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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大村】の章

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23羽:【清流の刃(イケメン腕利き剣士)】

【イケメン剣士 こと 《清流の刃》:視点】



 変わったヤツが仲間になった。正確に言うならば、森の戦士団の訓練生で同じ狩組になったヤツだ。


 そいつの字名は《魔獣喰い》。


 大層な名ではあるが、その見た目はいたって普通の男だ。むしろ地味で弱々しい部類に入る。見た目はだが。


 《魔獣喰い》と出会ったのは今から三年くらい前の、それこそ訓練所での出会いだ。


 当時のオレは生まれ育った村から、この大村に訓練所に入団したばかりだった。強面の教官の指導の訓練と獣を狩り、空いた時間は周辺の警備の仕事に毎日没頭していた。


 言葉で言うと簡単に聞こえるが、鬼教官の元での訓練は熾烈を極め脱落をする者もいる。またこの大村の周辺には大型の獣も多く狩りも命がけだ。


 まさに毎日が死にもの狂いの日々であった。


 またそれ以外にも覚えることが多い。大人数での戦闘や狩りを想定した集団訓練や、隊の運営や人心掌握術など軍学以外にも盛り沢山だ。


 昔から身体を動かす剣の訓練や、狩りの方がまだオレには合っていた。だが選りすぐりをする贅沢も言っていられない。この訓練所ではできない者はいらないのだ。精鋭しかこの訓練所に入団し、森林戦士団に入隊することは出来ないのだ。


『ワシの子である、お前ならできる』


 辛いときはオヤジのそんな言葉を思い出し、歯をくいしばり。自分の育った村から実に六年ぶりに訓練生としてオレは選ばれ、大村に来る栄誉を勝ち取ったのだ。訓練ごときで泣き言はいえない。


 ここで戦士として立派に成長し生まれ故郷の村の皆と、この大森林の平和と秩序を守っていかなくてはいけないから。



・・・・・・



「初めまして…《魔獣喰い》といいます。よろしくお願いします」


「ああ、よろしくな」


 オレが訓練所の生活に慣れてきた頃に、そいつ…《魔獣喰い》が入所してきた。


(パッとしないヤツだな…)


 オレの第一印象はそんな感じだった。身体ガタイもそんなに大きくなく、特に腕が立つようには見えない。なんでも大森林の辺境にある小さな村の出身で、とにかく目立たない地味なヤツだ。


(同じ組として、みんなの足だけは引っ張らないでくれるといいが…)


 特に他人を見下すことはしないが、無能なヤツが同じ組にいるのだけは困る。その時はすでに狩組の班長として、組中心的な立場にいたオレは最初の面倒を見ることになる。




・・・・・・



「《魔獣喰い》…お前は“剣”ではない武器の方がいいのでないか?」


 木製の武器を使った対人戦闘の訓練で一応は先輩であるオレは、入ったばかりのソイツに進言する。


 この歳になると訓練生たちにも、得意不得意な武器えものが目に見えてでてくる。


 身体が大きい者は大斧や棍棒、逆に小さく素早い者は小剣や投擲武器。また素早さと器用さがある者は剣や槍など様々だ。


 小さい頃からひと通りの武器の訓練を受けてきているはずだが、そろそろ自分の得意分野を見極めて長所を伸ばしていく必要がある。


「うーん、そうかな…もう少しコツがつかめそうだから、コツコツ頑張ってみるよ」


 そう言いながら《魔獣喰い》は不器用に剣を一生懸命に振るう。とにかく見ている方が感心するほど自主練習でも必死だ。


(だが、残念ながら、コイツに“剣の才能”は…無いな)


 心の中でオレはそう冷静に分析する。


 自分でいうのも何だが、オレは剣技には自信があった。もちろん弓や他の武器も同年代では平均以上に使いこなすが、なんといっても剣技にだけは絶対の自信をもっていた。


 “いつかオヤジと同じくらいの剣の使い手になる”


 オレのオヤジは自他ともに認める剣の使い手だ。今は最前線を退いているが、幼いころはこの大村の訓練生として選ばれ戦士となり、大森林中の獣や魔獣と対峙したという。


 そのオヤジに幼い頃から手ほどき受け鍛錬を積んできた剣技に、オレは絶対の自信を持っていた。


「《清流の刃》か…あいつは剣技だけなら既に戦士級だな」


「特にあの返し技は一級品だ…」


 同年代の訓練生からもそんな声があがる。


 その言葉とおりオレの得意技は返し技だ。相手の攻撃を誘いそれを避け受け流し、返技カウンターで強烈な一撃を繰り出のだ。オレのオヤジ直伝のこの技で、訓練生の中でも抜きん出ていた。オヤジの存在を誇りに思う。


「へえ流石にイケメンは、剣技も凄いんだな…オレも頑張ってその技を習得しよ」


 オレの対人訓練を見ていた《魔獣喰い》は、嬉しそうにそう話しかけてくる。“イケメン”が何なのか知らないが気にしない方がいいだろう。何しろコイツは少し変わっているからな。


 剣の才能が無い《魔獣喰い》が、この技を会得する無理だろう。剣技の才能が壊滅できだから。


 だが対人訓練で避けるかわすのは上手かったな。むしろその特性を生かし“隠密”の道へ進む方が未来はあるかもしれな。



・・・・・・

 


「《魔獣喰い》…この合図は“迂回挟撃”だぞ」


「あっそっか、ごめんごめん」


 軍学や集団訓練も時間は更にひどい。《魔獣喰い》のヤツは物覚えが悪すぎるのだ。


 たしかに集団訓練の隊列陣形や笛や太鼓による暗号は確かに複雑だ。動物の鳴き声に真似た暗号が相手に察知されても、すぐには解読されないように組み合わせてある。


 他の筋肉バカなヤツでも、何度か教官に殴られながら覚えていく。しかし、ヤツは更に何倍も時間がかかり覚えていた。最終的には本当に覚えたのだろうか、それさえも怪しいが。


(また現実逃避しているのか…コイツは)


 その頃になるだいぶ《魔獣喰い》の行動規則パターンも分かってきた。苦手な訓練や授業の時は、いつもボーっと上の空でブツブツ独り言を言いにやけている。


 その度に教官たちから強烈なゲンコツを喰らっている。本格的にマズイな、こいつは。




・・・・・・・


「それでは訓練生だけで“深淵の森”に狩へ行ってもらう」


 教官の号令と共に、オレたちは深い森の中へと入っていく。森の中で寝泊まりしながら、三日間にわたる実戦的な訓練であり、村の食料を得る為の狩りである。


「“深淵の森”か…噂には聞いていたが、大森林の中でも濃いな…」


「みんな気を付けろ。ここは他に比べて大型で凶暴な獣も多いという」


 訓練生だけの数人一組で編成されたオレたちの狩組は、注意深く森の中を進む。深い森には食糧となる恵みが多いが、それだけに危険も段違いだ。当時は班長としてオレは仲間を気遣う。


「へえー、“深淵の森”か…なんかいい匂いがするね。楽しみだ…」


 そんな中でも《魔獣喰い》のヤツだけは能天気に、ふらふらとオレたちの後をついて来る。どうみても毒を有するキノコを採取し、懐に隠しこんだを見てしまう。本当にコイツは大丈夫か。


 とりあえず獣を見つけても前衛には置かずに、安全で邪魔にならない後衛の更に補佐に置く事にする。


・・・・・・・


 そんな、《魔獣喰い》に対する評価が最低限までに下がった頃に、それは起きた。


 その時の衝撃をオレは今でも覚えている。


「これは…《魔獣喰い》、お前が仕留めたのか…」


「この獣の急所である眉間に…しかも二頭同時に矢で射ぬくだなんて…」


「さっきアンタは反対側で待機していたはずだよな…」


 予定していた狩りが、予定日よりもだいぶ早く終わる。いや《魔獣喰い》が獲物を仕留め、終わらせてしまったのだ。




 “深淵の森”に入り、幸運にもオレたちの狩組は獣の群れに遭遇した。だが相手は草食系で五感に優れ逃げ足の速い獣だ。得る肉量は多いがそれだけに、狩るのは難しい。


 案の定、まだ実戦での連携が上手く取れないオレたちは、凡ミスでその群れに察知され逃げられる。合図を送り囲んで仕留めようとするが、もう手遅れだ。


 森蜘蛛の子を散らした様に、獣たちは森の奥地へと逃げ去っていく。


(くっ…やはり“深淵の森”の獣は手ごわい…もっと連携と個々の能力も向上させていかないと…)


 獣たちの後ろ姿を見ながら、オレは悔しさと共に今後の目標を立てる。早く結果が欲しい、焦るばかりだ。


 だがその時だ。


「ん…この音は…獣を仕留めた合図…しかもこれは…」


 そんな時に同じ狩組の仲間から合図の音が上がる。微妙に暗号と音程が間違っていたが、急ぎ全員でその音の発信源に駆け付ける。笛の音は一人ひとり微妙に音が違い、発信者は特定できる。


(だが、まさか…誤報かだろう…)


 その予測は見事に外れる。現場に着きオレたちが目にしたのは、先ほど完全に逃げ去った獣を二頭も仕留めた《魔獣喰い》の姿であった。


「《魔獣喰い》…お前が一人仕留めたのか…」


「うーん、だって勿体ないでしょう、せっかく見つけた獲物だから」


 状況がいまいち把握できないオレはマヌケにも問う。


「オレが指示した待機場所と、ここは正反対の場所だがどうやってここまで…」


「みんながあんな感じで“ばーん”って進んで囲もうとしたら、この獣は“ずどーん”ってこっちに逃げるからね…あっ、これはオッサンから教えてもらった受け売りなんだけどね。ヘッヘッヘ…」


「……」


 丁寧に説明してくれているのが、誰もほとんど何を言っているのか理解できない。そもそも“オッサン”って誰だ。


 こうしてオレたちの始めの狩り実戦は、破格の大猟という結果で終わる。




・・・・・・・



 月日は更に流れる。


 それ以降の狩りでも《魔獣喰い》の働きぶりは凄まじい。毎回オレたちを唖然とさせた。


 的確に獣を発見し、相手の動きを予測し回り込み一撃で全て仕留める。森の中で獲物を探す探知能力、そして身を潜める完全に気配を消す隠密技もオレたちの中でも抜きん出ていた。


 いや大人の狩人でも真似できない腕だ。


 最近では人間関係にも慣れてきたのだろう。オレたちに的確な指示をだし、獣を狩る包囲追跡の陣形を組む。相変わらず合図の音は微妙に間違っているが。

 

「これもオッサンから習った狩りの方法なんだけどね…」


 森での実践的な方法を、オレたちに惜しげもなく伝授してくれる。《魔獣喰い》と狩りに行くといつも大猟で大村に凱旋できる。村の誰もがオレたちを称えてくれる。


 だがヤツはいつも謙虚で控えめだ。


「美味しい物さえ食べられたら、それだけで幸せだからね」


 本当に変わったやつだ。だが、どこか人を引き付けて、グッと離さない不思議な魅力がある。




 そしてオレは覚悟した。


「班長の座を《魔獣喰い》に譲ろうと思うだが…」


 本人がいない時にオレは仲間にそう提案する。


「異論はない…」


「ケッケッケ…抜けているところはオレたちで補助すればいいだろ」


「幸運の人ですからね…あの人は…」


 即座に全員が快く同意してくれる。長らく一緒に苦楽を共にするにつれて、みんなの想いが重なっていたのだろう。


 こうしてオレは班長の座を《魔獣喰い》に譲り、その補佐として支えていくことにしたのだ。


 


 そういえばその後で聞いた話だが、《魔獣喰い》…班長の言う“オッサン”とは、なんとこの大森林の英雄である戦士《流れる風》のことであった。


 何でもここに来る前は《流れる風》が直々に一緒の狩組で鍛えて、この大村に推薦して連れて来たのだと。そんなことは今までに一回あるかないかの、とても珍しいことだという。



“森の大英雄の直弟子《魔獣喰い》”


 訓練生の間ではあっという間に有名人となる。本人は気づいてないが。





 だが、オレたちの評価は変わらない。



 その時のオレたちにとって、既に班長《魔獣喰い》というかけがえのない存在であったから。






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