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27羽:姫様と 今ひとつに

「ねえ、《獅子姫》ちゃん、どこまで行くのかな?」

「それは、ついて来れば分かるのじゃ」


 訓練生の住居である宿舎を出て、オレは《獅子姫》ちゃんに先導されながら大村の通りを進む。


 年に一度の祭り休みの最終日ということもあり、通りには満喫する村の戦士や訓練生たちが行き交う。

 明日からの厳しい訓練の品を調達する者、また意中の女子と時間を共にする者など様々である。


「はっ!これは《獅子姫》様、お出かけでございますか」

「私用じゃ、気にするでない」


 村の要所に詰めていた戦士たちは、大族長の娘である《獅子姫》の姿を確認すると姿勢を正し敬意を払う。それに対しての《獅子姫》ちゃんも毅然きぜんと対応する。


「やっぱり《獅子姫》ちゃんは凄いよね……オレと同じくらいの年頃なのに立派で……」


 そんな美しさの中に凛々(りり)し秘めた彼女の姿に、オレは思わず言葉を漏らす。


「お主ほどの男に、そうも言われたなら嬉しいことじゃ。だが、われもまだまだ……お主にいつか必ず追い付くのだ、《魔獣喰い》よ」

「そっか……ん?」


 後半の方は彼女の声が小さ過ぎてよく聞き取れなかった。だが聞こえたふりをする。

《獅子姫》ちゃんは少し照れた表情で、そしていつもの勝気な笑みに戻る。


「時間がない、急ぐぞ」

「あっ、待ってよ《獅子姫》ちゃん」


 オレは置いて行かれないように、彼女のお尻……その後を追いかけるのだった。





・・・・・・・





「ここじゃ」

「えっ……ここ?」


 オレと《獅子姫》ちゃんの二人は目的地へたどり着いた。目の前には頑丈な扉がある。

 ここは村の中心にある堅牢な建物内であり、大人の戦士団の詰所だ。


 訓練生であるオレはあまり来る事はない建物であったが、用事で訪れたことはある。


(デートをするには無骨すぎる場所だよな……いや、もしかしたら、《獅子姫》ちゃんクラスになると、戦士団の詰所に私室を持っているのかもしれない……)


 彼女から誘われたお出かけで、オレは都合の良い方向へと妄想を広げる。前向プラスき思考の持ち主だと呼んでくれ、オレのことを。


「《魔獣喰い》よ、お主はわれと……これからも一緒にいたいか?」

「えっ……」


 扉の前で止まっていた《獅子姫》ちゃんは、いきなりオレに尋ねてくる。思わぬ問いにオレは言葉を詰まらせる。


 彼女は両眼でオレをジッと見つめてくる……その長いまつ毛の一本一本がはっきりと見えるほど、二人の距離は近い。


「う、うん……もちろん、そうだけども……」


 オレは少し間をおき、肯定の言葉を返す。

 《獅子姫》ちゃんは自己中心的で破天荒な危険な少女だ。それでも彼女と一緒にいるのは楽しい。

 いや、彼女と一緒にいることに、オレはもう快感と心地良さを感じていた。


「それなら今後はわれと“一緒”になる事を望むか?」

「い、一緒……って……う、うん!もちろんだよ」


 まさかの急展開だ。


 自分が惹かれていた意中の女性から逆告白がくるとは、想定していなかった。


 だが前兆はあったのかもしれない。

 先日の“幻獣狩り”の一件から、オレと《獅子姫》ちゃんは急に仲良くなっていた。


 ことあるごとにオレたちは同じ訓練に組み込まれ、また一対一タイマンの訓練でも《獅子姫》ちゃんはオレをよく指名してきた。

 天賦てんぶの剣の才能をもつ彼女にもちろん勝てるはずない。だから毎回オレは逃げてばかりいたが、もしかしたらそれも《獅子姫》ちゃんなりの求愛の形だったのだろうか。


(この戦闘狩猟民族の女性ならあり得ることだ……)


 “好きな子をいじめちゃう小学生的な習性”なのかもしれない。

 オレは何もできない派だったが。


「では、部屋の中へ入るぞ。中ではわれ先導リードするから安心するのじゃ」

「えっ……う、うん」


 《獅子姫》ちゃんの大胆な言葉に、もはやオレはただうなずくことした出来ない。


(リードって……でも、オレはまだ十四歳だし……いや、この歳になったら婚姻も可能だし……そして、子作りも……)


 《獅子姫》ちゃんの表情は、いつもの自信満々な顔だ。

 そういえば彼女は大族長の娘として、帝王学を小さい頃から学んでいた。もしかしたら、その中には夜伽よとぎ的なことも含まれているのかもしれない。

 オレより知識はあるのかもだ。


(よ、よし……勇気を出して、オレも部屋に入ろう!)


 つばを飲み込み、《獅子姫》ちゃんの後を追うようにオレも部屋に入る。まかさのこの歳で念願であった恋人ガールフレンドが出来るのだ。


(ここが……《獅子姫》ちゃんの私室だろうか……)


 部屋内に入りオレは観察する。だが、それにしては無骨すぎる部屋だ。


(ん……)


 それにその部屋の中には“別の人”がいた。召使いかな。

 だがその人は、筋肉隆々で頭をそった大男だ。給仕さんでは無さそうだ。


 そしてその大男の顔にオレは十分すぎるほど見覚えがあった。今朝の朝食会場で会っていた顔だ。


「教官殿、先ほどの件じゃが、当人からも了承は得た。《魔獣喰い》たちはわれと一緒になる」

「うむ、そうか。《魔獣喰い》異存はないのか?」

「は、はい……異存はありません……」

 

 何故か《獅子姫》ちゃんの私室にいた鬼教官に問われ、オレは流されるまま返答する。

 いやまて……何かがおかしい。

 

 この部屋はどう見ても彼女の私室ではなく、教官の事務室だ。


 今気付いたぞ。


「という訳じゃ《魔獣喰い》よ。今日からお主と、お主の狩組の者たちはわれの傘下に入るのじゃ」

「えっ……は、はい……」


 まだ全部の状況がよくつかめないが、オレは更に流され返事をする。

 本当に嫌な予感がする。意識が飛びそうだ。

 

 だが断ると、もっと危険だとオレの勘が教えてくれた。こういう時は迷わず肯定だ。


「ガッハッハ!こいつはめでたい!《魔獣喰い》よ、死なない程度に姫に仕えるのだぞ」

「は、はい、全力を尽くします……」


 筋肉ダルマの教官からバンバンと背中を叩かれ、オレは激励を受ける。相変わらず暑苦しく冗談が笑えないが、今回ばかりはそのお蔭で正気に戻る。


「では、《魔獣喰い》よ、明日から獅子姫組の一員として、われに誠心誠意で使えるのじゃぞ」

「う、うん……」


 《獅子姫》ちゃんは満足げな笑みを浮かべていた。


 そしてオレはようやく全ての状況を理解した。




 “魔獣喰い狩組かりぐみ

 訓練生ながらも数々の凶暴な獣や魔獣を果敢に狩ってきた期待の狩組だ。栄光ある賞も受け、今後卒業した後の輝かしい未来も約束されていた。



 だがその歴史と未来は、たった今閉じられてしまった。

 


 なぜなら当人の一存で、“獅子姫組”の一因として組み込まれることになった。





(…………まっ、いっか……《獅子姫》ちゃんと一緒にいられるし……)


 過ぎたことを深く考えるのは止めよう。

 難しいことを考えるのは苦手だ。



 そしてこの編成が、これからの自分の人生と、

 更にはこの大陸の運命に大きく関わるとは、この時のオレは夢にも思わなったのである。









【大森林 大村 訓練生】の章 終











《魔獣喰い》「いや~みんなごめん。今日でこの”魔獣喰い組"も解散で、《獅子姫》ちゃんの狩組になったから、みんなで」


「…………」

「…………」

「…………」



《魔獣喰い》「あれ、みんな怒ったり、悲しんだりしないのかな」


「班長が決めたことに、オレたちは従うだけだ」

「オレもだ」


《魔獣喰い》「み、みんな……ありがとう……」


「どうせ、《獅子姫》様の色香にたぶらかされたのであろうがな」


《魔獣喰い》「えーっと……それは……言わないでちょうだい……です」

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