【閑話】精霊神官の巫女
幼い頃にわたしは、おじ様……《流れる風》に救われた。
無人と化した辺境の村で。
村の人はなんの外傷も無く人々は倒れ息絶えていた。
村が滅んだ悲惨な現象を“精霊いたずら”とおじ様たちは呼んでいた。
原因は不明だが森の精霊の力が何かの拍子で狂い、人に害を与えてしまうという。
百年に一度あるかないかの事だという。
物心がつきはじめばかりのわたしは微かに覚えている。
みんなは逃げることさえせず運命に素直に受け入れていた。
その残酷な現象を森で生きるうえでの運命として。
「愚かかもしれないけどアノ人のために私は抗いたいの……」
そんな中でわたしの母親だけは死から抗っていた。
精霊神官でもあった母の守られながら、村の中でわたしだけが生き残った。
(温かい……声がする……)
息絶えて母に守られならがしばらく眠っていたらしい。
救援に駆け付けたおじ様の声で目を覚ます。
息絶えた村人たちは森へ還すために埋葬された。
「来るのが遅くなった。悪かった……」
おじ様が母の亡骸に謝りながらひとすじの涙を流していたのを覚えている。
子ども心に不思議に思った。
どうして母は他の人と違い運命の教えに抗っただろか。
なぜおじ様は涙を流していたのか。
◇
それからわたしはおじ様のゆかりのある村を転々としながら育てられた。
多忙であったおじ様はたまにしか会えなかったがいちばん幸せな時間だった。
『この子は精霊神官の才能がある……“精霊神の巫女”のな』
預けられた村でわたしは神託をうけた。
わたしには幼い頃から色んなモノが見えて聞こえていた。
風に気持ちよさそうに乗る精霊や木々の上で昼寝をする精霊たち。
澄んだ水の中や地面の中からひょっこりと顔を出していたり。
「“蛙の子は蛙”ということか……ちと厳しい婆さんだが大神官の元で修行を受けてみるか?」
「うん……いく」
その提案に即答する。
わたしは一刻も早く一人前になりたかった。
おじ様に恩返しをするために。
◇
それから年月は流れ、大村で修行をはじめてから数年が経ったころだった。
(精霊たちが騒ぎはじめている……いや、喜んでいる?こんな嬉しそうな彼らを見るのははじめて……)
ある日のこだった。
かつてないほどに精霊たちが喜ぶ姿を目にする。いったい何が起こるというのか。
そして間もなく館を訪れたのはおじ様とひとりの少年だった。
どこにでもいるようなこの部族の男の子。
なぜこの子に精霊たちがあそまで反応したのか分からなかった。
精霊神官の才能があるようには見えない。
何でもおじ様はこの子をわたしに“視て”もらうために来たという。
もしかしたら“森徒”の才能……いや、因果があるかもしれない少年だという。
“森徒”……それはこの森の始原の英雄譚に登場する謎の人物である。
そして今回わたしに視せにきたのが、この不思議な少年……《魔獣喰い》であった。
「この子は……森徒の可能性はない……」
おじ様に視たままの事実を伝える。
「ああ、そうか」
おじ様は少し悲しそうに、でも嬉しそうに相づちうった。
この人のこんな表情をはじめて見た。
◇
その時の少年《魔獣喰い》は、そのまま大村の戦士団の訓練生となり鍛錬に明け暮れていた。
同年代の噂では腕力も剣の腕もなく目立たない普通の少年。
でも、いつの間にか彼の周りには多くの人が集まっていたという。
訓練生の中でも最高位に当たる技術と力を持つ者たちが彼を慕い、その元に集まり狩組を結成していた。
わたしも大村の繁華街でその姿を遠目で見かけたことがあった。
食事を実に美味しそうに食べながら仲間たちと笑いあい、叱られたり励まされたり。
何か大きな目標に向かってひたすら努力するその姿は、わたしには輝いて見えた。
周りの精霊たちも彼を愛しいつも祝福していた。
“精霊神の巫女”として一目置かれていたわたしは、それに比べていつも一人だった。
◇
そんな《魔獣喰い》が大村に来て三年の年月が経った。
そのころになると彼は時の人となっていた。
まだ訓練生でありながら仲間たちと共に“魔獣を狩る者たち”として名を上げ人々の注目を浴びていた。
本人にはその自覚はないようだが将来も有望視された。
更には北方の村を悩ませていた幻獣を、《獅子姫》さまと共に成敗しその名誉を不動のものとした。
本当にまぶしいくらいに輝いていた。
年が変わる精霊祭の夜にもっと間近で彼を見てみたくなった。
『神官ちゃん!』
間近で話をしてみても、《魔獣喰い》は不思議な人だった。
説明は上手くできない。
でも……"あたたかい”……のだ。
《魔獣喰い》……本当に不思議なひと。




