4羽:七つの歳
オレは七歳になった。
いよいよか!という感じである。というのも現代日本でいうと小学校低学年だが、部族ではこの年齢では半人前の頭数に数えられる。
仕事の量や内容も格段に増え、更に小さな子の面倒をみてと色々大変だ。だがそれに伴い食事の量も増えるのはかなり嬉しい事だ。
何でもこの部族では十四歳からが成人らしく、そこからは誰もが一人前の扱いを受ける。十四歳からは酒を飲め、何と“結婚”も出来る。
生存競争が激しい草食動物が産まれた瞬間に歩ける様に、危険な森に住む民は肉体的にも精神的にも現代の子供よりは大分進んでいた。
(七歳か・・・いいな・・・)
自分で言うもの何だが、オレも最近は結構成長したと思う。
五歳からのここ二年間は通常通りに植物採取の仕事をして、更に短弓や短剣、木登りや隠密活動など少しずつ狩人や戦士の訓練を積んできた。憧れの剣槍(木製)を調子よく振り回してしょっちゅう叱られたものだった。
この二年間で同年代の他の子供と比較した結果。どうやらオレは
・身体の大きさや筋肉の強さは中の上くらいで普通
・剣の才能はあまりないようだ
(悪くはないが優れてもいない)
・弓技の才能は結構あるようだ
(大人用の練習の的にも難無く当てられる)
・見た目が地味なので、隠密行動は得意だ
というのが客観的に見た七歳の自分の能力状況だ。もちろん若干の私見はあるかもしれないがその辺は大目に見て欲しい。
そして気付いた事がもう一つ。
残念ながら自分には異世界に転生して得た“雛形的チート能力”というモノが、全く備わっていなかった事である。魔法に無尽蔵な魔力、底辺能力だけど実はチートだったぜ、みたいなものは全部試してみたが何も発揮されずだ。
聞いた話ではこの世界には“魔法”的なものは存在しないという。森で信仰されているのは“精霊術”というものだが、それはあくまでも自然の力を借りて高めるというモノらしい。勿論それも試してみたが自分には“適正無し”だった。
そんな訳で異能の力は幼い内に早々に諦め肉体の鍛錬に日々勤しむ。
特に自分が力を入れたのは“剣”の稽古だ。
勇者や騎士と言えばやはり剣士でしょう。これでも結構真面目に訓練に勤しんでいたが、才能がまだ開花していないのか中々上達しない。
(うーん、なかなか上達しないな・・・もしかして才能が無いのか・・・)
そんな事を考えずに日々鍛錬に精を出す。なかなか上達しないといっても、オレ自身も一般的な子供には有り得ないような身体能力が身についていた。
高い壁や木を猿の様に駆けあがり、重量の有る満載の水桶を何個も両手に持ち運べる。集中すると落ちて来る木の実がスローモーションに見えたり、遥か遠くの小さな声も聞こえたりする。
(おお、これはチート能力か!?)
そう最初は思ったが、よく考えるとこれはこの部族全員の身体能力が高いからである。まあ、今後はあまり無理して背伸びをせず、のんびり長所を伸ばしていこうと思う
・・・・・・
そんなオレだが七歳になりいよいよ大人の狩りに同伴することになった。
“低学年で危険な狩りに同伴”
(大人達もオレの隠された天分の才能にようやく気付いたか・・・・)
と喜んでいたのも束の間、どうやらこの部族では七歳で狩り初陣は当たり前の年齢らしい。数人のベテラン狩人に対して子供二人位が同伴するのが初陣の普通の組み合わせだ。
子供達に狩りの結果を求めている訳ではなく、今後の為に慣れさせる意味合いが殆どだろう。そんな大人の事情も露知らず、オレは大物の獣を夢見て気合を入れる。
当日の朝は興奮し過ぎて普段より早起きして準備を行う。これまでの女子供だけで行った森の採取とは違い、今回はかなりのしっかり装備だ。
革を煮固めた子供用の硬い革製胸当てに革帽子に小手と脛当てを身に紐でくくり着ける。解体用の小さな手斧に短刀、そして矢筒を背負いメイン武器である短弓を手に持つ。
(おー!ザ・狩人装備だ)
鏡が無いのでその姿を自分で見られないのは残念だが、結構カッコイイぞ、これは。
自分の夢的には異世界で金属鎧や騎士剣盾なんかを装備したかったが、この狩人装備もいぶし銀で渋いかもしれない。今のところはとりあえず我慢してやる。
こうして準備も整いいよいよ初狩りに向かう。
【登場人物&用語 紹介】
"オレ"
現代から異世界に転生した。現在の年齢は7歳(男)。特技:弓が少し得意
部族の風習で名はまだ無い。剣に憧れる。