18羽:13歳 森林戦士団 訓練生
《三年後:魔獣喰い:十三歳》
“大村”に来て3年間が経ち、オレは十三歳になっていた。
『異世界なので年月が経つのが早い』とかではない。オレもちゃんとこの三年間頑張っていたさ。そんな訳で、まずはこの三年間のことを簡単に語ろうか。
・・・・・・・
《三年前:魔獣喰い:十歳》
三年前にここの大村に始めて来て、そのまま《流れる風》のおっさんに城に置いていかれた時は、正直涙目になった。何しろ知らない土地に置いてけぼりだ。
直後は放心状態だったけれど、その後はちゃんと城のハゲ頭の戦士団長のオジサンが今後の事を説明してくれた。
「ようこそ、大村の戦士団訓練所へ。通称“地獄所”へ!なんてな。ガッハッハ!」
ハゲのオジサンの笑えない冗談はさて置き、どうやらオレはその日から大村の戦士団養成所に入団することになったのだ。
“戦士団”
みなさん聞き間違い、言い間違いではないですよ。オレもこの異世界に転生して来て苦節十年。
ようやく“戦士”になることが出来たのです。訓練生だけども。
産まれた時から、毛皮や貧相な布の服を着せられ、狩りに出れば獣の羽毛や泥で全身を塗りまくり身を潜める。民の職業は基本的に全員“狩人”もしくは“狩人戦士”。
生肉を食べたり、味気ない木の実を食べたりの野性的な毎日。それもこれも全てこの為だった。
“騎士”や“戦士”になることを夢見て、そんな日々を我慢してきたのだった。
その苦労と我慢が遂に報われたのだった。
残念ながら鉄製の全身鎧を着込んだ戦士ではないが、その響きは最高だ。
城内には馬みたいな四足歩行の生き物がいたので、“戦士”から“騎士”になんかに転職なんかもあるかもしれない。夢が膨らむ。
ハゲの戦士団長のオジサンの説明を受けながら、オレは感動のあまり《流れる風》オッサンに置いていかれた事を忘れ、感謝すらしていた。
(オッサンありがとな!)
そんな妄想に浸るオレにお構いなく、ハゲ団長のオジサンは今後の説明を続ける。
訓練所に入ったらこの山城の中腹にある宿舎に寝泊まりし、勇敢な戦士に成るべく訓練の日々。合間をみて山城の警護も兼任し、狩人としての実践を何年か積んでもらうという。
基本的には育った村にいた時と、あんまり変わらない生活に思えた。訓練アンド狩りの生活。
(それにしても大都会“大村”の生活か・・・楽しみだな・・・)
三年前のオレの心は、まだ希望に満ち溢れていた。
・・・・・・・
訓練所に入所した次の日からさっそく訓練に参加となった。
ここでの訓練はかなり大規模で本格的だ。
少人数の小隊に分かれ、笛や合図に合わせて陣形を変える中隊や大隊に組み替える。“狩組”という数人で活動していたオレにとっては未知の訓練だ。
組み合わせによって攻めるの、守るの、囲む、退却する、迂回して回り込むなど複雑だ。
一気に覚えるのは大変だが、これぞ“正しく戦士団の訓練”っていう感じで興奮し必至で学んだ。覚えきれない分は周りの奴らの動きを盗み見て何とかだ。
とにかく、激しい訓練に加えて新しく覚えることも、色々あって大変だがオレは毎日が充実していた。
(馬鹿ではない・・・苦手なだけだ・・・たぶん)
また、集団訓練とは別に、個人戦での弓矢や武器の稽古の時間ももちろんあった。
状況に合わせて槍や斧、こん棒や盾、格闘術など一通り襲わる。だがオレはなんといっても剣を一生懸命に練習した。これだけは譲れない・・・・成績は微妙だが。
(剣技に関しては自分で言うのも何だが、相変わらず大器晩成だな、オレって・・・)
訓練生の中では下の方の剣技の成績で、訓練では相手の木剣に当たらないように避けるので必死だ。
そんな辛く厳しい毎日を過ごす自分にとって楽しみもいくつかある。
その一つはこの大村近隣の“豊富な食糧事情と通貨”だ。
いろんな種類の獣の肉、見たことのないような木の実や野菜・穀物、近くに大き目の川もあるので魚や甲殻類なんかもある。生活して驚いたことに、この大村では“通貨”が流通していた。
なんでも大規模な村なので物々交換ではままならず、通貨を流通させて食事や衣類、生活物資などの購入に使用しているのだという。
(おお、経済だよ、経済)
心の中でガッツポーズをしつつ小躍りする。
だが我々訓練生は、基本的には食事や武器衣類などは支給されるので、あまり活用する必要がない。狩りなどで余った肉類や素材を通貨に変えて美味珍味購入する者のいるという。
“貯蓄”
これぞ密かな楽しみだ。
二つ目の楽しみといえばアレだ。
“金属鎧計画”だ。
この大森林の戦士や狩人達は獣や魔獣の硬い皮を細工して作った革鎧を着用する。そう“全員”だ。
これは軽快性、無音性、などの全ての点において、大森林製の革鎧が金属鎧をはるかに凌駕しているからだ。頑丈で軽くて無音ってやつだ。この部族の着用する硬質革鎧の強度は生半可な金属鎧を凌駕していた。
金属鎧なんか着て野山を駆け巡ったらすぐバテテしまうし、大きな音も出るので獣に簡単に気づかれ逃げられてしまうのだ。
(そんな理屈分かる・・・だがオレは男のロマンである金属鎧だ・・・)
輝く表面、滑らかな曲線や無骨なフォルム。以前にネットで見た情報によると自分では着込めずに従者に着させたりと贅沢な鎧。
想像するだけでも心躍る、金属鎧様。
(転生した場所が悪かったか・・・オレは・・・)
そう諦めかけていたオレに希望の光がこの村にはあった。
なんとこの大村には武具を製造する鍛冶工房があったのだ。城内を案内されているとモクモク煙が上がり、金属の激しく打ち合う音がする場所がそれだ。
そこは、この大森林の部族で使われる武具も多くを製作する場所であった。そう、シェア率でいったら八割ほどらしい。かなりの高比率だ、
実はオレの村にも鍛冶屋のオジサンはいた。だがそこでは簡単な生活用品を作り、破損した武器を打ち直してくれるくらいの鍛冶屋だった。
なんでも大森林の各部族で使われるほとんどの武器はこの大工房で作られ、各村に運ばれているという。理由は鍛冶場の“炎”と“魔獣寄せ理論”らしいが、それは今度にでも詳しく聞いてみる。
そんな訳で大村にある鍛冶大工房はかなりの大規模だ。
オレたち森の部族とは違う“山穴部族”がその場をし切っていた。彼らは炎と金属に囲まれて、日々武具を製作に慢心していた。
その光景を始めて見た時にオレは心躍った。
“武器を作れるということは、防具もきっと作れる”はずだ。間違いない。
だが、油断は出来ない。
何しろこの森林部族は常識が通用しない。大森林的な精霊信仰だからだ。うっかり全身金属鎧を作っただけでも、死罪とかにでもなったら大変だ。
それからオレはま日々の狩りや訓練や仕事をこなしながら鍛冶武器に関して情報収集をした。
この城の状況について、鍛冶工房について、山穴部族について、通貨について。
普段はのんびり屋なオレだが、やる時はやる男だ。知っていたか。
同期の訓練生や、教官戦士、はたまた城で働く従者や大村の住民まで念入りに聞き込みする。袖の下は通じないので誠心誠意だ。
その結果で何点か判明したことがあった。
まずは鍛冶工場には基本的に公の機関なので、個人的に武器の注文は出来ないという。
通貨を貯めて金属鎧を発注購入という手段がとれないのだ。
(なるほど、なるほど・・・)
戦士団の頭である軍団長に自分用の武器の作製の申請をして、それが受理されたら発注、製作、納品となる。完全オーダーメードシステムだ。
軍団長は歴戦の戦士であるが、新しい文化や制度は積極的に取り入れる柔軟な考えの持ち主らしい。柔軟政策で助かる。
最後に“山穴部族”だが、彼らは大森林に近い山脈に暮らす民族で、オレ達の森林部族とは友好関係にあるらしい。
見た目は背の低い無骨な一族。だが、石と金属と火を知り尽くし、皆が皆、優れた鍛冶職人であり炭鉱扶であるという。どっかで聞いたことがある部族だ。
昔から有効関係であり、お互いに鍛冶職人や鉱物、防人や食料などを交換交流して支えあっている。一方で大森林の部族が森からの食料を供給し、なおかつ炭鉱を守る兵士としても常駐する。屈強な身体を持つが、彼らは戦いを好まない部族だという。
一方、山穴族はこの大村に工房を設け、職人や鉱物を供給し、出来た武具をオレ達森林族に与える。ギブ&テイクの関係らしい。
そんな山穴部族の情報だが、彼らは酒と貴重な素材に目がないという。
(そうかそうか・・・酒と素材か・・・それは分かりやすい)
・・・・・・・
オレは情報をまとめ作戦を考える。
しかし、よく考えたら作戦を考えるのは得意ではないのですぐに頭がパンクする。馬鹿ではない。苦手なだけだ。
こういう時は簡単にいこう。
とりあえず、当面の目標としては・・・
・仕事や狩りに精を出し戦士団長に認めてもらう。
(職場での信頼獲得)
・狩りに積極的に参加して、貴重な獣や魔獣の素材を集めつつ、通貨を貯める。
(現ナマと素材の確保)
・貯めた通貨で上質な酒を買い、その酒と貴重な素材を鍛冶工房の山穴部族に献上して仲良くなる。
(有効度アップ)
こんな感じかな。今の自分に出来ることは。目標ができ気合が入ってきた。
今までは異世界生活をのんびり満喫きてきたが、ついに大きな目標が出て最大までモチベーションが上がる。やるときはやる男なのでオレは。
そういえば最後にだが、オレには気になることがあった。
それは《流れる風》オッサンに連れられてこの大村に来て始めて会った、あの精霊神官の館にいた女の子だ。
いろいろ聞き込みしたところ、やはりこの大村の精霊神官ということだ。ただ、その上には老女の大神官がいるので、彼女は数人いる補佐見習いの一人ということらしい。
いつもは大母樹の下にある館に籠りきりという事で、大村の皆や城の戦士達も殆ど会ったこともないようだ。
精霊神官に会えるのは、出産、冠婚葬祭、村大事な方針を決める啓示など限られた時しかない。
(これは困ったな・・・)
会えなくてもいいので、ひと目でもその姿を見たかった。
・・・・そう、今思えば、これがオレのこっちの世界での初恋だった




