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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【最期の森】の章

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159羽:【獅子姫】


『魔獣喰い』マジウスは自分の持てる力と技の全てを、その両手に持つ一本の剣に乗せ正面から振り下ろす。対し受ける側の“獅子姫”は、それを受け流し尚且つ返す剣で相手の急所を切り裂く構えをとる。相手の剣は自分の脳天に向かいゆっくりと振り落とされて来る。


確かに気合いの乗った基本に忠実な素晴らしい一撃だ。だが、その剣技には何の工夫も無く凡庸な才能の剣士のソレだ。先ほどのまで“獅子姫”の感じていた恐怖感はどうやら杞憂に終わるのだろう。


(終わらせるか・・・)


そう思いながら“獅子姫”は自分の剣の角度を変え相手の剣を受け流す動作に入る。こうなった相手にとっては回避不能で一撃である。だが自分の腕が動かない・・・いや、動いてはいるのだが、その動きはあまりにも遅く緩慢だ。


ここで“獅子姫”はハッと気付く。


この相手の動きが遅いのでない。あまりにも早すぎで自分の感じる動きがまるでスローモーションの様に遅くなってしまったのだ。


(これはまさか・・・)


噂には聞いた事がある。死の淵を経験した戦士が奇跡的に蘇生した話を。人は死ぬ間際に走馬灯の様に時間がゆっくり流れ過去が一瞬で脳裏に流れ、死んでいくのだと・・・


そして、獅子姫は覚悟した。相対的に自分の剣の構えは受け流す事に間に合わない事を・・・そして、そのまま自分は相手に脳天を叩き斬られ絶命するのだと・・・


「ああ、『魔獣喰い』よ・・・最期にもう一度だけ・・・」


 無意識的に獅子姫はそう呟いた。




・・・・・・・・




大森林の剣姫“獅子姫”にとって『魔獣喰い』とはどんな存在だったのだろうか。


初めてその名を聞いたのは十年ほど前、大村の訓練所に所属していた頃だ。


訓練所には大森林の各地の村から才能ある子供を集められ、狩りや集団戦闘・個人戦などを徹底的に鍛え上げる機関である。これは人間を遥かに上回る戦闘力を持った獣や魔獣に対抗する為に森の民が築き上げた知恵でありシステムであった。更にここ数十年は下界の人間との交流も視野にいれた対軍団戦闘なども取り入れられ、実際にその成果は少数精鋭ながらも他を圧倒するものであった。


だが“獅子姫”にとって強制的に入れられた訓練所での生活は退屈な毎日であった。確かに鍛錬によって自分自身を鍛え上げる事は出来たが、“大族長の愛娘”という肩書が邪魔で鬱陶うっとうしいものでしかなかった。常に護衛兼監視をつけられ口うるさい護衛からは小言の毎日だ。他の訓練性もそんな彼女に対して気を使い、対人訓練で本気で挑みぶつかって来る者などいない。


そんな時に面白い噂が耳に入ってくる。


“訓練生ながら仲間と共に魔獣を狩り、なんと成果を出している者がいる”という噂だ。魔獣と言えば硬い毛皮と変質した鋭い爪牙を持ち、大人の戦士や狩人ですら命の危険性がある凶暴な獣だ。それを好んで狩る訓練生など今まで聞いた事もなかった。


“思い立ったが吉日”


“獅子姫”は早速その組の中心人物である男の顔を眺めに行くことにした。護衛の報告からその男の行動パターンの報告を受け、大村の大通りで待つ。


(どんな屈強な戦士で荒くれ者な男なのであろう・・・)


“獅子姫”の心は躍り機関に胸を膨らませる。しばらくすると通りの向こう側から数人の訓練生を従えたその“男”はやって来た。


だが見た目は中肉中背で特に身体能力に優れている様には見えない。更にはそこにいるはずなのに“存在感”が異様に無いのだ。外見も変わっている。七色の森鳥の羽や装飾品を好む森の民にあって、その男は全身を一切の飾り気の無い地味な衣装に身にまとい、ボーっとしながらこちらに歩いて来る。


想像していた荒ぶれ者な歴戦の戦士とは違い残念な気持ちになった。だが、もしかしたら大人しい地味なフリをして猫を被っているのかもしれない。“獅子姫”は軽い気持ちでからかう事にした。


「あんたが、噂の『魔獣喰い』?」


部下の報告によるとその男はそんな字名であった。噂では毒素のある魔獣の肉や臓物を好んで喰うというのが由来だが、実際にはそんな馬鹿げた事は不可能であり眉唾話であろう。自分を強く見せるために身の丈以上の字名を付ける事はよくある事だ。

実際に目の前の近くで見ると顔もまだ幼く自分と同じくらいの年齢に見えた。同じ訓練生であるから歳が近いのは当たり前だが、それでも若く弱々しく見える。


(ん?)


“獅子姫”はその時、例えようのない視線を全身に感じる。最初は肌が露出している足や太もも、次は二の腕や胸元、そして胸元。最後には自分の顔や髪や目をジッと見つめてくる。


そして最期にはこちらの瞳をジッと見つめてくる。


(な、なんだ・・・こいつは)


これまで大族長の愛娘である自分にこんな視線を向けて来る者はいなかった。初めて湧き上がる感情に“獅子姫”は思わず言葉を失い立ち尽くしてしまう。


「そうだ、こいつが『魔獣喰い』だ」


『魔獣喰い』の仲間の剣士が本人の代わりに緊張した声で“獅子姫”に答える。その声で“獅子姫”は我に返る。こいつは知っている、優男で同期の女戦士たちに人気があり、今期の訓練生の中でもかなりの剣の腕前の戦士だ。これ程の男を従えているのを見て“獅子姫”のこの『魔獣喰い』に対する興味は更に深まる。


だが当人の『魔獣喰い』はそんな事にお構いない感じであり、ボーっとその会話を聞き流し困惑している。と思うと急にニタニタ笑みを浮かべている。


(こいつは・・・この私を目の前にしてさっきの様な視線を送って来たかと思えば、まるで眼中にないような態度をとって・・・けしからん!)


興味はあるが、その者にどうやったら自分の方を向いてもらえるか分からない。そんな天才的にまで不器用な“獅子姫”がこんな時にとる行動はただ一つ。


“剣で語る”だ。


獅子姫は軽くけん制する気持ちで腰だめの姿勢になり抜刀の準備をする。寸前で止める脅しのつもりで軽く打ち込めば、この男の注目も再び自分に向き、尚且つ本性も見られるだろう。そんな軽い気持ちであった。


ゾワッ


その瞬間“獅子姫”の背筋に何とも言えない悪寒が走り、全身の細胞が危険に対する警戒を発する。それは、まだ幼い頃に英才教育の一貫として初めて魔獣の目の前に父上に放り出された時の絶望感に似ていた。


(全力だ・・・全力で斬り掛からなければ、こちらがられる!)


“獅子姫”は咄嗟とっさに構えを変え、今の自分が放てる最速であり最強の“獅子突き”の構えをとる。


(こんなところで殺されてたまるか!)


剣力を貯め脱力から転じ一気に解放し、相手の間合いに飛び込み最速の突きを繰り出す。父親であり大森林・・・いやこの大陸で最強の戦士と言われる“獅子王”から伝授された必殺の一撃だ。


 瞬時に相手の間合いに飛び込んだ“獅子姫”の最速一撃は無防備な『魔獣喰い』の喉元に迫る。これは例えこの技がくると分かっていても躱しようのない突きだ。


 だが『魔獣喰い』はその突きをまるで何事も無かった様にひらりと避けた。自分の渾身の一撃を・・・必殺の一撃が難無く躱されてしまった。


必殺の一撃だが躱された後は無防備な隙が一瞬生まれてしまう。“獅子姫”は相手からの反撃による“死”も覚悟していた・・・だが、当の本人『魔獣喰い』は驚きキョトンとしているだけであった。


(私は見逃されたのか・・・相手にするまででもないのか・・・くっ、これ程までに大きな器量の男がこの大森林の中にいたとはな・・・)


怒り恐怖驚きなど全ての感情を通り越し、いつの間にか“獅子姫”は自分では気づかない内に小さな笑みを口元に浮かべていた。




「何をするのですか獅子姫様!」


『魔獣喰い』の仲間の剣士がそう叫ぶ。その手は腰の剣に手を当て、主であるこの男を守ろうとする覇気が感じられた。


「ふーん、噂の『魔獣喰い』がどんなもんか挨拶に来ただけじゃ、じゃ、またね」


動揺を抑え無理やり笑みを作る事により、いつもの冷静さを取り戻した“獅子姫”はこの自分の中に芽生えた得体の知れない感情に戸惑い、こんな言葉を残しでその場を逃げる様に立ち去る。だが、胸の心の臓の高鳴りはその場を立ち去っても止まらない。


(よし、もっとあの男の事を知ろう!)


思い立ったが吉日


その日から“獅子姫”の『魔獣喰い』との物語は始まる。


獅子姫(ベール王都ファッション)

挿絵(By みてみん) 



デフォルメな獅子姫(ベール王都ファッション)

挿絵(By みてみん) 



獅子姫(森ルック)

挿絵(By みてみん)


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