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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 大村】の章

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28/204

22羽:一発逆転のチャンス


「しかし困ったことになったな…」


「あの《獅子姫》様が相手だと分が悪いの…」


「今後についてだが…」


 大村の広場で狩組の仲間たちと、今後の作戦について論議をかわす。


 何故なら確実視されていた、この大森林での若手の一番栄誉である“若獅子賞”をオレたちが逃す可能性があるからだ


 若獅子賞の名誉は森中に鳴り響き名高い。主にこの大村に在籍する戦士団の訓練生が対象となるが、若手の狩人や戦士たちにとっては一生に一度は狙いたいものだ。


 これまでの対象者は


“自分の命をかけて、辺境の村を守った戦士”


“誰もが手が焼く凶暴な魔獣を狩った狩人”


“到達未踏な大森林の秘境に辿り着き、貴重な素材を持ち帰った探索者”


 など様々だが、若者らしい飽くなき挑戦チャレンジと勇気が評価される。そしてその功績はこの大森林中に鳴り響く。


 先日まではオレたちの狩組が魔獣退治で結果を出し、今年の最有力候補とされていた。


 だがその明るい未来に暗雲が立ち込める。


 それがあの《獅子姫》の参戦であった。なぜか急にオレたちに対抗心を燃やし、凄まじいいい勢いで功績を狙っていた。


(獅子姫ちゃんは可愛いだけじゃなくて、有能なんだな…)


 好敵手ライバルであるはずの《獅子姫》の活躍が、なぜかオレも若干うれしい。出来る女の子は素敵だ。アレだ、クラスで一番賢い女の子に恋する感じだ。




「では今後はオレたちも“森の情報を集め、獣や魔獣狩りで結果を出す”ということにする…それでいいか班長?」


 論議を実質し切っていたイケメン剣士が、オレの方を向いて最終確認をしてくる。班長…ああ、そうか、オレか。


「うん、それでいこう…全力を尽くそう」


 ボーっとして話をほとんど聞いていなかったオレは、分かったふりで返事をする。


「相変わらず班長は適当だな…」


「オレたちにとっては、それくらいが丁度いいでしょう」


「それもそうだな」


 数年間も一緒に組んでいる仲間たちは、苦笑いを浮かべる。毎日の訓練や狩りに命がけな民は、こうして所々で力を抜くことも忘れない。オレは癒し系マスコット人形か何かか。


(でも、ダメ元でも、最後まで頑張るしかないか…)


 そんな感じでオレたちは、年末年始に行われる大精霊祭にむけて、気合いを入れ直す。







 その年もあっという間に過ぎていく。


 最近は月日が経つのが早い気がするが、それは毎日の訓練や狩りの生活が充実している証拠だろう。つまらない軍学などの授業は苦痛の時間だったので、オレはいつも妄想で現実逃避していたが。


 オレにとっての十三歳の最後の月。年の瀬も迫ったある日のことだ。


 ある日、オレはハゲ頭の戦士団長に呼ばれて城の個室におもむく。


「失礼します。《魔獣喰い》です」


 この世界にノックの習慣はないがついついしてしまう。部屋の中に入ると、相変わらず暑苦しい戦士団長の他に女性がいた。


「あっ、《獅子姫》…ちゃん」


「ん、《魔獣喰い》。おぬしも呼ばれていたのか」


 部屋のなかにいた《獅子姫》は、オレの姿を確認すると悪戯な笑みを浮かべる。一方で最近は狩りで結果がでていないオレは、少し気まずい。


「もうすぐ大精霊祭じゃの、《魔獣喰い》よ」


 彼女は若獅子賞の最有力候補をオレたちから奪い取り、かなり嬉しそうだ。困ったことにその笑みも小悪魔みたいで可愛い。


(くっ、悔しい…でも、相変わらず不思議なファッションだな、《獅子姫》ちゃんは…)


 今日の格好は前に見たのとは少し違っている。森虎もりとら森豹もりひょうの毛皮で全身をおしゃれに着こなす。関西のおばちゃんも真っ青な最新ファッションコーデだ。


 熱帯雨林に近いとはいえ今は冬の季節。


 やや肌の露出は少なめだが、それでもそのスラリとした身体つきは女性らしく成長してきていると分かる。胸はすこし控えめだが。


「ん?どこを見ているのじゃ。われの服装か?これは大森林の南方で流行りの衣装である。凄いであろう!」


「うん…そうだね…個性的で素敵だよ」


 壊滅的にファッションセンスがない《獅子姫》に、オレは合わせて相づちをうつ。普通にしたらもっと可愛いのに残念だ。




「ガッハッハッ!噂通りお前たち、最近は仲むつまじいいの。これなら話は早い!」


 オレたちの様子を眺めていたハゲ頭の戦士団長は、暑苦しく語り出したのだった。



・・・・・・



「ということは、その“怪しい獣”を調べてくればいいのか?」


 団長の依頼を聞き終えた《獅子姫》は最終確認をする。


 何でも最近、大森林の奥地で“奇妙な獣”を見た狩人がいたという。


 狩ろうにも素早くいつの間にか姿を消す獣で、またどこからともなく現れるという。オレと《獅子姫》の両方の狩組合同で、その獣を調査してきて欲しいとの事だった。


(この森の大人の狩人が見失うなんて余程の獣だ。だとしたら…)


 今まで大森林で見た事ない獣…“魔獣”の可能性がある。


 しかし“魔獣”は基本的に凶暴で見境なく人を襲う。狩人相手に逃げ出し姿を消し、また現れるなどしない。奴らは本能で襲い掛かってくるのだ。


「不思議な獣じゃの、そいつは」


 幼いころから英才教育を受け、森の生態系にも詳しい《獅子姫》も怪訝な顔をする。


「じゃが、そんな調査は我々だけで十分じゃ!」


「だが、姫よ。未知の魔獣の可能性もある。これは”獅子王”の意向でもある」


「くっ、父上か…それは仕方がない…」


 少し不満気だった彼女であったが、魔獣と森の恐ろしさは十分知っている。イタズラ好きな小悪魔さんではあるが、無知で無謀ではないのだ。



「足を引っ張るではないぞ、《魔獣喰い》よ」


「はい、よろしくお願いします…」


 上官及び王族には逆らえない。下っ端訓練生のオレは、なされるがまま命令に従う。





だが…


(…よし、きたよ!チャンスがきたよ!)


 だが内心ではオレはガッツポーズ連発だ。


 何しろ最近赤丸急上昇のあの《獅子姫》ちゃんと、一緒に旅(狩り)が出来るのだ。まあ、その他大勢がいるが仕方がない。


 目的地は辺境の場所ということもあり数日間の行程だろう。


 昼食ランチあり、野営キャンプあり、もしかしたら水浴びなんかもあるかもしれない。特に小川での水浴びポロリイベントは重要だ。


 更には男らしいところを見せて、彼女からの好感度を上げるチャンスでもある。


 こう見えてもオレは狩りや料理は得意技能だ。彼女のために大物を仕留め、現代調理技法の集約したオレの自慢の手料理を披露する。最近では家事男子も人気があるらしいからうなぎ上りだろう。


 そして最大のチャンスは、誰も見たことも聞いたこともないその“魔獣”だ。


 あの《獅子姫》ですら仕留められなかった“魔獣”をオレがすかさず仕留める。そうなれば、この月の末にある大精霊祭での若獅子賞の獲得は間違いないだろう。


『流石は《魔獣喰い》なのじゃ…完敗である』


 《獅子姫》ちゃんからはそんな尊敬の眼差し…そして尊敬はいずれ敬愛…“好意”に変わるかもしれない。


 まさに一石二鳥…いや三鳥のチャンスだ。更に心の中でガッツポーズを連発。




「という訳だ…二人とも頼むぞ!」


 暑苦しい戦士団長の説明も終わりその場は解散となる。後半はうわの空で妄想の世界に入っていたので、話を聞いていなかったが何とかなるだろう。いざとなったら《獅子姫》ちゃんに聞けばいいし。




・・・・・・



「では、《獅子姫》班と《魔獣喰い》班、調査に出発するのじゃ!」


「はっ!」


 至急調査の命令ということで、その日の大村を出発する。号令をかける《獅子姫》ちゃんは相変わらずのカリスマ性。オレたちの狩組は定食のパセリのごとく次いで感覚だ。




「よし、じゃあ、オレたちも行くぞ!」


 オレも負けじと仲間たちに声をかけ気合を入れる。《獅子姫》ちゃんに“本当は出来る男”だというところを見せないと。


「班長、そんな気合いを入れてどうした?何か悪いものでも食ったのか…いや、それはないか…」


 やたらハイテンションなオレを見て、仲間たちやや心配そうな顔をする。


「ケッケッケ…どうせ、また、女の尻でも追いかけるんだろよ、班長は」


 オレを皮肉る声も聞こえるが、本当のことなので広い心で全力無視だ。


 とにかく今は先に行く《獅子姫》班に置いて行かれないように、その尻(後)を追う。危ない、ややスキップ気味だった。






……こうして、《魔獣喰い》十三歳の最後の、危険な旅が始まったのである。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 完全にボーッとして話聞いてない天然キャラ路線。獅子姫登場から一気に加速したようでかなり戸惑う。 常に思考を続ける寡黙な主人公ぽかったのが、ただのアホ。大袈裟に言えばこれくらい急加速でキ…
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