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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【最期の森】の章

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158羽:天才の剣 凡人の剣


「得意な武器を全て捨てその身に剣一つとは奇策か何か・・・それともこちらを油断させる為の罠か?」


間合いギリギリの距離にいる“獅子姫”はそう問い掛けてきながら、こちらの真意を見抜こうとする。


「それに、お前の持つその“剣”はどこかで見たような記憶が・・・いや、気のせいか・・・」


普段ならこんな無駄口を叩かずに直ぐに相手に斬りかかっていた“獅子姫”だが、こちらを警戒しているのかいつにもなく饒舌にこちらを言葉でけん制してくる。


(獅子姫ちゃんは自分でオレにこの剣を預けた事も忘れているのか・・・いや、記憶力に優れた彼女に限ってそんなハズはない・・・オレに関する記憶だけが抜けているのか・・・)


“獅子姫”の言葉の一語一語から何かヒントと探し出そうとするが、今はとにかく目の前の彼女を何とかしないといけない。



《へえ、大切な存在の彼女に対して抜刀するなんて、君も大分残忍になってしまったんだね。しかも、得意な弓や奥の手の手斧じゃなくてよりによって“剣”だなんて、何か意図でもあるのかい?》


“自分と同じ顔の男”は対峙する二人から少し離れた所でその様子を観察し挑発するかの様にそう話しかけてくる。その言葉の内容からどうやらこちらの心の中まで読める能力がない事が分かり、少し『魔獣喰い』は安堵する。それならこの後は状況によっては何とかなる。だが、今は目の前の“獅子姫”に全神経を集中だ。



「獅子姫・・・ちゃん。今の君のオレの言葉は何故か届かないみたいだ・・・だからこそ、“剣”を持って君を止める!」


『魔獣喰い』はそう叫び全神経を目の前の女剣士に集中する。


「この私を剣で止めるとはな・・・だが残念ながらその構えを見たところ無理な話じゃ!」


そう言い終わるか否か、これまでこちらを観察していた“獅子姫”は急に動き出す。『魔獣喰い』の視点ではつい今まで目の前にいた彼女が一瞬で視界から消えていなくなったのだ。


「後ろか・・・いや、こっちか!」


『魔獣喰い』はそう叫びながら左側の死角から飛んでくる剣先を自分の剣で受け流す。二撃、三撃と“獅子姫”は目にも止まらぬ激しい連撃を繰り出してくる。本来ならいつもの様に体捌きで回避したところが、この“獅子姫”相手にそんな余裕はなかった。


「ほお、これを受け流すとはやるな!それなら。」


“獅子姫”はそう叫びながら少し間合いをとり、身を屈め全身の力を貯める。


(これは“獅子突き”の構え・・・やばい!)


そう思った瞬間、その姿が消えるほど早く踏み込んで来た“獅子姫”の剣先が一瞬で自分の目の前まで迫っていた。咄嗟とっさの判断で『魔獣喰い』は首と顔をひねり辛うじてその剣先を躱す。そして、こちらも地を蹴り再び間合いをとる。


「おお、これを躱すのか!初見でこの突きを防いだのは、お前で二人目だ。一人目は・・・誰だったか・・・くっ、なんじゃ、思い出せぬ」


強敵の出現に喜びながらも“獅子姫”は左手で頭を押さえ怪訝けげんな顔をする。その表情は何かに迷い苦しんでいる様にも見えた。


 だが油断はしていられない。すぐにまた“獅子姫”の凄まじい連撃が『魔獣喰い』に襲いかかって来る。上下左右様々な方向から嵐の様な剣撃が飛んで来る。森の民の中でも動体視力に優れた『魔獣喰い』であっても、その全てを見極めるのは至難なほど洗練されなお且つ荒々しい剣武だ。


(“剣先の姿だけに囚われるな、常に相手の足を見て軸を感じろ”・・・“戦場で生き残りたければ攻撃よりも回避と防御を先に覚えろ。お前たちの森に住む魔獣よりこっちの人間の方がよっぽど狡猾だぞ”・・・“獣や魔獣だって生き延びるために必死だ。どんな時でも死力を尽くせ”)


そんな攻防の中、『魔獣喰い』の頭の中にはこれまで学んできた剣技の言葉がグルグルと反復し飛び交う。フェイントや連撃に惑わされず一つひとつ懸命に受けながら反撃の機会を伺う。“獅子姫”の激剣を受け流し、時には身体を無様にひねりながら躱し防ぐ。


《おお・・・これは予想にもしなかった凄まじい攻防戦だ・・・》


その人間離れした攻防の光景はあまりにも速く激しく、周りで見ている者に感嘆の声すら出させてしまう程に美しくもあった。



「ふう・・・信じられない事だが私のこの連撃を全て防ぐのか。ここまで見事に躱し続け生き残った者は大森林の戦士にも下界の騎士にもいなかった。・・・ベール王国正規騎士剣術・・・グラニス家戦場剣術・・・大森林戦闘術“剣”・・・私が分かる範囲だがどれほど多くの流派の剣術の基礎を貴様は会得しているのか?」


一方的に攻撃を仕掛けていた“獅子姫”だが、ついにはその剣を止めひと呼吸を入れ、目の前の“敵”である男の使う不思議な剣術に対して問い掛ける。構えも足運びもバラバラだ。だが、ひとたび剣を交えたなら一変する。徹底的に地道な基本鍛錬を行ってきた戦士しか会得出来ない剣技をこの男は使っていたのだ。


「獅子姫・・ちゃんも知っているかと思うけど、オレにはどうやら剣の才能は無い・・・自分で言うのも何だけど弓術や他の事は結構出来た。それは育った村で物心ついた頃に他の子供たちと木剣を交えて気付いてはいた」


『魔獣喰い』は自分の右手の剣を見つめそう独白する。


「そして“獅子姫”って凄い剣士を初めて見てそれは確信へと変わってしまった・・・今でも覚えているよ。大村の大通りで初めて会ったのにも関わらず、君がオレに斬りかかって来た時の事を・・・遠い間合いからのさっきの“獅子突き”・・・いきなりだったから驚いたよ。でも、それと同時に君の剣技と美しい動きにオレは一瞬で魅了されてしまったんだ・・・」


『魔獣喰い』は自分の剣から目の前にいる“獅子姫”に視線を移し、その姿を畏敬いけいの目で見つめる。


「“自分には剣の才能はやはり無かった”・・・その現実に落ち込んで剣の道を捨て弓術だけで生きていこうとも思った時もあった・・・でも、オレはやっぱり、この世界に来て勇者であり戦士であり“剣士”に成りたかったんだ!」


今打ち込めば隙だらけかもしれない。だが、“獅子姫”は目の前の男が語る言葉を最後まで聞かずにはいられなかった。


「それからはこれまで以上に日々剣を振り続けた。下界に出てからは大森林には無い“剣術”という概念を学ぶために、頭を下げて色んな流派を学んだ・・・“日々剣を振り続けて鍛錬する”・・・それは剣士にとっては当たり前な事かもしれない。でも、オレにとっては一番大好きで幸せな時間だったんだ・・・」


 『魔獣喰い』はその事を思い出しふと笑みを浮かべる。


「今度は、そんなオレの一撃を受けて欲しい・・・技も才能もない愚直な剣を」


『魔獣喰い』は剣を正眼に構える。それは先ほどの無様で素人に毛が生えた様なものではなく、天武の才能を持つ“獅子姫”でさえも警戒させ咄嗟とっさに構えを取らせる程の剣気を放っていた。


「ああ、いいだろう・・・お前のその剣に嘘はない。さあ、最期に名乗れ、貴様の剣を受け止めて返り討ちにしてやるのじゃ!」


獅子姫もそう叫びこれまでにない程の気合いを剣に込める。それはむしろ剣を受けると言うよりは、噛みついて来た獲物を反対に喰らい尽くす獣の圧力のソレであった。


「獅子姫ちゃん、応えてくれてありがとう・・・大森林の戦士『魔獣喰い』マジウス、いざ参る!!」


そう叫び、『魔獣喰い』は不思議なほど穏やかな気持ちで剣を振るったのである。





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