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24ー2羽:北の村

「ふう、ここが目的の村…“見たこともない獣”を目撃したという狩人が住む村か…」


 大村を出発してようやく目的地ある村にたどり着き、《魔獣喰い》ことオレはそんなことをふと呟きながら村の様子を眺める。


 村の中心には周囲の木々よりひときわ大木である“母樹木マザーツリーがあり、森の中に溶け込み、自然となるべく調和して暮らしている。


 北の辺境の村ということもあり、人口もそれほど多くはない集落。広大な大森林に転々とようある小さな村だ。


 ちょうど朝方ということもあり、狩りに出ている男衆の代わりに、女老人たちが村で内職にいそしみ、子供たちは木剣で体を鍛えている。


(なんか…懐かしいな…これ)


 そんな普通の光景を目にし、オレは自分の生まれた村を思い出す。自分の育った村もここと同じように何の特色もない辺境の村であった。


 最近では大集落である“大村”を中心に生活しているために、それに慣れてしまっていたのだろう。“大村に魂売ったんちゃうんか?”というやつだ。関西風に言うならば。


(村を離れて結構経つな…みんな元気だろうか…)


 時が止まったような情緒の村の中を歩き、柄にもなく感傷にふけってしまう。



 それにしても平和な村だ、ここは。


 見たところ獣に襲われた形跡もなく、どうやらオレたちも間に合ったようだ。


「我々は要請により大村から来た戦士だ」


「ようこそ来てくださいました…」


 オレたちの合同狩組の代表である《獅子姫》が、出迎えてくれた年配の村の村長にそう名乗る。こういう時の《獅子姫》ちゃんの口調や顔付きは、いつもとは違いキリリとしている。さ流石は姫様だ。


「持て成しは不要じゃ。さっそく話を聞かせてもらおう」


 歓迎の場を設けようとする村長の提案を断り、《獅子姫》は村の小さな広場で今回の事情を聞き取り始める。時おり護衛のベテラン戦士に確認するなど慣れた感じだ。うん、かなり頼もしいぞ、《獅子姫》ちゃん。




(それにしても随分と平和な村だな…)


 一方で村長の話を聞いていたオレだったが、段々と小難しくなってきたために周囲の様子を眺める。サボっている訳ではない、理解できないけどちゃんと耳は傾けている。


(女性たちは笑顔が絶えないし、子供たちも元気だ…ん?)


 そんな村の様子をボーっと眺めながらオレは“何か”に気付く。なんか引っかかるのだ。


 だが言葉にして説明することは出来ない。実はこの村に入ってから“何か”を感じていたのだった。だが見た感じでは、特におかしいとかは見当たらない。


(オレの勘違いかな…もしかしたら、《獅子姫》ちゃんとデートして来たから浮かれているのかもしれない…)




「よし、それではさっそく班を分けるぞ」


 オレがそんな事を考えていると、村長の報告を聞き終えた《獅子姫》が指示を出し始める。


 目撃したこの村の狩人の話だと、村を出てここからら少し外れに所で、その“獣”を見たのだという。近づこうとすると消えるように逃げて行く。だが、次の日になるとまた同じ場所に現れ、直ぐに消え去るという。


「流石にあっしも二度目の時は、気配を消して注意深く潜んでいました。ですが…」


 “獣”を目撃したベテラン狩人はそう語っていた。その雰囲気から彼自身もかなりの腕利きの狩人であると推測される。それでもこちらの気配を察知され逃げられたのだ。


「相手はかなりの敏感で臆病な獣なのじゃろう。まずは隠密が得意な二名ほどで偵察じゃ。両班から一名づつ選出せよ。残りの者はここに残り警戒じゃ」


「はっ!」


 《獅子姫》ちゃんがテキパキと指示を出す。それに受けて各々が準備を始める。


(偵察班か…オレたちの班からだと隠密に優れた“大耳”のヤツが適任かな…)



 だが、今回は…


「よし、こっちからはオレが偵察にいこう」


 オレは元気に挙手をして名乗りをあげる。右手をすうっと積極的な立候補だ。


「ん?どうした班長。いつもなら泥だらけになるから嫌がって“大耳”に押し付けるのに」


「ワシは構わん。ケッケッケ…どうせまた、企んでいるんだろうが」


「班長の力なら依存はない」


 自分の仲間たちから何かブツブツと言われているが気にしない。満場一致の同委は得られたようだ。これでオレの密かな作戦は上手くいきそうだ。


(さて、向こうの偵察は小柄なオッチャンか、あの黒づくめの脅迫オジサンか…)


 《獅子姫》たちの狩組の隠密を得意とする者は、オレの目から見ても二名いた。恐らくはその内のどちらかだろう。知らない人たちなので気まずいが、あまり気にしない。


 だが、


「そっちは《魔獣喰い》が行くのか…それならわれが行くのじゃ」


《獅子姫》がそのスラリとした右腕をあげ名乗りを上げる。身軽なノンスリーブタイプの革鎧を着込んでいるために、脇の下がチラリと見える。


(《獅子姫》ちゃんは脇の下まで可愛いな…ん?《獅子姫》ちゃんが偵察に行くって?オレと…)


 思わぬ名乗りのオレは一瞬混乱する。


「姫様、そのような危険な役は我々にお任せ下さい」


「あの様な下賤な者と行くなどと…」


 それは向こうの狩組も同じ様で、名乗りを上げて姫様をいさめる。下賤な者ってオレのことかな。


「これは決定事項じゃ」


 護衛の戦士たちは困惑の顔をしているが既に諦めていたようだ。普段から自由気ままな姫の性格に慣れていたのだろう。ご愁傷様だ。


 オレと《獅子姫》ちゃん以外の狩組の人たちは、指示どおりいこの村に残り周囲を警戒することとなる。



「じゃあ、行ってくるけど…この村はなにか雰囲気がおかしい、油断せずに警戒してくれ」


「ああ、分かった」


 出掛ける前にオレの副班長であるイケメン剣士にそっと耳打ちしておく。優秀な彼ならばどんな異変にも対応してくれるだろう。


 オレもたまには班長リーダーらしい事をしてみる。うん。



「何をしている《魔獣喰い》。行くぞ」


「は、はいっ!」


 はやる様に村を出る《獅子姫》ちゃんに置いてかれない様に、オレはその後ろを付いていく。彼女は何かを急いでいるのか。


 そして、まさかの《獅子姫》ちゃんとの二人っきりの森の散策。


 いったいどうなる。









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