20羽:『獅子姫』と『魔獣喰い』
その出会いはある日の夕方だった。
オレは仲間とともに狩りを終え、大村に戻って来た。狩った獲物を木製の台車に乗せ、村の門を過ぎ成果の報告に向かう。
大通りの沿道にはオレたちの狩ってきた獣を見ようと、多くの村民が集まり歓声があがる。毎回のことだがちょっとした凱旋状態だ。
今回の獲物は“魔獣”ではなかったが、それでもかなり大物の獣を何体か仕留め、その肉を食糧として持ち帰ることができた。大村といえども基本的な食料は狩りで得る。
この大森林の住人の中では腕利きの狩人はもてはやされる。
更には凶暴な“魔獣”を接触的に狩る組として、実績を積んできたオレたちには名も知られてきた。最近では熱っぽい視線を向けてくる追っかけの女の子たちもいるようで、黄色い声援が沿道から飛んでくる。
主に狩組の中でイケメンの腕利き剣士の奴にだが。
(羨ましいな・・・)
オレの前で黄色い声援を受けるそいつを見ながら、心の中でうらやましく思う。積極的な女性は凱旋するオレたちに近寄り武勇伝を聞き出そうとするものいる。特にイケメン剣士のやつにピッタリ寄り添って。
「そういうのは後にしてくれ」
女に興味がないのかつれなく返事をする。それでも女性たちは寄ってくるのだからイケメンという人種は幸せだ。
(ご、ごくっ・・・)
その光景を後ろから眺めていたオレは、生唾をゴクリと飲み込む。大森林の部族の女性は幼い頃から狩りや採取を日々行っているので、引き締まった健康的な肉体の持ち主が多い。
現代から転生したオレの目から見ても、顔立ちも整いオリエンタルな美女感が雰囲気だ。暑い今の時期だと肌の露出も多いので、胸元や生足などオレは目のやり場に困る。
年頃のオレは気づかれないように女性の肉体をチラ見して、せめて目の保養とする。《流れる風》オッサンから盗んだ秘技“チラ見”だ・・・オッサンありがとな。
(し、幸せだ・・・)
大森林に転生してよかった。十三歳になったオレは色気に惑わされる、健全な青少年として成長していた。
(ふう、ようやく静かになったか・・・ん?)
しばらく進むと群がっていた村人たちも消える。周囲は人影のない村通り、静かだ。
ふと見るとオレたち前方に人影があった。ちょうど行く手を遮り立ち塞ぐようにいる。
(森の戦士かな・・・)
その者は腰に戦士である証の剣を下げ、腕を組み仁王立ちだ。全身の各所に色とりどり山鳥の羽を装飾して、奇抜を好む森の民の中であっても派手な出で立ち。というか派手すぎる。
衣装からはスラリとは健康的な美脚がのび、また胸元は少し控えめだが膨らんでいる。赤毛の長い髪の毛をポニーテール風に結った美形の戦士。
そう、立ちふさがっていたのは女戦士だった。
「おぬしが噂の《魔獣喰い》とやらか?」
その女戦士はオレたちの方を指差しながら問いてくる。
(キレイな瞳した女戦士・・・女の子だな・・・)
オレの第一印象はそれだった。
歳はオレと同じくらいだろうか。整った顔立ちながらも気の強そうな目つきをしている。強い意志が感じられるキレイな目だ。
今のままでも十分キレイなだが、あと数年もしたらもの凄い美人さんになるであろうと、勝手に想像してしまう。大森林の女性たちはみな素敵な子が多いが、それでも群を抜いた将来性だ。
(本当にキレイだな・・・)
オレは思わずその瞳に吸い込まれるように、ボーっと見とれていた。
「そうです、こいつが《魔獣喰い》です」
オレの隣に立つイケメンの剣士が、少し緊張した声で丁寧に返事をする。その親指は明らかにオレの方を指している。
ん?
“魔獣喰い”・・・
そうだオレの字名は《魔獣喰い》だった。ようやくだが数年前に《流れる風》オッサンの“名”をちょうだいしたんだった、そんな名を。
最初はこっ恥ずかしい名なのでなかなか慣れなかったが、最近になってようやく愛着もわいてきた。何しろ大げさな名だからな。
「そういえば・・・いや、そうだ、オレが・・・」
《魔獣喰い》だ、と名乗ろうとした瞬間だった。
オレの目の前を稲妻のような閃光がはしる。赤いイナズマだ。
(赤い光?・・・いや、赤毛の髪か!?)
それに気付きオレはとっさに身をかわす。そして次の瞬間には先ほどまで自分がいた場所のノド元に、抜剣させた鋭い切っ先が繰り出されていたのだ。とっさの判断で一命をとりとめたか形になる。
「うわっ、危ないよ」
「ちっ、初見で“コレ”を避けるのか!」
見ると先ほどまで距離をとっていたはずのその少女がオレに向かって真剣で突きを技を繰り出していたのだった。しかも強烈な一撃を。赤く見えていたのは彼女の赤毛のの色であったのだ。
(あれほどあった距離を一瞬の踏み込みで斬り込んできたのか・・・凄まじいい瞬発力と剣技だ・・・)
自分の命が狙われたいたのにも関わらずオレは純粋に感心し感動する。動体視力の優れた森の民であるオレですら、斬り込む予備動作や抜刀の瞬間が見えなかったのだ。
森にいる猫科の大形獣のような俊敏さだ。荒ぶる森の民の中であって群を抜く野生の剣技だ。見えない剣技だ。
「《魔獣喰い》、大丈夫か!」
「班長!」
その証拠にオレと同じように見えていなかった同じ狩組の仲間たちは、少し間があってから状況を理解しオレを心配し駆け寄ってくる。
「流石は《魔獣喰い》・・・噂通りの男じゃの・・・」
その女戦士は必殺の一撃を躱された事に驚いていたようだ。というか、少し嬉しそうだ。さっきは舌打ちをしていたのに。
「何をするのですか獅子姫様!」
仲間のイケメン剣士がオレを庇う様に間に入ってくれる。少し緊張した声で問いただす。
「ふむ、噂の《魔獣喰い》とやらがどんなもんか、“挨拶”に来ただけじゃ。そう騒ぐではない」
獅子姫と呼ばれた少女は嬉しそうにそう答える。そしてオレの全身を頭からつま先まで見つめニコリ笑みを浮かべる。
その表情にオレはドキリとする。さっきまで殺されかけていたはずなのに。
「では、《魔獣喰い》よ。また会おう」
獅子姫は剣を収めそう言い放ちながら、何事も無かったかのようにオレたちから離れて行く・・・その姿も可憐だ。
「獅子姫・・・獅子姫ちゃん・・・か・・・」
オレはそう呟きながら、その少女の後ろ姿をジッと見つめるのであった。




