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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【最期の森】の章

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151羽:自分にとっても父親的な存在だったかもしれない男

いよいよ世界を狂わそうとする中心地に近づいた『魔獣喰い』と青年騎士レオンハルトに襲いかかって来たのは、かつての『魔獣喰い』の指導者でもあった森の英雄戦士『流れる風』であった。


戦士『流れる風』


大森林の子供や若い戦士に絶大な人気を誇る英雄。20年数年前にこの大森林を飛び出し、大陸中を旅した冒険者『流れる風』とその仲間達。

10数年前に大森林崩壊の危機が訪れた時には、その仲間達と森に戻り窮地を救った英雄。



そんな戦士『流れる風』だが、オレが生まれ故郷の村を離れ大村に行って訓練所に行った後、何でも先代の大族長である“獅子王”の命を受け、『岩の盾』のオジサンをはじめとする仲間と共に大森林や下界を奔走ほんそうしていたという。だがある時彼らとの連絡は途絶え姿を消してしまう。


“凶暴な魔獣の群れに全員食い殺された”“秘境に挑みそこで命を落とした”“未だ命はある者の帰って来られない状況にある”など様々な推測が流れたという。


 捜索隊を出し彼らを助け出そうという意見もあった。だが彼ら四人全員が腕利きの戦士であり経験豊かな冒険者であった。その彼らが帰って来られない状況なら、例え救援を出してもそこに辿り着く事すら怪しいだろう・・・そんな悲壮感のもと数年がたった。


 月日は経った。そして、そんなある時“彼ら”四人は現れたのだ。



大砦の精鋭を襲った蒼黒の鎧を身にまとう変幻自在の“幻影槍使い”


ヴェルネア帝都を強襲した妖艶紅黒の空の一族の“女弓使い”


イスラマ皇国軍に現れた鉄壁の大盾を誇る“不死身の黒騎士”


そして、ベール王都を襲ったのは四大精霊を使役する“精霊剣の剣士”


この四人の強襲者たちを森の民は“敵”と呼んだ。


・・・・・・


伝承によれば“敵”と呼ばれる者たちは数十年に一度、この地に現れるという。その招待や目的は不明だが全ての“敵”が森の民や下界の王国と敵対し攻撃を仕掛けてくる。そして例外なく彼らは類まれな戦闘能力を持った戦士たちだった。


魔獣の群れを使役しその超越した力で人を追い詰めてきた。その旅に森の民や下界の戦士たちは力を合わせ戦い退けてきたという。多くの犠牲を払い彼ら“敵”を倒し時には封印でその御霊を封じ込めてきた。だが時代が乱れし時、彼らはまた姿を変えて現れるたという。


『“敵”とは何者なのか・・・』


各国の賢者や森の精霊新刊たちは長い年月をかけてその存在を調査してきたが未だ解明の糸筋すら見えていなかった。


・・・・・・


 そして時はこの時代に戻る。


 最初に彼ら“敵”がベール王都やイスラマ皇国との戦場に姿を現した時、その正体に気付いた者は少なかった。何故なら彼らは“魔”に取り込まれ魅入られ、その姿や気配が別人に変わっていたのだから。


だが何人かの者は気付いていた。


女弓使いの持つ物が選ばれた王族しか使う事が出来ない伝説の宝弓だという事に。


幻影の槍使いが自分の学ぶ流派の開祖の技を使うという事に。


全身を禍々(まがまが)しい鎧に包まれながらもその不死身の黒騎士が自分の父親であるという事に。


そして、ベール王都を襲ったこの英雄剣士が自分の血縁だという事に。




「『流れる風』・・・この人がオレの・・・」


これまで沈黙を守っていたレオンハルトは消える様な声でそう呟く。レオンハルトの母親は実母のグラニス伯爵夫人である事は間違いない。何故なら実際に彼女から産まれてきたのだから。


だが、父親はどうだったのだろうか。父とされているグラニス伯爵は若い頃からベール王国一の戦上手とも言われ各地の前線を転々としていたという。弱小伯爵家とも言われていたグラニス家の名を一代でのし上げるほどの戦績を上げていた。


だが若くして娶った妻としばらくの間は子が出来なかった。それは神から授かる事が出来なかったのか、どちらかの身体に理由があったのもかもしれない。だが、ある日レオンハルトの母は子を宿し彼が産まれた。



レオンハルトが初めて大森林の大村を訪れて分かった事だが、彼には森の民の血が“混じって”いる。それも精霊大神官が認める程のその血は強く気高い。


『・・・』


 レオンハルトのその呟きに『流れる風』であった男は沈黙をもって答えとしている。相手を撥ね退ける無言の圧力があるが、その眼差しにはどこか温かさも感じる。


ビュッ


 その隙を見逃さずに『魔獣喰い』ことオレは“敵”である男に矢を射る。だがその矢は届く前に見えない壁に阻まれたかの様にその場にポタリと落ちてしまう。


「あんたは何度も口を酸っぱくして言っていただろう“例え身内でも油断はするな!”って」


奇襲の矢を落とされたオレは精一杯の虚勢でオッサンに皮肉を言う。だが内心は驚きを隠そうとして必死だった。何故なら今の一撃は普通の弓矢の攻撃とは違い、オレの今持つ力を込めた全力の一撃だったからだ。


(石城壁ですら貫通する一撃だったんだが・・・オッサンの周りには目に見えない風の防御壁でもあるのか・・・それともオレの力が無効化されているのか・・・)


 オレは全神経を集中して目の前にいる得体のしれない戦士を観察する。恐らくはここで全ての力を出し切らないとこのオッサンには勝てないかもしれない。いや、本気を出しても五分五分か・・・“森の英雄”の名は伊達ではない。


『ああ、そうだったな。全くオレも歳を取って甘ちゃんになったもんだぜ・・・だから最後に一度だけ甘い事を言う。ここで引き返してこの大森林を出て行きな・・・そうしたら二人とも命までは取りはしねえ』


 『流れる風』のオッサンは手をヒラヒラさせオレとレオンハルトに戻る様に命令する。その姿は昔の気さくでだらしないが男気溢れていた当時の雰囲気だ。


「でも、そうしたらこの大森林は・・・この先に囚われている五人の女性たちは・・・大陸の運命はどうなる?」


 不本意ながらオッサンの懐かしい雰囲気に、少し気が緩んでしまったオレは気を引き締め問いかける。


『この大陸はこの後オレたちが何とかするから大丈夫だ・・・だが、大森林自体と彼女たちの事は諦めろ・・・“魔穴”が二度と現れない様に一緒に消滅させて、いしずえになって消える・・・』


表情はよく読み取れないが、そう答える『流れる風』のオッサンの言葉はどこか悲しげだ。自分を押し殺し覚悟を決めた・・・そんな悲しい大人の嫌な言葉だ。


「つまりこの大森林と獅子姫や他の女性たちを犠牲にして、“魔穴”を永遠に消滅させるって事か!?」


その言葉を聞き、それまで思いに老けていたレオンハルトが声を荒げて問う。


『レオンハルト・・・ああ、そうだ。それしか方法が無い。そしてこの事は彼女たちも了承の事だ・・・』


どれが本当でどれが嘘なのか分からない・・・だが少なくとも『流れる風』のオッサンはこんな冗談を真顔で言う戦士ではなかった。


「なっ・・・」


その言葉を聞きレオンハルトは絶句して何も言えなくなる。この男の言葉を信じるなら、ここで強行突破をしてこの先の“魔穴”の中心部に行っても何の解決策にもならない。むしろ言うとおりに引き下がり、『流れる風』のオッサンたちに全てを任せて世界を平和にしてもらう事がむしろ正解に思えてしまう。


だけども・・・


「だけども・・・それはつまり“オッサンたち”も彼女たちやこの森と一緒に礎になって死ぬって事なんだろう?」


難しい事を考えることは昔から苦手だった。だがオレは回らない頭を急回転させその結論に至り問い掛ける。


『何事にも犠牲は必要だ・・・』


全てを悟り受け入れたかの様に『流れる風』はそうポツリと答える。その顔は全てを受け入れ覚悟した戦士の目をしている。ここまで至るまで数年間・・・いや、もしかしから長い年月を掛けて至った答えなのかもしれない。


だが・・・



「レオン・・・すまないが、ここは任せたぞ・・・」


意を決したオレは落ち込むレオンハルトの背中を思いっ切り叩き声をかける。


「・・・ああ、ここ任せろ・・・だがそっちは大丈夫か?」


レオンハルトは少し不安そうにオレ返事をする。


「ああ、オレに任せろ。この大森林も大陸も、獅子姫や他の子たちもオレが全部救い出すさ!」


オレは根拠の無い自信を声に出し、自分の胸を叩いてレオンハルトと自分を鼓舞する。


「さて、そういう訳でオッサン。オレは先に行かせてもらうぞ。」


 オレはレオンハルトから離れ目的地に辿り着く唯一の道の方にゆっくり進む。


『確かに“お前の方”なら何とかなるかもしれない・・・だがその意味を、覚醒したお前なら分からない訳でもあるまい・・・そして、レオンハルト一人ではこのオレを足止め出来ない事も』


先ほどまでの温和な口調から変わり『流れる風』はその腰にある剣を抜きオレの行く手を阻む。その剣は七色に輝く刀身を持ち万物のことわりを断ち切る剣だ。


“精霊剣”


この男が若かりし頃にこの大陸の脅威に仲間と共に立ち向かい、その魔を打ち払った時に使用した伝説の霊剣とも言われている。ただし、その膨大な力の代償としてオッサンは暫くの間はその身体能力や力を失っていたという。


(力を失っていた、あの当時は凶暴な獣や魔獣を軽々退治していたのか・・・今の本当のこの実力は推して測るべきか・・・)


 オレは初めて『流れる風』のオッサンに真剣を向けられその殺気の凄味に背筋が寒くなる。・・・だがここで退いてはいられない。


「ああ、もちろんレオン一人だけであんたを足止め出来るとは思っていない・・・おい、ジイさんそこで隠れて聞いているんだろう。隠れていないでそろそろ出て来てくれ!」


つい先ほど微かな気配をようやく感じたオレは誰もいないはずの木陰の闇に向かい大声で叫ぶ。


「・・・ふん、このまま身を隠して“魔穴”とやらまで付いて行こうとしたんじゃがな・・・」


オレの確信のめいた呼びかけに観念したのか、少し気まずそうに木陰からひょっこり人影が出て来る。その男はそれ程大きな体の男ではない。軽装の革鎧に身にまとい腰に少し湾曲した見慣れない刀を一対差しているだけでの男であった。


『“剣匠” ヴァルター・クロンベルクか・・・治世に興味がないあんたがこんな所まで出張って来るとは珍しい事もあるもんだな』


 顔見知りなのか『流れる風』は突如現れた剣豪に剣先を向けそちらを警戒する。むしろ知った中だからこそこの剣匠の恐ろしさを警戒しているのだろう。


「なに、そこの弓使いの坊やに騙されてここまで来ただけよ・・・『“大陸一の強者”と戦わせてやるから大森林に来い』とかの・・・だがそれも戯れ言ではなかったようじゃの・・・」


そう答える『剣匠』は口元に不敵な笑みを浮かべる。


『オレの事を“大陸一の強者”とは随分と買い被ってもらったもんだ・・・若かったあの時のオレもあんたにだけは敵わないと思っていた。だが全盛期を過ぎたジジイに後れを取るほど堕ちちゃいねえ』


そう挑発しながら『流れる風』は『剣匠』をはじめとするオレたち全員をその精霊剣の射程圏内に入れる。


「確かにワシはあの頃に比べて歳をとった・・・じゃが、道を間違えたかつての弟子の足止めなら、この命を課せばまだ出来るわい・・・おい、レオンハルト気合を入れろ。殺る気で行かねばこの男相手なら足止めすら出来まい」


『剣匠』はその挑発を真っ正面から受け止め、オレと『流れる風』の射程圏の流れを断ち切ってくれる。レオンハルトもその声を受け、二人でオレの進行方向を確保してくれる。


『坊主・・・いや『魔獣喰い』・・・お前は本当にこの先に行くのか・・・それはお前にとってもこの世界にとっても終局でしかないのかもしれないぞ・・・』


その二人が遮る隙間を縫うように『流れる風』はオレの目を見つめそう問い掛けてくる。


「ああ・・・オレは行く・・・行かせてもらう。例えそれがオレにとっての終わりだとしても行かなくてはいけなんだ。・・・オッサン、オレに・・・“名”を付けくれてありがとな」


 オレは幼い頃に自分の名を付けてくれた男にひと言そう告げると、目的地に向かい走り出す。その直後に後方では『流れる風』のオッサンが『剣匠』ヴァルターと青年騎士レオンハルトが激しく剣を交えはじめる。


(レオン・・・『剣匠』のジイイさん頼んだ・・・)


オレは二人を信じその剣騒を振り返る事もせずに一心不乱に足を進める。


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