19羽:魔獣 狩組結成する
《魔獣喰い:十歳》
この大村で、そして戦士団訓練生としての目標が出来たオレはさっそく行動に移る。
まずはオレの所属する“狩組”の底上げだ。
いくら森林部族の民の身体能力が優れているといっても、一人で狩り行うのには限度がある。狩りは役割分担を決め、数人一組で連携をとることにより始めて成功するのだ。
底上げといっても、この森林戦士団の訓練生はみな優秀だ。
それは大森林に点在する各村から、有望な子供を選抜し養成しているからである。平均的な能力の高さはもちろん、得意技能に特化している必要もある。
(オレも場合は弓技と隠密技術が評価されたのかな・・・間違いなく剣技ではなさそうだ)
《オレ》の能力は客観的に見て
剣技:E
弓術:A
体術:C
斧・槍・盾・投擲:各C
隠密技術:A
筋力:C
素早さ:B
評価は同じ年代の奴らと比べたときの比較値だ。
バラつきはあるものの全体的に平均的だ。剣技が低すぎる以外はだが・・・
班員の中でも能力差にバラつきがあり、得意不得意な技能もそれぞれだ。狩りや戦いの時は、それぞれの適正に合わせて役割分担や陣形を組まなくてはならない。狩組の頭である班長になった奴は大変そうだな。
まあ、普通の獣なら今のオレたち訓練生でもなんとかなるが、今回オレの計画を実現する為には、是非とも“魔獣狩り”にも対応できる仲間が必要だ。
“魔獣”
それは本来なら自然界には生息しない獣だ。大森林の獣に“魔”が憑依して、個体と性格が激的に変異し人を襲うとされていた。
獣が“魔獣化”すると例外なく身体が何回りも巨大化、毛皮や皮膚も硬質化し牙や爪も大きく鋭くなる。凶暴という魔が具現化した獣だ。
(普通の大人しい森鹿ですら大木を打ち倒す魔獣になるし・・・特に肉食獣が魔獣化したときは手が付けられなかったな・・・)
魔獣を狩るには普通の獣を相手にするのとはだいぶ勝手が違う。その奇怪な動きを先読みして、一撃で致命傷となる爪牙をかいくぐり、鉄製の鎧にも匹敵する硬皮を一撃で打ち抜かないといけない。
とにかく魔獣狩りに行くことを仲間に提案し、説得しないといけない。
・・・・・・
《魔獣喰い:十一歳》
大村の訓練生になり日々を過ごし、その時がきた。
猫を被り優等生を演じ、同じ狩組の班員の性格や能力と人間関係もだいぶ把握した。このまだ荒削りな奴らだが能力も高く、得意技能もそれぞれ持っている。
問題は『魔獣狩りに行こうよ!』と提案しても普通の訓練生は返答に困るだろう。
何しろ大人の狩人ですら魔獣狩りは危険が伴う。そこで、オレは仲間のみんなに提案する。
『この狩組で一番を目指して、精霊祭で“若獅子”を狙おう!』
と
この大森林の民は地位やお金よりも、名誉や義理人情を大事にする。
“精霊祭の受勲式で“若獅子”として表彰される”
それはこの大村で、いや大森林の若手の狩人戦士の中で一番の名誉である。
「まじか・・・」
「“若獅子”・・・夢のような話だが・・・だが・・・」
オレの言葉にみんなの目が反応する。
『その為には“魔獣狩り”が一番の近道だろう』
オレは言葉を付け加える。
「おいおい、それは流石に無謀だろうが・・・」
「それが出来たら苦労はしない」
やはり魔獣の恐ろしさはみな実感している。だがその反応も想定内だ。
『じゃあ、もしも、自分の生まれ育った村に凶暴な魔獣が襲い掛かって来た時にどうする・・・』
オレはもはや演技かかって饒舌に語る。
「・・・」
皆は下を向いて無言になる。この大森林では大型の肉食獣に憑依した魔獣一匹で、小さな村が壊滅することも少なくない。産まれたての小さな赤子から老人まで皆殺しで、捕食される。
『オレたちの腰にある剣は何のためにある・・・この弓は誰を守るためにある・・・』
握る右手のコブシに力を入れる。
『大事な人を守るためだろう!この森の子供たちが安心して暮らせる為だろう!?』
事前に用意してあったセリフとはいえ、言っている自分でも胸が熱くなる。腹の下部分がギュッと締め付けられる。
その言葉で話を聞いていた仲間たちはみな顔を合わせて頷く。
「面白そうな話だ・・・オレは乗ったぜ」
班内で随一の剣の使い手が不敵な笑みを浮かべて頷く。
「オレもやる、強い戦士になる」
無口だが巨漢の大棍棒使いが呟く。
「ケッケッケ、“若獅子”を取ったとなると、引く手あまたな人生となろうよ」
小柄だがオレ以上の隠密術と素早さをもつ小男がニヤリとする。
他の同じ狩組の仲間も歓声をあげて、また静かな闘志を燃やし全員が同意してくれた。
こうして、オレの一世一代の演説により、どうやら説得は上手くいったようだ。小さい頃に同行した獣退治で《流れる風》オッサンが言ったセリフを真似しただけだが。
あの時は凶暴な獣に群れに諦めかけていた小さな村人たちを奮起させるために、身体をはってオッサンが演説していた。
どちらかといえば冷め子供なオレですら、当時は感動して目頭が熱くなったのだから、この大森林の民には効果覿面だっただろう。恥ずかしいのでもうこりごりだが。
ありがとう、オッサン、成仏してくれ。
その後は準備もすませ、訓練や仕事の合間時間でオレたちの狩組は魔獣狩りに精を出すことになった。そう簡単に魔獣に出会う事はなかったが、オレの野望の第一歩である。
・・・・・・
《魔獣喰い:十三歳》
それから月日は経ちオレは十三歳になっていた。
最初の魔獣狩りを目指していた頃は、上手くいかずに悪戦苦闘していた。だが今年に入ってからは皆の腕もメキメキと上がり、コツを掴んだのかなんとか魔獣狩りで結果を出すことに成功していた。
手痛い反撃を喰らい大怪我をした奴もいたが、精霊神官の大神官の婆さんのお蔭でなんとか回復して復帰。魔獣狩りの報酬やその素材は、予定通りオレが管理していた。
報酬を鍛冶一族である“山穴族”の好きな酒に変えて、素材と一緒に度々差し入れに行き、親密度アップ。酒と珍しい素材が大好きな彼らは大喜びだ。
更に危険を顧みず魔獣狩りを成功させていた功績で、オレたちはハゲ頭の戦士団長にも一目を置かれていた。
(よしキタコレ!)
その頃になると、オレたちの狩組は大村の住人の中でも名が知られるようになっていた。
“戦士団の訓練生でありながら、魔獣を何匹も狩っている少年たち”
“命知らずの勇敢な若者たち”
休暇中に大村の繁華街をみんなで歩いていると、羨望の眼差しを受けることも多々ある。もちろん年頃の女の子の視線も熱く向けられる。この部族の女子は狩りができる男が好きなのだ。
「あの長身の彼・・・素敵ね・・・」
「大柄の大棍棒をもった彼もたくましい・・・」
残念ながら地味なオレの人気は無さそうだ。だが仕方がない。人気や名誉は仲間にくれてやろう。オレは報酬と素材があれば今は十分だ。本当は少し人気も欲しいが・・・
(よし順調だ・・・全てが・・・)
オレの計画は順調に進んでいた。このままでいけば、今年の受勲式ではオレたちが“若獅子”の一番名誉を取れそうだ。
(いいぞ、いいぞ!)
全てが順風満帆だった。
だが、そんなある時・・・
突然、“アイツ”がオレたちの前に立ちはだかったのだった。




