24ー5羽: 幻獣狩り 終えて
「あっ、村だ。《獅子姫》ちゃん、ようやく見えてきたよ」
「姫たる我を軽々しく“《獅子姫》ちゃん”などと…まあ、よい」
「ん?なんか言いましたか?」
「いや、何でもない。ボーっとしていると置いていくぞ、《魔獣喰い》よ」
「あっ、待ってよ、《獅子姫》ちゃん…」
牡鹿型の“幻獣”を撃退した《魔獣喰い》ことオレと、《獅子姫》の二人は仲間の待つ近隣の村まで無事に戻ることができた。
無事といっても実際には両者とも疲労困憊で、本当にようやくだ。特に精神的な疲労がまだ回復できていない。幻獣の視線による幻覚術と、心の精霊を乱す咆哮はそれほど恐ろしいものだった。
更に巨大な幻獣の後ろ蹴りを喰らった《獅子姫》ちゃんは、思っていた以上に重傷だった。口には出して言わないけど。泣き言もいわずに精神力のみで、険しい森の中を戻って来たのだから、やっぱり《獅子姫》ちゃんは凄い。
「ん…まて《魔獣喰い》…村の様子が少しおかしい…油断するではないぞ」
「そう言われてみれば、喧騒というか…血気というか…血の臭いがするね…」
「森狼のものか、お主の鼻は…よし、行くぞ」
もしかしたら、さっきの幻獣の仲間がまだいたのかもしれない。雄雌のつがいとか。とにかく細心の注意をはらいながら、オレは《獅子姫》ちゃんと村へ進む。
・・・・・・
「ということは、この村の住人たちが“全員”操られていたのか…“幻獣”に…」
「ああ、そうだ。班長と《獅子姫》が斥候に出てからしばらくだった。村人たちが突然オレたちに襲いかかってきた」
最悪の状況を想定していたオレだったが、幸か不幸か、村でのひと騒動が終わった直後であった。村の中を見回りながら、副班長であるイケメン剣士のヤツからことの顛末を聞く。
「それで、みんなは大丈夫だったの」
「班長の言葉もあって、オレたちも警戒はしていた。とはいえ多勢に無勢。しばらくは防戦一方だったが、襲い掛かってきた時間はそれほど長くはない。その内に村人全員が糸の切れた操り人形のように、意識を失って倒れた」
「それで意識を取り戻した人たちから、“幻獣”の存在を聞き出したのか…」
「ああ、そうだ」
何でも村人たちの話をまとめると、次のような話だった。
・・・・・・
ひと月ほど前になる。
この村の近隣で珍しい“牡鹿”の獣が目撃されたという。オレたちが撃退した“七色の角を持つ牡鹿の幻獣”の姿とそれは一致していた。
警戒したこの村では、男衆を狩組として差し向けて狩猟を決行。
だが、しばらくして戻って来たのは、その内の半数ほどの者だけだった。そして、戻って来た者たちの記憶もあいまい。他の者が消えた原因すらも不明だった。
『これは…一大事である…』
最長老である村長の判断で、近隣の村と精鋭ぞろいの大村へ救援の者を出すことを決意した。
だが、その直後だったという。
どこからともなく七色の角を持つ牡鹿が村の広場に現れ、全員が幻術に掛かってしまったのだった。
「それじゃ…オレたちがこの村にたどり着いた時には、既におかしくなっていたのか…」
「ああ、そうらしい。大村に救援を呼びに来た者も、班長たちを先導した男もだ。だが、当人たちは“記憶と意識”はあるが、術に掛かっている“自覚”は無いらしい。術が切れてから全て思い出したらしい」
見ると村のいたる所で、住人たちが倒れ込んでいる姿も目に入る。
恐らくは“幻獣”の術に集団でかかった後遺症だろう。解けてから疲れが溢れているのだろう。主に子供や年配者が目につく。
オレも《獅子姫》ちゃんも実際に体験したので分かる。魂をごっそり削り取られる…そんな疲労感だ。
「それで、そいつが全ての元凶である“幻獣”か、班長」
「ああ、そうなんだ。その場に死骸を放置してもマズイから…オレが背負って来たんだ」
現場にあった木材を組み合わせて製作した背負い具でオレが背負って来た。既に息絶えた幻獣の死骸に視線を送る。
「まさか語話の中だけだと思っていた“幻獣”まで狩るとはな。全く班長といると退屈しないな」
「ああそうだんだ…それについては大村に戻る道中にゆっくり説明するよ…」
幻獣との対決を終えてオレは急いで村に戻って来た。とにかく大村へ戻ってゆっくりしたい。
しばらくし《獅子姫》の命が下る。
「大村にいる大官様か獅子王なら、この幻獣についても何か知っているかもしれないだろう。他の者はここで待機じゃ」
調査や残務処理はベテランで腕利き揃いの《獅子姫》の側近たちに任せて、オレたちは先に大村に戻ることとなった。
(温泉に入って、ふかふかの布団でぐっすり寝たいな…)
しかし、この大森林にはそんなものは勿論ない。あるのは冷たい水浴びに、固い材木の床に雑魚寝。
早くこの世界の文明とやらを拝見したい。




