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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大村】の章

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25羽:精霊祭 と授賞の儀

 

 「いや~、今年もついにこの“精霊祭”時期がきたね」


 大村の熱気を目の前に《魔獣喰い》ことオレは、思わず嬉しさを口に出す。


 通りには賑やかな露店が立ち並び、祝いの料理を酒が無料で振る舞われている。家々の軒先には鮮やかな飾りが立てられ、また行き交う人々の衣装も華やかだ。


 「“精霊祭”か……いいな、やっぱり……」

 オレは再び言葉を漏らす。


 今この“大村”では、年に一度の大きな祭りである“精霊祭”の初日祭が行われている真っ最中なのだ。


 “精霊祭”というのは年の変わり目に、大森林の各村々で行われるこの部族独特の大きな祭だ。日本でいうところの“正月祝い”みたいなもの。


 年末から年始までの数日間開催され、その期間中は狩りや訓練など全部休みだ。

 その分こうして、一年の終わりに森の精霊に盛大に感謝し、年の始まりを祈願する。


 いつもは質素な生活を強いられているこの部族だが、精霊祭の期間ばかりは豪華ご馳走と美酒で騒ぎ賑わう。この祭りのために食料も備蓄しており、それを一気に解放するのだ。


 「みんな見て、こっちには“森豚の丸焼き”が食べられるよ。よし、並ぼう」

 「班長、そんなに焦らなくても、祭りの振る舞い料理はふんだんにある。酒でも飲みながら待とう」


 一緒に祭りを満喫していた、同じ狩組のイケメン剣士が苦笑する。

 そう言いながらもその右手には果実酒の小瓶こがめが握られており、ちびちびそれに口を付けながら彼も祭りを結構楽しんでいた。


 「うーん、オレは、酒はよく分からないから、いらないや…」


 イケメン剣士はオレより一歳ほど年上だ。この部族では十四歳ともなれば成人と見られる。大っぴらに酒も飲め、縁組もできる。

 オレもこの身体で一応は酒を飲んだことはあるが、いまいちその美味さを理解できない。


 「あっ、あっちには“川魚の串焼き”がある!」

 そんな訳で祭りでのオレの一番の楽しみは、豊富な屋台の食べ物だった。


 (脂がのった川魚に、甘味が深い果実、黒芋の煮込み……それにこの“山鳥の素揚げ”も最高に美味いな…)


 この“大村”は食材の種類が豊富だ。

 近隣に大きな河川もあり魚貝類も捕れ、森の木が開けた所では野菜も栽培されている。また周囲の村から定期的に食料や物資が集まってくる。


 (まさに、森中の山海珍味が味わえる祭りだな…ん、あっちにもまだ食べてない料理がある。早く行かないと…)


 呆れる仲間を置き去りにしながら、オレはいろんな屋台を巡る。両手いっぱいに料理を抱え、次々と口に入れる。そしてまた新しい食材を見つけそこに並ぶ。


 その待ち時間にも、抱えた料理を食することは忘れない。


 (いや~、毎年の事だけど、“精霊祭”はやっぱり楽しいな…)


 おっ、あっちに南国風な屋台が出ている。

 次に行かなきゃ。目指せ、完全制覇だ。


 「おい、例のあの若者まだ食すつもりだぞ…」

 「確か昨年も食い荒らしたヤツだ…名は《魔獣喰い》だったはずだ…」

 「噂には聞いたことがある…精霊祭の料理を全て喰らい尽くす“混沌の身体”を持つ者とか…」


 そんなオレを横目に見ながら、村人たちが何かひそひそ話をしている。 

 一体何を話しているのだろうか。オレには聞こえない。


 (まっいっか…夜の“若獅子授賞式”まで時間もない。力の限り屋台に並ぼう)


 自分では気づいていなかったが、まだ成人前のオレが屋台料理を完全制覇する様子。

 ここ数年、そえれは“精霊祭”での村人たちの見物のひとつだったらしい。




・・・・・・・


 精霊祭の初日も夜も更ける。

 大村の大広場には煌々とかがり火が焚かれ集まる村人たちを赤々と照らす。


 群集たちの目当てはこれから発表される“若獅子賞”の名を聞くためだ。


 「いよいよ、“若獅子賞”の発表だね…緊張したらお腹が空いてきたかも…」

 「班長…あれほど食べてまだ足りないのか。まさにその“名”に恥じないな」

 「ん?どういうこと」


 そんな群集の中にオレたちもいた。

 “若獅子賞”とは、主にこの大村の戦士訓練生が対象となる年間最優秀賞のことだ。

 その名誉は森中に鳴り響き名高いく、若手なら一生に一度は狙いたい誉れ。


 「おい、お前は誰が授かると思うか?」

 「やはり最有力は《獅子姫》様であろう。特に後半の追い上げは、流石は王の血を引くといったとろろだ…」

 「そうか、ならオレは大穴狙いで《魔獣喰い》たちだな。この数年間の地道な努力をオレは知っている…」

 「なら、この上等な酒を賭けるか…」

 「ああ、のった…」


 発表の時間が迫るにつれて、群集はざわつきはじめる。


 今年の最有力候補の下馬評は、《獅子姫》かオレたちの狩組のどちらかに絞られていた

 一体どちらが今年の栄光を勝ち取るのか。


 それにより今後の戦士団での配属先や役職に大きく関わる。


 「班長はどう思う…オレたちか《獅子姫》たちか…」


 いつもは冷静沈着なイケメン剣士が、珍しく声を震わせている。もうすぐ訓練生を卒業となる自分たちにとって、今回が最後の受賞の機会なのだ。


 「うーん、どうかな……オレたちも頑張ったし、あとは“人事を尽くして天命を待つ”かな…」

 前世でおじいちゃんっ子だったオレは、祖父の口癖を思い出す。


 「班長、難しい格言を知っている」

 「けっけっけ…うちのかしら阿呆あほうなのか、賢いのか底が知れねっす」

 「えっ、オレってみんなに“阿呆あほう”な子だと思われていたの…」

 「班長、気にするな、今さらのことだ」


 仲間たちのオレに対するダメだしに、自然と笑い声が溢れる。悪くない笑顔だ。


 自分たちは三年前から今日を意識して日々努力してきた。それで結果が出なければ仕方がない。

 本当は今日の結果のために頑張ってきたのだが、そのお蔭でいつの間にかこうして仲間ができた。今となってはそれだけでも感謝だ。


 「ふん、随分と余裕だな、《魔獣喰い》よ」

 「あっ、《獅子姫》ちゃん…」


 雑談していたオレたちに《獅子姫》が歩み寄る。


 彼女はいつも山鳥の羽なんかをあしらった派手な服装を好む。だが祭りということもあり、今日の《獅子姫》ちゃん更に多彩……七色だ。

 それでもスラリと伸びた手足の素肌の美しさが損なわれないのは、彼女の持って生まれた輝きのお蔭であろう。


 「余裕というか……半分諦めかな……」

 「戯言ざれごとを……まあ、それももうじき分かる。ほれ、発表されるぞ」

 「あっ、本当だ……」


 いよいよ“若獅子賞”が発表される。

 村の大広場の中央に設けられた祭壇の上に、数人の精霊神官が登壇したのだ。


 該当者の名は大神官の口から発表され、その栄誉を集まった村人たちに称えられる。ちなみに選考するのは、城の各戦士団長や幹部が事前に決めている。


 「では……」


 小柄だが背筋のピンと伸びた大神官から、簡単な挨拶が始まる。噂ではこの大森林でも最高齢という話だ。オレの出身村の気難しい神官のバアさんより、更に年寄りだ。


 「この去る年に、最も果敢で勇気を持ち合わせていた若人は……」


 いよいよだ。

 次にくる名の組がその栄光を勝ち取るのだ。


 「“若獅子賞”は《獅子姫》と……」


 その最初の言葉で、オレの思考は止まる。

 驚きで心臓の鼓動も危うい。


 (くっ、やっぱりダメだったか……あんなに皆で頑張ったのに……)


 心の中で時間が止まったようだ。

 想定はしていたが、やはり《獅子姫》たちが勝ったのだ。


 (いや、待てよ……“と”って言っているぞ……)


 「“若獅子賞”は《獅子姫》と《魔獣喰い》の二つの組に与える!」



 大神官の言葉にオレの時間は再び動き出し、


 大広場は大歓声に包まれた。







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