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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大村】の章

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26.5羽:十四歳の休日 ~春への道~

「明日の準備といっても、すぐに終わっちゃったな……」


 宿舎の朝食会場から自分の共同部屋に戻ったオレは、明日からの訓練の準備をした。だが質素な生活を強いられている為に、あっという間に終わる。午前の予定が終了だ。


「よよし、剣の型の素振りでもしよう……何しろオレいずれは騎士になるんだからな……」


 せっかくの休日だというのに手持ち無沙汰は恥ずかしい。ぶつぶつ独り言を呟きながら宿舎の裏庭へと一人進む。


 普段はむさ苦しい訓練生で溢れかえっている宿舎ないも、休日の最終日とあってみな出張って静かだ。みんなどこに出かけたのだろうか。


「あれ、先客がいるかな……」


 目的地である裏庭に辿り着くと人の気配がする。先客が既に鍛錬をしていたのだ。


(ん……あれは……“イケメン剣士”と“牛さん”か)


 先客は自分と同じ狩組の中の二人であった。正式な名は別にあるがなかなか覚えられないオレは、そんな通称で呼んでいた。


 イケメン剣士はその名の通り、剣を得意としている。

 冷静沈着で頭もキレ、オレなんかよりよっぽど班長に向いていると思うの。だが何故かオレを頭に推薦して、いつも蔭から支えてくれていた。


 頭脳派なオレが分析した感じだと、コイツの能力は


《イケメン剣士》

 剣技:A

 弓術:B

 体術・隠密:B

 斧・槍・盾・投擲:各B

 筋力:B

 素早さ:B

 防御:B 

 戦術指揮:B

 

 といったところだろうか。


 評価は同じ年代の訓練生の奴らと比べたときの比較値だ。大人の戦士たちは化け物すぎて比較にならない。

 こうして観察すると弱点がない本当に万能型だ。特に剣の腕は素晴らしく、同期の中でも頭一つ抜けている。


 一方で愛称“牛さん”は口数の少ない大柄な仲間。身の丈はそれほど巨躯きょくではないが怪力自慢で、その怪力を発揮できる大棍棒メイスと盾を愛用している。


《牛さん》

 棍棒・斧術:B

 弓術:D

 盾術:B

 剣・槍・投擲:各C

 隠密・体術:C

 筋力:A

 素早さ:C

 防御:A 

 戦術指揮:C

 工作:A


 といったところだろうか。


 若干のバラつきはある。

 だがその筋力を活かした防御力に、オレたちは何度も助けられた。

 凶暴な大型獣を相手した時は前衛に立ってもらい、その間に他の者たちが仕留めるという陣形がオレたちの狩組の定番だった。


 また無骨な見た目に想像できないほど手先もかなり器用だ。罠設置や革木製細工などにいつも大活躍していた。




 その二人が今は木製の武器を手に稽古をしていた。


「はっ!」

「……むむ」


 イケメン剣士が木剣を振るい、寡黙な“牛さん”がそれを受けていた。攻防役を入れ替える剣術の稽古であろう。


「流石に守りは固いな。ならば……」


 連撃を“牛さん”に防がれていたイケメン剣士は一歩下がり、構えを大きく変える。


 深い呼吸で身体を低くし、木剣を下段に構え力を溜める。正統派剣士なコイツの型では見たことがない、荒い型外れな構えだ。


「ドリャァアア!」


 イケメン剣士は奇声を上げ、効き足で大地を蹴り前に踏み込む。

 いつものキレイな彼の剣とは違い、荒く汚い剣跡だ。


「むむ……」


 だが、その鋭さは以前ものと比べ物にならない。固い防御を誇る“牛さん”を唸らせ、その構えを強引にこじ開け連撃を叩き付ける。


 まさに大嵐の荒波のように激しい打ち込みだ。


「ま、参った……」

「ふう……今日はここまでにしておこう。これはまだ改良の余地が必要だ」


 激しい攻防のせめぎ合いが終わる。

 お互いに敬意を払い稽古が終わる。そしてんであった木桶きおけの水で汗を拭き流し身体を清める。


「ん……班長か。見ていたのか」

「……」


 休憩に入ったイケメン剣士が、オレの存在に気付き声をかけてくる。牛さんは相変わらず口数が少ない。


「う、うん、たまたま通りかかってね……」

「たまたまか……」


 休みを持て余してし、やることがないから一人で剣の自主練に来たとは言えない。手に持っていた木剣を自分の後ろに急いで隠す。


「そ、そういえば、最後の構えからの連撃だけと、今までとなんか雰囲気が違っていたよね……何というか、荒くれものというか、行儀が悪いというか……」


 勘の鋭いイケメン剣士に一人ぼっちを悟られないように、オレは話を逸らす。


「はっはっは……“行儀悪い”か。班長にかかるとオレの剣もまだまだだな。さっきの型は、自己流で対魔獣用の剣技だ。いい線までいっていると思うのだが……だがあと一つ、何かが足りないのだ……」


 話を逸らす作戦は成功した。


 イケメン剣士は苦笑いしながら自分の木剣を振るい、先ほどの構えを何度も確認する。


 何でも、同年代である《獅子姫》ちゃんの剣技を間近で目にしてから、自分のこれまでの型にはまった剣に限界を感じていたという。


「対魔獣剣技から……そういえばさ、《流れる風》のオッサンも、よくさっきみたいな下段の構えから打ち込みしていたけど……何というか、手首を“こーして返して”、“さーっ”て斬りかかっていたよ」


 オレは幼いころに見たオッサンの真似をして、自分の木剣を振るってみる。

 だが上手くいかない。オレの剣の才能はいつ花開くのだろうか。


「ま、待ってくれ……班長は、あの戦士《流れる風》の剣捌けんさばきが見えているのか」

「うーん、大体は見えるかな……でも本人にそれを言うと怒るから言わないけど」


 オレは正直に答える。大人だけど負けず嫌いなオッサンは、何故か子供であるオレに対抗心をいつも燃やしていた。いたいけな子供相手に迷惑な話だ。


「あの伝説の生ける英雄《流れる風》の動きを目で追えるとは……相変わらず班長には常識は通用しないな」

「えっ?」


 イケメン剣士ひとり言を呟く。そして一人で何かに納得し、オレを尊敬した目で見てくる。


「そういえば班長とは、一度も本気の剣試合をしたことがないな。卒業前にぜひ胸を借りたいところだ」

「そ、それは、もう少し後にしてもらえれば……ほら、オレの剣技って大器晩成だし」


 今にも斬りかかって来そうなイケメン剣士の言葉を受け流し、オレはその場を逃げるように後にする。

 弓ならまだ自信はあるが、剣術なら圧倒的に自分が不利だ。副班長に負けてしまったら、班長であるオレの威厳も地に落ちてしまう。


「じゃあ、また明日からの訓練でね」


 適当にごまかし、裏庭での自主練習を諦めてオレは再び宿舎の中へと戻っていく。





・・・・・・・・・・





「ふう……さて、これからどうしようかな」


 当てもなくなく広い宿舎の中を歩き回る。

 年末年始の休暇も今日でお終いだ。明日からはまた地獄の様な訓練と、卒業試験が待っている。


 本日くらいは有意義に過ごしたいところであるが、実際にこう時間があるとやることが浮かばない。


「買い物……特に欲しい物はないな。観光……大村の周りは危険な獣が闊歩するから却下だ……」


 ダメだ何もいい案が浮かばない。

 現世なら買い物に遊園地や映画など、休日を満喫できるだろう。


 それに彼女なんかがいたら、一緒にデートなんかも最高だろう……したことないけど。


「早く彼女が欲しいな……いや、この部族では“付き合うイコール婚姻”だ……十四歳になった成人とはいえ、いくらでもまだ早いだろう……」


 この森の部族では十四歳になると一人前とされ、成人の儀を受ける。

 それにより正式に婚姻が認められ、所帯を持つことを許される。

 直ぐに妻を貰う者は多くはないが、村の多くの者たちは十代後半で妻を娶り、所帯を持つ。


「いくらなんでも早すぎるよな、結婚なんて……でも、“婚姻 イコール 子作り”ってことだよな……やっぱり……」


 常に凶暴な獣と対峙し命の失う危険性があるこの部族では、早期出産が必要不可欠だ。優秀な戦士や狩人の血を早く多く残すことにより、部族全体の繁栄に繋がるのだ。


 その証拠に多くの獣を狩る狩人や、たくましい戦士は村の若い女性たちによくモテる。

 一夫多妻も認められているので、十代半ばの若い妻を多くめとる腕利き戦士も多い。


「そういえば、この精霊祭の期間中に意中の相手を見つけて、そのまま子作りをする若い男女もいるという噂だ……」


 自分では気付いていなかったが、この精霊祭の期間中は誰もが開放的に、そして情熱的になる。

 かがり火が焚かれた祭りの夜。

 いつの間にか相思相愛の若い男女は暗闇に消え、愛を交わしていた。


 だが当時のオレは知らなかった。馬鹿ではない、恋愛に少し鈍感なだけだ。


(オレにもいつか彼女が出来るように頑張らないと……そして、その後は……むふふ)


 十四歳の年ごろになり、オレは少しだけ大人の妄想を巡らせる。




「おい」

「むっふふ……」


 妄想が現実になったのだろうか。

 脳内に女性の声が入ってくる。凛とした少女の声だ。

 少し気が強いけど、情熱的で一途な女性だと想像が膨らむ。


「おい、と言っているのじゃ」

「へっへっ……」


 この妄想の声の主の胸はまだそんなに大きくない。けどその形はよく、引き締まった腰からスラリと伸びた美脚が眩しい女性の声だ。


「《魔獣喰い》よ、お主の頭は大丈夫か」

「へっ?」


 自分を呼ぶ声に反応する。

 振り向くと実物がそこに立っていた。


 スラリとした美脚で胸が少し小さいことを気にしている年頃の少女、強い意志か輝く瞳が印象的な《獅子姫》ちゃんがそこにいたのだ。


「ほ、本物だ」


 女の子の妄想をし過ぎて具現化したのではない。本物の《獅子姫》ちゃんが腰手に手を置き、呆れた表情でオレのことを見ていた。


「ご、ごめんなさい……」


 条件反射でオレは自分の全身の急所を守るように身を屈める。

 いつもの定番パターンだと、この直後に《獅子姫》ちゃんから容赦のない突っ込みがオレに繰り出される。

 頭蓋骨、のどぼとけ、水月などへのさやによる悶絶級の突っ込みだ。


「ん……あれ?」


 だが今日に限って、そのツッコミはいつまで経ってもこない。


「《魔獣喰い》よ、何を縮こまっているのじゃ」

「い、いや……何でもないけど……」


 《獅子姫》ちゃんは熱でもあるのだろうか。だが見た感じは顔色も健康そのものだ。むしろ口元に笑みを浮かべて機嫌は良さげだ。

 

「《魔獣喰い》よ、お主は今、暇であろう」

「は、はい」

「それならわれと一緒に来て欲しい所があるのじゃ。いいであろう」

「えっと……うん、大丈夫」


 突然の《獅子姫》ちゃんのお誘いだったが、オレは即時に返答する。断ったら殺されるとかではない。

 あの《獅子姫》ちゃんが初めて私用でオレを誘ってくれたのだ。


「ん?あれ、《獅子姫》ちゃん……今日はいつもと格好に違うね……女の子らしいというか……」

われとて年ごとの女子じゃ、このぐらいは着飾る。何か変か?」


 今日の彼女は、いつも派手な格好と少し違っていた。

 確かに原色を多彩に使った衣類であったが、村の年ごろの女の子が履くようなひらひらしたスカート、そして上半身も二の腕や首元を大胆に出していた。


「に、似合っている……とっても……」


 初めてみる《獅子姫》ちゃんの女の子っぽい格好に、オレの心は激しく衝撃を受けた。感動の嵐だ。


「では、行くぞ、《魔獣喰い》よ」

「あっ、うん……」


 そんな可憐モードな《獅子姫》ちゃんに手を引かれながら、オレは宿舎から外にでる出口へと向かうのであった。



 



ついに《魔獣喰い》十四歳に、明るい春は訪れるのか!?







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