156羽:五人の柱の聖女たち
本日2回目の更新となります。
ご注意くださいませ。
『獅子姫』・・・
大森林の全部族の頂点に立つ先代の大族長『獅子王』の末の娘。全てにおいて優れた能力を持ち、特に剣技において天性の才能を持つ。その美しい風貌からは想像出来ないような荒々しい剣の使い手。
面白い事や悪だくみを考えると小悪魔的な笑みを浮かべて周囲を巻き込む。それでいて先見性もあり多くの戦士や下界の騎士たちにも慕われるカリスマ性がある剣姫様。
「獅子姫ちゃん・・・」
その姿を確認した『魔獣喰い』は相手に聞こえるか聞こえない、そんな声で小さく呟く。彼女を含む仲間を助ける為に、そして最期に会うために大森林の奥深くのこの“魔穴”まで命懸けで来たのだ。
だが、獅子姫の様子は明らかにおかしい。冗談で斬りかかって来る様な・・・女性であったかもしれないが、ここまで事態が緊迫した時まで悪戯をするような事はしない。だが、明らかに自分に敵意を持ち、こちらを一撃で殺す気で先ほどは真剣を打ち込んできたのだ。
『魔獣喰い』は警戒しながら注意深く獅子姫を観察する。獅子姫と自分との距離は数間空いているが安心は出来ない。爆発的な瞬発力を持つ彼女にとってそれは刹那で詰められる距離だからだ。
「弓術と怪しげな妖術を使う“敵”だって聞いていたけど、身のこなしもかなりのものね」
獅子姫はそう呟きながらもこちらを注意深く観察している。その右手には鋭く輝く剣が握られており常時戦闘態勢のままだ。着飾れば下界の貴婦人に勝る美貌の持ち主だが、一度剣を握ったなら剥き出しの敵意は野性の獣そのものである。
その姿は前に見た時から変わっておらず、野性的で全身がバネの様な瞬発力の塊だが、スラリとした細身の体型で魅力的に輝く瞳が特徴的な印象を与える。
“変わっていない”
そう、最後に会った時からこちらの年数で数年間経っていたはずだが、彼女は見た目には全く歳をとっていなかったのだ。
「獅子姫ちゃん!オレだよ、『魔獣喰い』だよ!忘れてしまったの?一体どうして急に斬り掛かってくるんだ!?」
『魔獣喰い』は声を高くあげ、今度は彼女に届くようにそう問い掛ける。
「ふん、よりによって“ここ”にいる『魔獣喰い』の奴の名を語るとは不届千万な敵め。姿を変える幻影幻覚の術の一種かもしれんが、これでも過去に森の幻獣に騙された経験があるから対策はあるのじゃよ」
そう言いながら獅子姫は装飾品のひとつである真っ赤な腕輪に手を当て意識を集中する。それはこの大森林でも最大級の希少価値がある幻覚幻獣から取れる“瞳の宝玉”であった。その効果としてあらゆる幻惑や催眠から所有者を守る宝玉であった。それは獅子姫と一緒にその幻獣を退治した『魔獣喰い』が一番よく知っている事であった。
「ふむ、これで一切のまやかしは私には効かぬぞ」
そう言い放ち獅子姫は再び下段にダラリと剣を構えこちらにジワリと近づいて来る。
(くそっ、幻獣の宝玉を身に着けていても、この状況なのか・・・)
その現実に『魔獣喰い』は動揺し半歩後ろに下がる。予想では獅子姫は“自分の顔を持つ者”に操られているのではないか・・・ならばそれを解いたらなら正気に戻るのでは・・・というのが当初の予測であった。
だが、宝玉により催眠や幻術にかかっていない状況で獅子姫はこの様子なのである。つまり、獅子姫は“自分の意志”で『魔獣喰い』である自分を斬り殺そうとしているのだ。その事実に『魔獣喰い』焦り、再び一歩下がってしまう。
『おやおや、どうしたんだい?下がってばかりで・・・今の君の実力なら本気を出したら彼女の事も倒せるはずだよね。でもね、本気を出したら彼女も無事ではすまないだろうね!』
さっきから自分の心の中を読んでいるのか、“同じ顔の奴”はそう言いながらニヤリと口元に嫌な笑みを浮かべる。
「ちっ、貴様!」
そう叫びならが『魔獣喰い』は無心の構えから相手に矢を放つ。倒せないかもしれない。だがこいつに致命傷を与えたなら獅子姫も意識を取り戻し正気に戻るかもしれない・・・そんな焦りが弓矢を急がせた。
だがそんな『魔獣喰い』の神速の矢も、相手に届く前に巨大な鉄塊の板により激しい轟音と共に防がれてしまう。
「大丈夫でしたか我が主『魔獣喰い』よ。私たちの後ろに下がっていてください」
信じられない事にその鉄塊は巨大な大剣であった。更にその大剣で矢を防いだのは法衣をまとった可憐な少女であった。そして、そのまま『魔獣喰い』との射線上に立ちこちらをけん制してくる。
「聖女・・・エレナ・・・様」
イスラマ皇国の聖女と呼ばれながらも、天から授かった剛腕で巨大な大剣を竜巻の様に自在に扱う狂聖女エレナ・・・
「まったく、私の予想した通りなのだ・・・みんな作戦通りにエレナを中心に陣形を組んで『魔獣喰い』を守るのだ」
そう言いながら出て来た二人目は、背の低いまだ幼く見える少女であった。だがその双眼には高い知性と強い意志が宿り、この状況を冷静に観察しながら適切な指示を出している。
「セリーナ・・・ちゃん」
元々は大陸最大国家であるイスラマ皇国の皇女でありながらも、大森林に住みつきその知識と軍略で凶暴な魔獣の群れから森の民を守った天才研究軍師セリーナ・ベルガー。
「全くあんたは人類の希望なんだから、私の結界の後ろに隠れてあまり前に出ていないでね」
三人目は王女である。“自分と同じ男”の脇に立ち複雑な呪印により目に見えない障壁を展開する。大陸でも伝統と歴史のあるベール王国の第二王女マデレーン王女・・・『魔獣喰い』の覚醒した知識が事実を探る・・・そうか、マデレーン王女は遥か昔にこの“魔”を封じ込めた結界一族の血を引く稀少な継承者だったのか・・・
「気を付けて・・・あの“敵”は精霊の理を全て狂わす最悪な元凶・・・」
最後にいたのはこの森の神官着を身にまとった女性。数十年に一度の天才とも言われ精霊に愛された女精霊神官ちゃん。その祈りと共にオレ以外の全員は精霊の加護の光を受けその力を大きく増している。
大森林の剣姫『獅子姫』・・・
イスラマ皇国の聖女エレナ・・・
森の研究軍師セリーナ・・・
ベール王国王女マデレーン・・・
大森林の精霊神官ちゃん・・・
これまでは自分の仲間であり一緒に旅し戦い抜いた仲間たち・・・そして、自分が命を課して助けに来た五人の女性たち。彼女たちを想い高め全てを覚悟してここまで来た・・・
だが、『魔獣喰い』は逆に“敵”と呼ばれながら彼女たちに刃を向けられる事になってしまったのである。




