった。
「終わったか……」
城壁を降り倒れる獣に更に止めを刺してゆく。
コイツ等の生命力は凄まじく、倒したと思ってもまた復活する時があるのだ。
槍を使い皆で慎重に止めを刺していく。
「“森猪”の群れに"魔”が憑りついた変異か……」
オレは動かなくなったその無数の死体を見る。
大まかな外見は“森猪”に似ている。
だが似ているだけでまるで別物だ。
まず身体が何回りも大きすぎる。突然変異だといっても説明できないくらいに。
また口元の牙は鋭く変形しており、何本も奇形で禍々しく生やしている個体もある。
この巨体に鋭い牙、更には先ほどの突撃をまともに食らったらなら……と想像しただけでもゾッとする。
いくらら頑丈な大森林の戦士でも致命傷は逃れられないであろう。本当に恐ろしい獣だ。
そして、硬皮と皮下脂肪で防御力も半端なく高い。
これほどの群れで襲ってきたならば、小さな村など一瞬で消滅する恐ろしさ。
群れたコイツ等を倒すのには、先ほどのよう動きを止めさせる必要があった。
更には遠距離から剛矢と投げ槍で数を減らし、重量武器で止めを刺していくのがこの“大砦”では定石であった。
この魔獣の群れの襲来は災害でもなくこの“大砦”では日常の戦いであった。
そう――――《魔獣喰い》ことオレは、この“大砦”で魔獣の群れを狩っていたのである。
選ばれた狩人戦士として。




