21羽:獅子奮迅 ★イラストあり 獅子姫
あとがきに『獅子姫』ファンアート及びイラストがあります。
あくまで書いた方のイメージです。
個人のイメージを大事にする方は閲覧ご注意ください
“獅子姫”
気になった子のことは、徹底的に調べる性分であるのオレさっそく行動にうつす。
「《獅子姫》は大族長である《獅子王》の娘であり、オレたちと同じく戦士団の訓練生だ」
「娘って、あの《獅子王》・・・様の・・・」
最初の情報を身近にいたイケメン剣士から聞き出しオレは言葉を失う。
大族長といえばこの広大な大森林を総べる部族の王だ。オレも数年前にこの村に来た時に会っている、城にいたやたら威圧感のある王様だ。
その娘だから《獅子姫》様なんだろうな。安易だが。
「安易なものか、さっき体感したとおり姫の剣技は我々の常識を超えている。その剣技は父親である《獅子王》を超える天賦の才能とまで言われている」
同じく剣を得意な得物とするイケメン剣士は悔しがる素振りも見せずに説明をする。彼女はオレたちと同年代で、更に今は同じく森林戦士団の訓練生。だが普段はあまり真面目に訓練にも参加せずに、自由気ままにしているという。
「《獅子姫》・・・ちゃんか・・・」
せっかくの説明を聞きながらオレは既にうわの空だ。
(それにしても、太陽のように明るく輝く瞳で、キレイで可愛い子だったな・・・)
か弱く守ってあげたいタイプの精霊神官のあの子とは違い、健康的で野性的で人を引き付ける魅力がある。キツイ性格も相まって素晴らしい。斬られるのは嫌だけど、次は事前に予測して避けよう。
(もっと彼女のことを知りたい・・・)
イケメン剣士たちと別れてからからもオレは《獅子姫》の独自調査を続行する。隠密の能力の無駄使いだな。
【調査結果】がでた。
・前の情報通り、この大森林の大族長である“獅子王”末の娘だという。
(妹想いの怖いお兄さんや、色っぽいキレイなお姉さんもいないか今後も調査・・・)
・戦士団の訓練生だが真面目に集団訓練や個人訓練には出ていない。
(・・・姫様だからきっと許されているのだろう、きっと)
・だが全ての分野で優秀な成績を残している。
(幼いころからの帝王学か英才教育という話だ・・・今は反抗期かな・・・)
・剣技はもちろん狩りや軍学も優秀。更に人望も有りカリスマ性もあるらしい。
(オレなんてカリスマ性どころか、小さいころはイジメられていたいたからな・・・)
・面白い者や、珍しいことが大好き。趣味“腕試し”だ。
(“趣味”で斬り殺されるところだったのか・・・)
《調査結果を受けて、今後の作戦》
・“私こと《魔獣喰い》は自然な流れで《獅子姫》とお近づきになり、仲良くなる”だ。
考えるのが苦手な自分としてはかなりの良策だ。うん。
「《獅子姫》様?最近は大村では見ないな」
だが、そんな気になる女子順位で上位の《獅子姫》ちゃんだが、あの後はしばらくこの大村で見ないらしい。
どうやら、お供の戦士たちを連れてどこかに狩りに行っているらしい。珍しいことに。
(いきなり斬りかかられるのは嫌だけど、遠目でも見たかったな・・・)
少し安心もしたが、会えないのは残念だ。仕方がないのでオレは、また訓練と狩り生活の日々に戻る。
・・・・・
それからしばらく経ったある日。
厳しい訓練を終え、いつものように同じ狩組の仲間たちと、大村の大通りをぶらぶらしていた時のことだった。
「ん?なんだ、あの人だかりは・・・」
村の正門が群集で騒がしかった。どこかの狩組の奴らが大物の獣を仕留め帰って来たのかもしれない。やじ馬根性でオレたちもその騒ぎを覗きに行く。
(珍しい、これまで食べたことのない獣の肉だったらいいな・・・)
人混みをかき分けながら、オレはそんな能天気なことを考える。何しろまだ育ち盛りの年ごろだからな。
「ふう、ようやく最前列まで出られたぞ・・・ん、あれは《獅子姫》・・・ちゃんたちか?」
群衆に囲まれていたのは、あの探し求めていた《獅子姫》たちだったのだ。彼女の周りにいるのは同じ狩組の戦士狩人たちであろうか。年齢的に同じ訓練生というよりは護衛の戦士たちだ。みなが歴戦の狩人が持つ独特のオーラを発している。
「護衛までついて流石は姫様といったところか・・・ん?」
そこでオレは気づいた。
《獅子姫》ばかりを見ていた視線をその後方の荷車にうつす。なんと、そこには魔獣と思われる巨大で奇怪な獣の死体が乗っていたのだ。肉食である森トカゲが“魔”により変異したのだろう、かなり大きい。
群集の話ではなんでも、この魔獣に襲われていた辺境の村に救援に行き、こうして見事に退治してきたのだという。
「見ろ、魔獣には一刀した跡があるぞ・・・」
「さすがは《獅子姫》様だ!」
「われら姫様、バンザイだ!」
村人たちは異様な盛り上がりだ。これまでも民に人気があった姫様が自ら出陣し凶暴な魔物を退治。語り部にでてくる英雄譚のようだ。
普段は何もせずに奇妙派手な格好でブラブラしている自分たちの愛すべき姫様が、ついにやる気と結果を出してみんな嬉しいのだろう。
(うんうん、分かるぞ、その気持ち・・・)
オレも我がことの様に嬉しく思う。何しろ自分が気になる女性が優秀で、他の人たちから褒められるのは気持ちいいことだ。
「ん?」
ふと視線を戻すとこちらに誰かが向かって来る。その渦中の人である《獅子姫》がオレの方へと真っ直ぐに近づいて来るのだ。
「ほれ、土産じゃ」
近くまで歩み寄ってきた《獅子姫》は、その手から何かをヒョイとオレに投げてよこす。
「これは・・・魔獣の肉だ・・・」
「《魔獣喰い》という名を持つくらいだから相応しい土産じゃろ・・・まあ、冗談だがな」
魔獣の血肉には例外なく“魔素”と呼ばれる猛毒が含まれ、人はもちろん獣ですら食することは叶わない。間違って口に入れたらなら、苦しん後に命はない。
それを踏まえた冗談を言いながら、《獅子姫》は口元に笑みを浮かべる。だが死闘だったのだろう。その全身は魔獣との激闘で薄汚れ、痛々しく傷も見える。
それでもその輝く眼光は眩しく光りオレをジッと見つめてくる。
(やっぱり可愛いな・・・言うならば、小悪魔的な可愛さだ・・・)
帰村直後に声をかけられ、更にはお土産の魔獣肉までプレゼントされオレは有頂天となる。もしかしたら《獅子姫》ちゃんの方もオレに気があるのでは、と思ってしまう。
「これで分かっただろう。我も本気を出せば魔獣くらい余裕で狩れるのだ。これで今年の精霊祭の“若獅子賞”は我のモノじゃ」
そう悪戯っぽく笑みを浮かべ《獅子姫》はその場を去る。
(・・・ん?)
しばらくして、オレは気づいた。いくら鈍感なオレでも気づいた。
「厄介なことになったな班長・・・」
隣でことの流れを聞いていたイケメン剣士がそう呟く。イケメンだけではなく頭の回転も速い。
(班長・・・そうかオレのことか。いやそれよりも《獅子姫》ちゃんは何で“若獅子賞”を狙うんだ・・・)
彼女の目的は分かっただが理由は分からない。
後で聞いた話だが、オレたちが今年の精霊祭の“若獅子賞”の栄誉を狙っているのを耳にして、それを横からかっさらおうとしているという。
「へっへっ、これはマズイですぜ、班長さんよ」
仲間は半分諦めか。確かにオレたちも魔獣を狩り、結果を出していた。だが今回の彼女たちの獲物の存在感はそれを吹き飛ばすのには十分な印象だ。
「確かにそうだな・・・」
これでオレたち今年の精霊祭での一番栄誉は危うくなってきた。あれ以上の勇気ある結果を出さないといけないのだ。
(しかし、どうやって・・・)
しばらく悩んだが名案がでず。バカではない、長考派なのだ。
《獅子姫》ちゃんに貰った魔獣の肉があまりにも美味しそうなので、今後の作戦を考えるのは後にし、オレはこっそり食べるのだった。




